それなりの規模の会社では、経費を精算する際に何らかのルールを定め、それに従い手続きを進めていることが多い。ここでは、そのルールの必要性や実施に関して重要な事項を説明する。
目次
経費精算のルールが必要な理由
経費精算のルールが必要な理由は、以下の通りである。
1.手続きを明確にすることで関係者の負担を軽減し、効率化を図るため
経費精算ルールを設定することで、経費が大量に出てくる。その処理を単純化すれば、一括して効率的な処理することが可能となる。
勤務先や経営されている会社に経費に関する規定がある方はその規定を、そうでない方はネット上に経費精算ルールのひな形がいろいろと見受けられるので、ご覧いただきたい。こういった効率化するための工夫が行われているはずだ。
例えば、経費精算の締め切りを設定することによって、月次収益の計算処理を効率よく進めることができる。これは迅速な決算処理、ひいては決算書の迅速な作成につながる。また、経費にできるものとできないものを、あらかじめルールで決めておくことも大切だ。ルールに従えばいいので、判断の際に余計な負担がかかることがない。
2.冗費を抑えるため
会社にとって、経費は利益を出すために必要最低限のものに抑えるべきであり、そうでないものについては支出すべきではない。また、事業を行う際に税金を計算する上で必要なもののみ経費にできるため、事業に関係のない経費は出さないようにすべきだ。そのため、経費にできるものは、各々の会社の事情や税制面からルールを設定しておくとよい。経費にできるもののみを計上することで、事業の利益計上に資することができる。
また、このような冗費を出さないルールの設定は、税務調査に入られた際にも役立つ。経費精算のルールにのっとって経費の計上を行っていることを説明すれば、調査をスムーズに進められるだろう。
3.法律違反を防ぐため
経費をチェックして、ルールに合わない経費を排除することも必要だ。これには、関係のない経費を抑えることで、法律違反となるものを防ぐ効果がある。あらかじめ、経費精算のルールの中に法律違反になるものを計上しないようにする、また不正を行った場合は懲戒処分を行うようにするといったルールを設けることによって、法律違反につながる経費の支出に対して牽制する項がある。
4.公平な経費支出を実現するため
経費精算ルールを定めておくことで、経費の支出ルールが一定になる。例えば、「ある社員は認められたのに別の社員は認められなかった」といった不公正感を産む恣意的な運営が排除できる。その結果、会社関係者の間に不平や不満がなくなるのだ。
旅費の経費精算ルール
経費精算のルールを特に設けるべきものとして、旅費と交際費が挙げられる。これらは高額であり、税務が絡むことが多いからである。まずは旅費について述べていこう。
旅費はうまく使えば会社の味方になる
旅費は、経費精算ルールをうまく使えば利益になる一例だ。理由はいくつか考えられるが、旅費について複数の経路がある場合、どれを使うかをルール付けすることによって、余分な経費の支出が抑えられる。
例えば、「定期券の代金は一番安いルートで精算」などと決めておけば、余計な出費を防ぐことができる。また、自家用車で通勤する場合は、無税で支給できる範囲内での通勤手当を支給するように設定することで、適切な経費の支出が可能だ。
出張旅費
旅費に関する規定を有効に利用すれば利益になる最たるものは、出張旅費である。出張手当を設定することで、事業を行う側にとっては経費にできる費用が、出張を行う側にとっては無税となる収入が発生する。
また、出張に関して利用できる交通機関や宿泊施設の内容をあらかじめ決めておけば、余計な経費の支出を抑えられる。
交際費の経費精算ルール
交際費も、精算のルールを設けるべき経費のひとつだ。交際費はその性質上、個人的な食事を計上するなど恣意的な支出が行われやすい。また、税務上、経費に含められる内容や金額に制限があり、支出しても経費にできるとは限らないのだ。そこで、内容や金額に制限を加えてむやみな支出を制限し、効果的な利用を行うようにするとよい。
例えば、飲食の場合には接待する相手の名前を示した上であらかじめ届け出る、金額に制限を加える(全額税務上の経費にできる5,000円以下にすることが多い)などして出費を抑えることがある。また、経費精算する際には、出席者全員の名前と相手方の会社名を記録することが税制上求められているため、それを届け出ることを規定に組み込むことも必要だ。
