LIXILは、1月16日に、窓断熱改修による医療費削減の検証結果を解説するプレスセミナーを開催した。今年度も引き続き既存住宅の窓の断熱改修を支援する政府補助金「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業)」の実施が予定されているなど、環境・経済・健康各方面に影響を及ぼす「窓断熱市場」はさらなる高い注目を集めている。窓をはじめとした開口部の断熱性能を高め住宅の高性能化を推進することは、CO2排出量や光熱費削減につながるほか、ヒートショックなど循環器疾患(脳梗塞・くも膜下出血・心筋症等)発症リスクの低減、アレルギー症状の緩和など健康面にも影響を及ぼす。しかしながら国内にある既存住宅約5000万戸のうち、現行の省エネ基準を満たしている住宅はわずか13%。残り約90%の住まいは、夏は暑く、冬は寒い、断熱性能の乏しいままとなっている(国土交通省「社会資本整備審議会建築分科会資料」(2021)から)。そんな中、断熱性能を高めるリフォーム窓の受注は、昨年から約3倍(LIXIL取替窓「リプラス」内窓「インプラス」の合計受注数、昨年度との比率から)と政府の補助金の後押しもあり、節約、健康、SDGsなど様々な理由から“窓”の断熱性能を見直す人が増加しているという。同セミナーでは、近畿大学生物理工学部 准教授の藤田浩司先生が登壇し、住宅の断熱性能と健康リスク、さらには窓断熱改修によって期待できる医療費削減について解説した。
「疾患ごとに月ごとの死亡率を見てみると、『がん』以外の疾患は冬場での死亡リスクが高まる」と、寒さのピークを迎える1月の死亡率が「がん」以外で高い比率を占めているのだという。「冬場の死亡リスクとして、ヒートショックが挙げられるが、夜中にトイレへ行く場合、寝具内30℃の気温から、10℃の寝室を抜けて8℃の廊下、トイレへと向かうことになる。冬場は体温を下げないように血管を縮めて血流が抑えられるのだが、これによって血圧が上がり、心臓への負担が高まってしまう」と、冬場のヒートショックのメカニズムについて解説。「入浴中の死亡事故は交通事故者数を上回る」とのこと。「冬は、湯船の温度を高くする傾向がある。これによって熱中症を引き起こしてしまうケースがある」と、夏場だけでなく冬場においても熱中症の危険に晒されているのだと指摘する。「屋内における寒暖差を無くすことで、ヒートショックや入浴中の熱中症を防ぐことができる」と、室温を高く保つことが死亡リスク低減につながるのだと力説する。
「心疾患や脳血管疾患などは、ちゃんと断熱された住居に転居すると、疾患に改善がみられた」と、断熱が施された住居は死亡リスクの低減につながるのだと説明する。「WHOでは、屋内住宅の温度は、居住者を寒さによる健康への悪影響から守るため十分に高くなければならないとしている。温暖な気候または寒冷な気候の国では、寒い季節に一般住民の健康を守るために、安全でバランスのとれた室内温度として18℃が提案されている」と発表。「日本の家屋の約30%は無断熱等となっており、高断熱な家屋はわずか13%になっている」と、日本は断熱が不十分な家屋が多いのだと警鐘を鳴らす。「冬の暖房時には開口部から熱が逃げていくだけに、窓の断熱を高めることが重要になる」と、窓を二重サッシやペアガラスにすることで、家屋の断熱を高められるのだと述べていた。
「そこで、LIXILと共同で窓断熱改修による医療費削減額と暖冷房費削減額への効果を検証することを目的とし、調査・研究を実施した」と、内窓設置による温熱環境の変化を推定。温熱環境の変化による医療費削減額を推定したという。「まず、約2万4000人を対象とした転居前後の健康変化に関する調査結果を用い、住宅内温度が一要因になる10疾患(心疾患・脳血管疾患・高血圧・糖尿病・気管支喘息・アトピー性皮膚炎・肺炎・関節炎・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎)について、住宅内温度と医療費の関係をグラフ化し、住宅内温度から医療費を推定する式を作成した」とのこと。「住宅内温度には、住宅内の温度差が一要因となる心疾患と脳血管疾患においては非暖房室の浴室やトイレなどの住宅内最低温度、その他の8疾患においては居間や寝室などの滞在室の平均温度を用いて、医療費の期待値を推定した。期待値とは、確率変数がとる値を、確率によって重みづけした平均値。ある人が医療費10万円の病気Aにかかる確率が1/10、医療費1万円の病気Bにかかる確率が3/10の場合、病気AとBの医療費の期待値は、『(10万円×1/10)+(1万円×3/10)=1.3万円』で1.3万円となる。よって、今回算出した医療費の期待値は、必ず推定した医療費が発生する訳でなく、確率と重みづけが考慮された値となっている」と解説した。
「10疾患の推定式を用い、窓を断熱改修した際の住宅内温度シミュレーション結果から、医療費と暖冷房費を算出した。また、医療費は年齢ごとに異なるため、一例として50歳夫婦と18歳と15歳の子どもが居住している家族を想定し、窓改修前後における20年間、30年間の医療費・暖冷房費と削減額を算出した。その結果、窓改修の暖冷房費削減効果は約73万円/世帯・30年、医療費削減効果は約25万円/世帯・30年となり、合計98万円/世帯・30年の経済的効果となった。これまで、窓改修の経済的効果を暖冷房費だけで謳ってきたが、医療費(期待値)を含めることで、約1.34倍の経済的効果が見込まれる結果となった」と、暖冷房費だけでなく医療費の効果も得られることが示唆された。
次に、藤田先生とLIXIL LHT技術研究所 主任研究員 博士(工学)の吉田吏志氏によるパネルディスカッションが行われた。まず今回、医療費を研究対象にしたことについて藤田先生は、「家屋の断熱性の向上は重要であるといわれていたが、リフォームによる予算や工期の面などを理由になかなか進んでいなかった。しかし、断熱を高めることで家屋に暮らす人々の健康につながり、ひいては医療費削減にもなることが立証されれば、日本の住まいの断熱化が進むと考えた」と説明する。
吉田氏は、「窓の断熱化を図るために当社では、内窓『インプラス』と取替窓『リプラス』を展開している」とのこと。快適さの秘密は『空気層』。インプラスを取り付けることで、今ある家との間に空気層が生まれ、これが壁の役割となって、断熱効果や防音効果を生み出す。また、インプラスは樹脂製内窓。樹脂の熱伝導率はアルミに比べて約1/1000となる。外気の温度に左右されにくく、断熱効果、防露効果を発揮する。工事は最短1時間で完了(現場の状況によって施工に必要な時間は異なる)。今使っている窓枠を利用して取り付けるため、壁や柱を傷つける心配もない」と紹介した。
「一方、『リプラス』は、古い窓を新しい窓に取り替えて見た目も機能もリフレッシュできる。たとえば、ガタガタしていた窓の開閉もスムーズになる。高断熱窓に取り替えることで、外の寒さ・暑さの侵入を抑えて部屋の快適さもアップする。さらに、リプラスなら窓のタイプの変更もOK。大掛かりな工事が必要ないので、約半日~1日で窓リフォームが完了(現場の状況によって施工に必要な時間は異なる)。メーカー・シリーズを問わず取り替え可能となっている」と、同社が展開する窓断熱改修に関する商品情報について教えてくれた。
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