さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)

目次

  1. 白木綿産地の吉田町で初の大規模工場として創業。海軍御用達のガーゼ、包帯を生産
  2. さらし需要が減退し、経営はどん底に。全国有数の金属洋食器産地である燕市の問屋を活用して立て直す
  3. この10年で売上高は倍増、さらに3億円大台乗せ目指す
  4. ホームぺージを通じた問い合わせに丁寧に応えることで、新規の需要を開拓
  5. IT補助金活用し、販売・仕入・在庫管理システムをクラウド型に更新
  6. 改正電帳法に対応、証憑電子保管システムも導入。「作業が楽になった」と担当者
  7. これまでもこれからも、人や社会に対して役に立つことを目指して
中小企業応援サイト 編集部
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新潟県燕市にある吉田織物株式会社は、さらし(小幅白木綿)のトップブランド「吉田晒®(よしださらし)」をはじめとする厨房・食品用繊維製品を企画・販売する会社だ。戦後以降、さらしの需要が減退する中、食品向けへの用途開発で、数少ない専門店として生き残ってきた。現在は、ファブレスメーカーとして、ホームページでの発信を丁寧に行い、幅広い問い合わせに真摯(しんし)に対応することで新たな用途開発を行っている。ICTにも前向きで、販売・仕入・在庫管理システムをクラウド型に更新するとともに、電子帳簿保存法の完全義務化に対応した証憑電子保管システムを導入するなど、ICT活用による業務効率化にも抜かりない。(TOP写真:吉田織物の旗艦製品である「吉田晒®」=ホームぺージより)

白木綿産地の吉田町で初の大規模工場として創業。海軍御用達のガーゼ、包帯を生産

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
「祖父は何かを持っていたのだと思う」と話す齋藤謙一代表取締役

吉田織物が本社を置く旧吉田町(現燕市)は越後一宮の一つ、弥彦神社のお膝元にあり、古くから白木綿の産地として知られていた。吉田織物はその中でも最初に工場制機械工業の様式を取り入れた大規模な綿織物製造工場として、1936年9月に設立された。

創業者の齋藤久平氏は加賀出身で、吉田町に移り住んでからは家内工業的に木綿織物を営んでいた。たまたま同地域で開かれた海軍練習機の贈呈式に在郷軍人会の一人として参加した際、山本五十六海軍元帥の目に留まり、海軍御用達のガーゼや包帯を生産するよう請われたのが会社設立のきっかけだという。

久平氏は3,000坪の敷地を入手して工場と広い自宅を新築。自宅は中央からの軍人や役人を接遇する場所としても使われる羽振りの良さだった。久平氏の孫で現社長の齋藤謙一代表取締役は「一介の青年がいきなり大きな工場と家を建てたのですから、祖父は(普通の人とは違う)何かを持っていたのだろうと思います。神の見えざる手というか何か大きな力が働いたとしか考えられません」と話す。

終戦と同時に海軍向けの需要は失ったものの、高度成長期まではさらしは家庭の必需品で、一家に一反は常備されていた。だが、次第にさらしに取って代わる製品が生まれ、吉田町周辺の同業者は次々と廃業していった。そんな中、吉田織物は2代目社長の齋藤謙吉氏が「吉田晒」という名称を会社のマークを含めた形で商標登録。早くから、ブランディングし商品を守り続けた。

さらし需要が減退し、経営はどん底に。全国有数の金属洋食器産地である燕市の問屋を活用して立て直す

もっとも、3代目となる謙一社長が繊維産業のメッカだった静岡県浜松市の呉服問屋での修業を終えて帰郷し、父親の跡を継いだ1993年当時は経営がどん底だったという。運転資金に窮し、父と自分の預金や生命保険までも解約して手形を落とす。負債を返済するために工場をはじめ不動産も処分した。「それを乗り越えたら肩の荷が下り、あとは洋々たる前途しか見えませんでした」(謙一社長)

謙一社長はある時、厨房・食品関連向けにさらしが活躍できる余地があると知り得る。さらしは洗った野菜の水切り、だしこしなどのろ過、食器拭き、蒸し器の露取り、おひつの乾燥防止などに使われ、特に料亭などのプロの厨房で重宝された。さらには、新しい販売チャネルとして、地元燕市の洋食器問屋に着目する。燕市は全国シェア90%以上を誇る金属洋食器の産地であり、その問屋も全国に販売網を持つ。さらしやふきんなども洋食器と同じ厨房用品ということで、両者の狙いが一致した。謙一社長の長男で専務取締役の齋藤久太氏は「洋食器問屋のいろんな要望に応えていくと、だんだん商品のラインアップも増えてきて、そのぶん注文も増えるという流れで成り立ってきたのです」と、父親の功績を説く。

工場を処分してからは製造を協力工場に委託。吉田織物は企画・販売に特化した、いわゆるファブレスメーカーとなった。現在の売上の9割程度は謙一社長が開拓した洋食器問屋ルートを通してのものだという。

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
父、謙一社長の功績を語る齋藤久太専務取締役

この10年で売上高は倍増、さらに3億円大台乗せ目指す

久太専務は大学卒業後、東京の浴衣メーカーで8年間修業してから2013年に入社。次期社長として期待されながら、社業全般を切り盛りしている。現在、謙一社長夫妻と久太専務夫妻の計4人の役員と5人のパートタイマーで会社を運営。さらしなどの商品は素材・縫製、国産・国内加工、安全・衛生にこだわった品質が評価され、飲食業のほかに医療機関、菓子製造業、醸造関連、学校給食、養蜂業、果樹園、水産加工業、健康食品メーカー、ホテル業など幅広い分野で使われており、刺し子作家にも愛用されているそうだ。

