地方創生に取り組んでいる自治体や企業は多数あるが、全てが成功しているとは言い難い。地方創生を成功させるためには、成功事例を学ぶ必要がある。併せて、企業を運営する上での問題点なども確認しておこう。
目次
地方創生とは?
地方創生とは、第2次安倍改造内閣が発足した日の閣議決定で、提唱された政策の1つである。「まち・ひと・しごと創生本部」が置かれたことで始まるが、実は明文化はされていない。同年に「まち・ひと・しごと創生法」が施行され、法定組織となった。
地方創生は、第2次から第3次安倍内閣の地域への取り組みを指す言葉で、司令塔の役割を担うのが「まち・ひと・しごと創生本部」だ。地方創生本部の本部長は首相で、地方創生担当大臣が副本部長を務める。「ローカル・アベノミクス」と呼ばれることもある。
内閣府隷下ではなく内閣直属の組織であることや、すべての国務大臣が本部員を担っていることが特徴だ。地方創生の目標は、人口流出を止めることと地方の成長力の確保にある。東京に人口や機能が集中していることを受け、その是正のために打ち出された政策だ。
地方創生の成功事例
地方創生には失敗事例もあるが、成功事例ももちろんある。ここからは、具体的な地方創生の成功事例を企業別に解説する。
事例1.エーゼロ株式会社
エーゼロ株式会社の成功の背景には、西粟倉村役場と連携がある。「ローカルベンチャー支援事業」を創立し、地方の起業家を育てることで地方創生を成功させた。
森林組合や村役場が連携し、木材の加工や流通の連係を自治体が担い、個人や法人に向けて様々な木材の加工品を供給できるようになったことも大きい。地方創生の取り組みで創設されたベンチャー企業は12社あるが、それらの売上は合計7億円に達した。他にも、取り組みの様子をネットで配信したことで、移住者も90名ほどが増え、地方の人口増加にも寄与した。
事例2.シタテル株式会社
シタテル株式会社は、熊本発のベンチャー企業だ。インターネットやIoTなど駆使することで、衣服生産プラットフォームを日本で初めて提供した。アパレル業界はIT化が遅れていたため、それを受けてシタテル株式会社はITによって様々な問題を解決した。
シタテル株式会社は、オリジナル製品を作りたいという要望に応え、小規模ブランドだけでなくメーカーにも流通プラットフォーム「Sitateru」を提供した。これは職人と縫製工場をマッチングするもので、企業のニーズにもマッチしたことで成功を収めた事例だ。
事例3.株式会社さとゆめ
株式会社さとゆめは「ふるさとの夢をかたちに」をテーマに掲げ、地方創生を成功に導いた。生産者と地域の「伴走型コンサルティング」を提供したことでも有名だ。地域に根ざした商品を開発し、地域に根ざした道の駅やアンテナショップなどのプロモーションを行った。
そのほか、「ヒトづくり」や「モノづくり」「コトづくり」「バづくり」という4つの領域で事業を広く展開し、持続可能な地域作りにも一役買っている。同社の最終目標は地方の人口を増やすことであり、そのために地方の住民と連携・併走しながら活動している。
事例4.株式会社カヤック
熊本に本社を構える株式会社カヤックは、主にネット上の広告プロモーションやコミュニティ、ソーシャルゲームのプラットフォームを提供している。自社を「面白法人」と名付け、常に面白いものを提供し続けている。
地方創生では、鎌倉に関連するプロジェクトを支援している。子会社の株式会社カヤックLivingでも活動を続けており、「SMOUT」と呼ばれる地域移住サービスを展開している。
事例5.インビジョン株式会社
インビジョン株式会社のビジョンは「働く幸せを感じるかっこいい大人を増やす」であり、求人広告代理やコンサルティングを提供している。特に地方では人口減少が進んでおり、高齢化も大きな問題になっている。これを受けて、インビジョンでは採用のミスマッチを減らし、人口流出を防ぐ活動も行っている。
地方創生の取り組みとして、地方創生メディア「Fledge」を運営している。自分らしく働きたい人を応援する活動も行っており、働くための「場所」や「人」の情報を発信している。地方の働き口を増やすことで、日本全体の活性化を図る会社だ。
企業が地方創生に取り組む意味とは?
