地方,強み,活かし方
(画像=PIXTA)

あなたが地方で企業を経営しており、東京で流行っているモノやコトを次のビジネスのヒントにしているなら残念ながら大きな成功は期待しづらいかもしれない。なぜなら最初から東京の二番煎じ(模倣)をベースにした発想では、流行ったとしても当初だけですぐに消費者から飽きられてしまう可能性があるからだ。今回は地方企業の強みや弱み、活躍している企業について解説していく。

目次

  1. グローバルな社会において情報は世界から仕入れる
  2. 地方の中小企業だからこそ、こんな強みを生かせる!
  3. 地方の中小企業特有の弱点はこう克服せよ!
  4. あのニトリに「まねきねこ」のコシダカHD、地方発の高成長企業
    1. 事例1.「お、ねだん以上」のニトリも創業から15年間はローカル企業
    2. 事例2.「カラオケまねきねこ」や「カーブス」のコシダカHD
  5. 事例3.独自の戦略とドミナント出店によって地方で力を蓄え、満を持して全国へ!
  6. 地方には、ニッチな分野でトップシェアを誇る中小企業がズラリ!
    1. 事例1.手術に用いる針で全国生産の70%を握る宇都宮のマニー
    2. 事例2.200年間も変わらなかった技術に革新をもたらした弘前のテフコ青森
  7. あえて静岡以外には手を広げず、常に大行列の「さわやか」
  8. 地方のメリットを活かせる発想の転換がチャンスにつながる

グローバルな社会において情報は世界から仕入れる

過去に通用したアプローチでもインターネット全盛でグローバルに情報が共有されている時代では、地方に住んでいる消費者も世の中のトレンドに極めて敏感である。ネット通販でさまざまなものを取り寄せることも容易で、その場所に足を運ぶ必要のあるサービス業にしても「東京のモノマネにすぎない」と見透かされればそれで終わりだ。

ただシビアな現実は別のことも示唆している。例えば地方企業の経営者も地元にいながらグローバルな規模で最新の情報を敏感に察知できるということだ。東京の流行ばかりを意識していると常に後手に回ってしまいかねない。しかし地球規模で最先端の動向をウォッチしていれば、まだ日本には伝わっていない新たなビジネスのヒントをキャッチできる可能性がある。しかも後述するように地方企業は特有の強みもあるのだ。

地方の中小企業だからこそ、こんな強みを生かせる!

東京への一極集中の裏返しで地方の不動産価格は相対的に割安であることは言うまでもない。あわせて給与水準も東京と比べれば低くなる傾向のため、人件費の面でも在京企業よりも有利であるのも当然だ。加えて地元の事情にも詳しいはずで表面的なマーケティングにとどまらず深掘りした市場ニーズを探ることもできる。

「地域密着」というキーワードは表裏一体だ。油断するとしがらみやなれあいといった呪縛にかかりかねない。しかしプラスに作用させれば個客に極めて近い距離でビジネスを展開できる。新潟県が地盤で農村に積極出店してきたことで知られる大手ホームセンターのコメリは、まさにその典型例といえそうだ。しかも農村には競合があまり進出しておらず小規模とはいえどもその商圏を同社は独占できる。

地方の中小企業特有の弱点はこう克服せよ!

地方企業はいくつかのハンデを背負っていることも確かだ。全国規模のビジネスを手掛けている企業と比べてかなり不利だといえるのが人材獲得。特に新卒採用では苦戦を強いられがちだ。後述するニトリも黎明期には人材獲得に骨を折った様子で創業者の似鳥昭雄氏は現社長(白井氏)を新卒として採用する際に「彼の両親に土下座をして懇願した」というエピソードがよく知られている。

たやすくないからこそ苦労して獲得した人材は忠誠心もおのずと高くなり先々で右腕となる存在に育ちやすいともいえるのではないだろうか?また自分が生まれ育った地域に強い愛着を抱いている新卒学生にターゲットを絞って自社のセールスポイントをアピールし「ともに地元を盛り上げていこう」と働きかけるリクルーティングも有効だろう。

さらに「ふるさと納税制度」を足掛かりに地場の特産品を盛り上げて活性化を遂げている地方自治体が出てきているように、その土地の特色を生かしたブランディングを展開できるのもローカルだからこその強みとなる。

あのニトリに「まねきねこ」のコシダカHD、地方発の高成長企業

トヨタ自動車が代表するように地方発で日本を代表する企業へと飛躍した例はいくつも見つかる。しかも「昔だから可能だった」という話ではないのだ。

事例1.「お、ねだん以上」のニトリも創業から15年間はローカル企業

最近でも地方で産声を上げ急成長を遂げて東証一部市場に上場し国内はもちろん海外にも進出を果たしている企業は少なくない。「お、ねだん以上」のキャッチコピーで知られるニトリがその代表例である。創業者で現会長の似鳥昭雄氏が1967年に札幌で開いた似鳥家具店がそのルーツだ。1975年には日本初のエアドーム建築の店舗をオープンさせるなど当初から奇抜な発想が目立ったものの当初は試行錯誤の連続だった。

本州進出を果たしたのは創業から15年後の1993年。その後の成長ピッチはすさまじく2003年には100店舗、2009年には200店舗に至る。さらに2013年300店舗、2015年には400店舗を達成した。

