印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)

目次

  1. 印刷工場の敷地内で2種類の福祉施設を運営
  2. 情報の仕立屋として顧客のあらゆるニーズに応える
  3. 創業時から「愛・信・恕」の精神で障害者を積極雇用
  4. 多様な受け皿づくりで障害者就労の可能性を広げる
  5. 2023年1月、就労継続支援B型事業所「ひなた」を開設
  6. ガーメントプリンターでエシカル消費を意識した布製品を開発
  7. 障害者一人ひとりの得意な仕事を互いがサポートすることで、組織全体のパワーが上がった
  8. 障害者との創造的な時間活用から生まれた広島発の商品開発プロジェクト「安芸ん堂」
  9. デジタルを通じて既存事業と福祉事業の相乗効果を加速する、これこそがDX
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

広島県広島市に本社を置く印刷会社、株式会社ニシキプリントは創業当初から障害者を積極的に雇用してきた企業として知られている。同社の東広島工場は1991年5月の創業時から重度障害者多数雇用事業所として厚生労働省の認定を受け、現在も数多くの障害者が生産活動を通じて社会参加することで充実した毎日を過ごしている。障害者が働きやすい環境へと進化させる上で、同社は最新のデジタル機器やICTを積極的に活用している。その結果、携わる従業員、特に障害者が生き生きと働いている。「デジタルによって働く人が幸せになる」、それこそがDXと言える。(TOP写真:ガーメントプリンターに無地のTシャツをセッティングする様子)

印刷工場の敷地内で2種類の福祉施設を運営

広島県東広島市内の企業団地に立地する数十台にのぼる製本用機械、オフセット印刷機、デジタル印刷機を備えた株式会社ニシキプリントの東広島工場。その敷地内では障害者のための2種類の福祉施設、就労継続支援A型事業所「サポートセンターあゆみ」と就労継続支援B型事業所「ワークサポートひなた」が活動している。

「ニシキプリントが携わる福祉施設は単なる就労のための施設ではありません。障害者一人ひとりが、それぞれの個性を大事にしながらスキルアップできる場所として運営しています。デジタル機器やICTをはじめとする新しい技術を活用することで、障害者が活躍できる環境をこれまで以上に整えていきたいと考えています」。東広島工場で取材に応じたニシキプリントの宮﨑真代表取締役は同社の方針をこのように説明した。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
ニシキプリントの宮﨑真代表取締役

情報の仕立屋として顧客のあらゆるニーズに応える

1967年6月に事業をスタートしたニシキプリントは、各種印刷物の企画デザイン、編集制作から印刷、製本、発送まで一貫して対応可能な体制を整えている。自費出版の制作のほか、ホームページ制作、電子ブックのデータ作成、デジタルサイネージなどの事業にも取り組んでいる。取引先は学校、官公庁、病院、企業など幅広い。広島市内にある本社が印刷データの制作を担い、製版、製本、印刷の関連設備を約60キロ離れた東広島工場に集約している。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
ニシキプリントの東広島工場の印刷設備

「ニシキプリントは印刷をベースにあらゆる情報の仕立屋としてお客様の様々なニーズに応えることを目指しています。従業員一人ひとりが常に変化する時代の中で、もっと良い方法がないかを日々考え、お客様に寄り添って利益を生み出すことで地域社会に貢献していきたいと考えています」(宮﨑社長)

創業時から「愛・信・恕」の精神で障害者を積極雇用

ニシキプリントは創業間もないころから「愛・信・恕」(「恕(じょ)」とは「思いやり」)の精神を掲げ、障害者雇用に積極的に取り組んできた。職場のバリアフリー化を進め、作業の補助道具を手作りするなど、障害者が仕事をしやすいように様々な工夫を凝らしている。障害者雇用のきっかけは、創業者の宮﨑忠氏と1人の障害者の出会いだったという。身体に障害があっても誰よりも懸命に働き、迅速で正確な作業をする姿に宮﨑氏は感銘を受け、障害者を積極的に受け入れることを決意。障害者が働きやすい環境づくりを従業員の理解と協力を得ながら進めていった。

2012年12月、東広島工場内に一般社団法人東広島自立支援センターあゆみを設立し、2013年4月には「サポートセンターあゆみ」の運営を開始した。翌年には本社を置く広島市内で二つ目の就労継続支援A型事業所「サポートセンターめばえ」を開設。「あゆみ」には職員7人、利用者14人、「めばえ」には職員9人、利用者20人が在籍している。ニシキプリントを定年退職した後、「あゆみ」と「めばえ」を運営する一般社団法人への移籍を希望する従業員も多いという。

多様な受け皿づくりで障害者就労の可能性を広げる

「あゆみ」と「めばえ」では、電話応対や来客の対応、営業事務、経理事務、送り状の発行や封筒への宛名印字、印刷用データの作成、ホームページの作成、得意先まわりなどの営業、封入封緘(かん)作業、包装作業、ステープラー止め、テープ加工などの軽作業に取り組んでいる。他の事業所との連携も活発に行い、木製の台座が付いたカレンダーなどの商品開発も行っている。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
東広島工場内で作業に取り組む「あゆみ」の利用者のみなさん

