中小企業がカーボンニュートラルに取り組む理由と始め方

目次

  1. 脱炭素への取り組みは、すべての企業に求められている
  2. いま、中小企業がカーボンニュートラルに取り組むべき5つの理由
  3. 中小企業がカーボンニュートラルに取り組む5ステップ
  4. 脱炭素経営の目標となるイニシアチブ(国際イニシアチブ)
  5. まとめ

「カーボンニュートラル」や「脱炭素経営」と聞いて、中小企業経営者のみなさんはどう思われますか?

「大切なのはわかるけど、事業に関係ないことをしている余裕はない」
「社会に与える影響が大きい大企業が取り組む課題だ」

そんな風に感じる方も、多いかもしれません。
しかし、本当にそうなのでしょうか?

実は、中小企業がカーボンニュートラル、脱炭素経営に取り組むことには、ビジネス上でも様々なメリットがあるのです。
また、気候変動によって社会の持続が困難になれば、企業も同じ運命をたどります。
「でも、脱炭素と言われても、なにをどうすればいいのか?」
そう思われた経営者のために、本記事では中小企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットからその取り組み方までをまとめました。脱炭素経営に取り組む最初の一歩としてお役立てください。

脱炭素への取り組みは、すべての企業に求められている

1 そもそもカーボンニュートラル、脱炭素とは?

地球の温暖化の主要因となる温室効果ガスの排出量と吸収量が、社会全体として均衡(ニュートラル)し、排出量が増えない状態を「カーボンニュートラル」と呼びます。
また、温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素は、主に化石燃料(石油、石炭等)の使用により排出されることから、その使用を減らし、二酸化炭素の排出量を減らす動きのことを総称して「脱炭素」と呼びます。
さらに、企業において、経営の中に脱炭素の要素を採り入れて、それをビジネスに積極的に展開していくことが「脱炭素経営」です。

カーボンニュートラル、脱炭素経営の基礎知識はこちらのコラムで詳しく説明しています!

2 2050年のカーボンニュートラルは、世界の目標

気候変動問題に対して、国連を中心にその対応策をまとめられたのが、2015年のパリ協定です(発効は2016年)。
パリ協定では、21世紀末の気温上昇を産業革命前の1.5度(努力目標)から2度(目標)以内に抑えるとされています。
そのため、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことが、国際社会のコンセンサスとなっており、各国が国情に応じて具体的な対応策を講じています。
カーボンニュートラルを目指して、社会全体で脱炭素を進めることは「やるかやらないか」という話ではなく、取り組むことが「世界の常識」になっているのです。

3 成長戦略としてのカーボンニュートラル

パリ協定の発効を受け、我が国でも2020年に、「2050年のカーボンニュートラル実現」を目指すことが菅内閣の主要政策として決定されました。(後に、2030年に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)とする新たな目標設定も追加)。そして、単にカーボンニュートラルを目指すだけではなく、それを経済成長戦略の一環として位置づける、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が経済産業省等により策定されます。

さらに、2022年には、岸田内閣における「新しい資本主義」政策の一部として、GX(グリーン・トランスフォーメーション)が掲げられ、2023年には、GX推進法、GX脱炭素電源法が成立しました。今後10年間で、150兆円規模の官民GX投資により、エネルギーと脱炭素分野で新たな需要や市場を創出し、日本経済の産業競争力強化と経済成長につなげることとされています。
以上からも明らかなように、カーボンニュートラルを目指す脱炭素分野は、今や日本の成長戦略の重要なキーであり、国策として、多くの資金が投入される投資対象ともなっていることです。 中小企業の経営においても、同分野にいち早く対応することが、国の戦略と一体となった成長への道筋となるでしょう。

カーボンニュートラル、脱炭素経営の基礎知識はこちらのコラムで詳しく説明しています!

