企業の人手不足が加速する中、人材の獲得競争を勝ち抜くためには様々な採用チャネルを駆使して採用活動を行う必要があります。今回はその中でも重要性が増すインターンシップについて、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士にインターンシップに関する文部科学省・厚生労働省・経済産業省による三省合意の改正を契機とした、政府の考え方や企業としての向き合い方について全3回に分けて解説してもらいます。
今回はインターンシップの法的性質と実施にあたっての留意点と工夫について解説します。
目次
インターンシップの法的性質
法的性質2分類
インターンシップ等の中には、労働者性が認められ、労働関係法令が適用される 労務型と労働者性は認められない教育・体験型(オープンカンパニー、企業体験、説明会、ワークショップ等)の2種類があります。この分類は、前述の労基法上の労働者性判断基準により行われます。
労務型の留意点
労務型であれば、労働関係法令の適用がある結果、労基法・最低賃金・労災補償等の適用になることは前述のとおりであり、通常の社員入社手続と同様であるが、インターンシップ独自の留意事項もあるため、以下に整理します。
【労務型インターンシップにおける留意事項】
○ 企業の手続きに従い、企業・学生間で直接、雇用契約を締結する。
○使用者たる企業が、労働基準関係法令上の義務を負う。
○労働法令に基づき作成する「労働条件通知書」には、以下の事項も記載に含める。
・賃金:転勤費用及び滞在費に関する手当の有無
・勤務日・勤務時間・休暇:学業に配慮した勤務日・勤務時間への対応方法
・特記事項:当社インターンシッププログラムに基づき行われる旨※
○「労働条件通知書」のほか、以下の項目について企業・学生間で契約又は確認を行う。
・秘密保持
・知的財産の取扱い
・成果好評の取扱い
・その他誓約事項(後述)
※「文部科学省が定めるジョブ型研究インターンシップ」である場合には、同実施方針に基づき行われる」旨の記述をする
【秘密保持事項】
①労務型の場合は既存の社内規定(就業規則等)で対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
②体験・教育型の場合はインターンシップ等参加学生用の規定や誓約書等を整備の上対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
③学生との間で個別に契約を締結する
※特に、秘密保持についてはインターンシップ期間終了後も義務が存続することを説明することが重要。
【知的財産の取扱い】
①労務型の場合は、既存の社内規定(職務発明規定等)で対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
②体験・教育型の場合は、インターンシップ等参加学生用の規定や誓約書等を整備の上対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
③学生との間で個別に契約を締結する
【成果公表の取扱い】
① 既存の社内規定で対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
②ジョブ型研究インターンシップ参加学生用の規定等を整備の上対応し、学生にはその旨を通知又は誓約書等の提出を求める
③学生との間で個別に契約を締結する
(参考)文部科学省「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)実施方針(ガイドライン)(案)」
教育・体験型の留意点
上記整理の通り、秘密保持・知的財産や成果公表の取扱いなどは労務型と同様であるが、労働契約関係になく、就業規則はそのまま適用できないため、別途誓約書やインターンシップ規定等での対応が必要となります。実務的には、参加の際に誓約書を提出してもらう流れとなるでしょう。
また、前述のとおり、教育・体験型であっても特別な社会的接触関係にあるので、安全配慮義務の対象になることもあり得る点には留意が必要です。そのため、インターンシップ等に内在する危険が存在するか、行程については確認すべきです(なお、労働者性はないので、通勤災害は適用外となります)。
(労働者ではないため業務災害も適用外であるが、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の余地があります。)
インターンシップ実施における留意点・工夫
その他、三者合意等で述べられていない実務上の留意点についても簡単に述べておきます。
そもそも何の目的で実施しているか
インターンシップ等の内容を設計したり、実施する前に、なぜインターンシップ等を行うのかについて、経営層・現場・人事部門・実施担当者などが共通理解を得ておくことが重要です。
当然ですが、インターンシップ等は売り上げや業績には繋がりません。しかし、全くその企業のことを知らなかった学生などに認知を得たり、通常の採用募集であれば応募してこない層からの応募もあり得るため、多様な人材獲得という経営課題にとっては大きな意味があります。
そのため、インターンシップ等の設計・実施に当たっては、経営から現場まで、一貫した共通理解が必要です。特に、業務が繁忙な中、担当者を出さなければならない事業部門がインターンシップ等に対する理解がないケースでは、参加者に対する印象も相当程度変わってくるため、これは重要な業務の一環であり、評価にも直結する事項であるという認識を作れるかが重要です。
インターンシップ等は単なる工場・会社見学とは異なり、企業の内部まで含めた雰囲気を伝え、適切なマッチングや業界に対する興味、自社に対する愛着心などを育てるチャンスでもあります。そのようなインターンシップ等に対して企業が向き合う姿勢を、まずは担当者など従業員に周知しておくことが必要です。
教育型と指揮命令
