
税金を納付すべき期限までに納付せずに放置しておくと、督促状が送られてきたり、場合によっては税務署や国税庁の徴収担当の職員が乗り込んできたりすることもある。それでもまだ放置すると、最終的には財産を差し押さえられる。その財産は競売などによって強制的にお金に換えられ、税金として徴収されてしまうのだ。
今回は、税金の滞納で財産が差し押さえられるときの対処法などについて解説する。
目次

税金の「差し押さえ」とは?税金を滞納すると調査が行われる
給与所得者の場合は、所得税や住民税が給料から天引きされるので通常、税金の滞納が問題になる可能性は少ない。しかし、自営業者や中小企業の経営者、サラリーマンでも副業で一定以上の所得があったり、不動産収入などがあったりする人は、確定申告のうえ納税が必要だ。そのような場合には、さまざまな理由で滞納が生じる可能性がある。
税金を滞納したまま放置しておくと、「滞納処分」が下される。法律上は、納付書や納税通知書に書かれている納期限を1日でも過ぎた場合に滞納となるが、通常はすぐに税務署から取り立てに来ることはない。
まずは、滞納開始から1ヵ月ほどたった後に督促状が送られてくる。それでも払わない場合、電話による督促が行われ、最終的に訪問による徴収の相談へと至るのだ。
長期的に滞納を続けると「財産調査」が行われる
長期にわたり滞納を続けている場合、「滞納者がどのような生活や仕事をしているのか」といった身辺調査や、支払い能力を調べる財産調査が行われる。
そして、財産調査を基に、換価可能な資産があった場合は、財産が差し押さえられる。動産の場合は、自宅や事務所などを捜索される場合もある。その後、差し押さえられた財産は、競売にかけられ、滞納している税金の支払いに充当される。
税金の滞納に関する差し押さえは、通常の民事の債権の場合と異なり、裁判所での判決などの手続きを経ることなく差し押さえが行われる点が特徴だ。
財産調査はどのようなことを調べられるのだろうか。結論からいえば、税務署などに個人情報を丸裸にされる可能性があるといっても過言ではない。なぜなら、財産調査は国税徴収法第141条に定められた権限として「個人情報保護法には抵触しない」とされているからである。
具体的には以下のような内容について調査が行われる。
・勤務先
・取引先の状況
・収入元の状況
・家族構成
・戸籍や住民票の推移の状況
・給料の金額
・所有している動産・不動産・債権、銀行口座およびその取引の内容
・生命保険の契約状況など
金融機関や勤務先に税金の滞納が露見することにもつながり、社会生活にも影響を及ぼすこともある。
差し押さえの対象、対象でないものは?
差し押さえの対象は、銀行口座から給料債権、不動産や自動車、貴金属、棚卸資産、および機械などの動産や生命保険にも及ぶ。しかし、国税徴収法第75条により生活や営業に欠くことができない財産は、差し押さえができないことになっている。
具体的には、以下のようなものは差し押さえができない。
・衣服
・寝具
・家具
・台所用具
・畳および建具
・生活に必要な3ヵ月間の食糧や燃料
・収入を得るために必要な道具(農業のための農機具や、漁業のための船や網など)
・業務に欠くことができない器具
・実印など
給与が差し押さえの対象となった場合は?
給与が差し押さえの対象となっても、給料の全てを差し押さえられるわけではないことをご存じだろうか。給料が全額、差し押さえられてしまうと、生活することができなくなってしまうため、給与の差押の対象になるのは、給与額から税金や社会保険料などを引いた手取り額のうちの、4分の1の金額が上限だ。
したがって、手取り額の4分の3は滞納者である債務者が受け取ることになる。ただし、手取り額が44万円を超える場合には、33万円を差し引いた残額が差し押さえの対象だ。このような給与差し押さえが開始されると、債務の元金と遅延損害金を全額支払うまで毎月差し押さえが継続され、その対象は賞与や退職金にも及ぶ。
住民税を滞納して差し押さえを受けた場合は?
住民税を自分で納付するという普通徴収を選択している場合、納期限までに納付されないと、納期限から20日以内に法令に基づき、市区町村から督促状が送付される。市区町村が督促状を発送した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、いつ差し押さえをされてもおかしくない状態といえる。
電話や文書または訪問により納付の催告をされることもあるが、最終的には財産調査が行われ、財産が差し押さえられる。なお、ペナルティとしての延滞税は、納期限の翌日から加算されるため、本税が完納するまで延滞税が増加し続けることになる。
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!
自己破産すれば差し押さえられても税金は払わなくてよい?
