亡くなった人(被相続人)が残した遺言に相続財産の分け方が指定してあった場合は、原則としてその通りに従う必要があります。
ですが、遺言が存在しない、あるいは遺言が無効な場合は、相続人全員で相談して遺産の分け方を決めることができます。
これを一般的に遺産分割協議といいます。
こちらでは、遺産分割協議を行うために知っておきたいことについてまとめています。
遺産分割協議を始める前に知っておきたいこと
遺産分割協議を始める前に絶対に押さえておきたいのが、「相続人全員で行わなければいけない」という点です。
必ずしも全員が一堂に会した場で進めなければいけないわけではありませんが、最終的な協議内容に対する相続人全員の合意が必要です。
もし、相続人のうちたった一人でもこの協議に参加していない相続人がいる場合には、遺産分割協議は無効となってしまいます。
そのため、協議を始める前に、相続人をもれなく特定するという作業がとても重要になってきます。
相続人の特定方法ですが、被相続人の13歳ごろから亡くなるまでの戸籍除籍の謄本を基に調べていきます。
相続人が行方不明者や未成年者、認知症等で判断能力が劣っている者であったとしても、協議には参加する必要があります。
その場合にはそれぞれ「不在者財産管理人」「親権者または特別代理人」「成年後見人」といった代理人を立てて協議に参加します。
一方で、相続放棄を行った相続人は協議への参加者に含めません。
遺産分割協議の方法は4つ
ひとくちに遺産分割協議といっても、その内容によって4つにわかれていきます。
それぞれメリット、デメリットがあるため、詳しく見ていきましょう。
現物分割
現物分割とは、相続財産のうち、不動産は配偶者、銀行の預金は長男、株式は次男……というように、相続財産の形状や性質を変えないでそのまま各相続人に分配する方法です。
<メリット>
・そのまま分配できるので売却や資金の準備といった手間がかからない。
・何が誰の所有になるかが明確なので、分割の後に各相続人が処分しやすい。
<デメリット>
・相続財産の価値に差がある場合、相続人間で不公平になってしまうことがある。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人が法定相続分を超えた相続財産を受け継ぐ代わりに、受け継がなかった相続人に対して法定相続分(あるいは遺産分割協議で決めた割合)を超えた部分の価値を金銭で補う方法です。
例えば、唯一の相続財産である5,000万円の価値の自宅不動産を被相続人の妻が相続する代わりに、他の相続人である長男・次男に対して、妻が1,250万円ずつ代償金を支払うのが代償分割です(妻の法定相続分は1/2、長男・次男の法定相続分はそれぞれ1/4)。
<メリット>
・金銭で調整することで公平な分配が実現できる。
・相続財産が相続人の手元に形として残る。
<デメリット>
・相続財産の価値の評価方法についてトラブルになりがち。
・相続財産を受け継ぐ相続人に代償金を支払う資力が必要。
換価分割
換価分割とは、相続財産を売却して金銭に換えたうえで、その金銭を相続人に分配する方法です。
例えば、唯一の相続財産である5,000万円の価値の自宅不動産を売却し、5,000万円の金銭に換えた上で、妻が2,500万円、長男・次男がそれぞれ1,250万円を受け取る方法(妻の法定相続分は1/2、長男・次男の法定相続分はそれぞれ1/4)。
<メリット>
・金銭で調整することで公平な分配が実現できる。
・代償の金銭を支払う資力は必要ない。
<デメリット>
・換価するための売却先を見つけて、契約をするといった手間がかかる。
・換価までの過程が長いため、分割までに時間がかかる。
・手数料がかかったり、よい買い手がつかない場合には相続財産が減ってしまう。
・相続財産が手元に形として残らない。
共有分割
共有分割とは、相続財産を相続人全員が法定相続分(あるいは遺産分割協議で決めた割合)に従って共有する方法です。
<メリット>
・そのまま相続できるので売却や資金の準備といった手間がかからない。
・相続人の一部の独断で処分されることがない(代々継承していきたい財産である場合に有効)。
<デメリット>
・財産の使用価値が下がる可能性がある (不動産等) 。
・持分に応じた財産の使用を管理するのが困難なため、相続人間でトラブルになる可能性がある。
どうすればいい?相続人の中に行方不明者や未成年者、認知症の人がいる
前述のとおり、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないため、相続人の中に行方不明者や未成年者、認知症の人がいる場合には代理人を立てます。
代理人は誰がなるべきかを確認しておきましょう。
相続人が行方不明者の場合
相続人が行方不明者であっても、遺産分割協議には参加する必要があります。
このとき行方不明者の代理人として、不在者財産管理人を選任する必要があります。
選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得たうえで遺産分割協議に参加します。
相続人が未成年者の場合
未成年者が遺産分割協議に参加する際には、親権者や未成年者後見人が代理人となります。
しかし、相続においては未成年者も親権者もどちらも相続人であることが起こりえます。
その場合は未成年者と親権者は利害関係となるにもかかわらず同一人物であるという状況になってしまいます。
この状況では未成年者の立場が不利になりかねないため、親権者の代わりに特別代理人を選任します。
相続人が判断能力欠格者の場合
相続人の中に認知症であったり通常の判断能力を持たない者がいる場合には、その者の代理人として成年後見人を選任します。
ちなみに、成年後見人は遺産分割協議のためだけに選任されるのではなく、広く本人の財産管理や身上監護を行う立場の代理人となります。
未成年者と同様、この成年後見人が相続人のひとりである場合には利害関係が対立するため、後見監督人という立場の者がいる場合には後見監督人が遺産分割協議に参加します。
後見監督人は必ずしも選任されているわけではないため、もし選任されていない場合には、遺産分割協議のための特別代理人を別途選任する必要があります。
相続税対策も考慮しておこう
相続人の希望や状況に応じて遺産を分割していくことになりますが、ここで忘れずに考慮しておきたいのが相続税対策です。
「誰にいくらまで相続させれば控除の範囲内に収まるか」、「さらに先を見据えてその後に発生する相続の相続税まで考えると、誰がどのくらい相続するのが一番納税額を抑えられるのか」等、個々の状況によって相続税の対策は大きく異なります。
各相続人の希望と相続税対策との最適なバランスを目指すのであれば、税理士への相談は欠かせないでしょう。
まとめ
遺産分割協議は利害関係の対立する相続人が全員で行う必要があるため、事前の調整がとても重要になります。
協議後にトラブルになることがないよう、相続人の状況や財産の特性等を見極めながら進めていきましょう。
一度トラブルになると長くこじれてしまうのが遺産分割協議です。
調整が困難な場合は、一度専門家に相談をして調整をすることをおすすめします。
(提供:相続サポートセンター)