事例2.「カラオケまねきねこ」や「カーブス」のコシダカHD

「カラオケまねきねこ」を全国にチェーン展開し、さらにフィットネスクラブ「カーブス」で大きな飛躍を遂げたコシダカホールディングスも地方発の東証一部上場企業である。実は、その前身は先代社長が群馬県前橋市で開業した中華料理店「新盛軒」だ。1967年に法人化しバブル崩壊直後の1990年にカラオケボックスを出店。

1993年には「カラオケまねきねこ」の1号店をオープンさせ2010年以降は海外展開も加速させている。しかしここまでの成長をけん引してきたのは、既存の業種にまったく新しい仕組みやサービス・商品を導入し新たな業態を想像していくという発想力だ。例えば「カラオケまねきねこ」の多くの店舗は競合店が撤退した跡地に居抜きで出店。

そしてシニア層をターゲットの中心に捉えて食べ物や飲み物の持ち込みをOKとしたところ開店前から行列ができオープン時間を早めるほどの繁盛となった。

事例3.独自の戦略とドミナント出店によって地方で力を蓄え、満を持して全国へ!

特定地域に集中出店してブランド力を確立させるドミナント戦略。この戦略を利用し地盤を制したうえで全国展開を目指していくパターンは多い。2019年10月にジャスダック証券取引所と名証二部に株式を上場した中華料理店チェーンの浜木綿は、まさにそのスタートラインに立っているといえよう。「浜木綿」「四季亭」「桃李蹊」といったブランドを展開する同社は1967年の創業だ。

名古屋市瑞穂区に個人経営で開いた中国料理「はまゆう(現在の浜木綿新瑞橋店)」がその原点である。以来、愛知県や三重県、岐阜県に店舗網を広げる一方で他の地域にも小規模に進出してきたが株式上場後から大阪府を皮切りに本格進出を図るという。中華料理店チェーンといえば「バーミヤン」や「餃子の王将」などといった大手と激しく競合するように思われがちだ。

しかし浜木綿のビジネスモデルはそれらと大きく異なる。庶民的な中華料理店の多くは個客がメインのターゲットだが、浜木綿は家族連れにフォーカスしているのだ。1皿を大勢で分け合うメニューが主力で野菜をふんだんに用いることで女性からの支持も獲得。すみ分けができているので大手競合店と隣接していても個客を奪い合うようなことにはなりにくいという。

地方には、ニッチな分野でトップシェアを誇る中小企業がズラリ!

必ずしも全国進出を果たす必要はない。組織や事業の規模を拡大することよりも、そのビジネスをとことん極めていくことを志向する経営も考えられよう。よく知られているように日本の企業はその99%超が中小規模で日本経済をけん引している。そして地方の中小企業が世界的な実績を誇っているケースも少なくない。

中小企業庁はホームページ上で「元気なモノづくり中小企業300社」を紹介している。その中の数例を挙げてみよう。

事例1.手術に用いる針で全国生産の70%を握る宇都宮のマニー

1959年に栃木県宇都宮市で創業したマニーは「針のように細くて固い物質をステンレスでは製造できない」という当時の常識を打ち破り世界で初めてステンレス針の製造に成功した。そして手術用縫合針で日本における生産量の70%以上、日本から輸出される90%以上のシェア、歯科用リーマ・ファイルでは世界シェアの30%以上を獲得している。

事例2.200年間も変わらなかった技術に革新をもたらした弘前のテフコ青森

1988年設立のテフコ青森(青森県弘前市)は、時計の文字盤に用いる電着時字のオンリーワン企業だ。実に200年もの間、時計の文字盤を植字という方法で1字ずつ植え付けてきた。しかし同社は熟練工でも 10 分もかかるその作業を独自開発の電着画像技術「貼り時字」で5秒まで短縮し、この分野に革新をもたらしたのだ。

あえて静岡以外には手を広げず、常に大行列の「さわやか」

先述したニトリやコシダカホールディングスは地方で事業を興して全国に店舗網を拡大していった。しかしあえて地方にとどまり、その希少性が爆発的な人気を呼んでいるケースもある。静岡県浜松市が拠点で2020年時点で同県内に店舗網を限定している「炭火焼きレストランさわやか」がその一例だ。同チェーンは東京などからも大勢の人々が押し寄せ大行列が途絶えない。

その看板メニューは、牛肉100%使用で炭火焼きにこだわる「げんこつ・おにぎりハンバーグ」だ。運営主体のさわやかは1976年創業のグリーン観光がそのルーツで翌年には「コーヒーショップさわやか」をオープンし、その主力メニューが牛肉100%の炭焼きハンバーグだった。以来、店舗を拡大していき、1989年には現チェーン店名に変更。2019年10月オープンの浜松遠鉄店で33店舗目となったが、依然として他の都道府県には進出していない。

地方のメリットを活かせる発想の転換がチャンスにつながる

「地方都市は商圏が小さいから」などとハンデを挙げ始めればキリがない。しかしここまで見てきたように地方企業でも大きな成長を遂げてきた企業は数多く存在している。それらの経営者に共通しているのは「地方だから」とあきらめ口調のマイナス思考で捉えず「地方だからこそ」というポジティブ思考でビジネスに取り組んできたことではないだろうか?

いずれは全国区を目指すのか、それとも地元の雄として君臨するのか、ゴールセッティングは個々の企業で異なってくるにせよ地方企業も無限の可能性を秘めているのは紛れもない事実だ。

文・大西洋平(ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら