人が亡くなり相続が発生すると、やるべきことはいろいろあります。
預貯金等の解約、引落口座の変更、株式等の名義変更、保険金の請求、不動産の名義変更等、枚挙に暇がないでしょう。
これらは一定のルールに従って処理されていきます。
それが民法の定める相続人であったり、相続分であったりするのですが、実際は必ずしもその手順に則った形で処理されるとは限りません。
その代表格とも言えるのが遺言でしょう。
ここでは、遺言にはどのような効果があるのか、そして遺言はたいてい何処にあるのか検討していきます。
相続人と相続分
まず遺言の話を始める前に相続人の順位と法定相続分について概略を説明します。
<相続人の順位>
※配偶者は常に相続人
①子
子がいない場合
②直系尊属
子と直系尊属がいない場合
③兄弟姉妹
<相続分>
配偶者と子……1/2と1/2
配偶者と直系尊属……2/3と1/3
配偶者と兄弟姉妹……3/4と1/4
という形で民法は相続人と相続分を定めています。
この原則を変えていくのが遺言です。
遺言とは
それでは遺言について見ていきましょう。
遺言は被相続人の生前に自身の思いを反映させて財産の帰属等を定める書類です。
たとえば、不動産は長男に、A銀行の預金は妻に、B銀行の預金は次男にといった具合です。
その遺言でできる代表的な事項について以下に列挙します。
①遺贈
相続人、または相続人でない人に財産を渡すことです。
遺言の代表格とも言えます。
②遺言執行者の指定・指定の委託
遺言で決めていてもその事務を取り仕切る人がいなければ実現は難しいでしょう。
その役目を担うのが遺言執行者です。
遺言を書く際は必ず誰を執行者にするのか記載するようにしましょう。
③相続分の指定・指定の委託
法定相続分は②で説明したとおりですが、これを遺言で修正することができます。
第三者に委託することも出来ますが、事の性質上、よほどの信頼関係がないと委託は難しいでしょう。
④遺産分割方法の指定・指定の委託
遺産分割のやり方を決めることもできます。
これも第三者に委託できます。
⑤認知
婚姻外で生まれた子の父であることを認めることですが、遺言でもできます。
⑥廃除、廃除の取消
廃除は、遺留分を有する相続人の相続権を失わせる制度です。
遺言で廃除することができますが、逆に取り消すこともできます。
廃除の手続は遺言執行者がないとできません。
⑦祭祀財産の承継者の指定
祭祀財産とは墓地や仏壇等のことを言いますが、これを管理する者も遺言で指定することができます。
そして、この遺言には大きく3つの種類があります。
以下では、その3つについて紹介していきます。
①遺言の種類
・自筆証書遺言
文字どおり自分で書いた遺言です。
従来は最初から最後まで自分で書かなければなりませんでしたが、相続法の改正に伴い、遺産目録の箇所はワープロ打ちも認められるようになりました(ただし、ページ毎に署名押印が必要です)。
・公正証書遺言
公証人が関与して作成する遺言書です。
証人2人の立会の下で遺言の趣旨を公証人に伝え、公証人がその内容を文書化したものに遺言者や証人、公証人が署名押印等を行うものです。
・秘密証書遺言
遺言者が書いた遺言に封をして公証人や証人2人の前で署名や押印を行う遺言です。
条件が厳しく、先の2つに比べてあまり利用されていません。
②遺言の効力
では、遺言にはどのような効力があるのでしょうか?遺言の持つ効果で最も大きいものは法定相続分を修正できる点です。
先ほど、法定相続人と相続分について述べましたが、遺言がないとこの形で権利が発生し、遺産分割をしなければ上記のような形で相続することになります。
ところが、遺言があるとその内容に沿った形で相続手続ができるのです。
遺産を譲り渡す相手方は必ずしも相続人である必要はありません。
被相続人の意思が直接反映するので、その効果は大きいでしょう。
これに対して、遺産分割は相続人全員での話し合いで、相続人の中で遺産の帰属先を決めますから、第三者が譲り受けることはできません。
また、手続面においても、遺言がある場合は遺言者の死亡を証する戸籍謄本と受遺者の戸籍謄本等で済みますが、遺言がない場合は原則として被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本等、用意しなければいけない書類が大きく変わってきます。
③遺言はどこにあるのか?
遺言の種類や効力について、これまで見てきました。
では、遺言があるかもしれないと思ったときには、どこを探せばいいのでしょうか?
この点、公正証書遺言であれば、たとえ被相続人の自宅等に遺言書が見あたらなくても公証人役場でその謄本が保管されていますので、公証人役場にて取り寄せすることが可能です。
<遺言検索の方法>
手続を行える人 | 相続人・相続人の代理人 |
手続の場所 | 公証人役場(どこの公証人役場でも可能) |
必要書類 | ①遺言者の死亡、手続者が相続人であることを確認できる書類 (遺言者死亡の記載のある戸籍、相続人であることを証明できる戸籍謄本等) ②本人確認書類 ③代理人の場合は委任状 |
費用 | 検索は無料 |
次に自筆証書遺言の場合ですが、これは被相続人が遺言を書いたと言うのであれば所在場所を聞いておくべきでしょう。
それが難しいような場合は、ありそうな所を一つずつ探していかなければなりません。
例えば貸金庫。
この中には貴重品を入れるのが通常ですから、もし被相続人が銀行の貸金庫を利用していたような場合は、中を確認する必要があります。
ただ被相続人の死亡後に貸金庫を開ける場合、大抵の金融機関は相続人全員の立会いを求めたりします。
開ける際には大仕事になりますので、ご留意下さい。
その他としては、仏壇や被相続人のよく利用していたタンスの引き出し等が挙げられます。
④相続法の改正に合わせて
2019年から2020年にかけて段階的に相続法制が変わっていきます。
先ほど自筆証書遺言では遺産目録の部分はワープロ打ち等が認められるようになったと紹介しましたが、2020年7月からは自筆証書遺言の保管制度が始まります。
具体的には被相続人が自身で書いた自筆証書遺言を法務局で保管してくれる制度が始まるのです。
この保管制度を利用した遺言の場合、家庭裁判所で手続きしなければならない検認が不要になるのも大きなメリットといえます。
それでは、検認とはどのような制度なのでしょうか?検認は自筆証書遺言の場合に必要となる手続ですが、被相続人の死後に戸籍謄本等を集めて家庭裁判所に検認の申し立てをします。
この手続をしないとその遺言の執行ができないのです。
検認期日の前に相続人全員に通知が出され、相続人や代理人の立ち会いの下、遺言の検認が行われます。
そして、検認調書が遺言書と合綴されて返却されます。
なお、この検認はあくまで形式的な手続であって、この手続をしたからといって遺言が確定的に有効になるわけではありません。
後で裁判が起こされて遺言が無効になることもありますので、注意が必要です。
法務局で保管されていない自筆証書遺言はこの検認手続が必要となりますが、2020年7月10日以降はこの検認が不要な、法務局での遺言書保管制度を利用した遺言が増加するかもしれません。
おわりに
この記事では、遺言書の法的効力や遺言の見つかりそうな場所について紹介しました。
また、2019年~2020年は相続法の改正がなされ、端境期ともいえる地点です。
遺言の効力は改正前後を通して大きく変わっていませんが、保管や作成方法等については変化が起きています。
遺言を利用する際は、そのポイントを押さえましょう。
(提供:相続サポートセンター)