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産経ニュース エディトリアルチーム
従業員の負担軽減を目的にICTを積極活用している建設会社がある。本州と四国をつなぐ瀬戸大橋を臨む香川県綾歌郡宇多津町の企業団地に本社を構える開成工業株式会社だ。2022年にはAI(人工知能)技術とOCR(Optical Character Recognition=光学的文字認識)を融合したAI-OCRのクラウドサービスを導入し、月末に集中する請求書のデータ入力業務を効率化している。(TOP写真:開成工業が整備を担当した香川県の豊中観音寺道路)
70年近くにわたって香川県のインフラ整備に貢献
開成工業株式会社は1954年に防塵(じん)剤を扱う会社として創業し、香川県を中心に道路工事や防護柵などの交通安全設備、標識の設置などを担い、成長してきた。街に潤いを与える景観施設の設計、施工にも力を入れている。2022年度には同県仲多度郡まんのう町のまんのう公園の施設補修工事、同県高松市の公渕森林公園のフェンス改修工事を手掛けた。歴史を物語るように社内にはこれまでの実績に対する数多くの表彰状が並んでいる。
ICTの力を借りて働く人の可能性を広げる。自動化できる仕事は機械に任せて、働く人は創造的な仕事へ
開成工業は、近年、ICTを積極的に導入して事務の業務効率化を進めている。定型業務に携わる従業員の負担軽減を目的にICTを活用している。
「パソコンでの手作業での入力をはじめとする定型業務は、手間と時間がかかるため従業員の心身を疲弊させます。従業員が、人だからこそできる創造的な仕事に時間を使えるように、自動化できる仕事はICTや機械に任せていきたいと考えています。従業員の心身の疲労が少なくなるだけでもICTに投資する価値は十分にあると思っています。ICTの力を借りることで働く人の可能性を広げていきたい。従業員の負担軽減と会社の業績向上という二兎を追う上で鍵となるのが社内業務のDXだと思っています」と開成工業の本社で取材に応じた西本正美取締役は話した。ソリューションを提供する企業が主催するセミナーなどを通じて積極的に情報収集に取り組んでいるという。
開成工業は、従業員が、育児や介護と仕事の両立に余裕を持って取り組める環境を整えていかなければならないと考えている。仕事はもちろん大切だが、仕事に追われるだけで毎日が充実していないのであれば本末転倒だ。従業員に仕事でも私生活でも余裕を持つことで新しいことに取り組んでいってほしいとの考えをもとに社内業務のDXに取り組んでいる。
2022年、請求書の読み取りにAI-OCRのクラウドサービスを導入
直近で導入したのが、帳票の読み取り用に開発されたAI-OCRのクラウドサービスだ。2022年2月に導入し、担当者が3ヶ月にわたって実際に使いながら検証を行い、同年5月から本格的な活用を開始。毎月、取引先から送られてくる工事用車両のリース代や燃料代などの請求書をデータ化して販売管理システムに入力する作業を効率化している。
請求書をスキャンするだけであっという間に文字をデータに変換。請求書の処理時間が半分に減った
AI-OCRのクラウドサービスを活用することで、取引先から送られてきた紙の請求書をAI-OCR機能と連動した複合機でスキャンするだけで、あっという間に手書きなどの文字をデータに変換することができる。その後の作業は、データを販売管理システムに取り込むだけで済むようになったので、毎月の請求書の処理業務を以前の半分以下の時間で終えることができるようになったという。手作業が減った分、ミスの発生も大幅に減り、開成工業は社内業務のDXをこれから先も推進していくにあたり、大きな手応えを感じている。
AIの機械学習で使えば使うほど文字の認識精度が高まる
OCRは画像データの中のテキスト部分を文字データとして認識して読み込む技術。決められたパターンの範囲内で文字や数字の識別を行うため、項目と文字や数字の関連付けは人間が行う必要があるほか、決まったフォーマットの帳票にしか対応できないなど一定の制約がある。