いま、中小企業がカーボンニュートラルに取り組むべき5つの理由

企業がカーボンニュートラルを目指し、地球環境の維持を図ることは、未来の子孫への責務です。しかし、それだけではなく、ビジネス上でも以下のような多くのメリットが得られる取り組みです。

1 エネルギーコストが削減できる

日本全体として、二酸化炭素の排出源としてもっとも大きな割合を占めているのは化石燃料(石油、石炭)を用いる発電施設です。そのため、脱炭素の手段としては電気使用量の削減や、再生可能エネルギーによるグリーン電力化が中心となります。電力使用量の削減は、当然、電気代の削減につながります。
また、企業によっては、重油、軽油、ガソリン、ガス、などを大量に用いていることもあるでしょうが、これらも削減することにより、光熱費コストの削減につながります。

2 営業における差別化や優位性が獲得できる

【B to Bビジネスの場合】
現在、上場企業などの大企業では、各種の脱炭素イニシアチブ(後述)に参加し、気候変動に対応した経営戦略や脱炭素に向けた目標設定などを、財務諸表などと同様に開示する「気候関連財務情報開示」「自然関連財務情報開示」の動きを進めています。その中では、仕入れ先、購入先などを含めたサプライチェーン全体での脱炭素化についての把握や説明も必要とされます。また、商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体の各過程で排出された温室効果ガスの量を追跡し、全体量をCO2量に換算して表示する「カーボンフットプリント」導入の動きも進んでいます。

そこで、B to B事業をおこなう中小企業では、既存あるいは新規取引先への営業活動において、自社の脱炭素への取り組みを示すことは営業上の優位性や新規事業機会の獲得に結びつきます。
とりわけ、アメリカやEUに本社のある外資系企業のビジネスにおいては、脱炭素への意識が低い企業は排除される動きもあるので、重要です。

【B to Cビジネスの場合】
現在は、特に若い世代を中心に、エシカル(倫理的)消費など、消費行動においても、環境を意識する消費者が増えています。 B to Cビジネスをおこなっている企業が脱炭素に取り組んでいることは、そのような消費者に対する大きな差別化のポイントとなります。

3 新規事業の創出やビジネスモデル転換の契機につながる

中小企業が脱炭素への取り組みを進める中で、ビジネスモデル、事業構造そのものを見直すこともありえます。
大量の炭素排出が不可避で、それが削減できない事業であるならば、その事業そのものを縮小して、他分野へ進出するといったことです。
例えば、国は脱炭素の一環として、2035年までに、乗用車の新車販売で電動車(※)を100%とするという目標を打ち出しています。
(※:EV(電気自動車)の他、HV(ハイブリッド)、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池自動車)等を含む)。
そこで、もし自社が現在、ガソリンエンジンに特化した事業のみをおこなっているのであれば、その事業を縮小し、他事業に転換することも脱炭素経営の一環となります。
このようなビジネスモデルの転換により、新規事業が生まれることで、結果的に企業のライフサイクルの若返りにつながることもあるでしょう。

4 好感度や知名度のアップで、社員のモチベーションや人材採用力が向上する

脱炭素経営に取り組んでいる中小企業は、残念ながらまだまだ少数です。しかし、だからこそ、いち早く取り組みを始めることで、ステークホルダー(顧客、取引先、金融機関、地域社会、従業員、株主など)に対するアピール度は高く、好感度や知名度の向上にもつながります。
例えば、脱炭素への取り組みをPRすれば、地元マスコミが取材・報道してくれることもあります。それが、社員からのエンゲージメントの向上、採用面での好影響につながることもよくあります。
とりわけ、若い世代を採用したい場合、環境問題に意識的に取り組む会社であることをアピールすることで、採用可能性を高めることができるでしょう。

5 資金調達の可能性が広がる

現在、金融業界においては、融資・投資先のESG(環境、社会、ガバナンス)をチェックする姿勢が強く求められています。先に述べたGX推進法が成立したことにより、グリーン関連の融資、投資の積極的な実施が金融界に要請されているため、通常の融資に比べて、脱炭素化設備投資のための融資は新規に受けやすくなっている場合もあります。
さらには、脱炭素をテーマとした国や地方自治体の補助金なども拡充が進んでおり、活用しやすくなっています。

中小企業がカーボンニュートラルに取り組む5ステップ

例えば、ダイエットをするときには、ダイエットのためになにをすればいいのかを知り、いまの体重を量り、どれくらい減らすのか目標を設定して、食事制限や運動などを実行しますね。
カーボンニュートラルへの取り組みもそれと似ていて、「①知る」「②測る」「③減らす」の3つのキーワードがポイントになります。
この3つのキーワードを柱としながら、下記の5つのステップで、具体的な取り組みを進めましょう。

