相続税の申告は、相続財産の種類や価額、相続人の数や遺産分割の割合などがどうなるかで複雑になっていくものです。
大変ではありますが、こつこつと準備していくこと、相続税の仕組みをきちんと理解して申請に備えることで、節税できるところは漏れなく、かつ正しい申告と納税ができるようになります。
そのための手順について説明していきます。
誰がどの財産を相続するか
まずしなければならないことは、相続財産がどれだけあるかを把握することです。
預貯金や不動産、有価証券から高額の美術品など、亡くなった方(被相続人)名義の財産が多岐に渡ることもあるので、準備の開始は早いに越したことはありません。
財産の種類が分かれば、次にそれらの財産を誰が相続するかを決めなければなりません。
被相続人が遺言を書いていたり、相続人が一人しかいなかったりという場合であれば協議不要で手間が省けるのですが、そうでなければ、たとえ法定相続分で分けるとしても、そのための話し合いは必要となります。
相続人同士に争いがあるケースだとなかなかまとまらず、調停までもつれることもあります。
相続人の数が多いなど、遺産分割が決まるまで時間がかかる恐れがある場合は、特に早くから協議をしておくべきでしょう。
財産の名義変更をする
被相続人の財産を誰が引き継ぐかが決まれば、そのとおりに財産の名義を変更する手続きに移ります。
預貯金であれば金融機関に株式であれば証券会社に、必要書類とともに相続に基づく名義変更の旨を請求します。
なお、預貯金や有価証券は、口座の名義が相続人にそのまま変更されるわけではなく、必要書類確認後に被相続人の口座を解約し、相続人の口座に振り込む形での変更となります。
また、不動産であれば管轄の法務局で所有権移転登記の申請をします。
いずれの場合も必要となる書類として、以下のものがあります。
①被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍及び除籍謄本
②全ての相続人の印鑑登録証明書
③全ての相続人の戸籍謄本
その他、預貯金であれば被相続人の通帳、不動産であればいわゆる土地の権利書(現在では登記識別情報)が要りますし、遺言書や遺産分割協議書なども必要に応じて提出しなければなりません。
上記①~③の書類の中には、金融機関によって、「作成日から○ヵ月以内のもの」と期限が定められていることがあります(特に印鑑証明書)。
いずれの金融機関もコピー提出で原本は返してくれますので、複数の金融機関や証券会社に口座がある場合、効率よく回れば一度の取得で済ませることが可能です。
相続財産を評価する
名義変更と同時進行で、相続財産の総額を評価しておきましょう。
預貯金は、金融機関に相続発生を告げる前に最終記帳をしておく方法もありますが、銀行に残高証明を出してもらう方が確実です。
証券会社も、請求すれば被相続人死亡時における株式等の価額を出してもらえます。
これらの書類は相続人が複数いても一人だけで請求することができます。
不動産の評価については、相続が開始した年度(1月1日~12月31日)の路線価で計算します。
路線価は毎年7月にその年のものが公表されますので、1月に相続が開始した場合は半年ほど待つことになります(路線価は毎年3月に公表される公示価格の80%の価格ですので、3月の時点で推定は可能)。
ただし、土地の場合、形状や位置(路線価の基準となる道路から奥まっているなど)など、一定の基準をみたすと評価額の減額がありますが、かなり複雑なので専門家に問い合わせた方が良いでしょう。
その他、いかにも高価そうな美術品などがあれば、専門家に鑑定してもらいましょう。
相続税の対象となる財産額を計算する
相続財産の全額に相続税がかかるのではなく、さまざまな控除や軽減分を差し引いた残額にのみ税金がかかります。
基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、相続人に被相続人の配偶者がいる場合の配偶者控除制度を利用することで相続税対象額はかなり低くなりますし、わが国では9割以上のケースで相続税がゼロとなっています。
控除額差引後に残額がある場合に、申告が必要となります。
なお、配偶者控除を利用した結果、相続税がゼロになった場合は申告をしなければなりません。
配偶者控除を使用したかどうかについて、税務署は知ることができないからです。
相続税の申告をする
