目次
- 防振用ゴム、ホースなどの製造を通じて自動車産業を支える 2012年に新規事業開発部を設立
- 事務所1階にアクアポニックス家具を展示 近くに電子黒板を設置して業務スペースとしても活用
- 新型コロナウイルスをきっかけにオフィスの役割が変化 従業員が集まる場所を癒やしと創造の場に変える提案をしたい
- 水産養殖と水耕栽培を融合した技術として世界で普及が進むアクアポニックス
- オフィスの水と緑のオアシスといった視点からアクアポニックスを研究開発
- センシングシステムを活用して、二酸化炭素や温度や湿度、照度などオフィス環境に影響する様々なデータを分析して「リラックス効果」の数値化を目指す
- 固体型色素増感太陽電池を備えたCO2センサーで効率的にデータを収集
- オフィスの8ヶ所にセンサーを配置 オフィスの空気環境が仕事の能率やアイデアの発想へ与える影響を調査 熱中症や暑さ対策、資材・原材料の品質管理にも
- イノベーションコンテストでの発表により、自社と外部の技術のかけ合わせがイノベーションを生む
- 外部企業、研究機関の技術を掛け合わせて研究開発を進め、実績を積み重ね、2025年大阪万博の活用も検討
- 社内でも独自開発のICTを積極的に活用 作成したアプリケーションを発表する社内コンペも企画
- 変化と挑戦を重視して新事業の創出に取り組む
淡水魚と農作物を同時に育てる循環型の新しい食料生産の技術として注目を集めるアクアポニックス。主に農業分野で活用が進むこの新技術とICTを組み合わせた新しいオフィス家具の開発に取り組む企業が岡山県にある。自動車用部品を主要事業とする丸五ゴム工業株式会社だ。丸五ゴム工業は国内5ヶ所に営業拠点を持ち、海外5ヶ国に製造拠点を持つ世界企業だ。異分野と協業するオープンイノベーションを推進することで、コアビジネスと異なる領域での新市場開拓を目指している。(TOP写真:リラックス感を提供するオフィスのオアシスとして丸五ゴム工業が開発を進めている「アクアポニックス家具」)
防振用ゴム、ホースなどの製造を通じて自動車産業を支える 2012年に新規事業開発部を設立
地下足袋を祖業とする丸五グループに所属する1954年設立の丸五ゴム工業株式会社は、自動車に使うゴム、樹脂部品の製造、販売に注力することで事業を拡大してきた。防振用ゴム、ホースなどの製品は自動車、オートバイ、建設機械などのモビリティ分野向けが98%を占めている。岡山県内2ヶ所に大規模な工場を構え、アメリカ、タイ、インドネシア、インド、中国に子会社、合弁会社を設けるなど事業をグローバルに展開。2012年には新規事業開発部を設立し、モビリティ分野以外での様々な新製品の開発に取り組んでいる。
事務所1階にアクアポニックス家具を展示 近くに電子黒板を設置して業務スペースとしても活用
岡山県倉敷市内で約5万平方メートルにわたって広がる丸五ゴム工業の倉敷工場。その敷地内にある事務所の1階に、水槽と植物棚で構成するアクアポニックスと2台のカウンターテーブルを一体にしたオフィス家具が展示されている。丸五ゴム工業新規事業開発部が2021年9月から開発を進めている「アクアポニックス家具」の試作品の一つだ。水槽で泳ぐ淡水魚や植物棚で栽培する葉物野菜が周囲にリラックス感を与えている。アクアポニックス家具のそばには電子黒板を設置し、従業員が打ち合わせなどに活用できるようにしている。
新型コロナウイルスをきっかけにオフィスの役割が変化 従業員が集まる場所を癒やしと創造の場に変える提案をしたい
「コロナ禍をきっかけに、デジタル技術を活用した新しい働き方が広がる中、オフィスの役割も変化しつつあります。事務仕事の場としての役割以上に、集まった人同士の発想を組み合わせることで新たな価値を創造するイノベーション拠点としての役割が、これまで以上に求められるようになっています。パソコンやスマートフォンを使って付加価値が高い仕事をしたり、ミーティングやブレーンストーミングをする際に、プラスアルファの効果を提供できる商品にしたいと思っています」。新規事業開発部の中野将之主任は、アクアポニックス家具の用途についてこのように説明した。大企業のスタッフ部門やクリエイティブ部門では在宅勤務が徐々に普通になりつつある。逆にリアルで従業員が集まる場の役割は非常に重要になってくる。それはテレワークでは難しい「創造力発揮のコミュニケーションの場」としての役割だ。
