人が亡くなって相続が発生すると、いろいろなものの名義変更手続をしなければなりません。
その度に戸籍等の束を持って行って各窓口でチェックしてもらい、名義等を変えていくことになります。
その労力を軽減するために生まれたのが、法定相続情報証明制度です。
非常に長い名前ですが、これはどのようなものなのでしょうか?
この記事では、その制度の概要と利用の仕方、注意点等について解説していきます。
法定相続情報証明制度とは
従来、相続の手続が発生すると被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍類の束を集めて、各窓口に持って行く必要がありました。
同じ書類で同じ内容であるのに、各窓口で逐一チェックを受けて手続を済ませる、そういう流れであったのです。
この書類を集める作業とチェックをする作業は膨大な時間を要し、中には戸籍等の書類に3ヵ月以内などの期限もあるところもありましたので、その手続中に期限が来てしまい、また取り直すということも度々でした。
そこで生まれたのが、法定相続情報証明制度です。
2017年5月29日からこの制度はスタートしました。
この書類があれば戸籍等の束の持参を省略でき、金融機関等で相続手続ができるようになったのです。
ただ中には、この制度を受け付けていない金融機関もありますので、手続をする前にこの書類を利用できるのかを金融機関の窓口で確認して下さい。
具体的には法務局に行き、法定相続情報省証明の一覧図という書類と被相続人の出生から死亡までの戸籍類、相続人の戸籍等を添付して申請します。
そうすると法務局はその書類が適式か、書類に不備や間違いはないかを審査して支障がなければ、法務局の認証文のついた一覧図という書類が交付されます。
これが法定相続情報証明です。
手続の具体的な中身について見てみよう
次に、法定相続情報証明の具体的な手続について見ていきます。
これは、法務局に申請して、作成した一覧図という名の相続関係図に認証分をもらう手続になります。
①管轄について
まず、この一覧図はどこの法務局でも申請できるものではありません。
一覧図を申請できる法務局は管轄という形で決められています。
具体的には、(社内メモ:背景色を変えるなどして目立つようにお願いいたします。)
A.被相続人の本籍地
B.被相続人の最後の住所地
C.申出人の住所地
D.被相続人名義の不動産の所在地
です。
例えば被相続人の最後の住所地が大阪、本籍地が東京、被相続人が所有していた不動産が神奈川にあれば、いずれの法務局でも申請ができるということになります。
なお、申出人とは相続人等のことです。
もし、今の例で申出人の住所地が京都にあれば、京都も管轄になるということです。
②申出人とは
①で申出人について少し記載しましたが、具体的には以下の方になります。
(社内メモ:背景色を変えるなどして目立つようにお願いいたします。)
A.被相続人の相続人
B.資格者代理人
・弁護士
・司法書士
・土地家屋調査士
・税理士
・社会保険労務士
・弁理士
・海事代理士
・行政書士
C.委任を受けた親族
③申出に必要な費用
無料
④必要な書類
・申出書
・法定相続情報一覧図
・相続関係を証する戸籍関係の書類一式
・被相続人の住民票の除票
・申出人の本人確認書類
・郵送で申請する場合は返信用封筒
この中で、「相続関係を証する戸籍関係の書類一式」は先ほども記載しましたが、被相続人の出生から死亡までの戸籍です。
具体的には戸籍や除籍、原戸籍といったものがその対象になります。
また「被相続人の住民票の除票」とは被相続人の最後の住民登録があった自治体で取得します。
住所と本籍地、死亡の記載のある住民票のことを言います。
ここには、相続人の住民票の記載はありません。
一覧図には相続人の住所は必ず記載しなければいけないものではないのですが、金融機関の相続手続等を行う際には相続人の住所は必須となります。
ですので、相続人の住民票(本籍地記載)も添付し、一覧図には相続人の住所も記載しておいた方が後々の手続がスムーズに進むでしょう。
引用元:法務局ホームページ「申出書の記入例」 http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001229280.pdf
また、法務局ホームページに法定相続情報一覧図の記載例が載っていますので、参考にしてください。
参考:法務局ホームページ「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」 http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html
⑤審査期間
法務局に申請して完了するまでの期間ですが、これは管轄の法務局がどれ位忙しいかによって変わってきます。
概ね1週間~10日、場合によっては2週間程度見ておいたほうがいいでしょう。
なお、法務局に申請して、もし不備があると申請者に連絡が入ります。
この不備がない場合の必要な審査期間ですので、不備があったりした場合はさらに数日の期間を要します。
一覧図の注意点①
一覧図はあくまで1代についての図となります。
たとえば、おじいちゃんが亡くなり、ひ孫が相続したような場合は、代襲相続等の場合を除いて一枚の一覧図では作成できません。
このような場合は、2枚に分けて一覧図を作成することになります。
また、法務局から指摘を受けた場合は、そこを手書きで修正するなどして対応することになります。
極力きれいな書類を仕上げたいという方はワード等で作成して、もし指摘を受けたらその部分を修正して新しい図と差し替えるなども一つの方法でしょう。
一覧図の注意点②
このように預貯金の相続手続等で便利な一覧図ですが、この一覧図を作成できない場合があります。
例えば、被相続人や相続人が日本国籍を有しない場合は、法律により国籍を有する国の相続法が適用されるので、この一覧図は作成できません。
また、一覧図はあくまで戸籍に記載されている事項を図にしたに止まるものですので、相続放棄や遺産分割等の事項は反映されません。
もし、そのような事情が合った場合は、一覧図に加えて金融機関等に相続放棄申述受理証明書や遺産分割協議書等の他の書類を用意することになります。
一覧図は誰が請求できるのか?
法務局で取得できる登記事項証明書や公図、地積測量図等は一般に公開されているので誰でも取得することができます。
ただ、この一覧図は個人のプライバシーと直結する事項が記載されていますので、一定の者しか請求できません。
それではどのような人がその対象となるのでしょうか?
これは、再交付と関連した問題です。
再交付とはこの一覧図を2回目以降請求して受領することを言いますが、この再交付ができるのは一覧図の作成を申し出た申出人に限られ、他の方はその交付を受けられません。
もし再交付を希望するのであれば、申出人から委任状をもらって対応することになります。
たとえば、被相続人Aが死亡し、法定相続人はB・Cとします。
そして一覧図の作成を申し出たのがBとすると、申出人はBのみでCはBからの委任状がなければ再交付を受けられないのです。
同じ相続人という立場であるから自分も再交付できるようにしたいのであれば、一覧図の共同申出人という形で対応するのが望ましい方法でしょう。
なお、この一覧図の法務局での保管には期限があります。
申出の翌年から起算して5年の範囲内です。
もしこの期限を過ぎて、再交付を希望する場合は再度一覧図の申出をしなければなりません。
おわりに
戸籍を集めるだけでも大変なところ、今までは別々に審査を要していたのであっという間に書類の有効期限を経過してしまう、そのため同じ書類を何通も取らなければならないということがよくありました。
ですが、この制度があることで相続の手続をスムーズに進めることができるようになりました。
実際、金融機関の中でもこの一覧図を推奨しているところが多くなってきています。
煩わしい手続を短期間で終わらせるためにも、この制度を利用することが得策かと思われます。
(提供:相続サポートセンター)