「私の両親だけで経営していた10年前は売上高が1億2000万~3000万円でした。それがこの10年で2億6000万円と2倍になりました。ここまで来たなら3億円までやってみようと思います。この人数規模で3億円というのは並大抵ではないとは思いますが、ここからの5年以内には到達したいと思います」。久太専務は今後の目標を明確に描いている。

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
吉田織物の作業場。協力工場から届いた商品を個別に包装して出荷する

ホームぺージを通じた問い合わせに丁寧に応えることで、新規の需要を開拓

目標達成に欠かせないのが新規需要の開拓だ。「当社のホームぺージを通じて、問い合わせという形で、いろんな案件がひっきりなしに来ます。まず、そうした案件に1件1件、丁寧に応えていこうとしています」(久太専務)。

吉田織物のホームページを開くとトップページに「1つからオーダーメイド。試作からのご相談も承ります」と大書されている。その呼びかけに応えるかのように「予想外の謎の問い合わせ」(久太専務)が多数寄せられるのだという。

中でも、さらしの用途として、銅線工場のコイルを巻き取る工程や、レタスなどの野菜を包むフィルムの生産工程で使いたいといった工業関係の問い合わせが多いという。「父が洋食器問屋の販売チャネルを開いてからのこの30年間とはまったく異なる分野にさらしの用途が広がってきているという気がします」と久太専務は強調。また、少子高齢化や人手不足に起因して飲食店・厨房から食品工場へ案件がシフトしてきていることから、新たな領域にもチャレンジしている。「こちらも一生懸命に勉強して、問い合わせに応えていくことで自らのノウハウの蓄積になり、新しい仕事に広がっていくのかなと思っています」

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
さらしを巻き取り、切断する機械。「吉田晒®」は1枚10メートルが基本

IT補助金活用し、販売・仕入・在庫管理システムをクラウド型に更新

売上拡大を目指す一方で、業務効率化への取り組みも進めている。2023年3月には国のIT補助金を活用して、販売・仕入・在庫管理システムをオンプレミス型(自社サーバーでの運営)からクラウド型に置き換えるとともに電帳法対応の証憑電子保管システムを導入した。

オンプレミス版の販売・仕入・在庫管理システムは謙一社長が就任した30年前から活用してきた。見積、受注、売上、回収といった日常の販売管理業務に必要な機能と、仕入・在庫管理機能を組み合わせたシステムだ。久太専務は「汚い文字で書いた伝票をお客様に渡すようなことをしなくて済むし、売上、仕入情報が蓄積できます」と早くから同システムを活用してきた理由を話す。

今回、使い慣れたシステムのクラウド版を導入したのは、複数の端末からシステムを操作するためだ。「オンプレ版は一つの端末でしか見られなかったので、問い合わせの電話を私が受けた時に、その内容を確かめるために妻に調べてもらう必要がありましたが、今は自分の端末で見られます」(久太専務)。同じシステムメーカーの会計ソフトも一緒に導入し、現金の入出金管理に活用しているそうだ。

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
クラウド型への更新で、複数の端末から操作できるようになった

改正電帳法に対応、証憑電子保管システムも導入。「作業が楽になった」と担当者

一方、新たに証憑電子保管システムを導入したのはいうまでもなく2024年1月の改正電帳法施行による電子取引における電子データ保存の完全義務化に対応するためだ。導入したシステムは、PDFで受け取った請求書、領収書、契約書、見積書などのデータをマウスでドラッグ&ドロップするだけでクラウドに保管。人工知能(AI)を搭載した光学式文字読み取り装置(OCR)で金額や数量、日付、取引先などの記録項目を自動的に登録できるので、取引先ごとや日付ごとの検索も可能だ。電帳法準拠のタイムスタンプも自動で付与できる。

久太専務の妻で同システムを担当している齋藤智子取締役は「今までは請求書などの金額を一つひとつ手で入力して、さらにその請求書をスキャンしたものを別に保管していましたが、今は電子データで送られてきたものを保存するだけで済むので、作業がずいぶん楽になりました」と話す。

「デジタル化というのは便利になるということ以上に、ゼロかイチか、アリかナシかをはっきりさせていくことであり、曖昧さや人の手によるミスを無くし、仕事のクオリティを追求していくことだと思います」と語る久太専務。今後は複合機と連携させて、FAXで送られてきたデータを自動でスキャンし、この証憑電子保管システムに保管することも考えている。

さらし需要減退で経営危機、しかし燕市の厨房問屋ルートで新規用途開拓 現在はホームページでの幅広い問い合わせ対応で次の発展を目指す 吉田織物(新潟県)
吉田織物の社屋

これまでもこれからも、人や社会に対して役に立つことを目指して

最後に久太専務に同社の経営理念を問うと、「明文化されたものがなく、社の成り立ちや在り様からみた私個人の考えですが」と断った上で、「『役に立つ』です」ときっぱり。「仕事とは、誰かの役に立ちその対価をもらうことだと考えています。人に対しても社会に対しても、誰かの役に立つからそれが事業になり収益がうまれて対価につながると考えます。すなわち、役に立つことの追求が様々な道を切り開くことになります。当社の成り立ちも同様で、頼まれごとに対応してきたのがきっかけです。当社はそのルーツを大事にしてきましたし、これからも大事にしていきます」と力を込めた。

企業概要

会社名吉田織物株式会社
本社新潟県燕市吉田大保町11番25号
HPhttps://www.yoshidasarashi.co.jp
電話0256-93-3155
設立1936年9月
従業員数5人
事業内容厨房・食品用繊維製品などの企画・販売