M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

株式会社オシカワシステム 代表取締役 押川氏(譲渡企業/写真右/成約式当時)
株式会社パワーエッジ 代表取締役 塩原氏(譲受企業/写真左)

2019年の7月、株式会社オシカワシステムは株式会社パワーエッジへ株式譲渡を行いました。

M&Aを実施して3年以上が経過し、M&A当時から現在もオシカワシステムの主力メンバーとして活躍する東條氏にお話を伺いました。

M&A後も主力メンバーとして活躍する東條氏

東條氏はもともとアパレルの営業出身であり、ある求人誌を見て、1998年にオシカワシステムに入社されました。
当時のオシカワシステムは従業員8名ほど、売上は1億円にも満たなかったようです。
当時は、牛乳販売店向けのPKG『市乳くんⅢ』を主力事業とし、一部受託開発も行っていました。

東條氏が入社した当時は、OSがMS-DOSからWindowsへと切り替わる転換期だったといいます。
1998年~2000年ごろにかけて、牛乳販売店側でも、これまで紙で記録していた情報をパソコンで記録しようというムーブメントが生まれ始めていました。

ただ、営業を開始した当初は、簡単に受注できるわけではなく、徐々にパソコン管理によるメリットを訴求し、時代の流れとともに業界内でのシェアを拡大させていきました。
当時業界を席捲していたのは、オシカワシステムとさくらヴァンの2社であり、販売店側のニーズの増加とともに、エリアごとにシェアを奪うという2社の営業競争が始まったといいます。

M&A実行前のオシカワシステム

社内にも創業者の方の「株の承継」の問題と「社長業の承継」の問題、この2点についてどうなっていくのか?という疑問はあったようです。

会社の業績自体に問題はありませんでしたが、ある程度の年数を重ね、内情がわかってきた若手社員の中には、不安を感じる方もいたようです。

また、採用に力を入れ新卒採用を行っていた時期はありましたが、牛乳販売店向けの業務システムというニッチトップの尖った製品であったことからも、他のIT商材も扱ってみたいという理由で、転職していく方が一定数いたようです。

M&A実施直前~実行時

M&Aが従業員に開示される直前の土曜日の昼間に、東條氏は創業者である押川社長に急に呼び出されたといいます。

過去そういったことはなかったため、東條氏はすぐに重要な話であることを察したようです。

東條氏はそこで初めてM&Aの話を告げられましたが、「どこかでそうなるんじゃないかな?」とは考えていたため、「想定よりも、ちょっと早かったかな」と思った程度で、それほど大きな驚きはなかったといいます。

後日の従業員発表時も、他の社員の中で動揺していた方はほとんどいなかったようです。

M&A実行直後の朝会後、譲受先であるパワーエッジの塩原社長と東條氏で社長室に入り、打ち合わせを行いました。

東條氏と塩原社長が初めて対面したのです。
そこで、東條氏から塩原社長にまず相談したことは、「新たに決まった受注で、販売店に200台のタブレットを導入しないといけない、導入にあたりタブレットのOS(Android)のカスタマイズが必要になるが、対応できる人がいない」という内容でした。

IT補助金を用いた顧客からの受注であり、顧客は毎年補助金の申請をしては落ちていたため、今回も通らないだろうと考えていたようですが、まさかの通過となり、急遽200台のタブレットの導入をオシカワシステムに発注しました。

オシカワシステムには、タブレット200台のカスタムができる人員リソースは社内におらず、東條氏は「M&Aのことよりも、この受注をどうさばくか?」ということで頭がいっぱいだったようです。

相談後すぐに、塩原社長がパワーエッジの中から開発リソースを確保し、なんとか対応することが可能となりました。

上記の通り、M&AのDay1から事業連携が実現され、東條氏にとっては、M&A 初日からパワーエッジグループにジョインすることによるメリットを実感する結果となったのです。

開発面におけるメリットの享受

M&A実施当時、オシカワシステムの社員は13名でした。

オシカワシステムが提供している既存のサービス以外にも「このようなシステムつくれないか?」という依頼が顧客から上がっていましたが、これまでは社内リソースが足りず、新たな開発のために正社員を採用しようにも、その開発が終わってしまえば待機が発生してしまう可能性があり、採用については頭を悩まされていました。

そのため、いつも外注エンジニアを利用していました。

IT派遣会社に「こういう開発の依頼があるんだけど、対応できる方はいるか?」と問い合わせ、一定期間、派遣エンジニアに常駐してもらい、ソースコードだけ置いていってもらう、といった対応を繰り返していました。

都度そのようなオペレーションになるため、断っている案件も一定数あったようです。

それが、パワーエッジグループにジョインした後は、新たな開発の依頼があった際に、塩原社長に直接相談ができるようになりました。

塩原社長は「あ、それならこの人が対応できるよ」「グループ会社で、それできる人いるから話しておくね」といった具合で、その場でアサインを検討していました。

そのため、これまでにないスピード感で開発ができるようになったのです。

パワーエッジグループは300名の開発リソースを有しており、金融機関から事業会社、様々な業種で、様々なシステム開発の実績とノウハウがあるため、ほとんどの開発依頼は「経験したことがある」内容のようです。

