M&Aセンター
(画像=日本M&Aセンター)

※M&A実行当時の情報

譲渡企業情報 譲受け企業情報
社名: PT. Claro Kreasi Abadi(インドネシア)
事業内容: ビル、商業施設、民間企業・政府系企業等へのメンテナンス(清掃)業
売上高: 約4.5億円(2022年12月末時点) 社員数: 従業員数:923名(2022年12月末時点)
社名: HACK JAPANホールディングス株式会社(山梨県)
事業内容: オープンイノベーション、HRD、
環境エンジニアリング、AIソリューション、マテリアルソリューション、メディアソリューション
売上高: 約6.5億円(2023年5月期) 社員数: 54名(社員13名、アルバイト54名)

日本の埋もれている技術や人材を組み合わせて新しい価値として提案していくことを使命に掲げ、ホールディングスの枠を超えて多彩な事業を展開するHACK JAPANホールディングス(山梨県)。海外展開も積極的に行う同社は2023年12月にインドネシアのファシリティーサービス企業、PT.Claro Kreasi Abadi(以下、PT.Claro 社)を譲受けました。譲受け企業の保坂 東吾社長に海外企業とのビジネスのポイントを伺いました。(取材日:2024年2月1日)

海外での事業成功のポイントは、信頼できる経営体制を現地で構築できるかどうか

――はじめに事業内容についてご紹介ください。

譲受け企業 HACK JAPANホールディングス 保坂様: 事業内容を説明するために、まずはHACK JAPANという社名から説明します。

私は「挑戦」を生きがいとしてきたので、社名に挑戦という言葉を入れたいと思っていました。とはいえ、チャレンジやトライでは魅力がない。何か良い言葉はないか探していたとき、Facebookのマーク・ザッカーバーグのインタビュー記事を読んでいたら、Facebookの社内に“HACK” という文字が書かれていて、それが、限界に挑戦するという意味で使われているらしいと知ったのです。それでHACKとつけました。

そして、日本から世界に向けてチャレンジしたい、日本を代表する会社になろうという想いがあってジャパンをつけて、HACK JAPANにしました。

ですから、私たちの事業の特徴としては、日本の埋もれてしまっている技術や人材を上手に組み合わせて、新しい価値として提案していくのが、HACK JAPANがやっていることです。事業のタネを見つけて、それを育てていこうというのが、私たちの事業になります。

――現在はどんな事業を展開されていますか。

保坂様: ホールディングスとしては不動産賃貸業をメインにホテル経営、和スイーツの「和乃果」の運営なども行っています。

もともと当社は、祖父が1969年に日本連合警備という警備会社を山梨県で初めて発足したのが始まりです。祖父の頃から中古自動車の販売や飲食店、ウエディングなどさまざまな事業を展開していたのですが、私はずっと多角化する事業は別組織にすべきだと思っていました。そこで2013年にホールディングスを立ち上げ、傘下にグループ会社を配置する現在の体制に変えました。

ただ、HACK JAPANホールディングスは先ほども申し上げたように単にグループ会社の管理を行うだけではなく、さまざまな事業を展開しているのが一般的なホールディングスとは違うところです。

――今回、インドネシア企業のPT.Claro社を譲受けされましたが、どんな狙いでM&Aを進められたのですか。

保坂様: 私たちのグループ会社の中に、インドネシアからの技能実習生を受け入れて管理する管理団体があります。実習生は3年から5年、日本で高い技術を身につけて母国に帰るのですが、帰っても働ける場所がないことが多い。それがとてももったいないと思っていました。そこで、実習生たちの受け皿になるような会社をインドネシアに作ろうと考えていました。

ただ、現地でゼロから会社を作るのはリスクも高い。であれば、現地の会社を譲り受けたほうがリスクは少なくて済みます。

これまで私たちは海外でさまざまな事業をしてきました。そこで学んだことがあります。それは、海外で成功できるかどうかは、信頼できる人材を確保できるかどうか、そうした人材を現地に配置できるかどうかにかかっている、ということです。インドネシアは、山崎という当社の女性役員が現地に非常に良い人脈を持っていました。インドネシアなら信頼できる人材を揃えられる。そうした基盤があり、人材面は大丈夫だと自信があったので踏み切れたのです。

資金調達に注力し、人の管理や教育、評価は現地に任せる

――インドネシアという国についてはどんな魅力があると分析されていましたか。

保坂様: 国の将来性に魅力を感じていました。経済成長率が毎年2%以上あり、市場が伸びていくのは明らかだと思いました。それに人口です。現在の人口はおよそ2億8,000万人、30年後には今より5,000万人から6,000万人増える見込みです。一方で日本は30年後、1億人を切ると予測されています。インドネシアは日本の3倍以上の人口がいる国になるのです。

――PT.Claro社の会社としての魅力はいかがですか。

保坂様: PT.Claro社はファシリティーサービスの会社です。私たちはインドネシアでも警備会社を展開したいと考えているのですが、ファシリティーサービスは隣接業種ですので相乗効果が期待できると思いました。そうしたM&A後のビジョンをトップ面談時からお話ししていましたし、実際にM&A後の最初の取締役ミーティングでも、今後は成長が見込めるセキュリティー分野とパーキング分野をやりたいという話が出てきています。これから、相乗効果を発揮して、2025年にはインドネシアでIPOを目指しています。

