介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)

目次

  1. 認知症ケア専門士が常駐 認知症予防のため運動機能・脳機能双方のケアによるシナジー効果リハビリ これがチームアールの最大の特長
  2. 開所と新型コロナウイルス感染症の拡大期が重なり、デイサービスに人が集まれない! ピンチに陥るも外出支援や新たなニーズに応えて乗り切る
  3. 「今日はやりたくない」という人もいる。だから利用者の日課はあえて決めない。飲み物もドリンクバーで好きなものを好きなタイミングで
  4. 福祉業界の「こうあるべき」が若手職員を追い詰めていく。楽しく生き生きと働ける環境であれば、利用者にも自然と伝わるはず
  5. 最も重要なのは利用者サポートの時間を確保すること。記録業務は効率化して利用者と触れ合う時間にあてたい
  6. ノートパソコンの追加導入により作業効率が格段に向上。複数拠点への移動時の作業やケアマネジャーの訪問時の記録にも効果を発揮
  7. 認知症の人は地域で支えていくしかない。子どもから大人、商店まで総出で見守る体制作りを説き、小学校にも毎月出張講演に出向く
中小企業応援サイト 編集部
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自身の親が利用する介護サービスや高齢者施設を探したことのある人なら、多かれ少なかれ悩んだ記憶があるだろう。提供されるサービス内容や質、施設の内外装や設備、食事、スタッフの介護技術、施設の空き状況、家族宅との距離、費用…などなど。さらに本人が「行きたくない」などと言おうものなら、家族は頭を抱えてしまう。家族にも生活と仕事があり、年代的にも重要な役職を担っている場合が多い。だから家族の都合で施設を決める場合も多いのではないだろうか。とはいえ、大切な親である。どこでもいいとはいかないのがこれまた悩みの種だ。「どこかいいところありませんか」とケアマネジャーにすがる家族が選びたい施設とは「自分でも入りたい(通いたい)と思える施設」。これに尽きるのではないだろうか。

しかし、現実は介護職の離職率は高く、若手の従事者もなかなか増えない。限られた人手で提供されるサービスには効率化が求められ、クレームや転倒などのリスク回避の観点から、利用者の望みが叶わないケースも少なからずあるのが現状だ。もちろん施設の事情はわかる。しかし、自分の親の入居先として考えた時、施設側の事情を受け入れて諦めるしかないのだろうか。

そんな介護福祉の状況を打破すべく、「自分も利用したいと思える介護サービス」の実践に取り組む事業者がいる。群馬県桐生市にある株式会社チームアール 代表取締役関口絵里奈氏は、利用者の主体的な判断と尊厳を重視した介護サービスの提供を目指す。さらに施設で働く職員に対しても、介護に関わりのない規制は取り払い、仕事に対する自主性を重んじることにより雇用の実現と成長につなげている。(TOP写真:株式会社チームアール代表取締役の関口絵里奈氏)

認知症ケア専門士が常駐 認知症予防のため運動機能・脳機能双方のケアによるシナジー効果リハビリ これがチームアールの最大の特長

介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)
脳機能と運動機能を刺激することにより、認知症予防につなげる運動特化型デイサービス「トレーニングハウスR」で過ごす利用者たち。全員が同時に行う日課はあえて設けず、それぞれの判断に委ねている

以前勤めていた介護事業所から独立した関口代表がチームアールを設立したのは2019年6月。さらに2021年1月21日には、運動と脳機能の活性化による認知症予防をコンセプトとする運動特化型デイサービス「トレーニングハウスR」を開所した。

「当所のコンセプトは、運動と脳のケアのシナジー効果による認知症予防に注力すること。認知症ケア専門士も常駐しています」と話す関口代表。前職で介護福祉士、ケアマネジャー、管理者、役員も務めており、現場と経営に関与した経験から「思いだけではダメ。きちんとした根拠のあるケアを行えば、本人は確実に変わります」と強い信念を持っている。

目標は利用者が今の介護度を維持することだが、中には転倒して骨折したり、認知症が進んで介護度が上がる人もいる。そこで、こうした利用者の受け皿として介護度の高い人を受け入れる27床の住宅型有料老人ホームを計画。2024年の開所を目指して現在建設中だ。

