矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

新型肺炎による影響が深刻化しつつある。暦上は1月30日までであった春節休暇が明けた2月3日、上海総合指数は休み前の株価指数に対して8%下落、1日にして42兆円もの資産が失われた。しかし、その上海市はいまだ “春節” の最中である。上海だけではない。重慶市、広東省、浙江省、江蘇省など、多くの自治体が10日まで休暇を延長、感染の中心地とされる武漢を含む湖北省では “少なくとも” 14日まで休暇が続く。人の移動が極端に制限され、社会活動が停止したままの中国主要都市は実質的な機能不全状態にある。

封鎖された武漢は長江、漢口が合流する交通の要衝であり、鉄鋼、自動車、半導体、電機、素材産業が集積する製造業の一大拠点である。中国企業はもちろん、GM、ホンダ、ルノー、日産、PSA、ボッシュ、鴻海、シーメンス、ファイザー、コーニング、GEをはじめとするグローバル外資が拠点を構える。生産停止の長期化と物流の停滞は、中国経済はもちろん、世界のサプライチェーンに影響を与える。売り手として、買い手としての貿易総額が500兆円を越える中国経済の混乱が世界経済のリスクを高める。

感染拡大の収束に見通しが立たない状況にあって各国は出入国制限など水際対策を強化、影響はまずインバウント業界を直撃する。春節期間における百貨店の免税売上は軒並み前年割れを記録、三越伊勢丹では伊勢丹の新宿、三越の日本橋、銀座の3店の免税売上が前年比2割減になった。これから春にかけて新たに中国人団体客40万人分がキャンセルされるとの見通しもある。

一方、4日付の日本経済新聞は、日本電産がEV用駆動モーターの中国における生産投資を当初計画の550億円から1,000億円に引き上げる、と報じた。新工場は2021年の稼働を目指すという。無論、目の前の事態を鑑みれば中国外への移転も正しい。すべての企業が同社に倣う必要はない。しかし、企業は短期的なリスク対策と同時に、構造変化を見据えての戦略的投資を間断なく実行する必要がある。その意味において、新型肺炎の拡大、米中貿易摩擦、EV購入補助金の削減など、最悪と言っていい外部環境下での同社のブレない方針表明は見事である。

百貨店も同様である。免税売上の減少が経営に与えるインパクトは軽くはないだろう。とは言え、免税売上は百貨店全売上高の6%に過ぎない。百貨店の構造問題の本質はこの30年間でピークの4割、4兆円もの売上を失ったことであり、その要因は免税売上の減少でも、暖冬でも、消費増税でもない。未来を自身に引き寄せるために何をすべきか、まさに本業における戦略性と覚悟が問われている。百貨店だけではない。危機こそ経営者がその本領を発揮するチャンスであり、試されているのは企業の真価そのものである。

今週の“ひらめき”視点 2.2 – 2.6
代表取締役社長 水越 孝