目次
- 夏は川を、冬はスキーを楽しむ。そして多彩な湯と自然を満喫する
- 宿泊客からの相談ごとにその場で対応するため、他のスタッフにすぐ連絡できるインカムを装備
- インカムの会話は文字でも記録して再確認、評価。宿泊客へのおもてなしレベルが上がった
- 用途によってビジネスチャットも併用して連絡を取り合う。フロントでは宿泊客の困りごと対応のためロビーにもスタッフを配置
- 施設の充実と密接な応対による予想以上の体験を提供することが、リピーターを増やす近道
- 仕入や経理処理、勤怠管理もデジタル化し働き方改革を実現。残業代が減った分は基本給のアップで対応
- 部屋数を増やすより「一人ひとりがコンシェルジュ」はじめ、サービスを充実して、満足してもらうことで収益拡大を目指す
産経ニュース エディトリアルチーム
上越新幹線の越後湯沢駅からほど近い高台に建つホテル双葉は、「水が織りなす越後の宿」というテーマにふさわしく、ロビーに入ると滝やせせらぎに出迎えられ、泊まれば幾つもの温泉につかれる和風旅館だ。(TOP写真:滝が望めるホテル双葉のロビーに立つ小林秀雄専務)
夏は川を、冬はスキーを楽しむ。そして多彩な湯と自然を満喫する
「夏は近くの山に行かれたり、川で釣りを楽しんだりする方が訪れます。冬はスキーをしに来られるお客さまで賑わいます」と、株式会社双葉の小林秀雄専務は四季を通して楽しめる越後湯沢の特長と共に、ホテル双葉の人気ぶりを説明する。「外国から来られたお客さまの中には、ホテルに荷物を置かれて、新潟や東北の仙台まで足を伸ばされる方もおられます」。新幹線の駅がある越後湯沢なら、東京のホテルにはない自然と温泉を満喫しつつ、日本の名所を回る過ごし方も可能というわけだ。
外に出かけなくても、「二十八(ふたば)の湯」と銘打つ多彩な温泉と豪華な食事を楽しむだけで、滞在時間を十分に満喫できる。ホテルの最上階にある「空の湯~ままらく」では、谷川連峰を望みながら天上の湯につかっているような至福の時間を過ごせる。「山の湯」では、露天風呂や洞窟風呂、石、木、陶器などが使われた変わり風呂など10種類もの風呂を楽しめる。
11種類ものお風呂がある「里の湯」や、家族だけで楽しめる貸切風呂もあって、宿泊客がそれぞれに望むスタイルで温泉の時間を過ごせる。このため、「当ホテルはお客さまの滞在時間が長いのが特徴です」(小林専務)。多くの宿泊客が午後3時か4時にはチェックインして、翌日の午前11時にチェックアウトするまで温泉につかり、食事をし、また温泉につかるような過ごし方をするそうだ。
宿泊客からの相談ごとにその場で対応するため、他のスタッフにすぐ連絡できるインカムを装備
「そうしたお客さまが他に遊べるような施設が、館内には少ないことが気になっています」(小林専務)。宿泊料以外の収益を確保できる場所を作ることで、宿泊客により楽しんでもらいつつ収益の拡大も狙いたい考えだ。ただ、「そうした施設にしても、お土産店のご利用にしても、お客さまが気持ち良くホテル内での時間を過ごしていただけなければついてはきません」(小林専務)。そのためには、営業担当者も置かずに宿泊客と接するスタッフの数をできるだけ増やし、相談ごとがあればすぐに対応できる体制を作る必要がある。
そこでホテル双葉では、60人ほどいるスタッフが、インカムを通してどこからでも他のスタッフと音声によって会話したり、会話の記録を文字として記録し、表示できるようにする機能を合わせ持ったシステムを導入した。「お客さまから相談ごとを持ちかけられた時、自分ではわからないことだったらインカムを通して呼びかけて、わかる人から答えをもらい、その場でお客さまにお伝えします。絶対にノーとは言いません」(小林専務)。
インカムの会話は文字でも記録して再確認、評価。宿泊客へのおもてなしレベルが上がった
例えば、提供した食事に子どもがアレルギーを持っている食材が入ってしまっていた場合、その場からインカムで調理場に話しかけ、代わりの食材で料理を作ってもらえるかを尋ねられる。「これが、調理場と客室とを行き来していたら、何分も経ってしまってお客さまを不安にさせてしまいます」(小林専務)。インカムを使えば、その場で対応してもらっていることが宿泊客にも分かるため、安心につながる。
ふいにインカムから飛び込んで来る言葉が、一度では聞き取れないといったことも起こり得る。この点で、このシステムは、インカムで話した言葉が文字に変換され、スマホの画面などに表示される仕組みが搭載されていいて、後から何を話したかを確認できる。「話した言葉が完璧に文字化されるわけではありませんが、要点はしっかりと残るため、それを見て後から対応できます」(小林専務)。文字として残すことで、誰がいつ、どのように対応したかも記録され、人事面の考課に役立てることもできるという。
「お客さまの困りごとにしっかりと対応しているスタッフが、ホテルの従業員としては素晴らしいと言えます。わからないことをわからないままで放っておくのが一番ダメ。そうした表からでは見えない仕事ぶりが、インカムを使ったシステムによって目に見えるようになりました」(小林専務)。こうした仕事ぶりを考課につなげることで、働くスタッフの意識も変わって、より積極的に動くようになり、おもてなしのレベルも上がっていく。