開所と新型コロナウイルス感染症の拡大期が重なり、デイサービスに人が集まれない! ピンチに陥るも外出支援や新たなニーズに応えて乗り切る

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明るくしゃれた内装の「トレーニングハウスR」。オープン時が警戒レベル4の時期と重なり、人が集められない状況下で密集を回避しながら利用者を受け入れるなど、手を尽くしたと振り返る関口代表。「あんなに大変だったのに、必死すぎてあまり覚えていませんね」と陽気に笑う

2021年1月21日に開所した「トレーニングハウスR」だったが、折しも開所から1ヶ月後には新型コロナウイルス感染症が拡大。当時は警戒レベル4という状況だった。そうなると人を密集させることができない。利用人数を絞ったり、利用時間の分散化のほか、送迎時も少人数の乗車にするなどの策を講じて対応してきた。そのほか、外出支援サービス(介護保険対象外のサービス)を行うなど、考えうる限りの対応をスタッフ5人で必死に行ってきたという。

「とにかくコロナを恐れて利用者さんがいらっしゃらないので、数ヶ月は経営が安定しませんでした。あまりに必死だったので当時のことを思い出せないぐらい」と当時を振り返る関口代表だが、当時「生活不活発による機能低下や認知症などの症状が出てきていると感じました」と、外出を控える高齢者たちの変化を感じ取っていた。

また、自立度が高いとはいえ高齢の親を自宅でみる家族からは終日預かってもらえるデイサービスへの要望が高かったことから、当初は午前と午後の2区分で受け入れをしていたサービス供与の許認可を見直し、午前・午後・1日(朝〜夕方)の3区分の許認可を取得し直した。結果は「一瞬で枠が埋まりました」というほどの反響だった。

「認知症予防の運動支援というコンセプトでしたので、デイサービスをやる予定はありませんでしたが、時代のニーズに対応することも必要」との思いから関口代表は柔軟に対応した。

「今日はやりたくない」という人もいる。だから利用者の日課はあえて決めない。飲み物もドリンクバーで好きなものを好きなタイミングで

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デイルームには麻雀卓が設置されている。麻雀は根強い人気があり、脳機能の刺激にも有効だ。「ゲーム中は下手に声をかけると怒られちゃいます」と関口代表が言うほど利用者は真剣勝負のようだ

関口代表にはこれまで携わってきた介護福祉施設で感じた「こうするべき」という既成概念を変えたいという思いがあった。それは「利用者の自己決定を大切にしたいから」だと関口代表は言う。「誰だって今日はこれやりたくないっていう時もありますよね。だから、それぞれにやりたいことを選んでいただいています。ドリンクバーにしたのもそういう理由からです。自分の好きなタイミングに飲んでいただくほうがいいですから」と断言する。

通常デイサービスでは利用者が一斉に体操をしたり、塗り絵や折り紙などの手工芸やカラオケ(コロナ禍前まで)、テレビ番組を見ているといった光景がよく見られる。しかし同所では、日課を特に決めていない。さらに「料理が得意だった人に対して、『包丁を持たせるのは危ないから』といって、何もさせないのは管理上の都合によるものです。怪我をするかもしれないことも、事前にご家族にご了承をいただいた上でなら調理もOKです」と受け入れている。ここまで自主性にこだわるのはなぜか。その背景には、関口代表自身の経験が関わっていた。

「私は出産して3年間専業主婦をしていましたが、ずっと家にいるのも向いていなくて、たまたまパートで介護施設に入職したんです。もちろん当時は無資格でした。最初の頃はお風呂の介助とか現場の仕事がとてもつらくて、人間関係にも苦労しました。管理者になれば振り切れる!と思って資格を取り、管理者からさらに役員にもなりました」と振り返る関口代表。

現場に関わり続けるうちにいつしか介護の仕事に愛着を覚えるようになり、利用者本位ではない介護のありかたにも疑問を持つことが増えた。しかし、役員であっても経営に関与することは叶わなかった。「それなら、同じ志を持つスタッフと一緒に、自分たちでやろう」ということになって独立したんです」。そんな関口代表だからこそ、若手人材が集まらない介護福祉業界に懸念を持ち続けていた。

