目次
- 本社ビルの5階をリノベーションして小中学生の自習室として開放
- 40歳で社長に就任 未来を見据えた企業理念「BUILD」を打ち出す
- 都会的な洗練されたデザインでリノベーション
- 地域で子どもを見守り、育みたい
- 次世代の人材確保と育成に力を入れる
- オフィスもリノベーションしてフリーアドレスに 落ち着いた和モダンな雰囲気
- 仕事を通じて技術力だけでなく人間力を養ってほしいと考え、従業員が目標を持って仕事に取り組む環境を整える
- 地域に役立つ人材を育てることは企業存続の条件 若手の成長に会社の命運がかかっている
- 勤怠管理システム、電子小黒板など働きやすい環境整備にICTを活用
- 若手従業員の増加に合わせてDXを加速する
- デジタル技術と現場主義で相乗効果を発揮する
次世代の人材育成を重視して、ICTを活用しやすいリノベーションや設備への投資を積極的に行っている企業が奈良県橿原市にある。創業から100年近い歴史を誇る株式会社平成建設だ。現場主義とDXの相乗効果を発揮することで建設業界の新しい姿を発信している。通信機能が整った本社ビルのワンフロアを地域の小中学生の自習室として提供するなど、地域貢献にも力を入れている。そこには、経営理念にある「つくるその先に価値を」という思いを具現化した姿がある。(TOP写真:平成建設が地域に開放している自習室「スタディスペースBUILD COMMUNE(ビルドコミューン)」)
本社ビルの5階をリノベーションして小中学生の自習室として開放
奈良県の中南和地域の拠点となっている橿原市は、都市機能だけでなく、初代天皇とされる神武天皇が即位した地に創建された橿原神宮、1300年前の日本初の本格的な宮跡、藤原宮跡などの歴史資産にも恵まれた都市だ。その市街地を東西に走る幹線道路沿いで、株式会社平成建設は地上5階建ての本社ビルを構えている。
創業から100年近い歴史を持つ平成建設は2023年8月、新しい取り組みを始めた。空きスペースとなっていた本社ビルの5階を、デザイン性を重視した多目的ルームとしてリノベーションし、地域の小中学生が無料で活用できる自習室「スタディスペースBUILD COMMUNE(ビルドコミューン)」として開放したのだ。
「地域に支えていただいたからこそ平成建設は100年近い歴史を積み重ねることができました。将来を担う子どもたちが切磋琢磨しながら学習に専念できる場所を提供することで地域に恩返しをしたいと思ったんです」。平成建設の本社で取材に応じた吉﨑真仁代表取締役は、「スタディスペースBUILD COMMUNE」を運営する自らの思いを落ち着いた口調で語った。
40歳で社長に就任 未来を見据えた企業理念「BUILD」を打ち出す
吉﨑社長は2021年6月、40歳で父親から事業を継承。社長就任後、歴代の経営者の方針を受け継いだ上で未来を見据えた企業理念「BUILD」を策定した。「平成建設は、つくることの先に価値を置いています。単に建物を建てるだけでなく、お客様の夢を実現することを大事にしていきたいと考えています」と吉﨑社長。「BUILD」のロゴマークは施主、平成建設、地域の人々が手を取り合う姿をイメージしてデザインしたという。本社ビルのワンフロア全体をリノベーションした上で地域に開放するのも、地域を大事にしたいという企業理念に沿った取り組みだ。
都会的な洗練されたデザインでリノベーション
5階のリノベーションにあたり、吉﨑社長は都会的な洗練されたデザインにすることを重視したという。奈良県産の木材をふんだんに使った170平方メートルの空間は知的で落ち着いた雰囲気。外光がさしこむ大きな窓からは、万葉集の歌にも詠まれた大和三山のひとつ、畝傍(うねび)山を眺めることができる。
教科書や教材を広げやすいグランドテーブルを2つ配置する一方、仕切りがある個別ブースや窓際の席も設けた。ICTの導入も重視し、オンライン学習に対応できるように無線LAN環境を整えている。本棚には図鑑、建築の専門書、デザインの専門書、雑誌がズラリと並ぶ。「勉強の合間に自由に読んでもらっています。建築のことにも興味を持ってもらえたらうれしいですね」と吉﨑社長は柔らかく微笑んだ。
地域で子どもを見守り、育みたい
BUILD COMMUNEは平日と隔週土曜日の午後5時まで利用できる。活用してもらうにあたり、小中学生本人と保護者に活用する際のルールを説明した上で、会員登録してもらっている。利用者にとって安心かつ安全な場として運営するために、利用者が入室する際は平成建設の従業員が必ず確認するようにしている。学校、家庭以外の第三の場所として機能できるように橿原市教育委員会との連携も進め、オープン後約4ヶ月で近隣の中学校1校と小学校2校から20人が登録した。
「学年の枠を超えた子どもたち同士のつながりを生むことにつながればと思っています。子どもたちが人と人とのつながりを通じて、生まれ育った郷土を大事に思う気持ちを育んでくれたらうれしいですね。地域全体で子どもを見守り、育んでいくコミュニティの場として活用していただくことも考えています」と吉﨑社長は話した。
次世代の人材確保と育成に力を入れる
1930年に創業した平成建設は、平成元年(1989年)を機に創業家の名字を冠した薮内組から現在の社名に変更した。土木から建設まで幅広く取り組んできたが、近年は建築工事の施工管理を主力事業にしている。地元の設計会社、施工会社とも強いネットワークを持つ。公共工事をはじめ、オフィス、病院、保育園、工場など請け負う工事は幅広い。歴代の経営者が信頼関係を築いた古くから取引のある企業から仕事を依頼されるケースが多いという。「代替わりしても変わらぬ取引を続けていただいているのは本当にありがたいと思っています。この信頼にしっかりと応えていきたい」と吉﨑社長は表情を引き締めた。