その点、手書きを含む様々な文字の形を機械学習するAI技術を組み合わせたAI-OCRは、従来のOCRよりも文字認識の精度や読み取った情報と項目を関連付ける機能が向上している。一度、文字や数字を読み間違えたとしても、その間違いをAIが学習して進化し続け、使えば使うほど文字認識の精度が高まる機能を備えている。
AI-OCRで毎月の請求書処理の心理的プレッシャーから解放された
AI-OCRのクラウドサービスを導入する以前、営業部の担当者は、毎月、締め日の20日以降に取引先から届く請求書データの入力作業に追われていた。請求書の枚数は平均約50枚にのぼり、多くが必着日ぎりぎりに郵送で届く。営業部の担当者は、月末までのわずかな日数で各請求書の詳しい内容を現場の担当者に確認した上で販売管理システムへの入力作業を終えなければならなかった。間違いが許されない数字を扱う仕事ということもあり、心理的プレッシャーも大きかったという。
その状況がAI-OCRの導入後は一変した。請求書の仕様は取引先ごとに異なっているが、AI-OCRは正確に読み取ってくれる。営業部の担当者は、毎月追われていた入力作業から解放されて、数字の確認に専念するだけで済むようになった。月末は請求書の処理にかかりきりだったのが、時間をかけずにできるようになったので、取引先に送る請求書の作成など他の業務を前倒しでできるようになるなど様々な効果が生まれた。
AI-OCRを使い始めた当初は、請求書に書かれた手書きの数字を正確にデータに変換できるか若干の不安があったが、使い慣れるにつれて信頼がおけるようになり、当初は時間をかけていたチェックも現在は効率的に行っている。負担が減ったことで子育てにも余裕を持って取り組めているという。
2019年に給与計算と連動した勤怠管理システムを導入。作業負担が9割減
開成工業はAI-OCRのほかにもICTを導入している。2019年6月には給与計算システムと連動した勤怠管理システムを導入。従業員が各自のICカードを読み取り機にかざすだけで出勤や退勤の時間を記録、集計し、給与計算システムに反映できるようにした。
導入前は、出勤記録をもとに従業員の出退勤時刻、残業時間、休日出勤、欠勤の情報をまとめた勤怠表を作成してから給与計算システムに手入力していたが、システム導入後は、導入前の1割程度の時間で作業が済むようになっただけでなく、転記ミスの心配もなくなり、従業員のストレスも大きく減ったという。
従業員のスキルアップを奨励 人材育成にもICT活用を検討
開成工業は、技能講習や資格試験の費用を会社が負担するなど従業員のスキルアップを奨励している。今後、人材育成面でもICTの活用を視野に入れている。今後、ICTを活用することで、未経験の人でも以前より短い期間で仕事に必要な技術と知識を習得できるようにしていきたいという。
社会全体のデジタル化に積極対応
開成工業は、2022年に電子帳簿保存法が改正されるなど社会全体で業務のデジタル化が進む動きを歓迎している。請求書をはじめとする文書のやりとりをデジタルで行うことがスタンダードになれば、現在行っている紙をスキャンする作業も省くことができる。発注先、受注先の了解を得ながら紙文書でのやりとりをデジタルに切り替えていきたいと考えている。
従業員の負担軽減と業績向上をICTの活用によって両立することを目指す開成工業。地域の建設業界のDXを先導する役割にも期待がかかる。仕事の進め方をアナログからデジタルに変えていけば建設業界そのものが働く人にとって魅力的な方向に変わっていくことを開成工業の取り組みから実感した。
企業概要
会社名 | 開成工業株式会社 |
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本社 | 香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁1番地 |
HP | http://www.kaisei-k.co.jp/ |
電話 | 0877-49-2211 |
設立 | 1965年11月(創業:1954年10月) |
従業員数 | 45人 |
事業内容 | 土木事業、とび・土工、電気、舗装、塗装、造園、建築関連の各工事業 |