用途によってビジネスチャットも併用して連絡を取り合う。フロントでは宿泊客の困りごと対応のためロビーにもスタッフを配置
ここで、インカムからの呼びかけに気を取られて、宿泊客への気配りがおろそかになってしまっては本末転倒だ。ホテル双葉では、「接客などに立っているルーム担当の従業員からすぐに返信がなければ、それは接客中なんだと理解するように言い聞かせています」(小林専務)。便利で役立つICTの仕組みだからといって、誰もが同じような条件で使えるとは限らない。現場に合わせて使い方を考えてあげることが、より効果的にICTを利用するための秘訣だ。
インカムとは別に、ホテル双葉では全従業員が使えるビジネスチャットも併用している。こちらでは、その日の業務に必要な伝達事項や、後日の対応で間に合う連絡事項などを送り合ってもらっている。同じコミュニケーションツールでも、用途によって使い分ける工夫をして効果を出している。
ホテルでICTというと、フロントの業務を自動化して、チェックイン・チェックアウトを無人で行えるようにする事例が浮かぶが、ホテル双葉はフロントにスタッフ1人が立ち、さらにもう1人がロビーに立って、入って来た宿泊客や出て行く宿泊客の相手をしている。「無駄と思われるかもしれませんが、こうした人と人との関係から、お客さまの困りごとを察知してすぐに対応できると考えています」(小林専務)
施設の充実と密接な応対による予想以上の体験を提供することが、リピーターを増やす近道
密接な応対によって心地よい時間を過ごしてくれた宿泊客は、予想を上回る体験ができたと感じて「次もまた利用しよう」と思ってくれたりする。口コミによって別の宿泊客を呼ぶようにもなる。「今も5割近くがリピーターですが、そうなってくれるお客さまを新たに増やしていくためにも、接客は重要と考えています。あとは、従業員の誰もが接客を楽しみに当ホテルに入ってくれたのに、裏の仕事ばかりやらされたら楽しくないでしょう。表に出ることが好きなら、どんどんと表に出てもらおうと思っています」(小林専務)
仕入や経理処理、勤怠管理もデジタル化し働き方改革を実現。残業代が減った分は基本給のアップで対応
表ではインカムやビジネスチャットを使って知識の共有化を実現したホテル双葉では、裏では仕入をデジタル化して経理事務の省力化につなげた。「経理担当者といっしょに、7年から8年かけて導入しました。今は料理の食材も100%オンラインで仕入れています」(小林専務)。こうした取引データが会計システムに連動するようになっていて、取引の都度に処理されるため、普通なら月末に大忙しとなる経理処理が楽になったそうだ。「月末に休んで良いのかと担当者が不安がるほどです」(小林専務)。
こうした働き方改革は、他の部署でも積極的に進めている。調理場などで朝早くから全員が出てきて、上長が帰るまで誰も帰らないような働き方を止めさせた。ルーム担当者もシフトを組んでしっかりと休めるようにした。「残業手当が付かなくなって収入が減ってしまうといった不安には、基本給を上げることで対応しました」(小林専務)。従業員のモチベーションを高め、その意欲を宿泊客のために向けてもらうことで、リピーターが増えて収益が拡大していけば、さらなる待遇改善につながる。そんな好循環を思い描いている。
部屋数を増やすより「一人ひとりがコンシェルジュ」はじめ、サービスを充実して、満足してもらうことで収益拡大を目指す
施設の改良にも意欲を見せる。収益拡大策というとすぐに増築が浮かぶが、「これ以上部屋数を増やそうとは考えていません。これから少子高齢化が進んでいく中で、お客さまがどんどんと増えていくとは限りません。それなら、利用していただけるお客さまの満足度を上げて、単価を上げるような方向へと行けないかと考えています」(小林専務)。部屋数を逆に減らして大きな部屋を作り、ゆったりと楽しんでもらえるような施策も頭にある。
「新潟の伝統工芸品を紹介することで、地域全体を盛り上げていきたいとも考えています」(小林専務)。どこに行けば手に入るのかといった情報が知りたければ、近くにいる従業員に聞けばすぐに答えてくれる。インカムでのコミュニケーションが、従業員の一人ひとりをコンシェルジュにしたことで、サービスの厚さも深さも大きく増えていくと言えそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社双葉 |
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所在地 | 新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢419 |
HP | https://hotel-futaba.com/ |
電話 | 025-784-3357 |
設立 | 1949年 |
従業員数 | 65人 |
事業内容 | ホテル経営 |