カナダ・オンタリオ州ミシサガの大手食品貿易会社シュアグッドフーズ(SGF)社は、カナダ国外に10カ所の営業拠点を構え、世界1,100件以上の顧客を相手に畜産や水産物、冷凍野菜、果汁などの輸出入・販売を手掛けている。その取引量は畜産物だけで毎年65万t以上と圧倒的な規模を誇る。それを支えるのは、同社に所属している経験豊富なトレーダーたち。トレーダー同士の綿密なネットワークと彼らが持つ数多くのサプライヤーとのコネクションによる「グローバルトレーディング・プラットフォーム」を通じて、案件に対して最適な商品や販路を提供している。
SGFはこれまで、マニラのオフィスを拠点にアジア市場をカバーしてきたが、2023年、日本代表に小林央宜氏が就任し、これまで以上に日本市場に深く関与する体制を敷き、さらに積極的に日本人の採用を進めている。日本は2000年台以降、海外からの食品調達で「買い負け」が顕在化している。SGFのオーナー、レイ・マックゲイグ氏(国際販売部長)は、これまでの日本の輸入商社による日本だけを見ている一方通行の買付けの方法では限界があるとし、複数の市場を相手にしたグローバルな取引・交渉のひとつに日本を組み込むことで、より優位な買付けをすることを強く訴えている。このほど来日したマックゲイグ氏に話を聞いた。
――現在の事業規模はSGFは
もともとウイルキンソン・フーズ・インターナショナルという名で2000年から事業展開をしていた。当時はカナダ国内で豚肉をメインに取引してきたが、08年に私が入社してジョー・ウィルキンソン氏、デービット・フォーガン氏と共同オーナーとなったことを機に、海外市場への展開を強化することに舵を切った。そして、17年にウィルキンソン氏が引退してトロイ・ウォーレン氏(元メープルリーフフーズ・バイスプレジデント)が社長に就任したことを機にSGFに社名を変更した。
設立当初の年商は約30億円で、スタッフ15人体制でカナダ国内市場に集中して取引を行ってきた。その後、トレーダーを増やしながら、海外市場での取引を拡大してきた。現在は海外1,100件以上の顧客を持ち、海外オフィスを含めて135人のスタッフが在籍している。最初は取扱いの9割を豚肉が占めていたが、いまは鶏肉、牛肉、水産品、冷凍果物・野菜、果汁など多岐にわたり、50カ国以上で売買しており、年商はここ6年で約6倍になり、1,400億円に上っている。取扱い数量は畜産物だけで年間65万tに達しており、うち豚肉の割合が63%、鶏肉20%、牛肉が8%となっている。
オフィスは、本社のあるオンタリオ州ミシサガをはじめ、カルガリー、ウィニペグ、メキシコシティ、アトランタ、ドバイ、サンシャインコースト、セルトーヘンボス、サンパウロ、マニラに拠点を構えている。SGFに所属するトレーダーは各拠点で綿密な連携を取っているほか、定期的にトロントの本社に集まってグローバルミーティングを行うことでコミュニケーションを深めている。
――SGFの強みは
SGFの強みは、バイイングおよびセールスの能力に長けたトレーダーが多く在籍していること。大手サプライヤーや各市場で経験を積んできた優秀なトレーダーを積極的にヘッドハンティングすることで、精鋭のトレーダー・チームを構成している=写真。国籍は日本をはじめ米国、韓国、中国、フィリピン、台湾、香港、ペルー、コロンビア、ブラジル、オランダ、豪州、ドバイ、パキスタン、レバノンなど多国籍に及ぶ。北米のプロ野球のような完全な成功報酬制のため、非常にモチベーションが高く、全員が世界のトップセールスを担うことを目指している。また、サプライヤーと顧客の双方に対して、リアルタイムな情報と経験に裏打ちされた市場分析を提供している。日本の商社の場合、食品関係では昔からの取引関係のある海外のサプライヤーのみから買付けする一方通行のパターンがほとんどで、高値で購入している可能性も高く、他のサプライヤーと比較ができていない場合も多い。SGFのトレーダーは、複数のサプライヤーや顧客による3方向による売買を展開しているため、取扱い規模は非常に大きく、前述の通り、畜産物だけで年間65万tに達している。
