M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

メディアミックス株式会社 代表取締役社長 鈴木 宏昌氏(譲渡企業/写真左/成約式当時)
株式会社パワーエッジ 代表取締役 塩原 正也氏(譲受企業/写真右)

メディアミックス株式会社

設立・創業:1994年
従業員数:約20名(2020年4月時点)
事業内容:ソフトウェア設計・開発、ホームページ企画・デザイン・制作等
売上高:約2.5億円(2019年7月時点)
譲渡理由:後継者不在及び事業成長のため

株式会社パワーエッジ

設立・創業:2000年
従業員数:【単体】204名【連結】350名(2022年11月時点)
事業内容: SES事業、各種パッケージの開発・販売
売上高:【単体】21億4,000万円(2022年7月期)【連結】38億6,800万円(2022年度)

はじめに

2020年10月、静岡県浜松市に本社を構えるメディアミックス株式会社は、株式会社パワーエッジと友好的M&Aを実施しました。

M&Aを実施して約2年半以上が経過した現在、現在も執行役CEOという立場でメディアミックス社を牽引する鈴木氏にお話をお伺いしました。

創業の経緯

鈴木氏は、もともと生産管理用ソフトウェア開発を得意とする企業でシステムエンジニアをされていました。その後、別のシステム開発会社に出向し、官公庁の仕事に携わることになります。

そんな折、出向先に県庁の土木部が使用する基幹システム開発のコンペの話が舞い込んできました。
そこで鈴木氏に白羽の矢が立ち、入念な準備と的を射た提案の末、大型の土木システムの案件を受託するに至ったようです。

当時の金額で数億円規模の大型案件であり、受託してから開発に2年ほどの期間を要し、開発後は保守や追加の機能改善が継続的に受注できるなど、出向先の売上に大きく貢献したといいます。
その後、デザイン系のコンテンツ制作や小学校・中学校向けの教育用ソフトを作ってほしいという依頼を顧客から受け、出向元に話を持ち掛けたようです。

しかし、当時はリソースの観点からデザイン系の仕事を請けることは難しい状況であったため、鈴木氏の奥様が代表を務めるデザイン領域に強い有限会社メディアミックスで案件を請け負うことになりました。
その後、出向元で請けていた土木システム事業について、選択の集中の観点から譲渡を検討し、メディアミックス社が当該事業を譲り受けることなりました。

そのため、一気に20名ほどの社員がメディアミックス社の社員となりました。

M&A実施時の状況

メディアミックス社は、事業承継問題の早期解決のために、2020年10月にパワーエッジ社とM&Aを実施するに至ります。コロナ禍ということもあり、従業員への開示はオンラインで行いました。

発表当時は、社員の間で多少のざわつきはあったようです。
しかし、社内のキーマンである役員及び管理職の方々には、事前に一人ずつ面談を実施し、丁寧に本件について説明をしていたため、その後の大きな混乱はなかったといいます。
M&A実施後も、社内のオペレーション自体は大きく変わっておらず、引き続き鈴木氏が実質的なトップとして同社を牽引しています。

M&Aを検討し始めた当初、鈴木氏はなるべく早く経営から退くつもりでいたようですが、パワーエッジ社の塩原氏が鈴木氏のお人柄に目を付けられ、親会社であるパワーエッジ社の取締役を担って欲しいとオファーを出し、鈴木氏が就任する運びとなりました。

M&A後はコロナの影響もあり、塩原氏とメディアミックス社の社員が直接顔を合わせるタイミングは、月に1回の業務の進捗を確認する戦略会議においてのみであったようですが、コロナがやや落ち着いてきたこともあり、今後は、リアルなコミュニケーションを取る機会を増やすべく、2ヵ月に1回程度のペースでメディアミックス社の若手メンバーらと塩原氏が交流する機会を作っていくようです。

事業・収益性における変化

メディアミックス社には、M&A検討当初から、大口の取引先に対する売上の偏りを解消したいという考えがありました。

M&Aを実行後、徐々にではありますが、グループ会社間の連携による新顧客との取引も増加しているようです。さらにパワーエッジ社のアドバイスも得ながら、静岡エリアにおける事業会社向けSES事業を立ち上げていこうという動きもあります。

また財務面においては、利益率が大きく改善されました。
不動産等の減価償却費、事業遂行上に必ずしも必要でない経費などを見直したことによりキャッシュフローに余裕が生まれました。
それらの資金は、人材育成のための投資に向けられています。

具体的には社員全員の給与のベースアップ、賞与規定の改訂、資格手当の支給など、社員のモチベーション向上に繋がる福利厚生面の改革を行いました。
これらの大きな待遇アップは、パワーエッジグループ全体で既に効果が出ている内容を取り入れたものでした。

また、採用においても変化がありました。
M&A実行時の2年ほど前から新卒採用を実施していたようですが、受け入れ体制が強化され、今年は5名の新卒社員を迎え入れています。

その背景にあるのが、採用後の研修の変化だといいます。
M&A実施前はOJTを中心とした育成を行っていましたが、M&A実施後はパワーエッジ社の研修を利用し、パワーエッジ社のメンバーと合同で3ヵ月間新人研修を実施しているようです。
従来は、研修・育成システムに十分な資源を割くことができていなかったようですが、グループ会社のリソースを共同利用することで、受け入れ体制、育成体制が強化されたようです。

M&Aを検討しているオーナーの方へ

「M&Aを最後に決断できるのは、創業者であるオーナーだけ。」鈴木氏はこのように語ります。
M&Aを実施すること=社員の気持ちに背くような行為に思えるという世間の風潮があるのも事実ですが、社員にとってベストな形を選択することが大切であり、その結果がM&Aとなり得ることもあると、鈴木氏は語っています。

自身が株式を保有していなければいけない、自身が経営し続けなければいけないと、頑なになってしまっているオーナーの方も多いのではないか、と感じる部分もあるようです。
必ずしもオーナーが会社に居続けることが重要というわけではなく、適切なタイミングでM&Aを実行することが、会社の発展や社員の幸せを実現するためにベストなケースもあると、改めてお伝えしたいと思います。

著者

M&Aコラム
七澤 一樹(ななさわ・いつき)
日本M&Aセンター業種特化1部/IT業界専門グループ
神奈川県出身。大学卒業後、㈱マイナビにて8年間ITソフトウェア業界向け人材紹介のコンサルティング営業に従事。入社4年目、5年目は企業向け人材紹介部門において、2年連続年間売上高1位を記録。チームマネジメントを経験した後、㈱日本M&Aセンターに入社。現在はITソフトウェア業界を専門にM&A支援業務に取り組む。
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