産経ニュース エディトリアルチーム
埼玉県富士見市に本拠を構えるNPO法人あおい糸は、障害者への在宅支援を中心に相談支援・訪問介護、小規模保育所、訪問看護など幅広く活動を行い、子どもから高齢者、障害者が住み慣れた地域で安心して暮らせるための環境づくりに力を入れてきた。利用者の介護情報を共有化することで業務効率化を推進しており、さらにコロナ禍をきっかけに職員のテレワークを導入。最新のICTで利用者の個人情報を的確に管理している。(TOP写真:多様な人が助け合う地域社会の実現を目指すNPO法人あおい糸のスタッフ)
「セキュリティ分野でもめ事がないよう」専門家の意見を積極的に採用
NPO法人あおい糸の開設者、関光弘常任理事(65歳)は40代の頃に障害者入所施設で施設長を務め、障害者の就労支援事務所を立ち上げた後、2009年にあおい糸を設立した。現在、「訪問介護」「訪問看護ステーション」「児童発達支援事業所」など計14施設を運営しており、子ども食堂にも携わっている。
課題は、サービスが細分化されるにつれ、取り扱う個人情報が多岐にわたってきたことだ。サービス利用者の氏名、生年月日、住所、病歴などのほか、ケアプランに記載される内容も含まれる。とくに介護福祉士には法律で守秘義務が定められており、国は医療・介護事業者における個人情報取り扱いのためのガイダンスを定めているほど。2017年5月からは、小規模の施設も個人情報保護法の対象となった。
とくにサイバー攻撃による個人情報漏洩(ろうえい)に関しては、法人自ら身を守るしかない。関さんは「本来の福祉業務に集中するため、素人であるセキュリティ分野でもめ事がないようにしたい」と考え、積極的に専門家の意見を採用してきた。
関さんの背中を押した出来事があった。2020年夏、業者に依頼して社内ネットワークなどへの不正アクセスについて調査したところ、深夜から早朝にかけて想像以上のサイバー攻撃を受けていたことが判明した。攻撃者の意図はわからなかったというが、施設利用者の個人情報が狙われた可能性もあった。同年9月には、不正アクセスを遮断するファイアウォール、パソコンなどの端末へのコンピューターウイルスの感染を防ぐアンチウイルスなどの機能を併せ持つ「UTM(統合脅威管理)」を大型拠点(6拠点)に導入し、万全を期した。
テレワーク対応で従業員の勤務状況を「見える化」 勤怠管理にもメリット
同じ頃、新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)し、国を挙げてテレワークが推奨された。あおい糸の各施設でも、経理担当者やケアプランの作成担当者など、サービス利用者との接触が少ない職員のテレワークを導入することになった。
自宅、カフェなど会社以外の場所で仕事をする機会が多くなれば便利になるものの、会社支給のパソコンを社外に持ち出すことにはさまざまなリスクが伴う。パソコンなどの端末の紛失や盗難に伴う情報漏洩もありえる。関さんは「直接自宅から訪問先に行った時にノートパソコンをなくしたら困る。まずはセキュリティのためノートパソコンに情報を残さないようにする」と考えた。
そこで2021年3月からテレワークでもノートパソコンに情報を入れる必要のないクラウドシステムを導入した。関さんは「クラウドにすることで、セキュリティ対策だけでなく、職員一人ひとりのパソコンのログからアクセス状況が分かるので、勤務状況の把握が出来る事もメリットだった」と導入の理由を説明する。
あおい糸の正職員約60人にパソコン各1台を支給したほか、テレワークが必要なパート職員にも配った。65歳以上の職員が2割以上占める職場環境にも配慮し、パソコンに苦手意識を持つ職員は、許可を受ければパソコンを使用しないテレワークも可能とする規程を作った。毎日、紙の報告書を事務所に提出する仕組みだ。まだ適用者はいないものの、ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる中、「地域福祉とはいろんな人がいて当たり前なんだ」(関さん)というあおい糸の思いが伝わってくる。
「いつでもどこでも」情報、記録を確認 職員間の情報共有が加速
セキュリティシステムの導入をきっかけに、施設職員によるICTを活用した情報共有が加速した。職員は、外出先からノートパソコンを使って業務連絡や介護記録、勤務スケジュールなどの内容を確認する。現場への直行直帰が多い訪問看護の現場では、これまで、事務所に保管してある利用者の過去の記録を確認するために途中で事務所に立ち寄る必要があったが、「いつでもどこでも」記録を確認できるようになり仕事がしやすくなった。施設のパソコンのリモート操作を事務局の担当者が自席から行うため、トラブルの際にわざわざ施設まで行かなくて済むようになった。用件があれば、職員とオンラインでミーティングを行う事が可能になった。
とはいえ、これからの課題もある。あおい糸では、職種によってシステムが異なるため相互のデータ連携ができない。たとえば、ケアプランを作成している利用者があおい糸の運営する訪問介護サービスも利用している場合でも、連携は難しいという。この連携に今後取り組む予定だ。
将来、人型ロボットとチャット型AIの組み合わせにより、新しい産業革命をもたらすことが期待されている。関さんはチャット型AIが使えるようになれば、ケアプランや介護計画、看護計画、子どもの支援計画が簡単にできてしまう。近い将来、福祉業界が変わってくる」とみる。
あおい糸は埼玉県が進めるSDGsパートナーに登録され、子ども食堂の運営にも携わる。多様な人が助け合う地域社会、働き方を実践していくうえで、これからもICTを有効に活用していく考えだ。
企業概要
会社名 | NPO法人あおい糸 |
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事務局 | 埼玉県富士見市羽沢2-5-48 |
HP | https://www.aoiito.com/ |
電話 | 049-293-1910 |
設立 | 2009年1月 |
従業員数 | 120人 |
事業内容 | 障害者への在宅支援・相談支援、訪問介護、小規模保育所、訪問看護 |