就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)

目次

  1. 2029年度の創業100周年に向け中長期経営計画を策定、売上は過去最高の2割アップを目標
  2. 各種ホース類、ゴム・樹脂素材が主力製品。小口注文にも応じて信頼獲得
  3. 2012年に3代目社長が急逝、それからは母娘二人で協力して切り盛り
  4. 就業・勤怠管理システムは打刻ソフトと管理帳票作成ソフトで構成 時間単位の有給休暇で取得者が増えた
  5. 元SEの社員らが中心になって社内のICT化を促進。FAX文書を自動的に仕分けし、クラウドに保存するシステムを導入
  6. 当面、売上・仕入・在庫管理システムの本格活用が課題。ホームページは2023年秋にリニューアル予定
  7. 社内のコミュニケーション活性化へ「ありがとうを伝えよう」活動。生き生きと働ける職場を目指す
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

石川県金沢市で各種ホース類やゴム・樹脂製品などの卸売業を営む北日商事株式会社は、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた直後に就業・勤怠管理システムを導入し、在宅勤務やフレックスタイム制といったコロナ禍での新しい働き方に対応する就業管理体制を構築した。早くから社内にWi-FiによるVPN(仮想私設網)を整備し、営業担当者らがモバイルパソコンを携帯・活用するなどICT化に積極的で、現在は売上・仕入・在庫管理業務ソフトの活用範囲の拡張や、新しいホームページの制作に取り組んでいる。(TOP写真:本社に隣接する倉庫で出荷作業)

2029年度の創業100周年に向け中長期経営計画を策定、売上は過去最高の2割アップを目標

「当社の取扱製品は、そのほとんどが人目につかない場所で活躍しています。でも、どんなに小さくて地味なものでも、その製品にはなくてはならないパーツの一つです。私たちの仕事は、ちゃんと歯車の一つとなり、社会を動かす力になっていることを忘れないでください」。北日商事が6年後の2029年度に迎える創業100周年に向けて、2023年2月に策定した「中長期経営計画」の中で謳っている社員へのメッセージだ。同社の経営理念である「未来をつくる力になる」という言葉に込めた意味をわかりやすく言い表している。

「私自身を含めて、コロナ禍で何となく気持ちがふさいでいたのを、コロナの感染症法上の扱いがインフルエンザと同じになったのを機に100周年に向けて盛り立てていきたいと思って中長期経営計画を作りました」。こう語るのは、北日商事の大田奈美恵専務取締役だ。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
「100周年に向けて盛り立てていきたい」と語る大田奈美恵専務取締役

中長期経営計画には売上高目標、経常利益目標、経営課題、事業計画、人員計画、資金計画などを盛り込み、役職者のみで共有する計画書を除いて、従業員全体で共有した。それによると、コロナ禍で一時は落ち込んだ売上をまずは過去最高値まで戻し、最終年度となる2029年度にはさらにその約2割増を狙おうという計画だ。

各種ホース類、ゴム・樹脂素材が主力製品。小口注文にも応じて信頼獲得

北日商事は1929年、奈美恵専務の曽祖父にあたる大田吉一氏が創業。当初はタイヤの販売からスタートしたが、石綿製品や工業用ゴム製品へと取扱商品を広げてきた。現在は編上ホースや油圧ホースといった各種ホース類と、ゴムシートや樹脂ローラーなどゴム・樹脂素材の大きく2つの分野が主力製品となっている。高圧ホースアッセンブリーマシンやパッキン製作簡易プレスなどの設備を備え、ホースにアダプターを取り付けるといった加工も行っている。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
倉庫の棚にはホース類が並ぶ
就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
倉庫の一角では加工作業も

石川県全体と富山県の一部を商圏としており、ホースの通常の販売単位である「巻」にこだわらず、メートル単位の小口注文にも応じて顧客の信頼を獲得してきた。

2012年に3代目社長が急逝、それからは母娘二人で協力して切り盛り

経営は吉一氏から長男の敬祐氏、さらにその長男の祐一氏へと引き継がれてきたが、2012年に祐一氏が急逝。祐一氏の妻で当時役員だった大田淑子氏が急きょ4代目社長に就任するとともに、奈美恵氏が専務に就任。以来、母娘の二人で協力して切り盛りしている。

奈美恵氏は早くから跡取りとして期待されていたようで、大学を卒業すると北日商事の取引先の上場メーカーに就職。本社経理部門に配属されて、経営陣から工場まで幅広い職種の人たちとの接触を通して、会社組織の成り立ちを学んだ。5年後に北日商事に転じ、3、4年を経たところで父親が他界してしまったのだそうだ。

「私は1ヶ月後に出産を控えていて、どうしても育児休暇が必要となるタイミングだったので、母が中継ぎという感じで社長を引き受けてくれたのです」と奈美恵専務。

当時、奈美恵専務は環境経営システム「エコステージ1」の認証取得を担当していたのだが、経営方針を巡って生前の父親とよく衝突していたというから、父親との議論を通しても、自らの理想とする会社像を描く訓練をしてきたものと思われる。淑子社長は、そんな娘の経営手腕に期待してバックアップしてきた。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
奈美恵専務の経営手腕に期待する大田淑子代表取締役

環境経営の実践を柱にSDGs(持続可能な開発目標)宣言を策定したことに続き、2022年、2023年と連続して健康経営優良法人認定を取得するなど、CSR(企業の社会的責任)活動にも積極的に取り組んでいる。

就業・勤怠管理システムは打刻ソフトと管理帳票作成ソフトで構成 時間単位の有給休暇で取得者が増えた

国のIT導入補助金を活用して、就業・勤怠管理システムを導入したのは2020年8月。それまでは、淑子社長が従業員一人ひとりのタイムカードに記載された出退勤時間をエクセルに転記し、一覧表を作成していた。