さらに、手土産や贈り物に関して、どのようなときに買うかなどの規定を設け、むやみな購入を抑えることも必要となる。
領収書の経費精算ルール
領収書は、経費清算に必要なものだ。規定に組み込むなどして注意すべき点があるため、以下に挙げていく。
1.原則として領収書は現物が必要
最近では領収書を写真に撮って会計ソフトの中に保存することも増えているが、基本的には領収書の現物が必要だ。
会社や事業者が領収書などを電子保存することについて税務署から許可を得ている場合は、そのような保存も可能である。しかし、原則として領収書の現物については、原則7年間の保存が求められる。ただし例外もあり、キャッシュレス清算されたものについては、条件を満たせば領収書を保存しなくてもいいように法律が改正される予定だ。改正された場合、領収書の保存は不要だ(令和2年1月現在)。
また、領収書がレシートのような感熱紙の場合は、文字が消えないように丁寧に保存しなければならない。
2.領収書がない場合の対応
経費精算を行う際は領収書が必須だが、場合によっては領収書が発行してもらえないケースや領収書を紛失してしまうこともあるだろう。その場合には、まず①いつ②どこで(どの自販機でなど)③何に④いくら支払ったかを記載した伝票やメモを残しておくことが重要だ。
他にも、支払額を示す他の資料、例えば、定期券の場合は購入した定期券のコピーやカード明細書のコピーなどを添付して保存しておくとよい。伝票の内容を補強できる場合は、税務署に説明するためにも行うべきである。
経費精算方法はどうすべき?パターン別メリット・デメリット
経費精算のルールで頭を悩ませるもののひとつとして、精算の方法が挙げられる。どのようにして経費を処理して渡すか、何通りかの方法がある。それぞれにメリット、デメリットが考えられるため、ここではそれらについて述べる。
現金清算をその都度行うメリットとデメリット
一番簡単な経費精算は、領収書を担当部署に持ってきてもらい、その都度、現金で精算する方法だ。その都度処理できるため、会計処理を分散させることで会計担当者の負担感が少なくなる点がメリットとなる。次に挙げられるのは、お金を立て替える場合、立て替えた人はすぐに経費の清算を行うことができるため、負担感が少なく済むことだ。
ただし、デメリットも存在する。清算に随時応えるためには、多くの現金を手元に用意しておかなければならない。また、その場で現金を数えて手渡しすると、お金を数えるのに時間がかかったり、誤りが発生したりする可能性もあるため、担当者の負担が多くなる点も挙げられる。
一括精算のメリットとデメリット
次に、立て替えた経費の内容を毎月回提出させ、その内容に応じて精算する方法がある。メリットとしては、経費を一度に精算するので、支払う側にとっては支払の負担感が減るだろう。また、通常この場合は現金の支払ばかりではなく、給料と一緒に支払うこともできるため、多くの現金を用意する必要がない。
しかし、経費内容のチェックを同時にすることが多く、集中して行わなければならないため、経費処理の担当者の負担感が著しく多い点はデメリットといえる。
カードを渡して精算するメリットとデメリット
最近注目されているのが、従業員にカードを渡して経費精算はそのカードを使って行う方法だ。
メリットとしては、まずカードを使用するため現金を用意する必要がなく、経費を負担する人にとっても現金を立て替えるといった負担感がない。次に、カードによっては使うたびに取引を会計システムに取り込むことができ、経理処理の手間が省ける。
デメリットとしては、カードを使って私的な買い物もできるため、カードの利用を監視する必要があること、万が一私的な利用があった場合には実効性のある返金の方法を決める必要があることだ。
現時点では、カードを使用する場合も原則として領収書が必要となる。ただし、今後の法改正によっては、カード払いのときは領収書が不要になる可能性もある。
経費精算は慎重に行おう
ここでは、経費精算についてルールを決めるべき理由や、旅費や交際費についてどのような視点からルールを定めるべきかについて記した。また、領収書をどのように運営すればいいかについても説明した。これらをもとに、経費精算の運営をしていただければと思う。
文・中川崇(公認会計士・税理士)