日清オイリオグループは日本国内に4工場を構え、高品質な製品を市場に供給している。
中でも横浜市の横浜磯子工場は搾油、精製、パッケージングまで一貫して行う工場として世界最大規模を誇る日清オイリオグループの主力工場だ。夏休みの特別企画として、2019年以来4年ぶりに工場見学「食用油ができるまで」を実施することになったが、再開を待ち望む声も多かったことから、予約開始後わずか30分で埋まったという。
工場見学では、食品工場充填室の見学施設などを通じて、原料の搬入から食用油ができるまでの工程が学べる。本紙・大豆油糧日報は今回、普段は公開していない圧搾抽出工場を含めて見学し、4月に就任した森貴幸横浜磯子工場長に抱負と今後の方針について話を聞いた。
横浜磯子工場は1963年創業を開始した。敷地面積は約23万3,100平方メートルだ。横浜駅からJRで約15分の都心部に近い好立地でありながら、東京ドーム5個分の広大な敷地内には191本のサイロが設置されており、大豆換算で約11万tを貯蔵することができる。
海外から輸入された原料が届く船着き場には、最大8万5,000t級の大型船が接岸できる。貨物船の船倉には大豆や菜種がバラ積みされており、荷揚げの際には2機のアンローダーで1時間当たり大型サイロ1本分に相当する約1,000tが吸い上げられる。内航船もミールと油を運ぶ船を同時に2隻の停泊が可能だという。
搾油する原料種子は大豆と菜種をメインに取り扱っている。原料使用量は1日3,000t規模で、日産処理量は4工場で最も多い。24時間3交代制で操業し、基本的には全て自動化されている。中央操作室のモニターで各工程に異常がないかを監視している。
搾油圧搾工場へは、サイロから菜種が運ばれてくる。前後処理工場と中処理工場に分かれており、予熱・乾燥工程で大型の乾燥機を使って菜種の水分を飛ばし、精選工程で茎やサヤなどの夾雑物を、ふるいで取り除いている。丸い菜種はそのままでは油を取り出しづらいため、粗砕・圧扁工程で細かく砕いてフレーク状に押しつぶしている。大豆の油分は約20%と低いため、圧搾せずにフレーク状にして直接溶剤をかけて抽出している。
一方、菜種の油分は約40%と高い。3台備える圧搾機でまずは7割ほどを物理的に搾り、残りの3割は溶剤をかけて抽出している。溶剤は熱を加えて回収し、リサイクルしている。抽出された原油には不純物が含まれているので、脱ガム工程で遠心分離機によってガム質や遊離脂肪酸などが取り除かれる。脱色、脱ロウ、脱臭工程を経て、窒素ガスが入ったタンクに貯蔵される。
その後、充填工程へと進んでいく。なお、大豆や菜種のミールは、粒度や水分を調整し、肥料や飼料の原料となる。周辺には飼料工場がないため、内航船で東北や北海道に運ばれていく。一部はトラックで出荷されている。
〈世界トップクラスの精製能力、充填室のある食品工場は見学通路に〉
精製工場の精製能力は1日約1,000tで、世界トップクラスだ。「日清キャノーラ油」(600g)換算で約100万本分となる。精製後に製品タンクに送られ、食品工場で容器に充填していく。
食品工場は見学施設になっており、入口では充填工場に入るまでに踏む手順が説明されている。入場の際には事前登録されている顔認証でドアが開く仕組みだ。
異物混入を防ぐための安全安心を徹底しており、ユニフォームにはポケットがなく、体毛が落ちないように袖口はゴム袖になっている。手洗い後、風速25mのエアシャワーでユニフォームに付着しているゴミを飛ばしてから工場に入っている。
充填室は、陽圧という圧力を変化させることで空気の流れを管理し、クリーンな環境を維持している。見学ラインから見て手前に家庭用製品のラインが、奥にギフト製品のラインが設置されている。まず隣の資材室から容器が供給される。コンベアから充填室に送られていき、容器を洗浄・充填・打栓していく。充填機は大容量の容器にも対応できる。異物検査では画像処理にかけ、キャップシール装着、ラベル装着、仕上げの工程を経て、検査後に再び資材室にコンベアで運ばれた後に箱詰めされる。
業務用のラインは資材室にある。資材室内に陽圧化した充填室を設けており、BIB(バッグ・イン・ボックス)容器やピロー容器の製品が充填されている。近年、コンビニなどでは軽くて扱いやすいピロー容器やBIBが増えているというが、廃油を一時的に保管できる斗缶にはやはり一定の需要がある。充填量は1日(8時間)辺り4,800箱(600gPET容器)で、縦に積むと約1,000m、東京タワー3つ分と同じ高さになる。