福祉業界の「こうあるべき」が若手職員を追い詰めていく。楽しく生き生きと働ける環境であれば、利用者にも自然と伝わるはず

介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)
利用者にとって孫ほど年齢の離れた若手スタッフが多く在籍する。ヘアカラーやネイルはOK、ユニフォームもデザイン性を重視している

チームアールには若手のスタッフから中堅世代まで幅広く在籍する。ただ、他の事業所と少し違うのは、就業へのマッチングプロセスである。同所の若手スタッフの多くはインスタグラムの投稿を見て、入職を希望してきたというのだ。実際、同所のインスタグラムは、あたかも若い世代のサークル活動のような活気に満ち、利用者もスタッフも楽しそうだ。スタッフも介護福祉事業所の職員とは思えないほど華やいで見える。

「若い子にしてみたら、楽しそうに働いているとか、かっこいいと思わないとそこで働く気持ちになんてなれませんよね。ユニフォームだって介護業界はダサいとか思われがちですけれど、彼女たちが着たくなるようなデザインを心がけました」と話す。そういえば同様に人手不足が悩みの建設業界でも近年ユニフォームのデザインがファッショナブルになっている。もちろん雇用につながる条件はそれだけではないものの、せめて3Kと言われるイメージを刷新したいとの切実な思いが関係者にはある。それは介護福祉業界も同じことだ。

さらに関口代表は髪を金色に染めたり、ピアスをしているという理由だけで、介護現場で否定されてきた若手にも理解を示す。「利用者さんに対してもそうですが、介護業界は『あれはダメ、これはダメ』ということが多すぎると思います。相手に不快感を与えさえしなければ問題ないはずです。これでは若い人が参入してこないでしょう」と不満を隠さない。確かに利用者たちがそれを否定しているわけではないのだ。「自分は最後までわがままでいたい」という関口代表の言葉からは「自分を大切にできる人こそが、人を幸せにできる」との信念が伝わってくる。

「自分たちが働いていて楽しくないと、利用者さんに伝わらないと思います。生き生きと働いている人からは自然とオーラがにじみ出ます。それって作るものではないですよね」

そんな関口代表は、最近若手スタッフが期待以上の成長を見せてくれていると感じている。「うちの若手スタッフは工場勤務やエステティシャン、ブティック店員などをしながらうちの事業所に勤める、いわゆるダブルワークをしていた人が当初は多かったのです。でも、次第にうちでの勤務1本に絞ってくれたので、資格取得もできるよう彼女たちを専門学校に行かせています。しかも、みんな自分の親はうちの施設に通わせたいとまで言ってくれているんです」と笑顔を見せる。

最も重要なのは利用者サポートの時間を確保すること。記録業務は効率化して利用者と触れ合う時間にあてたい

介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)
コロナ禍で利用者が減ってまもなく、利用者の生活不活発による身体機能の低下がみられたという。利用者が戻った今、ようやく利用者同士の活発なコミュニケーションが復活している

利用者本位のサービスを提供するためには、スタッフが利用者と接する時間の確保が必要だ。しかし、制度ビジネスの宿命として、利用者ごとのバイタルや活動記録などといったケア記録や月ごとの居宅サービス計画書、サービス利用票などの作成業務があり、この作業にはかなりの手間と時間を要している。その点「利用者サポートが最も大切なので、記録業務はとにかく効率的に行いたい」と話す関口代表はICTの活用による作業効率化に積極的だ。

作業環境が大きく変わったのはコロナ禍がきっかけだった。当初はデスクトップ型パソコン2台とノートパソコンが1台だった環境から、2022年には機動性を目的にノートパソコンを3台増加。事務員のテレワークへの対応や、ケアマネジャーによる訪問時の記録にノートパソコンを活用した結果、作業効率が飛躍的に向上したという。

ノートパソコンの追加導入により作業効率が格段に向上。複数拠点への移動時の作業やケアマネジャーの訪問時の記録にも効果を発揮

介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)
居宅介護支援事業においては、従来はケアマネジャーが利用者宅を訪問して作成した手書きの記録を、事業所に戻ってから入力し直していた。現在はノートパソコンを訪問先に持ち込んでその場で入力できるようになったため、入力作業が一度で済むようになったという。利用者のケア記録もタブレット端末による入力を進めている