2023年1月、就労継続支援B型事業所「ひなた」を開設

2023年1月にはニシキプリントが運営主体となった就労継続支援B型事業所「ワークサポートひなた」(利用定員20人)を東広島工場の敷地内に開設した。

「ひなた」を設立した背景には、高齢などの理由でA型事業所での就労が難しい利用者のための受け皿を作りたいという思いがあったという。「あゆみ」と近接しているので連携がとりやすく、利用者の就労の可能性を大きく広げることができる。「チームワークを大切に利用者の皆さんが楽しく働けるように環境を整えています。個々の能力に合わせた指導やサポートを重視し、作業の合間には体を動かしたり、ラジオ体操などでリフレッシュしています」と東広島自立支援センターあゆみの理事長を務めるニシキプリントの細木雄二専務取締役は笑顔で話した。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
ニシキプリントの細木雄二専務取締役

ガーメントプリンターでエシカル消費を意識した布製品を開発

「ひなた」は、ニシキプリントのオリジナルデザインのTシャツやトートバッグといった布製品の製作を担当している。仕事を受注していく上で大きな役割を担っているのが、2台導入したガーメントプリンターだ。印刷対象物のセッティング後、1枚あたり最速27秒での印刷が可能で、衣類、バッグだけでなく帽子、シューズにも印刷できる。操作は扱いやすいタッチパネル式。多彩な色調を高精度で印刷する機能を備えているので、付加価値が高い製品を作ることができる。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
ガーメントプリンターで作ったTシャツのサンプル

ニシキプリントは、安さや便利さではなく、社会、地域、環境に配慮した視点で行う消費行動「エシカル消費」を意識した製品開発に取り組むことで、「ひなた」の仕事を増やしていきたいという。「布製品のセッティングといった自動化が難しい手作業を利用者に担当してもらっています。就労訓練になるだけでなく、高品質の製品ができあがるので働きがい、やりがいを感じてもらえるなど、ガーメントプリンターを活用することで様々な効果が生まれています」と細木専務は満足そうに話した。

障害者一人ひとりの得意な仕事を互いがサポートすることで、組織全体のパワーが上がった

障害者に社会参加の機会を提供する福祉施設の運営は、新規事業開拓の面でプラス効果を生んでいる。A型事業所で製作した商品の供給をきっかけにダイレクトメール業務の請負が決まり、主要事業の一つに育っているという。

「長年、障害者に様々な部署で仕事に携わってもらったおかげで、互いにサポートし合うことでミスが出てもカバーできる仕組みを整えることができました。パソコンなどのデジタル機器を通じて編集やデザインの仕事で能力を発揮している人もいますし、コミュニケーションが苦手でも高い集中力を生かして活躍している人もいます。一人ひとりの得意なことを反映できる仕事にやりがいを持ちながら従事してもらえるようにしています」と細木専務は話した。

障害者との創造的な時間活用から生まれた広島発の商品開発プロジェクト「安芸ん堂」

障害者が様々な現場で活躍することによって組織全体で時間の余裕が生まれ、創造的な意見交換が活発になることで新しい事業の立ち上げにつながっている。その一つが、2015年から展開している広島県発の商品開発と情報発信のプロジェクト、「安芸ん堂(あきんどう)」だ。オリジナルの雑貨や食品をオンラインで販売するECサイトの運営に加え、集客イベントの企画・運営も行っている。様々な企業と連携を進め、商品の企画開発から、障害者の就労支援につなげることでプロジェクトを発展させてきた。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
安芸ん堂のホームページを編集する様子

安芸ん堂の商品の販売は、オンラインだけでなく広島県内の主要駅や道の駅、平和記念公園でも行っている。東広島市内にキャンパスを置く広島大学の大学祭ではTシャツなど布製品の販売も行った。地域を盛り上げたいとの思いから地元の西条酒造協会と連携して酒蔵をモチーフにした12種類のあぶらとり紙も企画・販売している。パッケージは平和記念公園に寄贈された千羽鶴を再生した紙を使用し、封入作業を「あゆみ」の利用者が担当している。安芸ん堂の活動は県外にも広がり、2016年から2年間、東京都で地元の三軒茶屋銀座商店街振興組合と共同で広島をテーマにしたグルメイベントを開催した。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
安芸ん堂が開発した酒蔵をモチーフにしたあぶらとり紙のサンプル

デジタルを通じて既存事業と福祉事業の相乗効果を加速する、これこそがDX

自社商品開発、イベント運営、商品アピールのための取材など幅広い経験は従業員の企画力や提案力のレベルアップにつながっているという。安芸ん堂での取り組みをきっかけに、これまで接点がなかった企業から印刷の注文が寄せられるなど、本業との相乗効果も生まれている。

印刷工場の中に障害者施設。障害者一人ひとりの個性がガーメントプリンターや制作過程で引き出される。これが印刷業のDX ニシキプリント(広島県)
就労継続支援B型事業所「ワークサポートひなた」の外観

「障害者が会社のメンバーとして活躍しやすい環境を作り、社内全体にフィードバックすることで、従業員目線での働き方改革が自然な流れで進む効果が生まれています。デジタルを通じて、既存事業と福祉事業の相乗効果を更に加速させていきたい」と宮﨑社長は先を見据える。デジタル機器とICTが、障害者の社会参加の機会を広げていく可能性を、ニシキプリントの取り組みを通じて改めて実感した。

企業概要

会社名株式会社ニシキプリント
本社広島県広島市西区商工センター7-5-33
HPhttps://www.nishiki-p.co.jp/
電話082-277-6954
設立1975年9月(1967年6月創業)
従業員数30人
事業内容  書籍を中心とする各種印刷物の制作・製本業務、オンデマンド印刷、自費出版など出版物の企画・発行、刊行物の編集代行業務、ホームページ、電子ブックなどの各種メディア制作
関連団体一般社団法人東広島自立支援センターあゆみ