煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)

目次

  1. 創業128年の財産は幾多の景気変動を克服した堅実経営で得た信用
  2. 1ヶ月で3,700枚のFAX処理をデジタルでペーパーレス化
  3. 試験運用で予想以上の効果に期待 機能追加も検討
  4. アルミ需要拡大 半導体分野の需要拡大対応と自動車分野への進出に挑戦
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

東京・上野に本社を置く天野アルミニウム株式会社は1895(明治28)年に伸銅品の卸売問屋を開業して以来、今年で創業128年を迎えたアルミニウム専門商社だ。同社は注文書など膨大なFAX文書の共有化と遠隔処理を可能にするためペーパーレス化を進め、複合機とNAS(ネットワーク接続記憶装置)によるドキュメント配信システムを導入。2023年4月からの本格運用に向けてテスト中だが、すでに「想定以上の効果」が見込める段階にきている。2022年3月に老舗の“暖簾(のれん)”を引き継いだばかりの4代目、天野雄太代表取締役社長にICTソリューションによる業務改革の取り組みと将来ビジョンを聞いた。(TOP画像:出庫作業をリフトで行うつくばセンター。顧客のニーズにきめ細かく対応するため平角棒、角パイプなど多様な型材を保管している。)
※取材は2023年3月に行いました

創業128年の財産は幾多の景気変動を克服した堅実経営で得た信用

初代の天野庄吉氏が創業したのは日清戦争に勝利し講和条約を結んだ1895年だ。日本では江戸時代から銅生産量の過半を輸出していたが、この時代には電線や通信線、各種伸銅製品の国内需要が増大して銅市場は活況を呈していた。一方、日本でもこの頃からアルミ製品の開発が始まっており、軽くて加工しやすく耐久性も高いアルミ製品が多様な分野で使われ始めた。

同社も次第にアルミ製品に軸足を移し、1961(昭和36)年に2代目の天野辰雄氏が「天野辰雄商店」から現在の「天野アルミニウム株式会社」に社名を変更した。2年後には独自開発したアルミニウム合金のガードレールを国内で初めて開発し道路関連製品の開発製造に参入。その後、橋梁(きょうりょう)の防護柵でも多くの実績を残した。

煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)
「大きな目標を掲げるより、堅実な目標をコツコツ達成していく」と天野雄太社長。代々続く堅実な経営が同社の強みでもある

創業後、日露戦争や太平洋戦争、幾多の景気の変動を克服し、時代を先取りしながらも堅実な経営が業界でも高く評価されている。国内アルミ製造最大手のUACJをはじめ、古河電気工業など大手との太いパイプも強みだ。取扱量の増加とともに首都圏近郊に営業拠点や加工拠点を拡大し、2022年3月に就任した天野雄太社長はICTソリューションの本格活用で「未来領域への挑戦」に打って出る。

現在の事業内容は、主力のアルミニウム製品の販売・加工のほか、建築器材の販売、伸銅・軽合金の販売など。アルミニウム製品販売は売上全体の8~9割を占める屋台骨だ。 天野社長は、「長い歴史を通して培ってきた顧客との信頼関係が当社の最大の強み」だと強調する。その根底にあるのが顧客の要望にきめ細かく対応できる加工技術や多様な製品群だ。自ら「開発型多機能商社」と呼ぶゆえんでもある。

煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)
800品目もの製品在庫を維持して顧客の要求にきめ細かく対応できる体制を整えている(つくばセンター)

「顧客の提案を聞きながら一緒に開発に取り組んで、メーカーにもかけあえる」(天野社長)存在になっていることで顧客の信用を勝ち得ている。それを可能にしているのが2000年に茨城県土浦市に建設した「つくばセンター」だ。センターには「第1」と「第2」の2棟があり、合計約800品目もの在庫と各種加工設備を備えている。必要な製品を必要なだけというジャストインタイム方式を基本とした在庫管理で、顧客の多様なニーズに即応できる体制を整えている。

1ヶ月で3,700枚のFAX処理をデジタルでペーパーレス化

多品目の製品管理と加工処理は、長年、FAXによる注文書や見積書を受け取ってから作業が動き出す仕組みだった。FAXが業務の起点になるため、付随する依頼書や連絡などの文書を含めFAX枚数は1ヶ月で3,500~3,700枚に上っていた。

