「ファンド」と聞くと怖いと身構えてしまう方もいるだろう。しかし現在において、PEファンドはさまざまな業界で中小企業の成長を支える社会インフラとして欠かせない存在だ。第4回までは、PEファンドの担当者と支援を受けた企業代表の対談、第5回はPEファンドと組むメリットについての対談をお届けする。
第2回目の今回は、PEファンドが支援した具体的な内容と描いた成長戦略について。(聞き手:山岸裕一、編集構成:上杉桃子)※本インタビューは2019年12月に実施されました
目標利益の共有
―ここからは具体的な成長への取り組みについてお聞きしていきます。まず、目標数値についてはどのような握り(約束)で進めたのでしょうか?
清川:ファンド(みずほCP)とは3カ年計画で当社の経営資源とマーケット環境の中でどこまでやれるかを算出し、「ここまでを目指しましょう」と共有していました。
3つの押さえるべき目標数字の立て方
荒井:その際に押さえるポイントは、次の3つが重要です。
1、議論をした上で戦略、計画を創ること
2、根拠のある目標を設定すること
3、社員含め関わる全ての人々のモチベーションを維持できるラインに設定すること
清川:新しい最新の機械製品を開発する、時流に合った資材を見つけてくることなども含めて目標数字を作ります。新しい機械設計の進捗状況やマーケットに合わせて、たとえばお米の長期保存化、輸出、機械の海外進出などを含めて、全てが実るのは1年後。今結果が出ている数字はすべて2年前の仕込みです。
展開方法を変える上で反対するものもいましたが、部長クラスの会議で社長の私から新しい制度を導入する意図を伝えて、常に情報共有するなどして考えを浸透させていきました。
これまでは体制そのものが整っていないために進まなかったような事案も、部門別の役割が明確化されました。たとえば「脱プラスチック」のような新しい展開も翌週には反応と進捗が返ってくるようになり、新たしい設計の機械開発の進捗などもすぐに伝わってくるようになりました。とてもスピーディで筋肉質な組織に生まれ変わっています。
かつては無かった情報共有ツールのシステムも入れていて、常にお互いパソコンで状況を把握できるようにしました。
どのパターンがハマるかは企業による
荒井:私たちが内部管理体制の整備を支援した順番としては、
ルールを制定→ルールを運用するインフラとしてシステムを導入→最後に人を補充
つまり、属人的な運用を組織的な運用に変換し、仕組みで回るようにしました。
最初は内部管理体制の強化を図るために、1年近くコンサルタントに常駐してもらい、私たちと連携のうえ、支援して頂きました。副次的ですが、これによりコンサルタントと仕事をした管理部門の考え方や仕事の進め方が大きく向上したと思います。
会議体等を中心としたPDCAの仕組みが回り始めることにより、課題の共有や積極的な協議を通じて参加メンバーが育ちましたね。現場よりも一段上の視座で見られるように、特に部長クラスが育ちました。
こういった仕組みが出来上がれば、私たちファンドは外から予算や目標を確認させて頂くことが中心になります。
また、事業面についてですが、のむら産業は量産用の製造部門を持っておらずファブレスで、設計、開発、試作品製造のみを自社で行います。このプロセスにおいて属人的で非効率だった部分に、外からコンサルタントを入れて工程管理の効率化を図り、オペレーションが効率的に回るようにしました。
さらに、清川社長が知名度バツグンの営業パーソンなので、営業戦略についてはファンドは深く関与していません。これまでとは異なる切り口で営業関連の数字を見える化したことを支援したくらいです。あとは、新規事業領域の拡大に向けM&Aが必要な場面でのサポートが私たちの果たした役割です。
これらの取り組みにおいて、重要なのは、私たちファンドが一方的に創ったわけではなく、会社と協議を重ねながら創り上げていった点です。新たな取り組みを行うと社内から反対の声もあがることが多々ありますので、そのためには求心力のある清川社長の人望が不可欠でした。
―常にそのパターンは有効なのでしょうか?
荒井:もちろん、外から来たプロ社長のような人間がハマる業界もあります。のむら産業の場合は社史の長い会社で業界も古いため社歴の長い社員も多く、取引先は何十年もお付き合いがあった。
成長できるポテンシャルが内部にある場合は、今回のように清川社長を中心に進める方法が上手くハマります。
また、社内にも優秀な方がたくさんいた点も大きかったです。どこかの上場企業の役員よりも優秀な方が多くいるくらい。現在ののむら産業の常勤役員の方々はみな社員から役員になったかただけで構成されています。