M&Aコラム
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グーグルやアマゾンなどが創業から20年程度で世界的企業に成長したのは、「足し算方式」の経営でなく「掛け算方式」の経営を効率よく行ったためと言われています。

企業経営において、この「掛け算方式」を生み出す核となるエンジンが「シナジー」です。本記事では、シナジーの概要、シナジーを創出する方法など、企業事例を交えてご紹介します。

シナジーとは

シナジー(synergy)とは、「共同作用」「相乗作用」を意味し、2つ以上の要素が協力することで、単独で行うより大きな効果や価値が生まれる現象を指します。

ビジネスにおいては、複数の事業が連携することによって、シナジー効果、つまり単純な足し算ではない「新しい価値」が生まれることが期待されます。

シナジー効果の発揮が特に期待されるのは企業間のM&Aです。M&Aにおけるシナジー効果の一例として、楽天のM&Aを紹介します。

M&Aによってシナジー効果を生み出した例

楽天は、2003年に「旅の窓口」をM&Aによって買収し、楽天トラベルとして自社の旅行部門と統合しました。これにより、楽天ポイントが使える巨大な旅行サイト(楽天トラベル)が誕生します。この楽天トラベルの誕生により、旅行代金として楽天ポイントが使えるようになった結果、「旅の窓口」単体で営業していたときよりも競争力が上がり、多くの楽天会員が楽天トラベルを利用するようになりました。

一方、楽天側も楽天ポイントが旅行に使えるようになったことで、ポイントプログラムの価値自体が上がり、会員数をさらに増やすことに成功します。
この事例のように、単純な足し算ではない新たな価値が生まれることを、企業におけるシナジー効果といいます。

シナジーの反対語「アナジー」とは

シナジーの反対語は「アナジー(anergy)」です。「反シナジー」または「負のシナジー」とも言われ、2つ以上の要素が協力することで、個々の要素が独立して行動した場合に比べて効果が逆に小さくなる、もしくは悪化する現象を指します。ビジネスにおいて、事業間での連携によりマイナス効果が生じてしまった結果、発生します。

シナジー効果が求められる理由

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企業活動においてシナジー効果が求められる主な理由は、それが業績の向上やコスト削減、イノベーションの加速などに寄与するためです。具体的に主なポイントを見ていきましょう。

資源の効率的な活用

企業内での異なる部門やチームが協力することで、各部門が持っているスキル、知識、リソースを最大限に活用できます。
例えば、マーケティング部門と製造部門が連携することで、市場のニーズに応じた製品をより迅速に提供できるか可能性が高まります。

コスト削減

協力によって重複する作業をなくしたり、大量生産によるスケールメリットを享受したりすることができます。これがコスト削減につながり、結果として企業の競争力が高まる場合があります。

イノベーションの加速

異なる専門分野やバックグラウンドを持つ人々が協力することで、新しいアイデアやソリューションが生まれやすくなります。これは新しいビジネスチャンスを創出する可能性があり、企業の成長を促進する要素となり得ます。

顧客満足度の向上

複数の部門が協力して顧客に対するサービスを提供することで、より一体的で高品質なサービスが提供できる可能性があります。これは、顧客満足度の向上につながり、新規顧客獲得の促進も期待できます。

以上のように、シナジー効果は多くの面で企業にとって有益であり、そのためにビジネスにおいて積極的に求められます。

シナジー効果の種類

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ビジネスにおけるシナジーの種類は様々存在しますが、ここではM&Aで期待・効果を発揮する主なシナジー効果についてご紹介します。

販売のシナジー

冒頭の楽天トラベルの例のように、統合の結果競争力を高め、その結果、売り上げが伸びて収益力が高まることを販売のシナジーといいます。

なお、譲受け企業(買い手)と譲渡企業(売り手)の特徴をそれぞれ組み合わせることにより、以下のような販売シナジーが期待できます。

このような販売シナジーに代表される収益面のシナジーは、M&Aにおけるシナジー効果の花形ともいえるもので、組み合わせ次第では非常に大きな成果を生み出す可能性があります。
ただし、成功するかどうかは最終的に顧客次第であり、その成功確率は仕入れのシナジーなどに代表されるコストシナジーのほうが高いといえます。

仕入れのシナジー

ある一定の生産設備のもとで、生産量や生産規模を高めていくことにより、単位当たりのコストが低減される現象を「規模の経済」といいます。

M&Aによって生まれるシナジーの1つ目は、規模の経済によって起こる仕入れのシナジーです。同業者同士のM&Aでは単純に売上高が足し算されて増えるため、その分だけ仕入高も増えます。

