老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)

目次

  1. 始まりは個人営業。公共工事が発展の基礎となった
  2. 「街の電気屋さん」で新市場開拓、法人需要にも注力
  3. 社員の幸せを最優先に考えてこそ顧客を大切にできる
  4. 社員が50人の縦糸型組織と社員の高齢化の課題にメス
  5. 縦糸組織に横糸を入れるためデジタルツールを積極活用。会社の状況を把握するためのBIツールも導入
  6. 社員スケジュールの見える化で、時間外労働時間の上限規制にも対応。業務改善にも取り組む
  7. 再エネ分野の事業拡大の手始めとして太陽光発電の強化に取り組む
  8. 何があっても倒産しない会社にするために、経営理念の徹底と経営方針の実践を行う
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
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中村電設工業株式会社(埼玉県さいたま市)は創業の地、埼玉県幸手市を中心に各種電気設備工事の設計・施工事業を展開している老舗企業だ。来年に創業60年を迎える歴史の中で培ってきた技術と実績の積み重ねで地域の信頼を得て事業を拡大してきた一方、現状に甘んじることなく新規事業にも取り組む。社員全員の価値観を共有し、業務品質向上とチームワークの深化を目指し、業務革新も意欲的に進めている。(TOP写真:新規事業拡大に意欲的な中村康宏代表取締役)

始まりは個人営業。公共工事が発展の基礎となった

老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)
中村電設工業の中核拠点である幸手支店の社屋(埼玉県幸手市)

中村電設工業株式会社は1964年、個人営業の「中村電気商会」として幸手市(当時は幸手町)で創業した。高度経済成長下で住宅が増え続けた時代で、住宅の配線工事を手掛け、業容の拡大に伴い1970年に中村電設工業を設立した。 事業を押し上げたのは公共工事で、幸手市の人口増により小中学校の校舎や体育館、公民館などの建設が相次いだ。現在は公共工事のほか建設会社から請け負う大型工事などで配線や照明の器具付けなどの工事を手広く手掛けている。

「街の電気屋さん」で新市場開拓、法人需要にも注力

中村康宏代表取締役は創業者の長男、いわゆる「二代目」で、2014年就任以降、新規事業や業務革新に意欲的に取り組んでいる。その一つが一般家庭から企業まで電気に関する「困りごと」を解決する「住まいのおたすけ隊」の事業だ。これは島根県松江市に本社を置く電設工事会社の島根電工株式会社が展開するフランチャイズ事業で、2015年に加盟した。

その内容は、昭和の時代には当たり前だった「街の電気屋さん」の役回りで、電球、照明器具の取替、LED照明への交換から台所や風呂場の換気扇取替、コンセントの増設、ブレーカー交換、テレビアンテナ工事などのサービスを提供する。中村社長は「公共工事や建設会社の下請けというこれまでの手法では将来は見通せない。新しいお客さんを作っていきたい思いでスタートした」と話す。

「住まいのおたすけ隊」と同じ発想で、法人需要の開拓にも取り組んでいる。幸手市周辺は工業団地が多く、生産ライン変更や新しい設備機械の据え付けなど製造業に設備投資の動きが常にあり、こうした企業を「継続的な大切な一人のお客様」として捉え、工事に取り組んでいる。

社員の幸せを最優先に考えてこそ顧客を大切にできる

中村社長がなぜ島根電工のフランチャイズになったか。島根電工は、全国的にも有名な会社で2021年、第11回日本でいちばん大切にしたい会社大賞「中小企業庁長官賞」を受賞。企業が大切にすべきものとして、1番目に「社員とその家族」、2番目に「取引先の社員とその家族」、3番目に「お客様」、4番目に「地域社会」、5番目に「株主」の5つを掲げている。この賞は、人を大切にし、人の幸せを実現する行動を「継続して実践している会社」の中から、その取り組みが特に優良な企業が選ばれるというもの。中村電設の経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求すると共に、地域・社会の進歩発展に貢献する」と一致する。その島根電工がまだ全国的に有名でない2015年にフランチャイズに参加している。

