新しい道の駅ができると旅の虫がウズウズしてきて、出掛けていきたくなりますが、せっかく訪問するならグルメやお土産だけでなく、その土地ならではのものに出会いたいもの。そのための事前情報収集は欠かせませんが、意外と現地に行くまで分からないことも多く、訪問して初めて知ることも少なくありません(それはそれで楽しいですが)。
さらに新規オープンの場所は、設置した背景まで踏み込んで見ていくと、地域のさまざまな特徴や課題も見えてきて興味深いところです。今回は2023年9月2日、和歌山県海南市にオープンしたばかりの「海南サクアス」を、“道の駅キュレーター流の楽しみ方”で紹介していきます。
目次
行く前に知っておきたい、「海南サクアス」はどんな道の駅?
和歌山県36番目の道の駅としてオープンした「海南サクアス」。変わった名称ですが、実は海南の特産品や施設の意図が隠されています。
・さかなの「サ」
・くだものの「ク」
・あそびの「ア」
・そして、市内にある市民交流施設の海南nobinos(ノビノス)のように多くの人が集まる「巣(ス)」。
からその名が付いたのだとか。
全国にはさまざまな名称の道の駅がありますが、訪問前に由来を調べると地元の道の駅に対する思いや、意外な発見もあって面白いです。
道の駅キュレーターが教える、初訪問の道の駅の見逃せないポイント
海南サクアスは、国道42号に隣接。国が管理する、いわゆる直轄国道に面しているので、駐車場やトイレ、情報発信施設などは国の事業として整備されていて、売店やフードコートなど地域振興施設部分が海南市で建設した部分になります。
こういった整備方法は道の駅独特のもので、「一体型(※)」と呼ばれています。自治体側は事業費が軽減できるメリットがある反面、計画から完成まで長い時間と交渉を要するので、道の駅を作りたいと市長が公言しても実際実現できるのは一握りです。外野の我々はあれこれ言うだけですが、担当者の心情を思うと無事完成して胸をなでおろしているんじゃないですかね。
※市町村ですべての整備を行う方法は「単独型」と言います。
今回の立地で特徴的なのが、新規の道路の開通を想定している点です。現在工事が進む、有田市と海南市を結ぶ「有田海南道路」(道の駅までは2025年春開通予定)にも面していて、大型用の駐車場が20台と同じ和歌山県内の道の駅と比較しても多めのスペースを割いています。これは物流や防災のハブとしての機能を持たせようとする意図が垣間見えます。
メイン施設の物産交流館の運営を行うのは、ダイナックパートナーズ。主に施設の管理運営を行う会社ですが、道の駅やサービスエリアの運営も行っています。茨城県「まくらがの里こが」、岐阜県「パレットピアおおの」、奈良県「針T.R.S(テラス)」などで実績がありますね。
今回のように民間企業などが施設の運営を行う場合、「指定管理者制度」という手法が使われます。詳細は各自治体で異なりますが、運営事業者が市に代わって管理を行う制度で、多くの道の駅で導入されている制度です。近年はどこの会社が請け負うかで施設の特色も変わる傾向があり、見逃せないポイントになっています。
海の幸山の幸が揃う充実のショップ
海南サクアスの物産交流館は、大きく分けて3つのエリアにゾーニングされています。
地元の特産品に出会える産直マルシェ
道の駅のある下津町地区はミカンの栽培で知られ、12月頃に収穫したものを1~3カ月貯蔵庫で貯蔵した「蔵出しみかん」が有名です。こうすることで酸味が抜けて甘みが増すとされ、この仕組みは「日本農業遺産」にも認定されています。
旬の時期はもう少し先ですが、みかんジュースがたくさん並んでいました。
意外と知らなかったのが、キッチンまわりで使うスポンジやたわしなどの家庭用品を製造する企業が海南市には多いこと。その始まりはたわしや箒に使う「シュロ」の栽培が行われていたからだといいます。
現在は化学繊維に移行しているそうですが、昔ながらのシュロ製品も販売しています。
イートインスペースで味わう海南のうまいもの
続いては飲食やテイクアウトのエリア。
市内には5つの漁港があるということで海産物が豊富。鮮魚コーナーと飲食コーナーが一体になった「魚盛水産」では、地元漁師直送の新鮮な魚介類が堪能できます。刺身、焼き魚、揚げ魚、あら汁が付いた「魚盛定食」、丼から魚がはみ出してしまうほどの「海鮮丼」など豪華なメニューもありますが、ミカンの皮を飼料に使ったブランド鶏「紀の国みかんどり」の唐揚げ定食や太刀魚のすり身を練りものにした「ほねく」の載ったうどんやそばなども味わえます。
また、その隣にはフルーツを使ったタルトやパフェが味わえる「SHIMOTSU FRUITS」があります。ガラス越しに作っているところを見られるのも昨今の道の駅で流行りのスタイル。市内にある黒沢牧場で放牧飼育されている牛の生乳を使ったソフトクリームもこちらで販売しています。
ちなみにこれらは館内のイートインスペースで味わえます。ガラス張りの明るいスペースにはキッズ用含め100席準備されているので、余程混雑しない限りは充分な大きさです。
ファミリーにもうれしい、のんびり空間
最後に子育て支援設備のエリア。
こちらには「こどものえき(キッズコーナー)」や子ども用トイレ、ベビールームがあり、屋外のかもしばテラスには芝生広場や大きな滑り台もあります。また、周囲は塀で囲われているので広々とした屋外空間でありながら、安心して子どもを遊ばせることができるのも嬉しいところ。