その結果、強化されるのが仕入購買力です。今までよりも多くの製品を仕入れることになるので、仕入れ代金の値引きなどの交渉を行いやすくなります。
また、M&Aにより収益シナジーが起これば売り上げはさらに増えるため、それにともない仕入のシナジーはさらに増えていきます。

製造のシナジー

製造のシナジーとは、製品の製造過程において、その生産方式や使用する資材、原材料・機械などを共有化することにより発生するシナジー効果のことをいいます。

生産方式や使用する資材などを共有化できれば、コストの削減や資材・原材料などのロスを少なくできます。

物流のシナジー

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物流シナジーが生まれると、以下のコストを削減できます。

削減が期待できるコスト 概要
物流費

物流ラインを共通化すると、配送などの作業を無駄なく合理的に行えるようになるため、トラックなどの車両の保有台数を減らせます。この結果、購入代金や燃料代などの維持コストはもちろんのこと、ドライバーなどの人件費も削減できます。
倉庫費 物流ラインを共通化する過程で、製品の出荷や資材の搬入のために用いる倉庫も共有化できれば、必要な倉庫の数を減らせます。従って、倉庫の賃借料や設備などの維持費、そして人件費などのコストを削減できます。
ITシステム費 物流を管理するために欠くことのできないものがITシステムです。材料の入荷や製品の出荷などを総合的に管理するITシステムを共通化できれば、ITシステム費のコストを削減できます。
人件費 親会社と繁忙期がずれている場合は、人繰りを共通化させることにより、必要な人件費をコストダウンできます

事業のシナジー

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事業間の資源を共有化し、譲受企業の経営資源やノウハウをM&Aによって別事業に応用(横展開)することにより生み出すのが事業シナジーです。

トレーディングカードを制作販売していたブシロードは、2012年に当時赤字企業だった新日本プロレスを買収しました。ブシロード社の持っていたエンターテイメントのノウハウを新日本プロレスに注入して集客数を大幅に増やしたり、レスラーのトレーディングカードを製作したりすることで黒字化に成功しました。

さらにこの経験を生かし、2019年にはスターダムという女子プロレス団体を買収します。新日本プロレスの運営で得たノウハウをさらにスターダムに注入するとともに、新日本プロレスとスターダムを提携させることにより、シナジー効果を生み出し続けているのです。

このような例はほかにも、当時ゲーム会社だったDeNA(ディー・エヌ・エー)が大洋ホエールズを買収し、横浜ベイスターズを黒字化させた事例などが挙げられます。

財務のシナジー

財務のシナジーとは、財務内容が悪く、資金繰りが厳しい場合や大胆な投資がなかなかできない会社を買収し、そこに大きな資本を投入することにより生まれるシナジー効果のことをいいます。
財務のシナジーを生み出すM&Aには、主に2つがあります。

救済型(企業再生型)M&A
救済型(企業再生型)M&Aとは、事業の失敗などにより大きな赤字を出してしまった会社を救済し、業績を改善させることを目的としたM&Aのことをいいます。 大きな赤字を出してしまった企業が事業内容を見直し、撤退すべきところは撤退し、場合によっては従業員をリストラするためには、それなりの資金が必要です。

従って、財務内容の良い買い手が手を貸す(資本を投入する)ことにより売り手企業を助け、再生への道筋を立てます。2016年に大赤字で倒産の危機に瀕していたシャープに対して台湾の鴻海が行ったM&Aなどが、この救済型M&Aです。
資金調達型M&A
資金調達型M&Aとは、主に成長期の企業などが資金調達の一環として大きな会社の資金を受け入れることを目的としたM&Aのことです。企業が成長期にあるときは、市場シェアを一刻も早く抑えるために赤字を出してでも前のめりに急拡大しようと試みます。

シナジー効果を生み出すための4つの方法

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一般的にシナジー効果を生み出す方法として、M&Aを含め主な4つをご紹介します。

①M&A

シナジー効果を生み出すためには、企業の内外にある要素、強みや特徴を、現状とは異なる形で組み合わせる必要があります。
このような、組織再編を行うのに最も適しているのがM&Aです。

