荒井氏・清川氏

「ファンド」と聞くと怖いと身構えてしまう方もいるだろう。しかし現在において、ファンドはさまざまな業界で中小企業の成長を支える社会インフラとして欠かせない存在だ。第4回までは、PEファンドの担当者と支援を受けた企業代表の対談、第5回はPEファンドと組むメリットについての対談をお届けする。

第1回目の今回は、PEファンドであるみずほキャピタルパートナーズとのむら産業が組むことになった経緯から、成長戦略の描き方まで。(聞き手:山岸裕一、編集構成:上杉桃子)※本インタビューは2019年12月に実施されました

荒井圭佑
荒井 圭佑(あらい・けいすけ)
みずほキャピタルパートナーズ株式会社・ファンドビジネスグループディレクター。のむら産業ほか担当。みずほキャピタルパートナーズは、みずほフィナンシャルグループにおける投資ファンド企業。のむら産業のような中堅中小企業を中心に株式取得やバイアウト業務などを提供している。
清川悦男
清川 悦男(きよかわ・えつお)
のむら産業株式会社代表取締役社長。2016年より現職。代表を務めるのは2度目。のむら産業は1965年に創業以来、お米の包装資材製造と包装機械、2つの大きな柱で事業を展開している。日本の米袋の規格統一化はのむら産業の功績。

事業承継と将来の持続的な成長を目指しファンドと組んだ

――2013年からみずほキャピタルパートナーズ(以下みずほCP)とのむら産業・清川社長のお付き合いが始まったと伺っています。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

清川氏

のむら産業・清川社長(以下、清川):最も大きなきっかけは後継者問題でした。課題感を持っていたのは2010年頃からです。

今後、事業を継続し発展させていくには株を含めた事業継承の問題を整理して、代表の私から次の世代へ渡す際にやりやすいようにしなければとの課題がありました。それでお世話になっていたみずほ銀行からみずほCPを紹介いただきました。

みずほCP 荒井(以下、荒井):みずほCPが関わり始めたのは2013年から、私が関わったのは2017年からになります。上記の事業継承の問題を解決するため、ファンドが株式を取得させて頂きました。また、将来を見据え規程類等を整備し、組織的な会社運営の基盤を作ることを支援してきました。

のむら産業は米を計量し袋詰めする機械の製造販売と米袋などの包装資材の販売をしていますが、お米の消費量は人口減少とともに緩やかに縮小する可能性があるため、現状に固執することなく、持続的な成長のためには事業基盤を新しく創ることも同時に必要でした。

ビジネスの強みを整理

―事業を整理する際に、どのあたりまでゴールイメージを描いていたのでしょうか?

荒井氏

荒井:のむら産業のビジネスモデルを一言で表すとカミソリ製品に似ていることが分かりました。カミソリって、ホールドする本体と付け替え刃をセットで買いますよね。一度本体を買ったあとは、継続して消耗品である付け替え刃を購入することになると思います。

のむら産業の場合は機械を納品して、そこで使用する袋も売る、いわゆるリカーリング・ビジネス(一つの商品の販売が次以降の継続した取引につながる事業)で、安定した収益基盤のあるビジネスモデルです。

また、お米業界の包装資材では高いシェアを誇り、私たちファンドとしても、安定したビジネスモデルとシェアの高さが魅力でした。

これらの事業理解に基づき私たちみずほCPは、次に2つの戦略を立てました。
1、既存事業の収益拡大
2、事業領域の拡大

これらを進める前提として経営管理体制が不十分でしたので、課題を一つひとつ整理していきました。規程類や会議体を整備し、経営陣が知るべき財務数値やKPI(事業上の重要項目を定量評価する指標)を整理のうえ、報告資料を整備し、会議体で議論を行い、物事を決めていくプロセスを作りました。会社とは3カ年計画を共有したうえで、PDCAを回す仕組みを整えていきました。この仕組みが、戦略を実行していくための基礎になっています。

清川:みずほCPさんにお力をお借りして、例えば、人事制度であれば、査定などを分かりやすくし等級を付け、評価制度を明確化しました。

みずほCPさんに入ってもらってまず言われたことが「のむら産業は属人的」だとのご指摘でしたので、そこは変革して組織的に動ける体制にするよう進めていきたいとまずは考えました。

2つの成長戦略

荒井:変革のうち、まずは「既存事業の収益拡大」について。バリューチェーンの強化の視点で見ると、のむら産業は企画と販売に特化したファブレス企業です。しかし、さらなる供給の安定化や収益化、短納期の実現及び収益性向上を図るために、製造会社1社と資本業務提携、さらに1社の買収を行いました。

清川:工場を新たに建てて人を育てるなどするには、あまりにも時間がかかるため、買収する選択肢をとりました。

荒井:一方、「事業領域の拡大」について。新規分野を3割拡大させると清川社長もおっしゃっていますが、新規の事業領域としてお米以外の食品分野や施設園芸などの農業分野に進出し、既存領域と比較的近い領域に少しずつ進出しています。

また、リカーリング・ビジネスモデルは物流業界へも横展開できるため、M&Aセンターに紹介してもらった企業をM&Aして、物流業界向けに機械と必要な資材を販売する会社として事業を拡大しました。

詳しい数字は申し上げ上げられませんが、これらの施策により、売上は大幅に伸びました。

清川:ここ3年での伸びです。

荒井:もちろん、我々の施策を外から入れるだけでは社員がついてきてくれません。清川社長の厚い人望があったからこそ成し得たことです。清川さん中心に進めていただいたことで、極めて好調な伸びを実現できました。


中小企業はプライベートエクイティ・ファンドを上手く利用せよ!」
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