社会保険とは、疾病、高齢化、失業、労働災害、介護などに備えて、従業員と雇い主が共同で掛金を拠出し、保険によるカバーを受ける仕組みだ。会社には社会保険に加入する義務があるが、自分の会社はどうだろうか。意外と知らない社会保険の加入義務について見ていこう。
社会保険とは?
「社会保険とは何か?」と聞かれて、すぐに説明できる人は少ないかもしれない。それは、社会保険が複数の保険の総称だからだろう。日本では原則的に社会保険に加入していない人はおらず、会社員の場合は以下の保険に加入している。
表1:筆者作成
労災保険 | アルバイト、パートを含め労働者全員 |
---|---|
雇用保険 | 週20時間以上勤務する労働者 |
健康保険 | 常用勤務する労働者 |
介護保険 | 40歳以上で健康保険に加入している労働者 |
厚生年金保険 | 常用勤務する労働者 |
(国民年金保険) | 厚生年金に加入している労働者は国民年金の被保険者でもある |
上記の6つの保険のうち、労災保険と雇用保険を「労働保険」、それ以外を「社会保険」と呼ぶこともある。また、労働保険を含めて「社会保険」と呼ぶ場合もあることを覚えておこう。
いずれも「保険」なので、保険料を納め、条件を満たすと給付を受けることができる。このように「社会保険」は複数あるが、それぞれ保険金が支払われる条件は異なる。
保険金の支払事由は、労災保険の場合は「疾病、負傷、障害、死亡」、雇用保険は「失業、雇用継続、教育訓練、育児休業、介護休業」、健康保険は「負傷、疾病、死亡、出産」、厚生年金(国民年金)は「老齢、障害、遺族」などだ。
保険料もそれぞれの保険によって計算方法が異なり、労働者と会社の負担割合も違う。労働保険料は会社の負担割合が多いが、健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料は、労働者と会社で折半している。
社会保険の加入義務のある会社とは?
社会保険は、原則として法人であれば加入義務がある。しかし、加入していない会社も少なくない。たとえば、家族で細々と事業を営んでいるような会社は、労災保険や雇用保険においては「労働者を雇っている」ことにならないため、適用事業所ではあるが保険料を納付する必要はない。
健康保険や厚生年金保険においては、家族が「会社に雇われている」ことになるため、家族が常勤していれば健康保険や厚生年金に加入させ、保険料を納めなければならない。
法人以外でも、法定16業種で労働者が5人以上いる事業所には加入義務がある。それ以外の事業所が加入できないわけではなく、労使が合意すれば加入できる。
法定16業種についても見直しが予定されているので、今後の改正に注目したい。被保険者の範囲についても、適用拡大は避けられないだろう。今後は、「社会保険料を負担したくないから保険には加入させない」とは言えなくなるはずだ。
社会保険の加入義務のある従業員
次に、社会保険(注*以後、社会保険とは健康保険と厚生年金を指す)の加入義務がある人の条件について説明しよう。
社会保険の加入義務がある人の条件は、平成28年と平成29年に改正されている。もともと、社会保険の加入義務のある人の労働時間は、週30時間以上が目安だった。それが、従業員数501人以上の大きな会社では、社会保険の対象となる人の範囲が拡大された。
給料が8万8,000円以上(年収106万円以上)のパート、アルバイトでも加入できるようになったのだ。さらに平成29年には、従業員数が501人未満の会社でも労使合意があれば加入できるようになった。
最近増えている外国人についても触れておこう。
「外資系だから保険は入らなくていい」
「外国人を雇い入れたが、本人が本国にいる家族に仕送りをしているので保険に入りたくないと言っている」
「当初3ヵ月は就業規則で試用期間としているので、様子を見てから加入するので今は入らない」
これらはすべて、「加入しない理由」として認められない。
役員の場合も注意が必要だ。社会保険では、「常勤」が加入条件となる。給料だけを見ると高給取りでも、いつ出勤しても構わないような条件の勤務であれば、「非常勤」なので加入する必要はない。ただし、「週○日」「月○日」などの条件は「常勤」と見なされるので、加入しなければならない。
では、複数の会社で働いている場合はどうなるのだろうか。役員の場合、いくつかの会社の役員を兼務しているケースは珍しくない。どちらの会社でも「常勤」の場合は、「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を10日以内に年金事務所に提出する必要がある。
それぞれの給料の見込み額を記載し、その合計額によって標準報酬月額が決まり、それぞれの会社が按分して社会保険料を負担する。「1つの会社で加入していれば、別の会社で保険に入る必要ない」と誤解している人が多いので、気をつけてほしい。
社会保険に未加入だと罰則がある?
