M&Aコラム
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企業経営を安定させ、事業規模を継続的に拡大させる方法として、事業拡大を検討することが挙げられます。事業拡大は、新規事業への参入など様々なメリットを享受できる一方で、デメリット・注意すべき点も存在します。本記事では、事業拡大の概要やメリットやデメリット、成功するためのポイントを紹介します。

事業拡大とは?

事業拡大とは、企業が取り組む事業を拡大していくことを意味します。企業の成長、利益や売上を増やすために有効な手段であり、狙い通りに成功すれば、競争力は強化され、さらなる拡大を計画することもできます。

市場環境が大きく変化する中、既存事業のみだけでは企業の成長は伸び悩み、存続が危ぶまれる事態を招きかねません。そのため変化に柔軟に対応し、事業拡大を計画・実行に移すことが、これからの企業経営に不可欠です。

事業拡大の方法としては「既存事業の拡大」「新規事業への進出」の2つが挙げられます。さらに、自社単独、あるいはM&Aで他社と手を組み事業拡大を図るなど、進め方の選択肢も様々です。

事業拡大の方法① 既存事業の拡大

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事業拡大の方法は2通り挙げられます。まず挙げられるのが「既存事業の拡大」です。
既存事業の場合、これまで社内で積み上げてきた技術・ノウハウなどのリソースを活かせるため、新たな市場への参入に比べると実現可能性のハードルは低くなると考えられます。

ただし、単に生産設備や営業拠点を増やすだけでは、既存事業が拡大できるわけではありません。
既存事業の拡大には、新たな技術・ノウハウの獲得が必要です。そのため、既存事業の拡大を目指す企業がM&Aを活用するケースが多く見受けられます。

M&Aを活用して、自社に無い技術・人材など経営資源を獲得することで、事業拡大の足掛かりにします。同じ業界の競合他社をグループ内に迎え入れることで、市場シェアを短期間で拡大させることも十分に可能です。

事業拡大の方法②新規事業への進出

事業拡大のもう一つの方法は「新規事業への進出」です。成熟した既存の市場から離れ、新たな市場での展開を目指します。

ただし、新規事業への進出は既存事業の拡大に比べ、リスクも大きくなります。社内に蓄積された既存事業に用いる技術は、そのまま新規事業に引き継ぐことはできません。また、まとまった設備投資が必要になる一方、参入に失敗した場合に回収できなくなるリスクも考慮しておかなければなりません。

こうした厳しい条件の中、新規事業への進出を目指す場合、対象市場で既にシェアを保有している企業を自社グループに迎え入れるケースが多くあります。未経験の市場にゼロから参入することに比べて、短期間でノウハウや市場シェアを獲得することが期待できます。

事業拡大を行うメリット

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事業拡大を行う主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。

新たな収益源を創出できる

事業拡大によって、新たな市場・エリアへの進出、商材の拡充や改良を実現することで、新たな顧客層を獲得し、新しい売上を生み出すことが期待できます。

新たな収益源が生まれれば企業の成長性や安定性が高まるため、資金調達の面でも有利に進めやすくなる効果が望めます。

リスク分散ができる

事業拡大によって収益の柱を増やすことができれば、一つの事業に依存する企業経営のリスクを分散させ、経営を安定させる効果が望めます。

収益源を多様化させることで、社会や市場の変化に対応しやすくなるとも言えます。

企業競争力の向上につながる

異なる市場で新たな収益の柱ができれば、他の分野への相乗効果を創出し、企業の成長スピードを速める効果も十分に期待できるでしょう。

また、多種多様な顧客ニーズに対応できるようになることで、顧客満足度が高まり、競合他社との差別化や自社のブランド力の向上にもつながるでしょう。

事業拡大を行うデメリット

事業拡大には様々なメリットがある反面、以下に挙げるデメリットにも注意が必要です。

多額の先行投資が必要となる

事業を拡大させるために、新たな人材や商材の研究・開発など、事業開始前に先行投資が必要になります。

事業拡大でリターンを生み出し、先行投資を回収できるようになるまで一定の期間と費用を要することを考慮し、会社の資金繰り状況を含め、綿密な計画とリスク管理が求められます。

ランニングコストが増大する

例えば新規事業への進出には、専門知識と経験を持つ人材や設備導入が必要です。そのため設備導入費用や人材費、固定費などランニングコストが増加することが見込まれます。

また、新しい市場での認知度を向上させて新たな顧客を獲得するためには、積極的なマーケティングと広告宣伝活動が不可欠です。こうしたさまざまな費用は、企業のランニングコストを増大させる要因となります。

マネジメントが行き届かなくなる可能性がある

事業拡大によって企業の規模が拡大、人員が増えることで、組織全体の運営が複雑化し、情報の伝達や意思決定が円滑に進まなく可能性も考えられます。

さらに、新たな部門やチームが設立されると、組織全体の一体感が低下し、組織としての統一性が低下する可能性もあります。こうした問題に対処できるように、組織・マネジメントの対応策を考慮しておく必要があります。

事業拡大を進める流れ

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ここでは、事業拡大を進める主な流れについてご紹介します。