ステップ1 知る:基本的な情報を集める

まず、何を目指すのか、何をすればいいのか、などを知ることが最初のステップです。もちろん、環境省のWebサイトや書籍などから学んでもいいのですが、いまは脱炭素の情報が多すぎて、むしろ情報の取捨選択で困るかもしれません。
もっとも効率的なのは、中小機構や商工会、商工会議所などの公的な経済団体、あるいは自治体などが開催しているセミナーなどに参加することでしょう。
また、経営者仲間や、業界団体での交流の場などで、同業他社ですでに取り組みを開始している経営者から話を聞けば、具体的なヒントが得られます。

ステップ2 測る:自社の温室効果ガス排出量を測る

現状で、自社がどれくらいの温室効果ガスを排出しているのかを計測して把握します。
こう書くと難しそうですが、目安を知るだけなら簡単です。

排出量の目安を測る測定式は下記になります。

活動量 × 排出係数

「活動量」とは、電気やガス、ガソリンなどのエネルギー使用量です。これらの使用量は、料金請求書等でわかります。
例えば、電気であれば毎月の電気料金請求書に「ご使用量○○kWh」、ガスであればやはり請求書に「ご使用量○○m3」と記載されています。ガソリンなら領収証に記載された「○L」という給油量です。
本社、工場、事業所など、複数の拠点があれば、それらの光熱費、燃料使用量を集計します。

また、「排出係数」とは、温室効果ガス排出を計測するためにエネルギー源ごとに定められた係数で、環境省Webサイトの「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」のページで最新情報が公開されています。

活動量と排出係数がわかったら、集計した種類ごとの数値に、種類ごとの排出係数を掛け合わせればいいだけ。

例えば電気であれば、上記Webサイトに「電気事業者別排出係数一覧」があるので、そこから自社が契約している電気事業者を探して、記載の数値を使用量に掛けて、排出量を求めます。また、本社と工場など、複数の事業場で複数の電気事業者と契約している場合は、電気事業者ごとに計算します。

なお、日本商工会議所では、あらかじめ排出係数が記入されたエクセルの計算シート「CO2チェックシート」をダウンロード配布しています。こういったツールを使ってもよいでしょう。

日本商工会議所 CO2チェックシート

ステップ3 減らす1:目的、目標を設定し、計画を立てる

取り組みを開始するにあたって、何のために自社がカーボンニュートラルに取り組むのかを明確にしておきます。
それは、経営理念に紐付けて、社会に貢献するためでもよいですし、あわせて、営業機会を増やすため、人材採用のためなど、戦略的な目的を設定しておくと、取り組みへの士気が高まります。
次に、現状の排出量からどれくらいの削減をするのか、その目標を設定します。目標設定の考え方は様々ですが、例えば、政府が設定している目標(2030年までに46%削減、2050年のカーボンニュートラル)を目指すというのはわかりやすい方法です。
また、中小企業向けSBT認証などの「イニシアチブ」に参加して、イニシアチブにあわせた目標設定をするという方法もあります。中小企業向けSBT認証なら、毎年4.2%ずつの削減目標となります。(イニシアチブについては後述します)。

次に、ステップ2で測定した温室効果ガス排出データを下記のような観点から集計、分析します。

・エネルギーの種類別(電気、ガス、ガソリン、軽油、重油、など)
・事業場別(本社、工場、支店、営業所、など)
・時期別(月次など)

そして、そのデータを元に、どこをどうすれば効果的な排出削減ができるのかを考えます。
その際にポイントとなるのは、社員全員で目的、目標を共有しながら、アイディアを出し合うことです。例えば、休み時間は電気を消すといったすぐにできる対策から、設備や機器の入れ替え、生産方法の変更など、大がかりな準備や費用が必要なものまで様々な施策が考えられます。
なにをすれば、どれだけ排出量が減らせるかという数値計画を細かく設定するには、外部専門機関の助けを借りたほうがいい場合もあるでしょう。

ステップ4 減らす2:削減計画を実行して振り返り、PDCAを回す

最初から厳密な計画を立てなければ削減に取り組めないわけではありません。最初は、社内だけで考えて、できるところから取り組んでみるということでもいいでしょう。
あとは、その計画を実施するだけです。
ここでポイントとなるのは、計画を実施したことによってどれくらい排出量が減らせたのかを必ず確認し、目標との差異を把握することです。目標との間には必ず差異が生じるはずなので、その差異を埋めるためにはどうすればいいか、ステップ1やステップ2から考え直してPDCAを回し、より削減量を高められるようにします。