税金をどうしても払えない場合、どのような解決策があるのだろうか。真っ先に思い浮かぶのは自己破産だろう。しかし破産、特に個人の自己破産の場合、税金だけでなく国民健康保険料や社会保険料も免除になることはない。その根拠は破産法第253条にあり、租税等の請求権については破産しても免除にならないことが明確に定められている。
このような債権のことを非免責債権という。法人の場合もこの規定は適用されるが、一般的に法人が税金を滞納している場合は、破産ののち清算して会社そのものがなくなってしまうので税金を払わずに済んでしまうことが多い。
しかし個人が滞納している場合は、破産をしたとしても個人としては生き続けるし、仕事も再開することになる。そのため、非免責債権たる税金や社会保険料については、少しずつでも支払っていくことが必要だ。
税金を支払わなくてもいい?「滞納処分の執行停止」とは?
しかし、例外的ではあるが税金等の滞納を支払わずに済む方法がある。それを「滞納処分の執行停止」という。その請願をすることにより滞納税金を消滅させ、延滞税も含めて納税義務をなくすことが可能だ。
滞納処分の執行停止は、差し押さえる財産がなく「差し押さえを執行することで生活を著しく窮迫させる恐れがある」と認められたときに、国税徴収法153条などの規定に基づき要件を満たす。
認められれば税金の督促をされることはなくなり、国税徴収法第153条4項により通常3年後経過すると税金の納付義務は消滅する。自己破産の手続きを行い、免責が認められると、すでに差し押さえる財産はないため、滞納処分の執行停止も受けられる可能性が高い。自己破産をして滞納税金がある場合は、滞納処分の執行停止について、請願も検討してみてはいかがだろうか。
ただし、自己破産で免責された債務とは異なり3年経過して債務が消滅する前に資力が復活した場合は、当然ながら税金を支払う必要が生じてくる。就職したり仕事を再開したりして一定以上の収入が得られるようになれば、自己破産する前のものに関しても税金はしっかりと払わなければならない。
税金は非免責債権であるが、税金や社会保険料以外に非免責債権にはどのような種類があるのだろうか。
税金以外の「非免責債権」の種類は?
まずは、破産法第253条2項の「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」があげられる。
例えば、故意に他人をだましてお金をとってしまった場合、それに対する損害賠償については、自己破産をして免責されたとしても支払いを続ける義務がある。この場合の悪意とは、積極的な加害の意思と解釈されており、過失によって不法行為となってしまった場合には、免責される。
また、破産法253条3項の「故意や重い過失によって加えた、人の生命や身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」も非免責債権の一つだ。
例えば、故意に他人を殴りケガを負わせたことに対する損害賠償や、著しい不注意が原因で交通事故を起こし、他人にケガを負わせたことに対する損害賠償は免責が確定した後も支払いを継続する必要がある。悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償と異なるのは、積極的な加害の意思にかかわらず重過失による不法行為によって生じたものも免責されない点だ。
そして、破産法253条4項の「夫婦間の協力・扶助の義務、婚姻費用分担の義務、子の監護に関する義務、扶養の義務、またこれらの義務に類する義務であって契約に基づくもの」も非免責債権である。例えば、離婚した子供に対する養育費や日常の生活費などについては、免責が確定した後も支払いを続ける必要がある。
破産法253条5項の「従業員への給料や預かり金」も非免責債権だ。これは、未払いの給料などを免責できるとしてしまうと、従業員は一定期間のお給料が入ることが確保されなくなり、従業員の生活が立ちいかなくなってしまう可能性があることから、その保護のために定められている。
さらに、破産法253条6項にうたわれている「破産の申し立ての際に債権者名簿に記載しなかったもの」についても非免責債権だ。自己破産の手続きにおいては、すべての債権者をしっかりと報告する必要があるため、申し立ての際に裁判所に申告しなかったものについては、免除されない。
「あとから高額の債権者が登場した」とならないように破産の際は、債権者の洗い出しを念入りに行うことが必要だ。
最後に、破産法253条7項の「科料や過料」があげられる。これは、破産してしまえば支払わなくてよいことになれば、科料や過料の制度が無意味なものになってしまう。そのため、しっかりと履行させるべく非免責債権とされている。
税金の差し押さえで生活に困ったら?分割返済を相談しよう
税務署もむやみやたらと財産を差し押さえることはない。連絡をしても応じない場合や納付できる能力があるのにもかかわらず難癖をつけたり、ギャンブルなどに浪費して支払わなかったりする場合は、財産の差し押さえを行う。しかし、支払いの意思があるのに資力のない人の生活を困窮させてまで差し押さえることは少ないだろう。
とはいえ、滞納をそのまま放置をしていては、悪質とみなされて財産を差し押さえられることになるため、税務署や役所に相談に行き、分割返済の滞納計画を策定することが重要だ。場合によっては、かなり長期の返済計画で許容してもらえる場合もあるため、支払いが難しい事情をしっかりと説明し、よく理解してもらおう。
自己破産をして他の債務が免責されている場合については、その事実を証明する「破産手続き開始決定書」や「免責決定書」を提示することが必要である。
しかし、そのような分割計画による支払いは法律に定められた権利ではない。あくまで税務署や役所と納税者の間の信頼関係に基づくものであるため、それさえ延滞してしまうようなことがあれば、財産を差し押さえられても文句はいえないだろう。
再度、延滞の可能性がある場合は、税務署や役所に相談に行くのはもちろんであるが、生活保護の申請をする必要があるかもしれない。役所によって対応が違う可能性はあるが、一般に生活保護期間中は過去の税金の滞納処分停止扱いになり、具体的に請求されることはなくなる。
前述の通り、執行停止になった税金は、ただちに消滅するわけではないが、3年間経過すれば時効となり消滅する。
差し押さえられる前に計画的な税金の納付を
税金の滞納はよく生じてしまいがちであるが、通常、所得税や住民税に関しては所得以上の税金が生じることはない。また消費税に関しても、きちんと預かり金を計算して管理していけば納付できないものではないだろう。もちろん、大型の投資など資金繰りが逼迫するなか、高額の税金が生じる場合もある。
そのような場合に備えて、税金を滞納する前に金融機関や税理士ときちんと相談したうえで、綿密なキャッシュプランを立案していく必要があるだろう。
税金と差し押さえに関するQ&A
Q1.税金を滞納すると、どれくらいで差し押さえられる?