私が常にスタッフや取引先に訴えているのが「グローバルトレーディング・プラットフォーム」を一緒につくっていくことだ。豪州での展開を例に挙げると、北米からさまざまなポーク商品を輸入して現地の食品メーカーに販売するとともに、そのメーカーが製造した加工品を豪州国内外へ販売している。また、豪州から北米市場に牛肉を、パプアニューギニアなどの太平洋諸島には豪州産豚肉や鶏肉を販売している。海外の営業拠点で、それぞれの国の販売ルートや経済連携協定などの制度を上手く活用して取引を拡大させており、この7年間でSGFはカナダ最大手の貿易会社となった。
――「グローバルトレーディング・プラットフォーム」のスキームは
トレーダーといっても、当社にはセールスおよびバイヤーそれぞれの専門のチームがあるほか、1人で両方を担当しているトレーダーもいる。彼らは担当する地域で、大手から中小までさまざまなサプライヤーと連携している。
現在、豚肉だけでも、ブラジル、スペイン、オランダ、ベルギー、北米の多くのサプライヤーと連携しており、すでに長年の日本向けに実績のある大手メジャーをはじめ、SGFと組むことで新たに日本市場への参入に興味を示しているサプライヤーもいる。
ある日本の食品企業が海外から豚肉を購入したい場合、小林氏を通じて、カナダをはじめ世界中のパッカーに一斉に声をかけて、そこから最も安価な商品を探し出して提案する。豚肉に限らず、さまざま食品の貿易を通じて世界中に数多くのサプライヤー、顧客との取引関係を構築しているSGFだからできる買付けであり、世界に一斉に声をかけるため、迅速な商談を進めることができる。いま、こうした買付けの方法は、世界のトレンドとなっており、このプラットフォームのなかに日本市場を組み入れることで、より有利な形で買付けを進めていきたい。もちろん、安ければ何でもよいわけではなく、規格指導やクレーム処理などもしっかりと対応していく。
サプライヤーの立場からみれば、人手不足の問題を抱えるなかで、日本向け商売は、MMロインやシングル、シートベリーなど規格に対する要望がとても厳しい割には、購入する物量は限られている。日本の購買力が低下しており、以前のような日本=ハイプライス市場という構図が崩れてしまっている。それゆえに、サプライヤーも従来の日本向けの商売のやり方を続けてしまうと自ずと限界が来てしまう。その点、SGFは月間100コンテナ分をまとめて契約し、豪州向けに20本、フィリピンに30本、米国に30本、日本に20本を仕向けるといったグローバルな買付けを行うため、サプライヤーとしても取引相手としての優先度が異なってくる。
SGFの「グローバルトレーディング・プラットフォーム」では、和牛肉をはじめ日本産の生鮮、加工食品、食品原料などを世界へ販売することも視野に入れている。前述の通り、SGFは世界1,100件の顧客へのアクセスがあり、トレードに関する情報を共有している。日本の生産者から和牛肉を海外へ販売したいという要望があれば、世界中に展開しているトレーダーとその先の顧客に共有され、さまざまな提案が寄せられる。従来のように一件ずつ電話をかけて新規開拓をするよりも、はるかに多くのチャンスを迅速に見つけることができる。
私は44年前にオンタリオ州政府の研修生として日本に住んで以来、日本には食品にとどまらず未だ海外に知られていない数多くの魅力のあるモノがあることを実感してきた。日本の食品業界ももっと海外に目を向けて輸出に力を入れていくべきで、そのような要望があれば、ぜひ当社へ問い合わせしてほしい。そして、SGFとしても、日本の優れた商品の魅力を世界の市場にいかに伝えていくか、力の見せ所といえる。