企業が地方創生に取り組むのは、日本が抱える問題に立ち向かうためだろう。2050年には日本の人口が1億人以下になり、65歳以上の高齢者の割合が4割を超えるとの推計もある。
一昔前は「都会で一国一城の主になる」ことを目指す人が多かったが、現代では「高学歴」や「大企業への就職」を重視する傾向が強くなり、ますます都会への憧れが強くなっているようだ。また地方に就職先がないことも都会への憧れに拍車をかけ、東京一極集中を助長していると言えるだろう。
しかし、都会で夢に破れる若者も少なくない。その意味でも、若者が地方に価値を見出せることが重要だ。地方創生は、若者が地方でも自分らしく働くための受け皿の役割を果たす。
事業を興す場合も、地方には様々なメリットがある。地方で起業するメリットをいくつか紹介しよう。
地方の活性化につながる
地方で起業することの最大のメリットは、地方を活性化できることだ。企業が地方創生に取り組むことによって、あぶり出された問題を解決するための新規事業を立ち上げることもできる。
すると雇用が生まれ、若者の流出を抑制できる。地方で事業を行うことで地域とのつながりが生まれるので、シナジー効果も期待できる。
都会では難しいとされるビジネスでも、地方ではニーズがあることも多い。その意味で、特にベンチャー企業は地方で起業するほうが有利だろう。社会貢献によって、会社に新しい価値が生まれる。価値を感じることができれば、仕事に対するやりがいが生まれ、生産性が向上するという好循環に入る可能性が高い。
企業側のメリットも大きい
企業が地方へ進出する最大のメリットは、費用面にある。たとえば本社を地方に移転する場合、「地方拠点強化税制」によって税金の優遇が受けられることがある。また、地方では人件費が安いというメリットもある。
企業が地方に移転すると、その会社の従業員は移住しやすいだろう。地方で新たに仕事を探す必要がないからだ。また、それまでと同じ給与体系で給与をもらうことになるので、物価が安い分経済的なメリットを享受することになる。このように地方に企業を移転することは、働き手と会社の双方に利益をもたらすのだ。
地方創生に失敗しないために重要なこと
ここからは、地方創生で失敗しないためのポイントを解説する。
資金を調達する
地方であっても、新しい事業を興すにはそれなりの資金が必要だ。資金を調達できなければ、地方創生で成功を収めることはできないだろう。
資金調達の方法には、以下のようなものがある。
1.助成金や補助金を利用する
2.クラウドファンディングを利用する
3.ファンドやエンジェル投資家に出資を要請する
助成金や補助金を利用する場合は、「一般社団法人 地方活性化センター」や「経済産業省公式HP」などで情報を収集するといいだろう。
クラウドファンディングは、近年話題になっている資金調達方法だ。クラウドファンディングは、ネット上に活動内容を公開し、資金提供者を募集するものだ。活動内容に賛同したり、事業に将来性を感じたりする人が資金を提供してくれる。
エンジェル投資家とは起業したばかりの企業に資金を供給する個人のことで、特にアメリカで多く用いられる資金調達方法だ。
地方の住民に協力を求める
企業が地方で事業を始めるにあたっては、地元の協力を得られるかどうかが最大のポイントになる。失敗事例の多くは、地元の協力を得られなかったことが原因だ。
また魅力的な事業であっても、地元住民がそれに魅力を感じなければ成功はおぼつかない。地方創生は、あくまで地方の活性化が目的であり、地元が潤わない事業は成功しにくい。地方で事業を展開するなら、まず説明会などを開き、お互いがWin-Winの関係になることを理解してもらうこと重要だ。
地方創生においては、今後地域に根付く事業なのかどうかが問われる。地方で事業を成功させるためには、まず地方の現状を知り、求められている事業かどうかを確認しなければならない。そのような受け皿がないなら、どんな事業でも成功することは難しいだろう。
地方創生から日本活性化へ
地方創生はアベノミクスの1つで、一極集中の是正を目的としている。地方が潤うことで日本全体が活性化することは間違いがないが、それを成功させるためには、それなりの準備が必要だ。地方で事業を展開して、失敗した例は少なくない。
地方創生では、住民との連携が不可欠だ。地方創生は地方を活性化するための政策であり、地方の住民のための政策であることをあらためて確認しておきたい。
文・THE OWNER編集部