水産養殖と水耕栽培を融合した技術として世界で普及が進むアクアポニックス
アクアポニックスは、アクアカルチャー(水産養殖)とハイドロポニックス(水耕栽培)を融合した循環型の食料生産技術。水槽内で養殖している魚の排泄物から栄養素を取り出して植物の養分として活用し、植物によって浄化した水を水槽に戻す構造になっている。淡水魚や淡水で生息可能なエビなどの養殖、レタス、バジルなどの葉物野菜をはじめ、イチゴやブルーベリー、観賞用植物の栽培に活用されている。北米を中心に世界の市場規模は年々拡大し、2029年には約20億ドル(約3,000億円)に達するとの予測もある。
オフィスの水と緑のオアシスといった視点からアクアポニックスを研究開発
食料生産技術ということもあって魚や植物の成長促進を目的とした研究開発が世界中で進められているが、丸五ゴム工業は、新たな市場を生み出そうと「オフィスの生産性を高める水と緑のオアシス」という従来と全く異なる視点から研究開発を進めている。
アクアポニックス家具は、主にオフィスでの使用を想定していることから配管などはできるだけ表面に出さず、メンテナンスしやすい構造に設計している。自動車の限られたスペースに部品を収める技術をパイプや濾過(ろか)材の収納に生かしているという。
センシングシステムを活用して、二酸化炭素や温度や湿度、照度などオフィス環境に影響する様々なデータを分析して「リラックス効果」の数値化を目指す
新規事業開発部が試作に取り組むアクアポニックス家具は、独自で開発したセンシングシステムと連動しているところに大きな特徴がある。二酸化炭素の濃度以外に温度や湿度、照度などオフィス環境に影響を与える様々なデータを集めて分析することで、アクアポニックス家具がオフィスに与えている「リラックス効果」を数値で見える化することを目指している。
固体型色素増感太陽電池を備えたCO2センサーで効率的にデータを収集
データの収集に大きな役割を果たしているのが2023年10月に導入した固体型色素増感太陽電池を備えたCO2(二酸化炭素)センサーだ。固体型色素増感太陽電池は、標準的な太陽電池よりも発電効率が高く、室内照明の光で十分な発電が可能だ。センサーは無線データ通信機能を備えているので配線の必要がなく、電池交換が不要なので保守管理の手間もかからない。また、手の平サイズなので設置場所にも困らないといった様々な利点を備えている。
オフィスの8ヶ所にセンサーを配置 オフィスの空気環境が仕事の能率やアイデアの発想へ与える影響を調査 熱中症や暑さ対策、資材・原材料の品質管理にも
新規事業開発部はオフィス全体で8ヶ所にセンサーを配置して、収集したデータはクラウドストレージで保存し、パソコンやスマートフォンからアクセスすればいつでも数値を確認できるようにしている。センサーの数を増やすことで、より詳細なデータを集めることができる。
「センサーを活用して研究に必要な二酸化炭素の分布状況をはじめとする詳細なデータを効率的に収集しています。オフィスの空気環境が仕事の能率やアイデアの発想にどのような影響を与えているのかを明らかにすることで、より望ましいオフィス環境を生み出すことができるようにアクアポニックス家具を改良していきたい」と中野主任は話す。センサーは、工場の熱中症対策や暑熱対策の効果確認、資材、原材料の品質管理への活用も検討している。
イノベーションコンテストでの発表により、自社と外部の技術のかけ合わせがイノベーションを生む