データ保管は所内利用のみから、どこでもつながるクラウドに変更し、ケア記録も連動。「これまでは、ケアマネジャーが訪問時に手書きで書いていた内容を、事務所に戻ってからパソコンに入力し直してしていたんです。それって二度手間ですよね。でも、ノートパソコンを増やしてからは、訪問時に記録が完結してケアマネジャーにも好評です」と手応えを感じている。現在はタブレットを一部導入してケア記録の入力を行える環境に移行しつつあるという。

ICTの導入に積極的に取り組むのは、拠点が増えてきたことにもよる。現在はトレーニングハウスRのほか、2023年に開所した高齢者と障がい者の共生型デイサービス「にこる」の運営をグループ会社で手がけている。さらに現在建設中の有料老人ホームも含めればスタッフやケアマネジャーが出先で対応すべきことも増えていく。

「今度開所する施設では、最初からタブレットを導入しようと思っています。利用者さんと触れ合う時間を確保するために、利用できるものはどんどん使っていくつもりです」。さらに「シフト管理や勤怠管理もICTの導入で作業時間の短縮化を図っていきたい」と意欲的だ。

認知症の人は地域で支えていくしかない。子どもから大人、商店まで総出で見守る体制作りを説き、小学校にも毎月出張講演に出向く

介護・福祉サービスに新しい風! 楽しく働くから利用者も笑顔になる ICT活用で利用者支援の時間をつくる! チームアール(群馬県)
関口代表は、ボランティアで地域の小学校に出向き、認知症高齢者への理解を深めてもらう講演活動を行っている。「子どもだけでなく、スーパーやコンビニなど地域一丸となって認知症の人を見守ることが必要」と話す

介護福祉施設で働き始めた頃は、現場の仕事に受け入れ難い苦しさを抱いていたものの、次第に利用者にとっての福利や、スタッフが生き生きと働ける職場環境の構築に目が開かれていった関口代表。そして今、関口代表の関心は高齢者と障害者の福祉サービスのありかたや、その受け皿としての地域社会に注がれている。

「ケアマネとして80代の利用者さんのお宅に伺った時、障がいを持つ50代のお子さんがいたことが判明したケースがありました。まさに8050問題です。こうなると高齢者福祉の問題だけではなくなります」と懸念する。実際、障がい者の親たちの多くは自分亡き後の子の生活を案じている。このことを背景に設立したのが先述した施設「にこる」だった。

「高齢者介護からスタートしましたが、今は福祉という大きなくくりの中で、高齢者も障がい者・児も含めた支援をしていきたいですね」と語る関口代表。障がい者と高齢者との共生型施設の取り組みは始まったばかりで課題は多いというが、介護福祉の既成概念にとらわれずに新たな一歩を踏み出している。

さらに、関口代表が取り組むのが認知症の高齢者に対する地域への啓発である。これまで地域ニーズに応じて事業所の運営をしてきたが、今後迎える超高齢化社会において在宅の認知症患者への対応は、介護福祉サービスや家族だけでは担いきれないと関口代表は感じている。そこで、認知症サポーターに委嘱されている関口代表は地域の小学校に頻繁に出向き、認知症の高齢者への理解を深めてもらうための講演活動をボランティアで行っている。

「子どもたちやコンビニエンスストア、スーパーなどの店員さんにも、認知症の高齢者の実情をもっと知ってもらえば、ちょっとした声かけや見守りにも貢献できます。認知症の人は地域全体で支えていくしかないと思うのです」と強調する関口代表。実際、家族だけでは介護サービスの隙間を埋めきれないのが現実だ。そんな時、地域みんなで高齢者を支えることができれば、介護する家族も追い込まれないかもしれない。

自らの信念に従い、既成概念にとらわれない関口代表。その躍進ぶりに頼もしさと希望を感じさせられた。後に続く若手スタッフの活躍にも大いに期待したい。

企業概要

会社名株式会社チームアール
所在地群馬県みどり市笠懸町鹿4271-8
HPhttps://team-r.co.jp/
電話0277-74-8000
設立2019年6月
従業員数16人
事業内容  介護保険事業、通所介護、外出サポート、介護相談事業 ※グループ会社 株式会社plus Reyにて介護・障害福祉事業所の運営、介護・障害福祉の経営支援事業、介護・福祉新規事業立ち上げ支援、店舗新設・改修支援