2023年4月、シマダヤ(株)の5代目社長に就任した岡田賢二氏。17年間トップを務めた木下紀夫前社長(現会長)からバトンを受け取り、業務用出身としては初の社長に就いた。
シマダヤは2024年度に親会社であるメルコホールディングス(株)からの独立・上場を予定するなど、大きな変革期にある。本紙は岡田社長にインタビューし、就任の抱負や今後の計画などを聞いた。〈インタビュー日=7月4日〉
――就任にあたって、大事にしたいことは。
最も重視するのは当社の経営コンセプト「おいしい笑顔をお届けします」の追求です。併せてCI(コーポレート・アイデンティティ)マークに込められた思い、経営ビジョンにもう一度立ち戻り、実践していきます。
今から20年前の2003年、シマダヤのブランド再構築に向けたプロジェクトチーム(BEST=ブランド・エクイティ・シマダヤ・チーム)が立ち上がりました。CIマークと経営コンセプト、7つのビジョンはこの「BEST」を通してできたものです。その時、私は「BEST3」の業務用の改革のリーダーを務めました。そこで初めて木下会長と一緒に仕事をしたということもあり、非常に思い入れがあります。
以前はどの会議や朝礼でも、経営コンセプトや7つのビジョンを唱和していました。ですがコロナ禍の3年間は唱和をできなかったため、もう一度原点回帰、リスタートしていきます。
また、就任にあたっては、木下会長からいくつかお言葉を頂きました。その一つが孔子の「論語」にある「民、信なくば立たず」です。政治をする上で必要なのは軍備、食糧、そして最も大事なのは民衆の信頼だという意味です。木下会長いわく「社長になったら社内外の信頼を得られなければ、社長としてはどんなにやりたいことがあってもできない」と。就任前から折に触れて伝えられていた言葉ではありますが、改めてこの言葉を肝に銘じたいです。
――就任から3か月、どんなことに取り組んでいますか。
今はできるだけ、普段話すことの少ない一般従業員と直接会話するようにしています。工場や各事業所に出向き、私の口から方針やメッセージを直接発信しています。既に工場11か所中10か所に行きました。その際に伝えているのは、「一番大事なのは笑顔。そのベースにあるのは人だ」ということです。我々のミッションは笑顔を作ることで、そのために人が大事だということを話しています。
私が仕事で一番嬉しいと思うのは、やはりお客様に喜んでもらったり、お褒めの言葉を貰ったりした時です。「シマダヤの商品って美味しいよね」「『流水麺』が便利で助かるよ」とか、大切な人に「シマダヤの麺が好きなんだ」と言われるとやっぱり嬉しいですし、それが私の活力になっています。ですから、そんな気持ちを従業員にも味わってもらいたいのです。私は30年間の中で幾度となく厳しい局面を経験してきましたが、辞めたいと思ったことはありません。
それは会社が好きであることと、存在意義に繋がるような経験をしてきたからだと思います。そういった経験を従業員もすることで笑顔の好循環が生まれると、私なりに考えています。
――今後の計画について。 まず今年度は、メルコホールディングスからのスピンオフ上場準備を計画通り実行することに重点を置いています。2024年度中の上場申請に向けて、粛々と準備をしています。
もう一つは、持続的成長に向けてグループ一丸となって取り組むことです。持続的成長というのは、1年や2年でできることではありません。今期は2024~2026年の新中期3か年計画に向けた準備期間として、持続的成長という点も含めて計画を練っています。
シマダヤは麺の専業メーカーです。コア事業である家庭用チルド麺と業務用冷凍麺なくして、当社の存在はありません。まず業務用冷凍麺は着実に伸ばしていき、家庭用チルド麺については需要が集中する夏場と秋冬のアンバランスをどう修正し、効率化・収益改善をしていくかが重要です。
こうしたコア事業に、家庭用冷凍麺や海外の冷凍麺なども絡めて中計を作っています。
当社は2031年に創業100周年を迎えます。短期的には2つのコア事業で収益を上げることが基本となりますが、同時に、従来のポートフォリオを見直し、収益性の高い事業を強化、育成していくことも必要だと考えています。
SDGsに関しては2年ほど前から段階的に始めており、そのひとつに原料の国産化があります。食料自給率や品質の向上に向けたもので、生活者から高い評価をいただいています。
また、健康機軸商品として「健美麺」ブランドの開発、拡販に一層力を入れていきます。高齢化が進む中で、健康寿命延伸については我々も他人事ではありませんので、麺を通してサポートしていきます。「健美麺」食塩ゼロ本うどん、「流水麺」国産小麦粉使用うどんは2022年、JSH(日本高血圧学会 減塩・栄養委員会)の「減塩推進10年アワード」を受賞しました。当社は生麺や冷凍麺の分野では比較的リードしているので、しっかりと推進していきます。
併せて環境問題への対応も進めます。トレーなし包装の推進やプラスチック使用量削減、フードロスへの取り組み、再生可能エネルギーの活用――など、自然環境を考慮した事業活動を続けていきます。現在は生産子会社であるシマダヤ関東(株)群馬工場、前橋工場に太陽光発電を導入し、計画以上に効果が出ていますので、東京工場と埼玉工場にも導入を検討中です。
――どんな会社にしていきたいですか。
「トップダウンから自律型組織へ」ということを常々言っています。何も、トップが判断するのを止めるということではありません。一番考えていることは、トップの限界でシマダヤの天井を決めたくないということです。私がこれからの人材について重要視しているのは、一つは挑戦すること、もう一つは他とのコラボレーションです。それを実行するためにはある程度、自分自身で考えて物事を判断しなくてはなりません。個人の裁量を少し広げ、過度な上下関係に左右されず、仕事に対する自主性を高めていければと考えています。
――個人的には。
健康が大事だと思っているので、週末に1時間以上のウォーキングを心掛けています。ゴルフも下手なので練習しなければいけないし、もっと読書もしたいのですが・・・・・・今は仕事に専念します。
――ご自身の強みについて。
私はもともと愛知県の製麺屋に生まれ、商売人の父と母の背を見て育ちました。だからなのでしょうか。人脈づくりや人の懐に入ることはさほど苦になりません。むしろ人に興味があります。また、丈夫な体に生んでくれた両親に感謝ですね(笑)。先人が作り上げた顧客を大切にしながら環境の変化に対応し、身の丈にあった経営を実践していきたいと思います。
2031年にシマダヤは創業100周年を迎えます。麺のパイオニアとして、品質とブランドをさらに磨き上げ、ステークホルダーの皆さまが誇りを持てるような会社を目指していきたいと思います。
〈岡田賢二社長 略歴〉
(おかだ・けんじ)1970年3月生まれ、53歳。愛知県出身。1993年4月(株)島田屋本店(現シマダヤ(株))入社、2004年4月マーケティング部業務用課長、2006年4月業務用特販営業部長、2008年4月業務用第一営業部長、2012年4月執行役員東日本営業本部副本部長兼業務用冷凍営業部長、2014年6月取締役業務用事業統括部長兼業務用営業本部長、2016年2月取締役マーケティング本部長兼経営企画部長、2018年6月常務取締役マーケティング本部長兼商品企画部長、2019年4月常務取締役生産物流本部長、2021年4月常務取締役(早稲田ビジネススクールでMBA〈経営学修士〉取得)、2022年5月専務取締役生産物流本部長、2023年4月代表取締役社長兼生産物流本部長。
〈米麦日報2023年7月18日付〉