東京証券取引所
(画像=Olha Yefimova/Shutterstock.com)

東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループは2月21日、懸案となっていた東京証券取引所の市場再編について概要を発表、再編新市場の創設計画が動き出すことになった。市場再編は上場企業や投資家にとっても大きな影響をあたることになる。

東証が2月に方向性を正式発表

現在、一般的な企業が銘柄として上場する現物株の取引市場は、企業規模が小さい銘柄で構成され参加する投資家も限定される「TOKYO PRO Market」(プロマーケット)を除いて、本則市場される「東証1部」、「東証2部」、そして一般的に成長過程にある新興企業で構成される「マザーズ」と「ジャスダック」の4市場に分類されている。

このうちジャスダックは一定の事業規模と実績を有する成長企業の「スタンダード」、成長可能性に富む企業で構成される「グロース」に分類されている。

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これを今回示された計画では、東証1部銘柄で構成される「プライム」、東証2部とジャスダック・スタンダード銘柄を主体に構成する「スタンダード」、マザーズとジャスダック・グロース銘柄をメーンに構成する「グロース」の3市場に集約するというもの。

なお、「プライム」「スタンダード」「グロース」は今の段階では仮称となっている。ちなみに、この新3市場の枠組みと仮称は、2019年12月27日に金融庁が有識者会議で議論を進めてきた、金融審議会市場ワーキング・グループ「市場構造専門グループ」報告書に準じている。

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この市場再編とともに、各市場の上場基準の見直しと、上場廃止基準の強化、「コーポレート・ガバナンス・コード」の上場条件への盛り込みも実施されることになる。これから上場を目指す新規上場企業だけでなく、既存の上場企業もある一定の猶予期間を経て、新基準を満たす必要となってなる。

これにより、現在の東証1部の上場企業は、業績悪化や株価低迷による時価総額の減少などがあっても、2部市場に移行して上場維持を可能とする方法があったが、今回の市場再編ではこれが原則できなくなることが想定されている。上場の基準を満たすことができなくなった場合は、原則上場廃止とルールの厳格化が図られる模様だ。

既上場企業の移行基準日は2021年6月

既存の上場企業の所属については、2021年12月までに市場の所属が決定され、新市場への一斉移行は2022年4月1日実施が予定されている。この間、今年7月を目途に現行制度が一部改訂されて、改正後に申請する新規上場会社は、新市場区分の上場基準に近い枠組みで上場することになる。

年内中に新市場区分の上場基準と既上場会社の移行プロセスの詳細が公表され、2021年春以降にコーポレート・ガバナンス・コードの改訂を行い、2021年6月を移行基準日として、上場会社に対しては、同年7月末を目途に新市場区分の上場維持基準に適合しているか否かが通知されることになる。

そもそも今回、市場再編に踏み切る理由は、魅力的な取引所の創造、国際的な取引所競争に打ち勝つための施策であるのほか、3つの要因が背景にあった。

1つ目が新興市場の重複的存在だ。現状のジャスダックは日本証券業協会が管轄する1963年制度発足の「株式店頭市場」を源流に持ち、2001年に株式会社化、2008年に当時の大阪証券取引所(現・大阪取引所)の傘下となり、ナスダック・ジャパンを前身に持つヘラクレス市場と2010年に統合、そして2013年に大証の現物株市場が東証に統合されることに伴って、ジャスダックは東証のひとつの市場機能となった歴史を持つ。

一方、東証は1999年独自に新興企業のマザーズを開設していた。東証と大証の経営統合を経て、上場基準に違いはあるものの、ようやく2部、ジャスダック、マザーズの再編に漕ぎ着けたことになる。

2つ目が東証1部銘柄数の膨張だ。2020年2月18日現在、東証に上場する銘柄数(外国企業除く)は1部2160、2部489、マザーズ315、ジャスダック705(うちスタンダードは668)という状況で、およそ3700の東証全上場銘柄のうち約58%が1部銘柄となっている。

大証との現物市場統合時2013年7月16日時点での全上場企業数は3420に対して1部は1752で、その割合は約51%だった。ちなみに、10年前の2010年末の1部銘柄数は1670で、30%近く増加したことになる。

東証1部銘柄が増加した理由の一つは、直接1部上場よりもマザーズや2部経由で1部に市場変更する時の基準が緩和されているという背景がある。こうしたことなどから、2020年2月21日現在、東証1部で時価総額が100億円を下回る銘柄は262、50億円未満では55もあり、東証1部ブランドが揺らいだとする声も生じることとなった。

今回、1部銘柄を主体に創設が予定される「プライム」市場においては、上場維持基準として、株主数800人、流通株式2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、売買代金1日平均売買代金0.2億円以上が想定されている。また、流通株式は、自己株式や役員所有株式、上場株式数の10%以上を所有する株主の株式数、政府保有株の基準が検討されている。

そして、3番目が上場廃止基準の問題だ。粉飾決算をしても、一時的に特設注意市場銘柄に指定され、その後解除されるケースも見受けられ、上場維持基準の明確化と厳格化が、今回の市場再編と並行して求められている。

このような3つの要因が蓄積、問題視する動きが膨らんで、ようやく東証の市場再編が動き出したことになる。

今後、上場企業サイドで起こる動きと投資家の関心

さて、これから既存の1部企業は2021年6月の移行基準日に向けて、上場基準を維持するための施策と努力を進めることになる。プライム市場をあきらめてスタンダードに移行することを選ぶ方法もあるが、その場合、株主から突き上げを受けることは必至だ。

また、「親子上場問題」が議論されているが、時価総額が低い既存の上場子会社をTOB(株式公開買い付け)などの手法で吸収する動きも強まってくる可能性がある。このほか、市場再編の概要が公表されたことで、現状で議論の推移を見ていた東証1部に市場変更が可能な2部、マザーズ、ジャスダック企業は、1部への市場変更意欲を高めることが見込まれる。

一方、投資家の関心は、東証2部とジャスダック・スタンダード銘柄で構成が見込まれるスタンダード市場銘柄に高まることが予想される。現状の上場企業数から単純に計算すると、2部とジャスダック・スタンダードが統合されると銘柄数は1150規模となり、現状の東証1部銘柄数の半数強となる。ちなみに、マザーズとジャスダック・グロースの合計数は約350だ。

新市場が誕生すると必ず指数が誕生し、その指数に連動する金融商品も誕生することになる。2部やジャスダックは内需関連株が多く、事業内容はITやバイオなどと比べて地味な銘柄が多いため、株価は割安・出遅れ気味に放置されやすい。その結果、新たに誕生するスタンダード指数は、東証2部指数やジャスダック平均といった指数と比べて性格、規模とも変わり、魅力的な新指数となる期待が膨らむ。

市場再編論議が進んでいた2019年と並行する形で、東証2部指数とジャスダック平均は8月から今年1月にかけて大幅に上昇、対照的にマザーズ指数はアンダーパフォームとなったことは、市場再編の動きと連動したものかもしれない。

文・THE OWNER編集部

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