ちょうど、新型コロナウイルスの感染者数が2020年4月の第1波を大幅に上回る第2波のピークに達した頃で、淑子社長の手間を省けるだけでなく、在宅勤務やフレックスタイム制などの新しい働き方にも柔軟に対応できると考えた。すでに4月に時差出勤、時短勤務を導入し、6月にはいったん通常勤務に戻したものの、就業・勤怠管理システムを導入した後は実際に在宅勤務も始めた。

就業・勤怠管理システムは、スマートフォンやタブレット、モバイルパソコンから出退勤時間や外出・戻り時間を打刻するシステムと、その打刻データをクラウドから読み込んで従業員の勤務状況を管理するための各種の管理帳票を自動的に作成するシステムで構成。システムの導入で休暇管理なら時間単位の有給休暇取得状況もひと目でわかるようになった。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
従業員の勤務状況がひと目でわかる

企業には従業員に最低年5日の有給休暇を取得させる義務がある。「私はそこだけ目を光らせているのですが、1時間単位で取れるようになったことから、社員の皆さんは有給休暇を取りやすくなったようです」と奈美恵専務。コロナ禍で売上が落ち込んだ際、国の雇用調整助成金を使って従業員を交代で休業させたことから、従業員が休むことに慣れ、通院などの私用にうまく時間単位の有給取得制度を使えるようになったものとみている。

元SEの社員らが中心になって社内のICT化を促進。FAX文書を自動的に仕分けし、クラウドに保存するシステムを導入

北日商事のICT化は10年以上前から進められてきた。まず、社内にWi-Fiを張り巡らし、クラウドからUTM(統合脅威管理)を経由してつなぐセキュリティー体制を構築。システム会社とサポート契約を結んでいる。業務システムとしては最初に売上・仕入・在庫管理業務システムを導入し、主に経理担当者が売上管理の中の請求書作成業務に使用している。

2018年頃には複合機で受信する注文書などのFAX文書を担当者ごとや送信元ごとに自動的に仕分けして、クラウド上に保存するシステムを導入。外回りの営業担当者がモバイルパソコンで確認できるようにした。これにより、営業担当者は会社に立ち寄る手間が省けるようになった。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
営業担当者の机上にはデュアルディスプレイとモバイルパソコンが並ぶ

こうしたICT化の取り組みは、前職でシステムエンジニア(SE)だった人がたまたま同社に営業職として入社し、ICTの活用を提案するようになったのが大きいそうだ。現在、そうした元SEの2人を含めてICTに詳しい社員が3人いて、同社のICT化を推進している。

これまで、ICT化による効果を詳しく検証したことはない。ただ、2023年までの5年間で従業員が定年退職などで4人減少したにもかかわらず、仕事は滞りなく回っている。「そういう意味では、いろいろと効率化が進んだのだなと思います」と奈美恵専務は話す。

当面、売上・仕入・在庫管理システムの本格活用が課題。ホームページは2023年秋にリニューアル予定

現在進行中の課題は、まず、先述した売上・仕入・在庫管理システムのバージョンアップと本格活用だ。まだ請求書作成業務など一部の業務にしか使っていないのを見積書の作成・管理をはじめ仕入、在庫管理に至るまで全面的に活用できるようにしたいという。「とりあえず、請求書と納品書を紙で出力しないでメールでお客様に送るようにして、作業の手間を省いていきたいですね」(奈美恵専務)。

北日商事は、金沢市のその名も問屋町という場所に旧社屋と新社屋が並んで建っている。向こう1、2年のうちに、その旧社屋を解体して、新社屋を改修する計画が浮上しているのだそうだ。このため、「それに合わせて、在庫管理もデジタル化していきたい」(奈美恵専務)と考えている。

就業・勤怠管理システム導入で、在宅勤務や時間単位有給休暇などコロナ後の新しい働き方に対応 北日商事(石川県)
金沢市問屋町にある北日商事の社屋。左隣が旧社屋

もう一つはホームページのリニューアルだ。自社で簡単に作成・編集ができて、カスタマーセンターによるサポートも充実しているソフトを契約済みで、2023年秋には新しいホームページがオープンする予定だ。

社内のコミュニケーション活性化へ「ありがとうを伝えよう」活動。生き生きと働ける職場を目指す

ところで、奈美恵専務が社内のコミュニケーション活性化を狙いに、2023年度から月1回のペースで始めたのが「ありがとうを伝えよう」活動だ。職場の上司・同僚・部下に対し、互いに感謝の言葉を伝え合う活動で、社員がメモ書きしたサンクスカードを奈美恵専務がいったん預かってから、それぞれの相手に渡す仕組み。「コロナ禍で分散勤務を続けているうちに社員間の意思疎通がしにくくなり、社内がぎくしゃくした時期もあったので、この活動を始めました。お互いの心が温まるし、私も知らなかった意外な一面を覗かせてくれる社員もいます」と奈美恵専務。

頻繁に続けると感動が薄れるので、奈美恵専務はそろそろ半年に1回にしようかとも考えている。さらに、その先はサンクスカードのアプリを導入して、デジタル化することも検討しているようだ。

「社員には生き生きと仕事をしていてほしいので、自分でちゃんと考えて、納得して仕事をしているという状況が理想です。思っていることは言葉にして、どんな立場の人にでも伝えてほしいなと思いますね」。奈美恵専務は最後にこう強調した。

企業概要

会社名北日商事株式会社
本社石川県金沢市問屋町2丁目70番地
HPhttp://www.hokunichi.co.jp
電話076-237-5501
設立1951年3月30日(創業1929年4月)
従業員数25人
事業内容工業用ゴム製品・合成樹脂製品・配管資材の卸業