労務型のインターンシップであれば、労働契約に基づく指揮命令が可能であるが、教育・体験型の場合には労働契約関係にはないため、指揮命令はできません。そのため、教育・体験型の場合は指揮命令が出来ないと聞くと何らの指示が出来ないと思う向きもあるがそうではありません。
インターンシップ等に参加する際、インターンシップ利用規約や誓約書の中で「担当者の指示に従うこと」等の条項が入っていることが多く、これに基づく指示は可能です。なお、この指示は、インターンシッププログラム遂行上のための指示(プログラムの趣旨に沿った行動や発言をする、場所を移動する、プログラム上の指示を行う)であり、指揮命令とは異なるものです。
つまり、インターンシップを適切に遂行するための指示であればインターンシップ利用規程等に基づき行うことが可能であるため、この点を持って労働契約が必要になることはありません。
情報漏洩、炎上対策
インターンシップにおいて、業務上の機密事項や社内情報に触れる機会もあるかと思います。参加者は、必ずしも機密漏洩に対する意識も高いとは言えないため、インターンシッププログラムにおける社内情報については口外禁止であることはもちろん、SNS等においてもアップロードしてはならないことを誓約書等で明示しておくべきでしょう。
特に、機密保持の点についてはインターンシップ期間が終了してもなお義務が残るということについては説明を行い、理解を求めるべきです。これは、個人情報保護の観点からも同様で、プログラム上個人情報に触れる機会があるのであれば、同じように誓約しておくべきです。
ハラスメント防止
インターンシップの担当者が、食事や飲酒の誘い、LINE交換、密室での不必要な1on1を求めるなどハラスメントが疑われるような事例が毎年のように発生し、厚生労働省も注意喚起を促しています。
(参考)厚生労働省「就職活動やインターンシップ中のハラスメントに関するお悩みは都道府県労働局にぜひご相談ください!」
企業としては、インターンシップ実施担当者に対して、ハラスメント行為やそれと疑われるものについても行ってはならない旨を周知し、実際の問題事例などを題材として研修を行うべきです。また、実際にハラスメント行為があった際には、就業規則に基づく懲戒処分の対象となる旨、予め周知徹底しておくべきです。
SNSの発達により、インターンシップでのハラスメントは企業信用に直結する事態となり、「炎上」ともなりかねません。企業名で検索をした場合に、ハラスメントに関する投稿が出てくるようになってしまっては、採用戦略どころではないため、企業としてはこの点の意識を重視すべきです。
インターンシップ参加者専用の相談窓口を設けて、参加者に知らせておくことも有意義でしょう。
インターンシップ設計上の留意点
悪い部分を隠しすぎない
インターンシッププログラムを設計するに際し、どうしても一般的な説明や、当たり障りのない部分、見栄えが良い部分のみを見せようとして、悪い部分を隠そうとする例も見られます。しかし、余りに悪い部分を隠そうとする姿勢は参加者に伝わるものです(例えば、繁忙期は忙しい、など)。
「悪い部分は絶対に言うな!」と強く言われてプログラムに参加している先輩社員などの受け答えが不自然になってしまってはインターンシップの存在意義も半減します。そのため、プログラムにおいては、悪い部分を隠しすぎようとしないことも重要です。
フィードバックをして学生の成長に繋げる
企業がインターンシップを行う目的としては業界や企業の認知を上げ、採用選考に繋げたいという思いがあるのでしょうが、そうである以上、企業から学生に対しても与えるものが先にあった方がよいでしょう。
特に、インターンシッププログラムで実際に何かリサーチ、文書・資料・成果物の作成、プレゼンなどを行う場合には、単に行って終わりではなく、参加者の今後に繋がるようなフィードバックを行うように意識すべきです。真摯なフィードバックを行うことにより、初めて参加者も企業に対するイメージが向上する契機となります。
内定者や先輩に同席してもらう
インターンシッププログラムにおいて、若い年次の社員が参加することは、コミュニケーションのしやすさからしてよく見られるが、ここに内定者も加えるという企業もあります。そのことにより、内定者自身も、企業現場をより良く知ることが出来、エンゲージメントの向上、入社後ギャップによる早期離職を防止できるなどの効果も期待されます。
また、世代や部署を超えた担当者が出席することにより、参加者だけではなく、既存社員や内定者にとっても、交流の場となります。企業は、新たな越境的繋がりが得られる場を意識して創出することが重要です。
なお、インターンシップ等については、近年、マッチングサービスも登場しており、単に募集情報を媒体に載せるだけではなく、企業として積極的に多様な人材へ声かけを行うことも重要となる。これは、インターネットによるマッチングのみならず、現実に行われるマッチングイベントや地方のコミュニティ、大学主催の説明会など、「足で稼ぐ」参加者獲得も重要です。
その他の心構え等は、経済産業省「成長する企業のためのインターンシップ活用ガイド」(基本編・活用編)が参照になります。
まとめに代えて
以上、三省合意の改正を契機として、インターンシップ等に対する政府の考え方や企業としての向き合い方について述べてきました。
改めて、企業としてインターンシップ等を実施する際に最も重要なのは「何のために」行うかです。これは、自社の採用課題は何かという点から考えても良いでしょう。例えば、早期離職が多い企業であれば、入社後ギャップやミスマッチが疑われることから、インターンシップ等により、より実際の業務に近い経験を提供することが重要になります。企業のことをよく見せすぎると結局は入社後ギャップを生んでしまうため、意味がありません。結局のところ、採用の課題は現場にあります。
企業としては、自社の課題と真摯に向き合い、ミスマッチの少ない採用選考を行うに際し、インターンシップ等を適切に設計して実施することは、非常に有効な一助となります。
本稿が企業及び学生の適切なインターンシップ等設計・利用の一助となれば幸いです。