A.税金を滞納したまま放置しておくと「滞納処分」が下されかねない。納付書や納税通知書に書かれている納期限を1日でも過ぎた場合、法律上は滞納となるが、すぐに差し押さえが行われるわけではない。
通常は、滞納開始から1ヵ月ほどたった後に督促状が送られて、それでも支払われない場合には、電話による督促が行われ、最終的に訪問による徴収の相談へと至る。
このように滞納を長期にわたって続けている場合、「滞納者がどのような生活や仕事をしているのか」といった身辺調査や、支払い能力を調べる財産調査が行われる。そして、財産調査を基に、換価可能な資産があった場合は、差し押さえられることになる。
Q2.差し押さえになると、その後の税金はどうなる?
A.差し押さえが行われた場合には、自宅や事務所などを捜索されることもある。その後、差し押さえられた財産は競売にかけられ、滞納している税金の支払いに充当されることになる。税金の滞納に関する差し押さえは、通常の民事の債権と異なり、裁判所での判決などの手続きを経ることなく差し押さえられることになる。
Q3.税金を滞納すると、いつ差し押えられるのか?
A. 滞納開始から1ヵ月ほどたった後に督促状が送られて、それでも支払いがない場合には、電話による督促が行われ、最終的に訪問による徴収の相談へと至る。
このような滞納を長期にわたって続けている場合、「滞納者がどのような生活や仕事をしているのか」といった身辺調査や、支払い能力を調べる財産調査が行われる。そして、財産調査を基に、換価可能な資産があった場合は、差し押さえが行われることになる。
Q4.住民税を滞納すると、どれくらいで差し押さえられる?
A住民税を自分で納付するという普通徴収を選択し、納期限までに納付されなかった場合、納期限から20日以内に、法令に基づき、市区町村から督促状が送付されることになる。市区町村が督促状を発送した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、いつ差し押さえをされてもおかしくない状態といえる。
電話や文書または訪問により納付の催告をされることもあるが、最終的には財産調査が行われ、財産が差し押さえられることとなる。
Q5.税金を滞納すると、何ヵ月で差し押さえられる?
A滞納開始から1ヵ月ほどたった後に督促状が送られて、それでも滞納が継続する場合には、電話による督促が行われ、最終的に訪問による徴収の相談へと至る。
このような滞納を長期にわたって続けている場合、滞納者の身辺調査や、支払い能力を調べる財産調査が行われる。そして、財産調査を基に、換価可能な資産があった場合は、差し押さえが行われることになる。早ければ滞納から2ヵ月前後で財産が差し押さえられることがある。
Q6.税金の滞納で差し押さえられた場合、給与はどうなる?
A.給与の差し押さえの対象になるのは、給与額から税金や社会保険料などを引いた手取り額のうちの、4分の1の金額が上限となる。したがって、手取り額の4分の3は滞納者である債務者が受け取ることになるのだ。
ただし、手取り額が44万円を超える場合には、33万円を差し引いた残額が差し押さえの対象となる。このような給与の差し押さえが開始されると、債務の元金と遅延損害金を全額支払うまで毎月差し押さえが継続され、その対象は賞与や退職金にも及ぶことになる。
Q7.差し押さえの対象となるもの、対象でないものは?
A.差し押さえの対象については、銀行口座から給料債権、不動産や自動車、貴金属、棚卸資産および機械などの動産や生命保険にも及ぶ。しかし、国税徴収法第75条により生活や営業に欠くことができない財産は、差し押さえられないことになっている。
具体的には、以下のようなものは差し押さえができない。
・衣服
・寝具
・家具
・台所用具
・畳および建具
・生活に必要な3ヵ月間の食糧や燃料
・収入を得るために必要な道具(農業のための農機具や、漁業のための船や網など)
・業務に欠くことができない器具
・実印など
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!
文・内山瑛(公認会計士)