こうした設備は、新しくできる道の駅にはほぼ標準で設置されてきています。これは現在、国土交通省が推進する「道の駅」第3ステージの政策の中にも若い世代の利用促進を目的に加えられていて、徐々に浸透してきている印象です。
子連れで行かないと意外と気づきませんが、道の駅は世代の垣根を越えて快適に利用できる場所になりつつあります。
道の駅キュレーター目線で「海南サクアス」を評価
ざっと海南サクアスの特徴を紹介しましたが、道の駅キュレーター的にどうなの? という部分はあると思いますので、私のお気に入りになる道の駅の傾向と比較して評価してみます。
まず、「地域の食材や商品のストーリーを伝えているか」。
これは海南のフルーツや海産物を前面に押し出して、スペースづくりをしているのを強く感じました。
このあたり運営会社の他地区でのノウハウが活かされていますね。いずれも旬のある食材なので、季節の情報がうまく加味されればリピーターも増えるのではないでしょうか。また、紀州漆器などの工芸品や工業製品など地場産業をしっかりアピールしている点も好印象でした。今後道の駅のイベントなどで連動しても面白そうです。
次に「6次化に取り組み、商品・メニュー開発を行っているか」。
運営の方針なのかもしれませんが、残念ながら道の駅オリジナルの商品は見かけませんでした。逆に地域からさまざまな商品を集めて売り場を作っていたので、既存の業者と競合するのではなく、販売の場として道の駅を活かすイメージでしょうか。ただ、今後業者がこの道の駅でしか買えない商品などの開発をしてくれるかもしれないので、そちらも期待したいです。
最後に「地域の人が集い、拠点として機能しているか」。
これはオープン日しか見ていないので何とも言えませんが、充分その条件を満たす素地は感じました。特に子どもたちが遊べるスペースが確保されていることで、ファミリー層に一定の滞在時間が期待できるのは大きいですね。
まずは、その名前に恥じない道の駅になったのではないでしょうか。
忘れちゃいけない防災機能
この道の駅を語る上でもうひとつ大事な「防災機能」があります。2021年には国土交通省が「防災道の駅」を選定するなど、道の駅の広域防災拠点としての機能が注目されています。海南サクアスにも、発電装置や防災備蓄倉庫、防災トイレなども設置されるなど、有事に備えています。
市内でも2023年6月の豪雨で被害が出たばかり。観光で行くのだから関係ない、と思ってしまうところですが、もしも旅先で被災したときのことを考えると、道の駅がこういった機能を持っていてくれるのは心強いところです。こういった側面を併せ持っているのも新しい道の駅の特徴です。
海南サクアス訪問時の様子は、YouTubeでも紹介しています。こちらも是非ご覧ください。
・道の駅兄弟(YouTube):https://www.youtube.com/watch?v=XT9hnUx3qWs
道の駅「海南サクアス」(和歌山県)
・施設情報ページ:https://www.mobilitystory.com/michinoeki/detail/wakayama/13789/
・公式HP:https://sakuas.com/
・和歌山県の道の駅一覧:https://www.mobilitystory.com/michinoeki/wakayama/
一足伸ばして、海南サクアスの周辺散策を楽しもう
さて、せっかく初めての土地に来たのだから周辺観光も楽しみたいですよね。情報発信施設をのぞいてみましたが、残念ながらパンフレットなどの設置はほとんどなく、ちょっと寂しい感じ(道の駅スタンプは情報発信施設にあります)。
そこで先ほど「産直マルシェ」で見た「紀州漆器」の里を訪ねてみることにしました。四大漆器産地のひとつにも数えられていて、その歴史は室町時代に遡るとされます。市内にある黒江地区には「連子格子」の町屋も残されていて、ちょっとした散策が楽しめます。
黒江には、道路に対して斜めにのこぎり歯状に建っている家並みが今も残されています。これは江戸時代に入江を埋め立てることによってできた平行四辺形の土地に家を建てたためといわれていて、独特の景観を生んでいます。
また、「紀州漆器伝統産業会館 うるわし館」では、漆器の模様に色を入れる「蒔絵」と呼ばれる技法の体験を行うことができます(要事前予約)。展示、販売はもちろん、さまざまな資料も展示してあるので、こちらをのぞいてみるのもオススメです。
地元の期待も背負ってスタートする新しい道の駅
新しくオープンする道の駅は、訪問する側だけでなく、地元の期待も背負ってスタートします。特に近年は民間企業が運営に入るところも多く、地元の魅力をどう伝えるのか、という手法に長けた道の駅が増えました。また、ハードの部分もしっかり考え抜かれて作っていると感じます。
道の駅めぐりをする方の中には、スタンプを押したらすぐ移動みたいな人もいますが、少しゆっくり時間をかけて見ていくだけで見え方は大きく変わります。特に新しくできた道の駅は地域の魅力が探しやすいです(時が経つとだんだん商品やサービスが増えて混沌としてきます)。
ぜひ実際に訪問して、あなたの目でその魅力を楽しんできてください。