新規事業開発部は、事業創出のアプローチとして、自社と外部の技術を掛け合わせることで新たな発想や価値を生み出すオープンイノベーションを重視している。様々な連携を模索する取り組みの一環として、中野主任は2020年、先進的なビジネスプランを発掘するために岡山県をはじめとした中国銀行、サンマルク財団、山陽新聞の官民が連携し主催したイノベーションコンテストで循環型社会の構築をテーマにアクアポニックスの可能性について発表した。この発表をきっかけに様々な専門技術を持つ企業とのネットワークが生まれ、センシングシステムと連動したアクアポニックス家具のコンセプトを固めることができたという。「新しい分野に挑戦するには、自社と外部の技術の掛け合わせが必要不可欠です。様々な企業、研究機関との連携を進めることでイノベーションを生み出し、地域経済の活性化にも貢献していきたい」と中野主任は話す。
外部企業、研究機関の技術を掛け合わせて研究開発を進め、実績を積み重ね、2025年大阪万博の活用も検討
新規事業開発部は、金属製家具製造の企業や事務機器を扱う企業などと連携しながら、設置面積が数十平方センチから10平方メートルのものまで様々なサイズのアクアポニックス家具の試作開発を進めている。2022年度は水槽内の魚の排泄物を除去する濾過材について研究。牡蠣殻の微粉末を製造する企業の協力を受けて5層あるフィルターの一層に牡蠣殻の成分を加えたところ、水の透明度が増すことが確認できたという。また、苔が生えにくい水槽の研究や高いリラックス効果を発揮する植物の調査も進めている。
量産や品質管理の体制を整えて2025年にはアクアポニックス家具を市場投入したい考えだ。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年に大阪府大阪市で開催される大阪・関西万博を活用した取り組みも検討したいという。「オフィスのレイアウトを考える際に中心となるアイテムとして活用してもらえるように研究を重ねていきたい」と中野主任は意欲を見せた。
社内でも独自開発のICTを積極的に活用 作成したアプリケーションを発表する社内コンペも企画
丸五ゴム工業は生産性の向上や経営判断の迅速化を目的にICTの導入を積極的に進めている。独自で、生産状況をリアルタイムで把握するシステム、異常発生時の責任者への連絡システム、無線LANを活用した射出成型機の異常検出システムを開発し、課題を抽出しながら常にバージョンアップを図っている。
また、ノーコードで業務に必要なアプリケーションを作成できるシステムを導入し、間接部門を中心に定型業務の自動化を進めている。仕入材料の発注データをExcelに転記する業務を自動化し、月あたりの作業時間を400分削減するといった成果を生んでいる。各部署単位で作成したアプリケーションを発表する社内コンペも開催し、従業員が積極的にアプリを作成する機運を醸成している。2024年1月にはDX推進室を設立し、部署ごとに導入しているICTやデジタル機器を連携する取り組みも進めている。「会社全体で進めているDXの取り組みを新規事業の創出にも生かしていきたい」と中野主任は話した。
変化と挑戦を重視して新事業の創出に取り組む
変化と挑戦を重視して既存事業の枠を超えた新たな領域で新規事業の創出に取り組む丸五ゴム工業。自社の強みを分析し、オープンイノベーションを活用することで循環型社会の実現につながる新たなビジネス領域を作り出している。様々な企業や研究機関との連携が生み出す成果は、自社のみならず地域経済にも大きな波及効果をもたらすはずだ。
企業概要
会社名 | 丸五ゴム工業株式会社 |
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本社 | 岡山県倉敷市上富井58 |
HP | http://www.marugo-rubber.co.jp |
電話 | 086-422-5111 |
設立 | 1954年1月 |
従業員数 | 1,080人 |
事業内容 | 自動車用及び工業用ゴム・樹脂製品の製造、販売。主要製品は、防振ゴム、ラバーホース、ゴム・樹脂成型品 |