亡くなった人(被相続人)が不動産を所有していた場合、不動産も相続財産となります。
このとき、不動産を相続人が受け継ぐにしても売却するにしても、不動産の名義を相続人に変更する必要があります。
名義変更は「所有権移転登記」の申請を不動産の所在地を管轄する法務局へ書類を提出することで行います。
不動産の名義変更(所有権移転登記)の手続は少し複雑ですが、ひとつずつ丁寧に確認すれば相続人が自分で申請することも可能です。
この記事では、不動産の名義変更(所有権移転登記)の申請について分かりやすくお伝えします。
まずは不動産の相続方法を決定する
不動産の名義変更(所有権移転登記)を行う前に、まず明確にしておきたいのが「どの不動産を、誰が、どのような方法によって、どのくらい相続するのか」です。
これらについて、被相続人が遺言を残している場合は、遺言の内容に従います。
遺言がない場合は、相続人の全員で遺産分割協議を行うか、法定相続分によって決めていきます。
相続方法とその内容によって、登記の申請時に必要な書類や申請書の記載内容が変わってきますので、最初にこの部分を明確に決めておきましょう。
相続発生時の不動産名義変更(所有権移転登記)の申請の流れ
相続による不動産の所有権移転登記と聞くと、手続が複雑そうに感じるかもしれません。
ひとつずつ丁寧に確認していけば難しくはありません。
まずは全体像を確認しておきましょう。
<相続による所有権移転登記申請の概要>
申請書類の提出先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
申請できる人 | 相続人等 |
提出書類 |
・所有権移転登記申請書(ひな型を法務局のウェブサイトからダウンロードすることもできます。自身で一から作成することも可能です。) ・被相続人の戸籍除籍の謄本 ・相続人の現在戸籍 ・新しく名義人となる相続人の住民票 ※その他書類の詳細については後述します。 |
登録免許税 | 不動産の課税価格の4%(収入印紙を登記申請書に貼付ける方法で納付) |
<相続による所有権移転登記申請の流れ>
(1)必要書類の収集・作成
(2)登記申請書の作成
(3)登記の申請
(4)登記識別情報の受領・登記内容の確認
ここからは、流れをひとつずつ確認していきましょう。
1)必要書類の収集・作成
まずは、登記申請に提出する必要書類の収集から始めます。
法務局は、これらの書類を基に、申請された登記の内容が正しいかを判断し、登記手続の完了後も根拠として保管します。
書類に不備があると登記手続をやり直さなければならないため、漏れがないように進めていきましょう。
必要書類について、各相続のパターン別にまとめました。
特に重要な書類に関しては、注意点も記載していますので、併せて確認してくださいね。
◼︎ <遺言による相続の場合>
①遺言書(原本)
公正証書遺言以外の場合には、検認手続が済んだ遺言書を添付します。
また、登記申請時には遺言書原本の提出が必要ですが、「原本還付手続」を行うことで原本を登記完了後に返却してもらうことができます。
「原本還付手続」とは、提出書類のコピーに「原本還付:この写しは原本と相違ない」という文言の記載と、登記を申請する人の記名押印を施し、提出書類の原本と一緒に提出することで行います。
特に遺言書は他の手続でも使用する重要な書類かつ後から再作成することはできないので、「原本還付手続」を忘れずに行いましょう。
②被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)の謄本
③被相続人の住民票(除票)の写し
④遺言によって不動産を相続する相続人の現在戸籍の謄本
⑤遺言によって不動産を相続する相続人の住民票の写し
⑥相続関係説明図
戸籍謄本を添付して登記申請をする場合は、「相続関係説明図」という書面を作成・提出することで、原本還付請求をすることができます。
戸籍謄本は他の手続でも使用する機会があるので原本還付請求をしておきたいところです。また、相続関係説明図自体も他の手続の際にあると便利ですので、作成することをおすすめします。
⑦固定資産評価証明書
◼︎ <遺産分割協議による相続の場合>
①遺産分割協議書(原本)
遺産分割協議により、法定相続分とは異なる割合で相続人が不動産を受け継ぐことになった場合は遺産分割協議書の添付が必要です。
遺産分割協議書には、登記申請の対象となる不動産について、「誰が」「どの不動産を」「どのくらいの割合で」相続するかが明確に記載されていなければなりません。
また、作成された遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印している必要があります。
②相続人全員の印鑑証明書(原本)
遺産分割協議書に押印してある印鑑が実印であることを証明するため、相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
③被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)の謄本
被相続人の出生から③の戸籍(除籍)までつながっている戸籍(除籍)の謄本が必要になります。
