興行,プロレス市場
(写真=Christian Bertrand/Shutterstock.com)

クチの悪い人は「ブック」のシナリオ通りの「ショー」だと言う。ある人は勝ち負けだけで片付けられない非常に奥の深い「スポーツ」であるという。その試合の開催は「興行」と称される。スポーツや興行であれば、人気や市場といったマーケティング要素を含む事象となる。それが、プロレス。本稿では、そのプロレスを「市場」の視点から斬ってみたい。

  1. 現在のプロレス人気の元となった、とある買収劇
  2. プロレスは、実は「〇〇〇」ビジネスである
  3. これがプロレス市場の構造と市場規模(次稿)
  4. プロレスブランド-金額には出てこないブランドのポジショニングマップ-(次稿)
  5. その資料、「Xビジネスショートレポート」(次稿)

1.現在のプロレス人気の元となった、とある買収劇

昭和時代のプロレスブームから数十年、平成から令和へと世は移り変わり、プロレスが再びブームとなっている。それまで男性ファンがほとんどであったものが、いまでは「プ女子」の言葉に代表されるように、女性やそれまでプロレスに興味がなかった層にも広くその人気が広がっている。
前述したようにプロレスが「興行」、つまりショーである以上は、観客を惹きつけて楽しませなければならない。よってプロレスラーは「見せる」と同時に「魅せる」ことを追求し、日頃からそのために必要な力と技を磨いているのだ。プロレスで一番大切なのは、いかに観客の心に残る試合が出来たかである。それゆえプロレスは格闘技であると同時に、競技としてのスポーツではなく、ショー的要素の強いスポーツ「エンターテインメント」なのである。

興行,プロレス市場

1970年代後半から80年代にかけて、初代タイガーマスクやアントニオ猪木、ジャイアント馬場らに象徴されるように、プロレスブームが沸き起こった(当時の小学生は「ローリングソバット!」と叫んで友達や校舎の壁を蹴ったものである)。だがこのブームはだんだんと下火になり、以降、2012年頃までプロレス人気は長い「暗黒時代」を迎えることになってしまった。
それが現在では、もはやプロレスは一定以上の人気を持つ定番のエンターテインメント「興行」として存在している。理由はいくつかあるが、一番の転機は「ブシロードによる新日本プロレスの買収」である。

2.プロレスは、実は「〇〇〇」ビジネスである

前述した株式会社ブシロードは、「主にカードゲーム、トレーディングカード、ゲームソフト、キャラクターグッズの開発、製作、販売、各種コンテンツのプロデュースを手がける」企業である。プロレスファンには馴染みのない名前であったことだろう。このブシロードが、2012年に突如、新日本プロレスを買収したのだ。
新日本プロレスも決してゲーム会社に対して門外漢ではなく、ブシロードに買収されるまではユークスというゲーム会社の子会社であった。ユークスは家庭用ゲーム機でプロレスのタイトルを開発・販売している会社であり、プロレスがゲームコンテンツと無関係ではなかったのである。
それでは、ゲーム会社からゲーム会社に移籍の形となった新日本プロレスは、どのような変貌を遂げて、プロレス業界に革命を起こすまでの「興行」を行うようになったのであろうか。それはブシロードの新日本プロレスに対する施策に尽きる。それらをひとことで言うと「プロレスはキャラクタービジネス」となる。もう少し咀嚼していうと、「プロレスはキャラクターコンテンツとしての魅力があり、(ブシロードの本業である)対戦カードなどのビジネスに展開しやすい」ということになる。つまり、ブシロードはカードゲームに代表されるキャラクタービジネスの方程式をプロレスに当てはめた、ということである。以降、ブシロードは子会社となった新日本プロレスと所属レスラーに対し、以下のような施策を次々と行っていった。

  • 所属レスラーのカードを用いたプロレスカードゲーム販売
  • ツイッター等のSNSで選手に情報を発信させる
  • スポーツコンテンツとしてネットでの「リアルタイム」中継

等、キャラクタービジネス、ショービジネスの王道の展開を行っている。カードゲームには新日本プロレスの現役レスラーのほか、OBのレスラーや外国人レスラーも入っており、好調な売上を維持している。このカードを使用してオンラインでの対戦もできるのだが、会員登録数は数万人にのぼり、毎日5000?6000人がオンラインで対戦しているとのことである。買収後一年にして、プロレスコンテンツのカードゲームが3億円に到達する勢いであった。キャラクタービジネスの成功はキャラクターの人気のバロメーターでもあり、当然ながらプロレス興行そのものも相乗効果でファンが増えていったのである。

興行,プロレス市場

画像は「新日本プロレス」Webサイトから引用

SNSでの情報発信によってレスラーとファンの距離も縮まった。ショービジネスであるからイケメンレスラーに女性ファン(プ女子)がついたり、試合時の選手の口上(「元気ですかー!イチ、ニ、サン、ダー!」のようなアレ)がある。そうしてカードゲームやSNSでの交流だけでなく、新日本プロレスの興行に足を運ぶファンが増加したのである。実際、新日本プロレスはそれまで売上高10億円、債務超過13億円程度であったものが、ブシロードによる買収後、2016年度の決算では売上高32億円、約4億1000万円の経常利益を出しているのである。

これらの成功を受けて、他のプロレス団体も大なり小なりその「キャラクタービジネス」に追従せざるを得なくなった。これは成功事例のモノマネというより、プロレス業界がその本質である「興行」にようやく回帰したともいえる。結局、このプロレス業界の外の企業による、ひとつのプロレス団体の買収と施策の成功が、プロレス業界全体の体質を変えてしまったのである。

次項では、このプロレスの「市場」に迫ってみる。
(この稿続く)
(依藤 慎司)

関連資料:
XビジネスショートレポートVol.3 プロレス市場
https://www.yano.co.jp/market_reports/R60201101
2018 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60109800

関連リンク:
新日本プロレス
https://www.njpw.co.jp/