M&Aによる組織変革や拡大は、現在多くの企業が事業を成長させる目的で戦略的に取り組んでいます。
その中でもM&Aによって成長を拡大させている企業の事例として、ソフトバンクグループのM&A戦略について見てみましょう。

②業務提携

業務提携とは、提携相手の資源を活用して事業の成長を図る施策のことをいいます。

業務提携にはいくつかの方法がありますが、その中でもシナジー効果がとくに生まれやすい提携が「販売提携」と「技術提携」の2つです。

販売提携とは、製品の販売やサービスの提供を、提携先に委託する業務提携のことをいいます。ベンチャー企業や中小企業のように自社の販売サービス網が整備されていない企業にとっては、自社製品を販売するための方法として販売提携は有効な手段です。

なお、販売提携には、提携先がメーカーから商品を仕入れて顧客に販売する「販売店契約」と、提携先がメーカーの代理人として商品を顧客に販売する「代理店契約」などがあります。

技術提携とは、技術や特許を持っている会社が他社に対してそれらを開放し、技術開発や製造・販売などに生かすための業務提携のことをいいます。

通常は、両社の間でライセンス契約や共同開発契約などを結んだうえで、技術提携が行われます。ここではその代表例として、トヨタ自動車とスズキ自動車の業務提携を見てみましょう。

③多角化戦略

多角化戦略とは、既存の製品や現在自社製品を展開しているマーケットとは別の場所で、新たに事業展開をしていく戦略のことをいいます。

新分野へ進出するのはリスクが高いものの、既存の分野事業のみを継続している場合、万が一何かあった場合のリスクヘッジにはなりません。多角化戦略は、失敗するリスクはそれなりに高い分だけ、リターンもそれに応じて大きい戦略といえます。

なお、多角化戦略はさらに細かく、いくつかの戦略に分類できます。その中でも、シナジー効果がとくに生まれやすい戦略が以下の4つです。

水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、現在行っている分野と同じ分野で事業を横展開して広げていく多角化戦略のことをいいます。例えば自動車メーカーであればトラックを製造したり、電話機メーカーがFAX付き複合機を製造したりする例が挙げられます。

水平型多角化戦略は、既存の技術や流通経路を応用して事業を展開していくため、リスクが少なくシナジー効果が期待できる戦略です。
垂直型多角化戦略
既存市場と同じ、もしくは類似した市場で、新製品を投入する多角化戦略が、垂直型多角化戦略です。例えば、ボールペンのメーカーが高級万年筆を製造したり、電子レンジのメーカーが電子レンジ用の台を製造したりする例などが挙げられます。

そのほか、自社で原材料を製造し、その原材料を使って製品を製造する場合なども垂直型多角化戦略の例として挙げられます。
中型多角化戦略
既存の製品と生産技術やノウハウなどの関連性が高い製品を別の市場へ投入する多角化戦略が、集中型多角化戦略です。例えば、デジタルカメラに用いるセンサーなどの技術を医療用機器に応用して製造したり、日本酒メーカーが消毒用アルコールを生産したりする例などが挙げられます。

カメラやフィルムの製造で一世を風靡した富士フイルムが、その技術を転用し、化粧品や医療機器の製造を行う例などは、この集中型多角化戦略の典型です。
集成型(コングロマリット型)多角化戦略
既存の製品やノウハウ、マーケット、顧客などと一切関係のない新たな市場に新しい製品を投入する多角化戦略が、集成型(コングロマリット型)多角化戦略です。たとえば、金融業者が農業をはじめたり、小売業者が製造業をはじめたりする例などが挙げられます。

集成型多角化戦略は、既存のビジネスモデルとの接点が何もないためハイリスクで、かつ選ぶ業種によっては莫大な投資が必要な場合があります。リスクの高さに比べリターンが低い場合もあるため、資本力のない中小零細企業には不向きの経営戦略でしょう。

④グループ一体経営

グループ一体経営とは、グループ企業内における業務の一部を共通化することにより、コストの削減や顧客に対するさまざまな商品の提供を行う事業戦略のことをいいます。

例えば金融業界において、銀行を中心にリース会社やクレジットカード会社などを展開し、顧客にさまざまなサービスを展開する例が挙げられます。

終わりに

企業が目標とする成長を実現するためには、単なる足し算による積み上げ式ではなく、掛け算式に成長していくラインを目指さなければなりません。

本記事で紹介した企業事例のように、M&Aにはシナジーを生み出すための大きな力があるため、その力を必要なタイミングで上手く使いこなすことが求められます。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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