なお、日清オイリオグループの国内工場では品質保証マネジメント国際規格「ISO9001」の認証を取得している。厳格な検査が行われており、風味検査では人間の味覚や嗅覚も使って品質を確認している。
〈安全安心がベース、最新技術を先行して導入しているマザー工場〉
横浜磯子事業場内には約600人の社員が所属し、横浜磯子工場はその約半分の社員となっている。森工場長は横浜磯子工場の副工場長から名古屋工場長を経て、4月から横浜磯子工場長に就任した。抱負について、「安全安心がベースと言っている。工場なので先ずは安全第一で、かつ品質面でクレームがあっては駄目だ。生産を優先しないよう、安全の指導は徹底している。また、世の中の環境が変わり、多様性の時代にはさまざまな人が働くようになっている。働き方改革として、ハードワークと休む時のメリハリが大事だ」と語る。
工場長として、コミュニケーションを積極的に取ることも心がけているという。「若い人が増えており、例えば食品の充填ラインは女性オペレーターも多くなっている。特に、高校生の採用は難しくなっており、いかに魅力のある工場にするかを考えている」と述べる。
日清オイリオグループの4工場には、それぞれ特徴があるという。例えば、名古屋工場はスマートファクトリーを掲げており、堺工場は環境や脱炭素推進でサステナブルセンターとしてのモデルを作り、成功事例を他拠点に転換している。横浜磯子事業場にはさまざまな機能が集まっており、特にインキュベーション機能、研究開発を主体的に進めている。
2016年に開設した技術開発センターの横には現在、インキュベーションセンターを建設中だ。「横浜磯子工場はマザー工場と呼ばれている。最新技術を先行して導入しており、他工場からこの工場に学びに来てもらうことが求められている」と胸を張る。
また、環境にやさしいエネルギー供給システムとして、コージェネレーションシステムの運用も開始している。LNGガスからタービンを回して得られた蒸気と電気で工場を稼働させている。エネルギーには余剰があり、一部はネットワークに乗せて堺工場や水島工場にも電気や蒸気を供給している。
製造する製品の変化について尋ねると、「業務用はピロー容器、家庭用は小容量化の傾向が見られる。容器のさまざまな変化にも対応する必要がある。油種も多様な機能が求められている。品質をチェックする機能も強化しないといけない。品質管理もレベルアップしていく」と意気込む。
日清オイリオグループは紙パックを採用した新商品として、「日清キャノーラ油450g紙パック」、「日清キャノーラ油ハーフユース450g紙パック」、「日清ヘルシーごま香油450g紙パック」の3品を9月20日から発売開始する。
「環境対応の商品なので、まずは堺工場で製造し、そこでの成功事例、失敗例を共有する」と述べる。横浜磯子工場で紙パックを充填する場合には設備の投入が必要だという。
コロナで工場内のレクリエーションは中止となっており、近隣の住民が来場する祭りも2019年の開催が最後になるというが、2023年秋には祭りを開催する予定だという。「地域貢献としては、2月の神奈川マラソンは本工場から発着している。グラウンドを開放し、過去は箱根駅伝の優勝校の監督に総括をしてもらっていた。来年は開催する方向で進めていると聞いている」と述べる。
〈技術開発センターは2つの組織で構成、テストキッチンや実験室を設置〉
2016年11月に完成した技術開発センターは、中央研究所とユーザーサポートセンターという2つの組織で構成している。以前は横須賀に研究所を構えていたが、横浜磯子工場に移転してきた。生産現場に近くなったことで、情報交換もしやすくなったとしている。1階にはテストキッチンとプレゼンルームを設け、2階は事務所と一部の実験室がある。3階は全て実験室だ。
研究開発は、技術開発と商品開発の両輪で進められている。例えば、おいしさや食感、香りに油が与える効果や、たん白質などの成分がどのような効果を表すかについて研究しており、容器も研究対象だ。
テストキッチンにはフライヤー10台を設置して、揚げ物のテストも実施している。油の劣化、油脂ごとの揚げ具合を確認している。家庭用キッチンもあり、家庭用商品を使用した場合、どの程度においが広がるかといった影響度の確認などが行われている。
製菓・製パン実験室にはベーカリーと同規模のオーブンも設置している。マーガリンやショートニングを使い、パンやクッキーの仕上がり具合などをテストしている。
チョコレート実験室は、20℃と30℃に室温を設定している。融点に近い環境で加工し、保存する試験を行っている。目黒区にあるグループ会社の大東カカオの研究開発機関とも連携している。
〈大豆油糧日報2023年8月10日付〉