相続人にあたる人に誰がいるのか、遺産分割協議書に記載の相続人が本当に相続人全員なのかを、法務局が確認するために提出します。
④被相続人の住民票(除票)の写し
⑤相続人全員の現在戸籍の謄本(抄本)
⑥遺産分割協議によって不動産を相続する相続人の住民票の写し
⑦相続関係説明図
⑧固定資産評価証明書
(2)登記申請書の作成
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成しましょう。
登記申請書のひな型は法務局のホームページでダウンロードすることができます。
ひな型を参考にしながら、必要記載事項を確認していきましょう。
「原因」には、被相続人が亡くなった日付と相続である旨を記載します。
【記載例】
『(和暦)〇年〇月〇日相続』
「相続人」には、被相続人の氏名と新たに名義人になる相続人の住所・氏名を記載します。
新名義人が複数人の場合には、各新名義人の持分も併せて記載します(持分とは所有の割合のことです)。
【記載例:新名義人が一人の場合】
相続人 (被相続人 田中一郎)
東京都〇〇区〇〇1-2-3
田中 次郎
連絡先の電話番号 □□-□□□□-□□□□
【記載例:新名義人が複数人の場合】
相続人 (被相続人 田中一郎)
東京都〇〇〇〇1-2-3
持分2分の1 田中 次郎
大阪府●●●1-2-3
持分2分の1 田中 三郎
「(申請人)」には、申請を行う相続人(司法書士等の代理人に申請を任せている場合は代理人)の住所・氏名・連絡先の電話番号まで記載します。
電話番号を記載するのは、書類に不備があった等の場合に法務局から連絡を受けられるようにするためです。
「課税価格」には、固定資産評価証明書に記載の価額を記載します(1,000円未満は切り捨て)。
「登録免許税」は、課税価格に1,000分の4を掛けた金額です(100円未満は切り捨て)。
この登録免許税は、収入印紙を購入し登記申請書に貼り付ける方法で納めます(法務局には収入印紙売場が設置してありますので、申請の際に購入して貼り付けることもできます)。
「不動産の表示」には、不動産登記事項証明書に記載してある情報を、誤字脱字がないように書き写しましょう。
3)登記の申請
必要書類の収集と登記申請書の作成が完了したら、いよいよ申請へ移ります。
相続による所有権移転登記の申請は、新名義人となる者が行います (新名義人が複数いる場合には、そのうちの1人が申請することも可能です)。
登記の申請は、不動産を管轄する法務局の不動産登記部門へ、登記申請書と提出書類を提出することで受付がなされます。
申請の方法は、申請窓口へ持参する以外にも、郵送によることも可能です。
ただし、管轄の法務局が遠方でない限りは窓口への持参をおすすめします。
理由は、窓口持参の場合は、登記申請前に法務局の担当者に個別相談をすることができるからです。
申請後書類に不備等があることが判明した場合には、追加の書類提出や記載内容を修正する「補正」や、申請自体をいったん引っ込める「取下」をしなくてはなりません。
補正・取下が発生すると、対応自体が手間なだけでなく、手続完了までの時間も掛かってしまいます。
申請前に担当者に確認ができれば、軽微な修正の場合はその場で対応できますし、そうでない場合でも修正内容をきちんと理解できるまで質問することができるので安心です。
また、間違えると面倒なのが、登録免許税の計算です。
計算方法を間違えた結果、登録免許税が不足している場合は追加で納付することができますが、過剰に納めてしまった場合は返還してもらうための行政手続を行う必要があります。
窓口に持参できるのであれば、申請前に登録免許税の計算方法についても確認し、そのうえで収入印紙を購入すれば安心です。
申請書や提出書類について特に不備等がなければ、申請から1~2週間程度で登記が完了します。
(4) 登記識別情報通知の受領・登記内容の確認
登記が完了すると、新たな名義人ごとに「登記識別情報通知」というパスワードが記載された書面が交付されます(窓口または郵送で受け取ります。
郵送で受け取りたい場合は、登記の申請時に切手を貼った返信用の封筒を一緒に提出しましょう)。
この登記識別情報は、従来の権利証(正式名称は登記済証)のことです。
所有権移転登記によって新たに名義人となった者の権利を証明する書面ですので、悪用されたり紛失したりしないように厳重に保管しましょう。
また、申請した内容と実際に登記に記載されている内容に相違がないかも確認しておきましょう。
登記完了後に法務局で対象の不動産の「登記事項(全部)証明書」を取得し、記載してある内容を確認することができます。
まとめ
相続が起こった後の不動産の名義変更(所有権移転登記)の手続は、その後の不動産を扱う上で必須の手続です。
相続から時間が経てば経つほど書類を集めるのが大変になりますので、落ち着いたらなるべく早めに済ませておくことをおすすめします。
また、収集する必要書類に関しては、他の相続手続と重なるものも多いので、同時に進めておくとスムーズです。
申請書の作成が慣れない分大変かもしれませんが、記載する内容は決まっていますので、ひとつずつ丁寧に確認していきましょう。
(提供:相続サポートセンター)