ステップ5 告知して、経営に活かす

脱炭素経営への取り組みを始めたら、それを社外に積極的に告知・PRして、経営に活かしましょう。
例えば、自社Webサイトで取り組みの内容を報告する、名刺や会社案内に記載するなどといったことは、必ずおこないます。
また、メディアからの取材を受けてもいいと思うなら、プレスリリースを配信することも手です。メディアによる報道は、広告とは異なり中立的な立場によるものなので、より信頼性が高まります。取り組み内容にもよりますが、社会的な意義があるため地方新聞などから採り上げてもらいやすいでしょう。

脱炭素経営の目標となるイニシアチブ(国際イニシアチブ)

脱炭素に取り組む際の目標設定や、取り組みのPRに役立つのが、イニシアチブへの参加です。

1 イニシアチブとは

「イニシアチブ(initiative)」とは、一般的には「主導権、主導、率先」といった意味ですが、脱炭素の話題においては、脱炭素を目指すために策定されている構想や評価基準の枠組みのことを指します。参加するだけではなく、脱炭素の取り組みにおける一定の条件を達成したという認証を受けることもできます。 国際的に共通して用いられる脱炭素関連イニシアチブには、下記があります。

・SBT(Science Based Targets)
・RE100(Renewable Energy 100%:再生エネルギー100%)
・TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)
・CDP(Carbon Disclosure Project)

また、国連のSDGsには単一の認証制度はありませんが、イニシアチブの一種だといえます。

イニシアチブに参加したり認証を取得したりすることで、脱炭素への取り組み内容を公的にアピールできます。また、脱炭素のための投融資や補助金など、資金調達の際には、イニシアチブ参加を要件とされていたり、あるいは、参加していたりすることで有利になるケースがあります。

2 中小企業向けの代表的な脱炭素イニシアチブ

日本の中小企業が参加しやすい脱炭素イニシアチブとしては、以下の2つが代表的です。

名称 内容 参加数
中小企業向けSBT SBTは、パリ協定に基づいた温室効果ガス排出削減目標を立て実行していることを示す国際認証です。どんな企業でも参加できる通常のSBTと、従業員数、売上高、などの複数の条件を満たす企業が参加できる中小企業向けSBTとがあります。
中小企業向けSBTは、削減対象の範囲が限られている、比較的安価で認証が取得できるなど、ハードルがやや低くなっています。
取り組み内容としては、毎年4.2%年以上の削減を目安として、5年~10年先の目標を設定するものとなります。
677社(SBT全体)
(2023年9月30日現在)
再エネ100宣言 RE Action 日本で使用電力を100%再生可能エネルギーへの転換を目指す企業が加盟できます。企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組みです。 347団体
(2023年12月14日現在)

中小企業向けSBTが、炭素排出量を直接目標にしているのに対して、再エネ100宣言は、電力を再生エネにすることを目標にしているという内容の違いがあります。両者に重複して参加することもできます。
例えば、取引先の大手企業がSBTに参加しているのであれば、中小企業向けSBTに参加するなどすれば、営業面においては大きな差別化を図ることができるでしょう。

まとめ

中小企業のカーボンニュートラル、脱炭素経営への取り組みは、いくつものメリットがあります。また、その取り組みは決して難しいものではなく、最初は省エネなどにより電気使用量を削減しエネルギーコストを減らすなど、身近なところから始めることもできます。
なにより、気候変動が加速しているいま、未来の子孫のために、安定した地球環境を残すことはすべての企業に課せられた義務だといえます。
ぜひ、こちらの資料も参考にしながら、カーボンニュートラルへの取り組みをスタートさせてください。

監修
独立行政法人 中小企業基盤整備機構
中小企業が抱える経営上の課題に対して、様々な支援メニューを提供している公的機関。経営相談の一環として、カーボンニュートラルに関する相談窓口を設けており、無料で何度でもアドバイスを受けられる。
<カーボンニュートラルに関するご相談>
https://www.smrj.go.jp/sme/consulting/sdgs/favgos000001to2v.html
中小企業がカーボンニュートラルに取り組む理由と始め方
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営
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