パワーエッジとのM&A後に新たに始まった事業もあります。

牛乳販売店の「ホームページ制作事業」です。
牛乳販売店側にも、営業や販売員などを集めるために、ホームページの制作を依頼したい、というニーズは以前からありました。

応募者が、応募先の販売店のホームページを事前にチェックすることが一般的となっていたようですが、ホームページ自体が古かったり、そもそもホームページが無かったりする販売店が少なくなかったためです。

実際に販売店側からオシカワシステムへ、ホームページの制作依頼はあったものの、ホームページを作れるデザイナーやエンジニアがいないことから、それらの仕事は断っていたようです。

その状況が変わったのは、オシカワシステムがM&Aを実行した翌年のことです。

パワーエッジが、兵庫加古川にあるホームページ制作会社「株式会社ファインシステム」を新たにグループに迎えたのです。

そこから、オシカワシステムが受けた販売店のホームページ制作の仕事を、ファインシステムに依頼するという、グループ会社間での事業連携がスタートしました。

現在は、ホームページ制作においては、ファインシステムが骨組みを作り、オシカワシステムが実装して納品するという協業体制を敷いているようです。

このような業務連携などを相談する場として、オシカワシステムでは月例会議が実施されています。

出席者は部門長と役員のみですが、急ぎの案件などは月例会議を待たず、即時相談できる体制も整えられているようです。

営業面おけるメリットの享受

営業面に関しても新たな風が吹き込まれました。

M&A実行後は、商品プランの改定などを実施した際に、顧客への説明がしやすいということもあります。主に三つの変化があります。

1.商品の価格改定

競合他社より高価格である商品を見直し、対象商品の値下げを実施することで、シェアの拡大を見込みました。

2.サポート費用の導入

以前はリース料に、サポート料なども含めた込々の料金プランを採用していましたが、料金体系を切り離すことで、リース期間終了後も、安定した収入を確保できる体制を整えました。

同時に、リース料自体は引き下げ、顧客のニーズにも対応できるようになりました。

3.サブスクリプションプランの導入

これまでは、販売かリース契約の二択でした。
導入先のお客様にはご高齢の方も多く、どの程度の期間利用するか不明瞭な方もいました。

また、リースの与信が難しい方へは、導入することができませんでした。
そういった方々に対しても、商品の提供が可能となりました。

M&A実行前は、請求書発送の工数が増えてしまうなどの理由で、サブスクリプションプランを導入するハードルは高かったようですが、M&Aの実施により、実現できるようになりました。

採用面におけるメリットの享受

採用面についても大きな反響が見られました。
M&A実施後に2名の営業社員の募集をかけたところ、300件を超える応募がありました。

以前とは比べものにならない応募数に、人材紹介会社の担当者も驚いていたようです。募集条件を一部変更したことも、応募数が増加した要因ですが、パワーエッジグループにジョインをしたことによる影響が大きいと考えられます。

M&Aを経て、東條氏が思うこと

東條氏は、「どのようなお相手と一緒になるか」によって、結末は大きく変わるだろうと話します。

東條氏にとって、お相手であるパワーエッジの塩原社長の印象は、「人を惹きつける方」、「話しやすい雰囲気作りが上手な方」、「頭の回転が早い方」ということでした。

現に、初対面時からオシカワシステムの経営に関わるような大きな相談ができ、それを塩原社長が叶えてくれたということもあり、東條氏は、「この人についていけば、会社が更に良い方向に向かうだろう」と感じたようです。

現在においても塩原社長は、オシカワシステムの社員を尊重しつつ、的確なアドバイスもしているようです。東條氏は塩原さんをとても尊敬している様子でした。

最後に

創業オーナーの方々には、これまで命がけで事業を存続させ、社員を守られてきたご経験がお有りかと思います。

そんな百戦錬磨の創業オーナーであっても、時代の変化への対応や、体力の限界など、抗えないような大きな課題に直面することもあると思います。

市場変化のスピードが速くなっている中で、組織を持続的に成長させるためには、良い文化を残しつつ、新しい風を吹かせることが必要な場面も出てくるでしょう。

東條氏は、そういった状況においても、「M&Aは一つのきっかけになり得るのではないか」と語ります。

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著者

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七澤 一樹(ななさわ・いつき)
日本M&Aセンター業種特化1部/IT業界専門グループ
神奈川県出身。大学卒業後、㈱マイナビにて8年間ITソフトウェア業界向け人材紹介のコンサルティング営業に従事。入社4年目、5年目は企業向け人材紹介部門において、2年連続年間売上高1位を記録。チームマネジメントを経験した後、㈱日本M&Aセンターに入社。現在はITソフトウェア業界を専門にM&A支援業務に取り組む。
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