目次
産経ニュース エディトリアルチーム
自動車用のゴム成型・プラスチック成型部品で、株式会社SUBARU(旧富士重工業)に直接供給する1次請け(ティア1)メーカーの富士ゴム工業株式会社(群馬県太田市)。精密加工を武器に、他の自動車メーカーにも取引先を拡大している。ICTやIoTの活用で情報共有化を図ると同時に、生産効率向上も実現。従業員のモチベーション向上で、今後も技術力を武器に飛躍を狙っている。(TOP写真:自社製品の特長などを語る漆畑兼久社長)
創業当初の商社から、部品メーカーに転換。ティア1工場としての地位を確立
富士ゴム工業株式会社の創業者である青木逸平氏は、富士重工業(当時)群馬製作所(太田市)の副所長を務め、ゴム部品メーカーが集まっていた東京の墨東地区(現在の墨田区、江東区)から製品を調達していた。しかし、発注する部品の数量が増えたため、青木氏は富士重工業を退任し、1965年にゴム部品を調達して富士重工業へ一括納入する富士ゴム工業を創業した。社名に富士を冠したのは、長年勤めた富士重工業への感謝の意を表すと同時に、将来の成長を考えてゴム部品を製造するメーカー機能を有するという考えから、工業の2文字を加えた。
自動車用ゴム部品は、「防振ゴムと型ゴムの2種類がある」(漆畑兼久代表取締役社長)。防振ゴムは文字どおり、振動を抑える役割を果たすもので、サスペンションなど振動部分などに使われるが、この分野は大手部品メーカーが得意としている。富士ゴム工業は型に流し込んで部品を作る型ゴムに特化して、創業者の思惑どおり、1981年には市内に尾島工場、1985年には西新町工場を完成させるなど、充填材やマット、泥除けなどのゴム部品メーカーとしての地位を確立していった。現在では、ティア1メーカー(一次請け)として、SUBARU向けの型ゴム部品のほとんどを同社が製造しているという。
ゴム材料の自社設計に強み。設計から流通まで一貫体制を構築
富士ゴム工業の強みは、企画から設計、製造、物流までの一貫生産体制を築いていることだ。当初はゴム材料の配合を外部に委託していたが、自社設計に切り替え、外部に製造委託する形態に転換した。材料は天然ゴム、合成ゴムに加え、約100種類の原材料を使い分け調合、耐候性や耐久性、防振特性を保つため、「その配合比率は企業秘密」(漆畑社長)というほど、同社の優位性を保つ技術となっている。
樹脂成型品を新たな柱へ、設計体制が強み
ゴム部品に加え、次の経営の柱にしようと、樹脂(プラスチック)成型品の製造も始めた。こちらは新車のオプション用部品として供給。現在ではゴム事業、オプション用品事業、組立事業、樹脂事業の4本柱を形成している。ゴム、樹脂部品とも強みを発揮しているのは、社内に設計部門があることだ。10人の設計技術者を擁し、SUBARUとオンラインでつなぎ、さまざまな製品開発に取り組んでおり、「部品の素材などについて、SUBARUから当社に相談がくる」(漆畑社長)ほどの信頼を得ている。2006年には太田市内に物流センターも新設し、供給体制も確立。こうした技術力がティア1としての地位を確立させたのだ。
ゴム部品製造の新第二工場も新設。自動接着剤塗布機を自社開発し、生産能力を強化
1999年には本社機構、生産、倉庫を集約した新本社工場を完成。さらに、2020年には新本社工場に隣接する土地を買い取って、ゴム部品製造専用の新第二工場を完成させ、旧尾島工場の生産部門を集約するなど、製造能力を向上させている。
新第二工場には10台の成型機械などを導入し、これで成型用機械は計23台に増えたが、中期計画では「受注拡大に伴い機械を増設していく予定」だ。中でも、400トンの縦型真空ゴム成型機5台は他社にない大型設備という。新技術の開発にも取り組む。2022年には国のものづくり補助金を得て、ゴムと金具を接着させる自動接着剤塗布機を自社開発し、SUBARU以外の自動車メーカーに売り込んでいく考えだ。
コロナ禍を機にWeb会議、遠隔地からの資料の共有化を実現し、会議の効率化とテレワーク等ICT化を推進
ICTを活用した経営効率化も進める。2020年から始まったコロナ禍。4ヶ所ある事業所から担当者が毎週本社に集まって会議をしていたが、移動制限もあったほか、顧客からもWeb会議開催の要請があったため、Teamsを導入しWeb会議を開始した。自社内の会議では移動時間が節約でき、開催時間もこれまでの約2時間から1時間に短縮。