①市場調査、事業拡大の検討

まず市場調査を行います。新しい事業領域の市場動向、競合状況を徹底的に調査することで、顧客のニーズや傾向を把握し、市場でのポジションを把握します。

そして調査分析結果をふまえ、事業拡大を進めるかどうかの判断を行います。判断にあたっては、「自社の得意分野や長所を活かせるのか」「必要なリソースや技術を獲得する必要があるのか」、競合他社との差別化や、新しい市場での展望もふまえて慎重に検討する必要があります。

②戦略の策定

事業拡大を実施することを判断した場合、次に行うのは事業拡大を実現するための戦略策定です。

戦略策定のプロセスでは、市場をどのように攻略し、競合他社と差別化を図るか具体的な戦略を考えます。同時に目標達成までのタイムスケジュールや人員などリソースの調達についても検討を進めておきます。その際、資金、人材、技術などの経営資源が自社単独では不足している場合、M&Aという選択肢も考えられます。

③事業拡大の実行

策定した戦略を元に、事業拡大を実行します。M&Aを選択した場合は、買収した企業のリソースを活用して新規事業の参入や既存事業の拡大を果たします。また、M&Aで新たに得た技術や人材と自社のリソースを掛け合わせることでシナジー効果の創出を狙います。

事業拡大を成功に導くためのポイント

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事業拡大を成功させるために気を付けておきたいポイントは、以下の通りです。

目的を明確にする

前述の通り、事業拡大を行うことで、収益源の増加、市場シェアの拡大、リスク分散など、企業の成長につながる様々なメリットの享受が期待できます。一方で、事業拡大を通じて獲得したい成果が不明瞭であると戦略にブレが生じ、望む結果を得ることが難しくなります。

そのため事業拡大を行う目的をできるだけ明確にし、関係者間で共有するプロセスを初期に設定することが必要です。

適切なタイミングを見極める

2つ目のポイントは、実行タイミングの見極めです。事業拡大を成功させるためには、入念な調査・分析と準備を前提として、自社にとって適切なタイミングで実行することが不可欠です。

既存の人材・ノウハウを主軸としてプロジェクトを進める

3つ目のポイントは、既存の人材とノウハウを主軸としてプロジェクトを進めることです。M&Aによって一定程度の外部からの人材やノウハウの調達が可能な場合もありますが、基本的には自社内のリソース活用を前提に、不足部分を強化・発展させて拡大を図る方が、リスク分散にもつながります。

既存の人材とノウハウを主軸にし、外部から必要なものを補完的に取り入れることで、持続的な成長と経営の安定性の確保を見込めます。

事業拡大を行った企業事例

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最後に、事業拡大を行い成功した企業事例を2例紹介します。

富士フィルムの事例

富士フィルムは、フィルム事業を中核として発展してきた企業です。しかし、カラーフィルムの需要が世界的に減少していったため、事業構造の転換を図ります。

それが、既存技術の転用による化粧品事業への進出です。写真フィルムの主原料はコラーゲンですが、これは人間の皮膚にとっても大切なもので、肌の弾力を維持するためには欠かせません。

また、写真フィルムを製造する過程で、さまざまな素材を乳化分散していますが、これは化粧品の製造過程で使われている技術と同じです。さらに、フィルムの劣化を防ぐ抗酸化技術はアンチエイジングに転用できそうなことが分かり、本格的に化粧品事業への参入を果たします。

既存技術を応用しながら、積極的なM&A戦略により事業拡大に成功し、従来のデジタルカメラ事業に加え、化粧品事業・医薬品事業・再生医療事業などを擁する多角化経営を行う企業へと変貌を遂げました。

ヤフーの事例

国内初の商用検索サイトとして1996年に「Yahoo! JAPAN」を開始したヤフーは、国内のインターネット利用者の増加とともにさまざまなサービスをリリースし、広告事業を中心とする事業展開を行ってきました。

ネット通販事業を強化して新たな収益の柱とするため、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOを、株式公開買い付け(TOB)により連結子会社化します。

ヤフーは既に「Yahoo!ショッピング」などのECサイトを運営していたものの、ユーザーの中心は30~40代であり若年層の取り組みに苦労していました。新たなECサイト「PayPayモール」を展開するにあたり、若年ユーザーが中心のZOZOTOWNをPayPayモールに出店させ、若年層の獲得を強化するのが狙いでした。

その後、子会社となったZOZOはPayPayモール(現Yahoo!ショッピング)を牽引する立役者となります。そしてZOZOの2023年3月の決算では、商品取扱高・営業利益ともに過去最高実績を更新するに至りました。

終わりに

今後ますます市場環境や顧客ニーズの変化が見込まれる中、既存の事業だけでは、いつか立ち行かなくなることが予測されます。こうした事態に対応するためには、企業の成長サイクルに事業拡大を組み込む必要があります。

「既存事業の拡大」と「新規事業への参入」、いずれかを選択するとしても、新たなリソースが必要になります。しかし、新たなビジネス展開に必要な技術やノウハウ、人材などのリソースがすべて自社内だけで調達できる企業は決して多くありません。こうした問題を解決し、最短距離で事業拡大を図る手段として、M&Aを選択肢に挙げることができます。

日本M&Aセンターは、企業や事業のM&Aに関する複雑なプロセスを支援する専門的なサービスを提供します。M&Aのコンサルタントと弁護士や公認会計士、税理士などの専門家がチームを組成し、事業の評価、適切な買収先の選定、契約交渉、法的手続きなど、M&Aの全てのステップをサポートします。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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