(1)相続税の申告は、被相続人の最後の住居地を管轄する税務署に申告書を提出して行います。
申告関連の書類は最寄りの税務署で誰でももらえます。
近くに税務署がなければ返信用封筒を同封して請求すれば郵送してもらえますし、国税局のホームページから用紙をダウンロードすることもできますが、申告書は第1表から第15表まであり、どの用紙が必要なのかが分からないこともあるので、可能であれば税務署に出向いて事情を伝え、自分のケースで必要な書類の種類や書き方などをある程度尋ねたうえで書類をもらうことをお勧めします。
主な書類は申告書と評価明細書です。
申告書の全体図は以下のようになります。
順番 | 様 式 | 内 容 |
1 | 第9表 | 生命保険金などの明細書 |
2 | 第10表 | 退職手当金などの明細書 |
3 | 第11表の付表 | 小規模宅地等、特定計画山林または、特定事業用資産についての課税価格の計算明細書 |
第11の2表 | 相続時精算課税適用財産の明細書、相続時精算課税分の贈与税額控除額の計算書 | |
4 | 第11表 | 相続税がかかる財産の明細書 |
5 | 第12表 | 納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書 |
6 | 第13表 | 債務及び葬式費用の明細書 |
7 | 第14表 | 純資産価額に加算される暦年課税 |
8 | 第15表 | 相続財産の種類別価額表 |
9 | 第4表 | 相続税額の加算金額の計算書・暦年課税分の贈与税額控除額の計算書 |
10 | 第5表 | 配偶者の税額軽減額の計算書 |
11 | 第6表 | 未成年者控除額・障害者控除額の計算書 |
12 | 第7表 | 相次相続控除額の計算書 |
13 | 第8表 | 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書 |
14 | 第1表 | 相続税の申告書 |
15 | 第2表 | 相続税の総額の計算書 |
16 | 第3表 | 財産を取得した人のうちに農業相続人がいる場合の各人の算出税額の計算書 |
引用元:国税庁 「相続税の申告のしかた(令和元年分用)」
図の左側は相続財産及び債務を計算し、財産総額を出すための書類です。
図の右側は全額から控除額(場合によっては加算額)を計算し、最終的な相続税額を出すための書類です。
なお、評価証明は、財産を評価することが難しい土地や非上場株式がある場合に作成します。
(2)税務署から受け取る申告書類以外に以下の添付書類が必要です。
①戸籍謄本関係
名義変更などに必要なので、すでに取得していると思いますが、もしなければ揃えて下さい。
②遺産分割関係
遺産分割協議書や遺言書などです。
③相続財産関係書類
被相続人がどのような財産を有していたかを証明する書類です。
必ずしも提出しなければならないものではありませんが、あらぬ疑いをかけられないよう、できれば作っておきましょう。
固定資産評価額証明書、通帳のコピー、残高証明書などがあります。
(3)申告書には相続人全員のマイナンバーを記載する必要があるので、記載されたマイナンバーと相続人のマイナンバーが一致することを証明する書類を用意します。
マイナンバーカードを持っていればそのコピーで足りますが、そうでなければマイナンバー通知カード(それもなければマイナンバー記載の住民票を取得)+本人確認書類(運転免許証やパスポートの類)が必要です。
なお、窓口で申告する場合であれば、申告人は上記書類の原本を持参し提示すれば足り、コピーを準備する必要はありません。
以上の書類が整えば、税務署に直接出向くか、郵送で申告書を提出します。
申告書は相続人全員の分を1通にまとめて作成して構いませんが、納付は各相続人が自分の相続分に応じた額を各自で税務署に納めなければなりません。
なお、申告と納付は同時でも別々の日に行っても、期限内であれば問題ありません。
まとめ
以上のように、相続手続きをすべてすませたうえで相続税を申告、納付するとなると、場合によってはかなり時間がかかることになります。
相続税の申告と納付は、相続が開始してから10ヵ月以内にしなければなりません。
少しでも遅れると滞納税や加算税がかかってきます。
大切な方を亡くすことは非常に辛いですが、残された財産をしっかり引き継ぐことも故人のためになると考え、できるだけ早く準備に取り掛かるようにしたいものです。
(提供:相続サポートセンター)