経営者,スーツ,イルサルト
(画像=SmartPhotoLab/Shutterstock.com)

M&Aには「成功」と「失敗」がある

成長を目指す企業にとって、M&Aは大変有効な手段であり、検討していない企業は皆無と言っても過言ではないだろう。「M&Aは有効。そしてシナジ一効果を享受するためにはPMI (Post Merger Integration = M&A前に企図したシナジ一効果を実現するプロセス)が重要。」という考え方もまた、もはや常識でありこれに異論を唱える方々はいないのではないか。しかしながら、現実の世界に目を向けると、実行されるM&Aは結果として「成功例」と「失敗例」にはっきりと分かれてしまう。

成功例としては、M&A巧者の代表である日本電産を挙げることができる。50を超えるM&Aを実施しているにもかかわらず、一度も減損損失を計上していない。被買収会社の業績を向上させ、買収会社グループの業容を継続的に拡大させている。「 M&Aはジグソーパズルのピースを埋めてくよいうなもの」「買収は目利き」といった永守会長兼 CEOのM&Aに関する言葉は、大変示唆に富む。

その一方で、新聞などで大々的に報道されていようるに、日本企業が買収した海外企業をうまく統治(あるいはマネジメント)できず、巨額の損失計上を余儀なくされた総合家電メーカーや住宅設備大手のようなケースは、失敗事例といえるだろう。何が両者の差を生んでいるのか?

成功するM&A (PMI) には"物語"がある

当社(日本CGパートナーズ・現 日本PMIコンサルティング)は、「売り手企業と買い手企業がともに成長を実現すること」をM&Aの成功と定義し、PMIをサポートしている。その経験の中で強く感じているのは、「成功するM&A( PMI) には、“物語"がある」ということだ。

“ 物語" とは「当該 M&Aを通じて両社が発展していくためのロジックがしっかりしており、かつ、両社従業員のポジティブな感情を刺激する情熱がある」と定義できる。つまり、PMIを上手に進める会社には、「なぜその会社を買うのか?」「買ってからどうするのか?」という問いに対する明確な解があり、それを淀みなく言語化できる強みがあるのだ。例えば上述の「M&Aはパズルだ」というのは、「自分たちの行きたいところがあって、現在地はどこなので、足りないピースを外部に求めて買収する」ということであり、「買収は目利き」というのは、「対象会社のどこにどう手を入れれば利益率が上がるのか、具体的に想定している」と言い換えることができる。これらは、成功の絵姿と、そこに至るためのプ ロセス=物語の蓋然性の高さを表している言葉ではないか。

これらの“物語"をしっかりつくるポイントは2点ある。1つめ は「backcastで考える」こと。M&A後に取り組むべきことについて、現時点から将来を見通す「forecast」ではなく、将来時点、つまり「出したい成果」から現在に遡って考えることが 重要なのだ。【図表1】では、backcast の思考法である「GROW モデル」を紹介する。ゴールが決まっていれば、どういう選択をすべきか、その後何に取り組むべきなのかは自ずと明白になるのだろう。

図表1
(画像=Futureより)

2つめは「定性的要素と定量的要素を連動させる」ことだ。【図表2】を眺めていただければ、どちらかー方だけでは物事が進まないことが理解していただけるのではないだろうか。我々がPMIのサポートをおこなっている会社のうち、定性面と定量面がバランス良くミックスされ、論理的整合性が高く、感情的に腹落ちしやすい成長ストーリ一をお持ちの会社は、比較的スムーズに M&A(PMI) の局面を乗り切っている印象がある。

図表2
(画像=Futureより)

M&A において“物語”を計画するのが"100日プラン”だ。「その物語の主要ストーリーは?」「登場人物は?」「場面は?」「セリフは?」「アクションは?」といったようにM&Aを成功に導くためのPMIは、実施事項が非常に多岐にわたるため、できる限り前倒しで成功シナリオを準備する必要がある。準備が後手に回り、M&A成立後にあたふたしている買い手を目の当たりにして、果たして対象会社の経営者や従業貝が「(貴社と)一緒になってよかった」と思うだろうか。

今後のM&A市場では、成長のために企業の売却を選択する「戦略的売却」が増えていく。つまり 「買ってくれ るなら売る」ではなく、「一緒になってどう成長させてくれるのか?」という視点で買い手企業を選ぶ時代になるといえる。当社では、PMIについて以下のチェックリスト【図表3】を活用しながらクロ一ジング前から100日プランを準備することを推奨している。貴社におかれても、このリストを成功シナリオの作成の際の参考としていただき、ぜひ「選ばれる買い手」となっていただきたい。

図表3
(画像=Futureより)

竹林信幸(取締役ビジネス・アドバイザリー事業部長 日本CGパートナーズ・現 日本PMIコンサルティング)

無料会員登録はこちら