社員が50人の縦糸型組織と社員の高齢化の課題にメス

老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)
幸手支店2階の事務フロア

中村社長は、入社前に建設会社の営業として約10年勤務した後、同僚と不動産会社を立ち上げ13年程携わってきた。それが中村電設工業を継ぐこととなり、「電気のことはわからず、経営者としてできるのは採用や人材育成、マーケティングだ」と考えた。

中村社長は「家族経営の会社と違い当社は社員50人を超える規模なので、工事担当は工事だけ、営業担当は目先の営業、女性はただ事務だけの〝縦糸〟で括ったままの業務を続けていては、会社運営がバラバラになってしまう。規模が大きくなればなおさらで、組織を一体化する〝横糸〟となる存在が必要になる」と話す。横糸として重視したのが「コミュニケーション」と「教育」の改善で、部門の垣根を越えて組織の一体感を生み出すことをスタートした。

中村社長は組織運営上のもう一つの問題点として「社員の年齢構成がいびつになっている」点を挙げる。今年4月入社で大卒6人を採用し、新卒採用をここ3年継続してきた結果、「社員の最大勢力は20代と10代」と大きく若返った。実際、新体制に切り替わった当時に社員の平均年齢は54歳だった。8年後の現在、社員の平均年齢は41歳と急速に低下した。半面、30代社員は極めて少なく、60代と40代が残る主流となっている。この世代間ギャップが社内コミュニケーションの円滑化に障害になってきた。

縦糸組織に横糸を入れるためデジタルツールを積極活用。会社の状況を把握するためのBIツールも導入

老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)
幸手支店の事務フロアに設置された大型モニター

社内コミュニケーション円滑化と業務革新にはデジタルツールの活用が不可欠とし、その手始めとして2015年に業務用に支給している携帯電話をすべてスマートフォンに切り替えた。同時に、一部社員との間でビジネスチャットが広まった。次第に「メールより便利、使いやすい」との見方が社内に広がり、タブレット端末を支給した

ビジネスチャットは瞬く間に定着し、今ではビジネスチャットなしでは社内でコミュニケーションをとるのが難しい状況になっている。さらにビジネスチャットと連携して現在、活用されているのがクラウド型生産性向上のグループウェアで、「これにより情報のマニュアル化や標準化がだいぶ進んだ」と中村社長は語る。

さらに、自社が持つさまざまなデータを分析、見える化し、経営や業務に役立てるBI(ビジネスインテリジェンス)ツール※の取り組みも始めた。(※BIツールとは、企業に蓄積されたデータから経営やマネジメントに必要な情報を取り出すツール。主に表やグラフで表示される)

「住まいのおたすけ隊」のフランチャイズ事業が提供する基幹システムにより、見積りや受注工事などのデータはすべて電子化されるようになり、「会議でそのデータを可視化して、これまでの勘と経験に頼ってきた手法から合理的で説得性のある判断につながるような流れがようやくできつつある」(中村社長)。また、法人需要の開拓に向けても、営業担当が訪問した企業などの「生の声」を社内で共有化できるようにクラウドサービスを活用し、情報を日々蓄積していく仕組みを取り入れている。

社員スケジュールの見える化で、時間外労働時間の上限規制にも対応。業務改善にも取り組む

老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)
社内で情報を共有化するため幸手支店内には複数のモニタが設置してある

業務の平準化、標準化を加速するのは、このほかに大きな理由がある。改正労働基準法により建設業にも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「2024年問題」が迫っているからだ。規制に直結する社員の勤怠管理はクラウド型のシステムを5年程前に導入しており、クラウド上で出退勤や残業時間の集計が可能になった。