吉﨑社長が就任した当初から力を入れているのが、次世代の人材確保と育成だ。5階と同時期にオフィスフロアの2階でもリノベーションを行い、2023年10月に工事を完了した。新しい建設業界の姿を20代から30代の若者に実感してもらおうと近代的でスタイリッシュなデザインにすることを意識したという。
オフィスもリノベーションしてフリーアドレスに 落ち着いた和モダンな雰囲気
以前は固定席で従業員は決まった席で仕事をしていたが、リノベーションを機に状況に応じて好きな席を利用できるフリーアドレスに変更し、コミュニケーションしやすいレイアウトにした。共用スペースは図面を広げて打ち合わせをしやすいようにデザインした。オフィスの中央には大和三山をイメージした染色を施した暖簾(のれん)をかけて落ち着いた和モダンの雰囲気を作っている。
仕事を通じて技術力だけでなく人間力を養ってほしいと考え、従業員が目標を持って仕事に取り組む環境を整える
平成建設は、年齢に応じた従業員の育成方針を策定した上で公表している。「キャリアアップの具体的なイメージを持つことで、先を見据えながら仕事に取り組んでほしいと考えています。スキルアップを促す評価制度を通じて、従業員が目標を持って頑張りやすい環境を整えています。若い世代に建設の仕事の魅力を伝えていけるようにしたい」と吉﨑社長。
施工管理の担当者は、施主や設計会社、協力会社などの多くの人とコミュニケーションを取らなければならない。現場での臨機応変な対応力も求められる。吉﨑社長は仕事を通じて技術力だけでなく人間力も養ってほしいと考えている。若い人材の育成には時間がかかるが、OJT(オン・ザ・ジョブ)トレーニングや建設、建築分野の資格取得の支援を通じて長期的な視野で取り組みたいという。
地域に役立つ人材を育てることは企業存続の条件 若手の成長に会社の命運がかかっている
平成建設の従業員は20人。2024年4月に女性1人を含む3人の新卒者が入社することで若返りが進む。「従業員数を増やすことで一人当たりの負担を減らし、働きやすい環境を作っていきたい。若手の成長にこれからの会社の命運がかかっているといっても過言ではありません。若い人材の採用と育成に常に前向きでありたい。地域の役に立つからこそ企業は存続していくことができます。地域に役立つ人材を育てていくことも企業としての重要な役割と考えています」と吉﨑社長は抱負を語った。
勤怠管理システム、電子小黒板など働きやすい環境整備にICTを活用
若手の採用、育成と合わせて進めているのがデジタル機器の活用だ。2020年からクラウド型の勤怠管理システムを導入している。導入以前の勤怠管理はアナログ式で、従業員は紙の出勤簿に出勤時間と退勤時間を手書きしていた。そのため、現場に向かう前と作業終了後に本社に足を運ぶ必要があった。現在は支給されたスマートフォンから出勤時間と退勤時間を入力すれば済むようになったので、自宅と現場との直行直帰が可能になり、移動時間の大幅な削減につながっている。
現場の進捗状況を記録する工事写真の撮影でも、詳細を書き込む木製黒板をデジタル化した「電子小黒板」のシステムを2019年から導入している。以前は黒板に工事名や工事の種類を書き込んで作業箇所の近くに配置して撮影していたが、準備に時間がかかるだけでなく黒板が設置しにくい場所ではほかの人に持ってもらわなければならないなど手間がかかっていた。システム導入後は、端末にインストールしたアプリを利用すれば作業箇所に仮想の黒板が合成され、撮影するだけで作業が完了するので現場の負担は大幅に減ったという。
若手従業員の増加に合わせてDXを加速する
「ICTやデジタル機器は使いこなせなければ意味がないので、現場からの要望に基づいたものを現場がしっかりと理解した上で導入するようにしています。今後、人間でなければできない現場の仕事に集中しやすい環境を整える上で、ICTやデジタル機器の更なる活用は避けられません。デジタル機器の扱いに慣れた若手従業員数の増加に合わせてDXを加速していきたい」と吉﨑社長は話す。
2020年にリニューアルしたホームページでは、会社の理念や施工事例を紹介するとともに採用のためのページも設けている。地域の人に親しみを感じてもらえるよう従業員のコメントも顔写真付きで掲載している。「BUILD COMMUNE」を紹介する専用ページの制作も進めている。
BUILD COMMUNE特設サイト
https://kk-heisei.co.jp/build_commune/
3D撮影を活用したオンライン内覧もご利用いただけます。
デジタル技術と現場主義で相乗効果を発揮する
ICTやデジタル機器の導入を進める一方で、現場主義を大事にしている。「新しい技術で効率的に仕事をこなせるようになったことで生まれた時間を、お客様や協力会社の皆さんとのコミュニケーションに使っていきたいと考えています。現場の仕事に最初から最後まで携わらなければ、施工管理に必要な工事の全体像を把握する能力を養うことはできません。やりがいと醍醐味は、能力と自信を持った上でしっかりとした仕事をすることから生まれます。現場主義はこれからもしっかりと貫いていきたい」と吉﨑社長は力強く語った。
現場主義とDXを組み合わせることで、大きな相乗効果の創出が期待できる。大きな変化の時を迎えている建設業界。その中で、平成建設は地域と共に歩んで新しいモデルを示しながら敢然と道を切り開いていくに違いない。
企業概要
会社名 | 株式会社平成建設 |
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本社 | 奈良県橿原市曽我町352-4 |
HP | https://kk-heisei.co.jp |
電話 | 0744-22-3800 |
設立 | 1964年(創業1930年6月) |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 建築工事、土木工事、注文住宅、リノベーション |