――M&Aから1ヵ月くらいですが、PMI(M&A後の統合プロセス)はどう進めていらっしゃいますか。

保坂様: 私たちの仕事は、PT.Claro社を成長させるための資金調達です。会社の成長エンジンはお金です。人間でいうと血液みたいなものです。その注入が私たちの仕事になります。 私たちは外資になるので、いろいろな方法で資金調達ができますが、彼らはスキーム上、インドネシアルピアでしか資金調達ができません。

そうなると調達金利がものすごく高いわけです。今の日本は、調達金利も非常に低い。外資だからこそ役に立てることがあります。 それとガバナンスの体制整備。この二つが私たちのマネジメントの大前提です。

一方、人の管理や教育、評価は現地の人がやるべきです。役割は最初から分けています。もちろん、アドバイスはしますが、郷に入っては郷に従えという言葉の通り、触ってはいけない部分には触らないことも大事です。

――これは重要なポイントですね。

保坂様: とても大事です。全部、日本流にしては駄目です。まして、宗教の関係もあります。インドネシアではイスラム教徒が多いのですが、仕事中にも礼拝をおこなう必要がありますから、そのための時間を認めるのは当たり前のことです。

忘れてはいけないのは、私たちが現地企業の常識の中で仕事をするということです。日本の常識は通じないと思ったほうがいい。

幸いなことに、現地の人たちも私たちを快く受け入れてくれていて、旧経営陣は全員、継続して勤めてくれています。M&A後の退職者もゼロです。

日本M&Aセンター
(画像=日本M&Aセンター)
日本M&Aセンター
PT.Claro社では年に一度、幹部を集めた年次研修を行う。 夜の懇親会では活躍した社員をMVP等のアワードで表彰、プレゼンターを保坂社長、山崎取締役が務めた(画像=日本M&Aセンター)

将来ビジョンを共有できるキーパーソンがいれば、PMIはうまくいく

――体制作りで動いているものはありますか。

保坂様: 誰を取締役に入れるかという人的な話や金融機関の変更などは、ディールが進んでいる時から話をして準備を進めていました。

取締役は日本から私ともう一人、山崎が入って、現地から2人、信頼できる人に入ってもらいました。財務担当のメガさんと人事担当のエンディーさんです。また旧経営陣からの役員であるジョコさんは、非常に優秀な方です。こうした布陣もしっかり固めた上でのM&Aですから、順調に進んでいます。私が想定していた以上に組織ができていて、正直、驚いています。

当初は、山崎が現地に常駐する予定だったのですが、私から常駐する必要はないと話しました。出張ベースで管理できてしまう会社だから大丈夫だと。ジョコさんがしっかりしていて、本当にすごいなと思います。日本の会社よりしっかりしているかもしれません。

コミュニケーションギャップはあると思います。しかし、将来のビジョンを共有できていれば、大きなずれにはならないと思っています。現地の責任者がジョコさんという人間だったから、というのも大きい。最初のミーティングから将来戦略の話から入りましたから。未来を共有できる人と一緒にやれるのは大事です。

――日本の会社よりしっかりしている、というのは具体的にはどんな点で実感されていますか。

保坂様: 人的資本しかない会社なので、社員教育も手厚くされています。どうやって人材を育てるか、ジョコさんはそのクオリティーをどう維持するかをずっと考えているんです。トレーニングセンターに行って実習する先生とも話をしましたが、本当にしっかりしています。

インドネシアでは毎年、競争入札があるのが普通なのですが、それをどうやって防ぐか。ジョコさんが言うには「顧客の信頼を得る」のだそうです。こうした教育を受けていればお客様も納得してくれる、信頼してもらえるのです。

清掃員があいさつしてくるとしてくれないとでは、受ける印象が全然違うと思いませんか。ファシリティーサービスの仕事は見えないところの付加価値を上げることなのだとわかりました。

――最後に、海外企業とのM&Aを検討する経営者へメッセージをお願いします。

保坂様: 海外の現地企業を経営していくには、一緒に将来のビジョンを実現できる人材が社内にいるかどうかが重要です。そういう人材がいないとうまくやっていくのは無理ではないかと思います。一緒に成長していける人材、ということです。

一方的なマネジメント、押しつけでは人は動きません。人間、心が動かないと動かないのですよ。それは世界共通でしょう。誰でも未来が見えて心躍るような仕事をしたいと思うはずです。だから、最後は人です。信頼できる現地の人と一緒にやることが大切になります。

髙橋 真也
日本M&Aセンター担当者コメント
特務推進部 髙橋 真也(HACK JAPANホールディングス株式会社様担当)
常に挑戦の機会を創ってきた保坂社長は、成長期待の大きいインドネシアでの新たな事業展開を考えていらっしゃいました。何度もコミュニケーションを重ね、既存事業とも親和性のあるマッチングが実現したと思います。「なぜやるのか」「何を目指すのか」を堂々と語り、要所で周囲を動かしていく保坂社長の力強さはとても印象的でした。 ※役職は取材時