社会保険が適用されるはずなのに、「パート・アルバイトばかり雇用しているので、手続きをしていない」という会社は少なくない。未適用事業所には、社会保険労務士などが訪問をして適用をすすめることもある。適用事業所には、およそ3年おきに年金事務所の調査が入る。その際、加入の手続きをしていない労働者がいないかどうかもチェックされる。
たとえ会社が「パート社員は社会保険に加入させない」と決めていて、本人にそう説明していたとしても効力はない。労働者が加入条件を満たしていれば、加入させる義務があるのだ。
調査で未加入を指摘され、その後も手続きをしない場合は、罰金などのペナルティーが科される。厚生労働省の資料「社会保険の加入状況にかかる実態調査の結果の概要」を見てみよう。
平成22年に加入指導によって適用事業所となったのは4,808件だが、平成28年には9万2,550件と19倍となっており、社会保険への加入指導が強化されていることがわかる。
未適用事業所が加入手続きをしていない理由として「手続きが面倒」「加入しても保険料の負担が困難」などがあるが、調査後に加入する場合は、2年分遡って保険料を納付しなければならない可能性がある。調査で指摘を受ける前に加入しておきたいところだ。加入する労働者の数や給料の額によっては、2年分の保険料の総額はかなり負担になるだろう。
社会保険の加入期間と申請手順
社会保険は、原則として勤務開始日から加入しなければならない。「試用期間は加入させない」という会社もあるようだが、「試用期間の終了後、正社員として採用した場合に加入させる」というのはルール違反だ。
会社を適用事業所にするための手続きと、労働者を社会保険に加入させるための手続きを見ていこう。
会社を社会保険の適用事業所とするには、5日以内に「新規適用届」を提出する必要がある。その際の添付書類は、以下のとおりだ。
なお、法人(商業)登記簿謄本及び住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)は、直近の状態を確認するため、90日以内に発行されたものでなければならない。
1.法人事業所の場合
法人(商業)登記簿謄本(コピー不可) ※1
2.事業主が国、地方公共団体又は法人である場合
法人番号指定通知書等のコピー ※2
3.強制適用となる個人事業所 ※3の場合
事業主の世帯全員の住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)※1
新規適用届を提出する際は、労働者を加入させるための「資格取得届」や、扶養家族がいる場合には「被扶養者異動届」を併せて提出する。これらの書類を作成するにあたっては、以下のような情報が必要だ。
労働者については、基本給だけではなく、家族手当や役職手当などの手当と交通費を含めた見込み給料の総額と、マイナンバーまたは基礎年金番号が必要となる。扶養家族がいる場合は、同居・別居の別や収入要件などを証明する書類も必要だ。
扶養家族の条件は、収入が年130万円未満であること(60歳以上もしくは障害者の場合は180万円見込)と、被保険者によって生計維持されていることだ。「所得税法上の扶養」と「社会保険法上の扶養」は範囲が異なる。わからない場合は、会社や年金事務所で確認しておこう。
社会保険の加入義務については会社立ち上げ前に確認を
社会保険に加入することは会社の義務だ。しかし従業員はすべて会社が手続きをしてくれるので、社会保険やその加入条件、給付についてあまりよく知らない人が多い。病気やケガをしてはじめて制度内容を調べる、といった具合だ。
2019年は「老後資金2,000万円問題」が取り沙汰された。経営者には社会保険の加入義務を知り、従業員が将来も安心して働けるような仕組みづくりをしていくことが求められている。
文・當舎緑(ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士)