膨大なFAX文書を処理するのに多大な労力が割かれる。本社と外勤営業担当や営業所との間の文書やメールのやりとりも煩雑で生産性が上がらず、大きな課題となっていた。新型コロナ感染症の拡大により時差出勤やテレワークを実施した際に、自宅から一連の作業ができない問題が浮上し、業務改革が喫緊の経営課題となっていた。「とにかく(業務の非効率の根源である)紙をなくしたい」と天野社長も考え、ICT活用による業務改革にゴーサインを出した。そして2022年11月にペーパーレス化を兼ねたソリューションシステムを導入した。

煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)
本社オフィスには2台の複合機とサーバー、NAS、パソコンがネットワークで結ばれて配置。FAXで送られてくる注文書の処理もペーパーレスで遠隔操作できる

社内ネットワークに接続したのは、FAXの送受信などに使う複合機、文書データを保存するNAS(ネットワーク接続用記憶装置)、社内のパソコン、そして受信FAXの配信を制御するサーバーだ。サーバーにはFAX受信文書を容易な操作で指定先に送信できるドキュメント配信システムをインストールした。

現在は本社のネットワーク環境で試験運用中だ。複合機が受信したFAXデータは自動的にNASに転送され、フォルダに保存される。担当者は自分のパソコンからNASに保存されているFAXデータにアクセス。データに必要な処理を追加して複合機経由で先方に送信する。FAXで送られた文書データを出力することなくやりとりを行うため、紙の出力・管理は不要になった。

試験運用で予想以上の効果に期待 機能追加も検討

試験運用を担当する営業部の中島剛課長によると「テスト中なので時間短縮効果はまだ計れないが、慣れれば作業時間は相当に短縮できそう。省力化効果もかなり期待できるし、紙の削減効果は大きい」。想定していた以上に導入効果が見込めそうで一安心の様子だ。近日中には最終テストを終えて本格運用を始めたい考えだ。 試験運用の状況をみた天野社長は「私が予想していた以上の効果がありそうだ」と驚き、早くもソリューション機能の追加を考えている。現在検討しているのは文書で保管してある製品の詳細な成分表などからなる「材料証明」1万4,000枚のデジタル化だ。

煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)
成分の違いや加工処理など細密な製品化技術と即納体制で高い競争力を持つ

材料証明は顧客の細密な要求に応えるために不可欠な金属材料成分の正確な成分量データベースであり、現在は営業現場からの求めに応じてコピーをFAXしたりスキャンして転送している。これをNASに保管しておけば、遠隔地の営業所からでも必要に応じて容易に材料証明を取り出すことができる。

アルミ需要拡大 半導体分野の需要拡大対応と自動車分野への進出に挑戦

そのほかにも専用のフォーマットに打ち出している請求書をメール配信に切り替えるなど、紙を使う業務の改革が残されている。「来年には取り組みたい課題」(天野社長)と考えており、ドキュメント配信システムとNASを中核とした業務改革の取り組みは来年以降も続きそうだ。

同社は2017年には加工製品事業部を「AAGエンジニアリング株式会社」として分社した。製品販売の天野アルミニウムを支える製品加工と施工の専門部隊として力を合わせて事業拡大を目指す。

煩雑なFAX文書管理を撤廃、完全ペーパーレス化へ配信システム活用 天野アルミニウム(東京都)
加工処理を別会社化し、分業体制で事業拡大に乗り出す(写真はアルミ板の裁断)

日本アルミニウム協会は、脱炭素や持続可能な社会が叫ばれる中、リサイクル率が高く再加工しやすいアルミ加工品の需要は2050年まで増加が続くと予想されている。技術革新の激しい半導体業界や自動車業界でもアルミ採用はさらに進む見通し。天野アルミニウムは半導体市場の成長をにらみ半導体製造装置用途の拡大に期待。「自動車分野はこれから狙う」と新規事業分野参入にも意欲をみせる。130歳近い長寿企業の「未来領域への挑戦」をICTソリューションが支える。

事業概要

会社名 天野アルミニウム株式会社
本社 東京都台東区上野3丁目7-5
HP https://www.amano-alumi.com/
創業 1895年7月1日
従業員数 50人
事業内容 アルミニウム製品の加工・販売、伸銅・軽合金、建築器材の販売