矢野経済研究所
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4月2日、内閣府は第3回経済財政諮問会議の会議資料「中長期的に持続可能な経済社会の検討に向けて②」を公表した。資料は2030年代における生産年齢人口の急速な減少を「国難」と位置付けたうえで、これを克服するためのシナリオを定量的に試算、人口動態の構造変化を乗り越え、財政と社会保障の長期安定性を確保するためには2060年度までの実質成長率を平均で1%以上に引き上げる必要がある、と結論づけた。

試算は、「生産性の向上」、「労働参加の拡大」、「出生率の上昇」を試算条件として3つのシナリオを想定、2025年度から2060年度までの平均実質成長率を、①現状投影シナリオの場合は0.2%程度、②長期安定シナリオで1.2%程度、③成長実現シナリオで1.7%、と予測した。2025年度から2060年度まで、①のケースで推移すると2060年度の一人当たり実質GDPは先進国で最低レベル、②の場合でドイツ並み、③を実現できればアメリカや北欧諸国と肩を並べる。

上記3つの試算条件のうち「生産性の向上」はテクノロジーの進歩とその社会実装が鍵である。本気で取り組めば不可能ではない。2045年までに “5歳の若返り” を目指す「労働参加の拡大」も今の50代が74歳まで健康でポジティブに働き続けられる環境が整えばなんとかなる。問題は「出生率の上昇」である。想定された数値は現状投影シナリオでも1.36、長期安定シナリオでは1.64、成長実現シナリオは1.8だ。翻って2023年の出生数は75万8631人、対前年比▲5.1%の大幅減少となった。したがって、2023年の出生率は過去最低となった2022年の1.26を下回ることが確実だ(発表は6月上旬)。シナリオ実現のハードルは高い。

さて、その出生率であるが、今まさに「子ども・子育て支援法等改正案」が国会審議中だ。議論の焦点は “実質的な負担は生じない” とする政府見解である。しかし、問われるべきは政策の重要性であり、施策の妥当性であって、政府はその対価すなわち負担の議論から逃げるべきではない。一方、この問題は “手当” や “給付” だけでは解決しない。婚姻率の低下こそ問題だ。ジェンダーギャップの排除、若い世代の将来に対する不安の解消は必須である。負担軽減のために社会保障をカットする、ゆえに未来は安心だ、とはならない。出生率の向上には集中的かつ総合的な取り組みが不可欠である。議論すべきは、負担の有り無し、ではなく政策の中身、負担の在り方、そして、費用対効果である。

今週の“ひらめき”視点 3.31 – 4.4
代表取締役社長 水越 孝