リモートアクセスシステムも導入した。共有すべき資料と情報保管場所を明確にして、社外からもセキュリティのある環境で情報共有を実現し、遠隔地とのコミュニケーションと情報共有を可能にした。現在も対面とWeb会議を並行して活用している。
これだけではない。社外から社内システムへのアクセスが可能となったことで、テレワークが可能となった。特に技術部門では自宅でも業務が可能となり、休日出勤を削減できたという。共有サーバー内のフォルダーもアクセス権を決めて整理し、セキュリティ面の強化も図った。
ICT&IoT化で生産現場も生産性向上が着々と進む
生産現場でもIoT化を進める。新第二工場にはIoT技術を利用して、ゴム成型機の稼働状況や予定と実績、作業工程の進捗状況が100インチの大画面パネル2台で確認できるシステムを開発した。机上で稼働状況を確認できるほか、機械の様子を見に行くなどの無駄な動きを削減して生産性を向上させた。
漆畑社長は、さらなるIoT化を推進する考えだ。具体的には、業界団体などから要請があるセキュリティ面の一層の強化に加え、クラウド活用により現在は手書きで行っている勤怠管理を生産管理システムと結合させる計画。IoT化についても、これまでのゴム部品製造だけでなく、樹脂部品組み立てなどの他の部門にも拡大していき、IoT&ICT化を経営改革の柱と位置付けている。
組織体質の強化に取り組む。SDGs、健康経営でも認定受ける
漆畑社長は、創業者の親族だったことからそれまでの経営コンサルタントの職を離れて2009年に富士ゴム工業に入社し、2015年に社長に就任した。前職での経験から、「会社組織の体質強化が一番大事」と考え、さまざまな施策を展開している。具体的には、年度ごと、半期ごと、毎月など頻繁に経営計画や部門方針目標、活動成果などをまとめて発表する。経営に関することだけでなく、社内ボウリング大会や社員旅行、忘年会、OB・OGを交えた納涼祭の開催など、全社一丸となるようなイベントも多彩で、「組織体質は出来上がっている」と自負する。
富士ゴム工業の経営手法は、外部からも評価を得ている。2020年度から始まった優良企業を選定する群馬県の「SDGs GUNMA BUSINESS PRACTICE」では2021年度に地域貢献・地域共創型ビジネスとして選定された。適切な能力開発や教育訓練の提供、地域の清掃や催事の運営・参加による地域社会への貢献、廃棄物の削減、災害や事故などの発生時を想定したBCP(事業継続計画)策定などが評価された。
2022年には定期的な健康検診などが評価され、健康保険組合連合会埼玉連合会から「健康宣言証」を受けた。これらは「全て従業員のモチベーション向上のため」(漆畑社長)としている。2日間にわたるハラスメント研修も実施するなど、時流に合わせた従業員教育にも熱心だ。
他の自動車メーカーとの取引拡大狙う。EV向け部品の開発にも乗り出す
漆畑社長は、事業内容の多角化も志向する。具体的には、現在はSUBARU向けの売上比率が90%程度だが、これを「まずは80%にしたい」という。SUBARUへの新たな提案を第一にしながら、SUBARU以外の大手自動車メーカーとの取引は「徐々に取引量は増えている」。特に、自動接着剤塗布機はワゴン車などのスライドドア用部品として使われるため、SUBARU以外の需要もつかんでいるという。自動車用途以外でも、精密ゴム部品で医療や福祉分野の開拓も計画している。
ただ、自動車分野では電動化が進み、「例えばエンジン向けの部品は3割減少する」(漆畑社長)という。一層の電動化の進展に備え、電気自動車用(EV)の専用部品の開発をSUBARUと共に進めている。EV向け部品の地元調達は2028年には始まるため、それまでには開発を終えたい考え。
技術開発力と従業員の能力とやる気を引き出す経営を実践する富士ゴム工業は、「一人ひとりがいい働き方をする」(漆畑社長)環境を整え、次なる飛躍のステップを踏んでいきそうだ。
企業概要
会社名 | 富士ゴム工業株式会社 |
---|---|
住所 | 群馬県太田市脇屋町997-12 |
HP | http://fuji-gomu.co.jp |
電話 | 0276-33-0021 |
設立 | 1965年12月 |
従業員数 | 185人 |
事業内容 | 自動車用ゴム・樹脂部品の開発・製造・販売 |