2021年11月に幸手支店を移転・新築して以降は業務効率化を一段と加速している。中村社長は「社員が増えれば増えるだけどうやって生産性を上げるかを考えなければならない。それには社員一人ひとりのスケジューリングが重要になる」として、工事現場での社員のスケジュール管理を見える化できる大型モニタを導入した。社員のスケジュール管理については共有カレンダーを既に活用しており、これを再デザインしたスケジュール管理ツールを新たに導入し、それまでホワイトボードに書き込んでいた内容を日々更新し、モニタで確認できるようにした。

大型モニタ以外にも幸手支店の事務フロアには複数のモニタを設置しており、社員が今月何時間の時間外労働をしたかなどを把握でき、時間外労働の上限規制への対応も図っている。

また、Web会議システムも導入し、毎週実施している会社方針の勉強会などに活用している。従来は社員が朝に出社して参加していた形を夕方の開催に変え、しかも工事現場から遠隔で参加できるようにした。社員教育用に現場の状況を映像と音声でリアルに確認できるウェアラブルカメラを導入した。

業務運営にICT(情報通信技術)を積極活用するのは「情報の共有化が最大の目的」と中村社長は語る。事業の性格上、現場は分散しており、従来のようにメールやUSBメモリでのやり取りでは非効率で、社内のサーバに遠隔でデータを入力できる設定とし、社内での情報の共有化を図っている。

再エネ分野の事業拡大の手始めとして太陽光発電の強化に取り組む

今後の事業展望について、中村社長は再生可能エネルギー分野の開拓を挙げ、「政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、当社が培ってきた技術や研究が貢献できるチャンスと捉え、一昨年から太陽光発電の準備を進めてきた」と話す。太陽光発電関係はこれまでも施工実績はあったものの、受注した公共工事の中に含まれていた程度だった。「今後はカーボンニュートラルの波にしっかり乗っかって取り組んでいく」と再エネ関係への事業拡大に意欲を見せる。

また、現在は幸手市周辺の地域限定にとどまっている「住まいのおたすけ隊」や法人需要開拓の新規事業について、今後は市場規模が大きい本社のあるさいたま市での展開を計画している。

何があっても倒産しない会社にするために、経営理念の徹底と経営方針の実践を行う

老舗の土台に安住することなく組織の若返りと業務革新、新規事業拡大で新たな挑戦へ 中村電設工業(埼玉県)
幸手支店の事務フロアには創業者の写真とともに企業理念が掲げられている

中村社長には会社を引き継いだ直後から抱いてきた「何があっても倒産しない会社として継続していかなければいけない」という強い信念がある。支払手形決済を廃止し、老舗企業でありながら組織の一体感を引き出す新たな仕組み作りを矢継ぎ早に進めている。既存事業に安住することなく新規事業に取り組む姿勢に「社員が本当にこの会社に勤めてきてよかったという会社を作りたい」と考えたに違いない創業者の意志を尊重し、それを受け継ぐ覚悟がにじむ。

それは経営理念の「全従業員の物心両面の幸福を追求すると共に、地域・社会の進歩発展に貢献する」であり、経営方針に具体的に記されている。

わたしたち中村電設工業は、社員全員とお客様のよりよいいまとこれからのため、次の3つの経営方針にのっとって、日々、活動をつづけています。 1.わたしたちは、社員とその家族の幸福を願い、夢の持てる会社でありたい。 2.わたしたちは、お客様の期待をこえる工事、サービスを追求し、お客様から強く必要とされる会社でありたい。 3.わたしたちは、変化を恐れず、革新を続ける。

バブル崩壊後、大企業では欧米流の株主優先主義がはびこり、社員がないがしろにされるケースも見てきた。中村電設工業のように、社員を最も大切にする企業こそが次の時代を創っていく、そんなことを強く思った。

企業概要

会社名中村電設工業株式会社
住所埼玉県さいたま市岩槻区本町6-5-22
電話048-758-5588
HPhttp://www.nakamura-densetu.co.jp/
設立1970年10月
従業員数50人
事業内容各種電気設備工事の設計・施工