製造業クロスボーダーM&Aの狙い
ここからは、製造業クロスボーダーM&Aで狙うべき戦略について、3つのパターンに分けて深堀りしていきましょう。
① 既に海外に進出済みの場合
生産地の見直しとして、チャイナプラスワンの観点でASEAN諸国は、進出先・移転先候補として根強いニーズがあります。 既存海外拠点に地の利がある場所で、新たな拠点を設ける事で、生産能力・設備稼働・人材の融通や、仕入れの共通化によるコスト削減等様々なメリットがあります。 製造バリューチェーンにおいて部品加工の会社であれば組立も取り組む等、川上川下での対応力向上も視野に入れる事も、海外戦略としては重要です。
② 海外にこれから進出する場合
新たに海外に土地を確保し工場を建設するような自前での進出は、現地市場調査・見込み客獲得から始まり、工場建設・設備導入・現地人材確保・現地製造ライセンス獲得等、工場立ち上げまでに多くの時間、費用、労力を要することになります。 クロスボーダーM&Aの活用によって、既に現地で生産を行い、ローカル企業や日系企業と取引がある企業を取り込む事で、立ち上げプロセスを省けるだけでなく、売上のトップライン・海外売上比率を一気に上げられる事になり、海外戦略における即効性は甚大です。
③ 新規で海外における製造機能を獲得する場合
例えば製造業向け等の専門商社として現地ビジネス拡大を考える際は、現地の製造業を譲受しメーカー機能を獲得することで、Buy-Process-Sellの付加価値ビジネスを展開する事が可能になります。とはいえ、餅は餅屋で、生産ノウハウ等に懸念がありメーカーの検討は難しいとなる場合もあります。 そのような場合でも、同業である卸系の会社でも、フィールドエンジニアを抱えている会社を取り込む事で設備のアフターサービスを提供できたり、自動化推進が出来るエンジニアリング会社の取り込みで顧客の痒い所に手が届く工場内の困りごと解決の提案できたり、現地での付加価値創造の幅が広がります。
直近の製造業クロスボーダーM&Aのトレンド
日本M&Aセンターがご支援させて頂いている製造業のクロスボーダーM&Aでは、資本提携により複数の相乗効果を実現されている例が多くあります。
現地の製造拠点獲得・ローカル販路獲得だけでなく、事業領域の拡大や展開を狙っていた分野への新規進出など、クロスボーダーM&Aを通じてチャレンジングな課題を同時に解決されています。 また直近では、企業における脱炭素化が重要視されてきている事もあり、SGDsに即した工場運営に力を入れている会社やカーボンクレジット事業に注力している会社の買収検討ニーズも高まってきております。
政策から読み取るASEAN主要国での事業拡大のヒント
日本M&Aセンターが拠点を構えるASEAN主要各国での政策にも、製造業としてASEANでの事業拡大のポイントが詰まっています。今回は、その一部を紹介します。
タイランド4.0(Thailand 4.0)
タイでは、2016年にタイランド4.0(Thailand 4.0)政策を宣言し、ハイテク産業やサービスに投資を促しています。次世代自動車、スマート・エレクトロニクス、医療・健康ツーリズム、農業・バイオテクノロジー、未来食品、ロボット産業、航空・ロジスティック、バイオ燃料・バイオ化学、デジタル産業、医療ハブとなる産業が投資対象です。たとえば、タイのバイオプラスチックレジンの輸出量は2018年の新工場操業にともない2019年に世界第3位まで急成長を遂げる※2等、国をあげた製造業への注力度合が垣間見られます。 ※2 BIOPLASTICS(Thailand Board of Investment)
マレーシアのインダストリー4.0(Industry4WRD)
マレーシア政府は、2018年にインダストリー4.0に関する国家政策「Industry4WRD」を発表し、マレーシア地場中小企業の生産性向上及びスマートマニュファクチャリング化(デジタルを包括的に活用した製造)を目指す方針を示しています。 マレーシアは、東南アジアで唯一国産自動車ブランドを有しており、その代表格であるプロトンは、2023年にタイにEV工場建設の検討している旨を発表しています。 日系進出も多いエレクトロニクスや自動車分野だけでなく、航空機産業の育成を国家戦略として位置付けており、欧米大手航空機メーカーも部品の製造拠点として進出しています。マレーシアは国としても会計・財務の透明性も高く、M&A難易度は比較的低いと言われている事もあり、進出先として非常に魅力的な国と言えます。