分業制の弊害、発注者から「話がつながっていない」と苦言 電子黒板で情報を共有 黒岩測量設計事務所(群馬県)

目次

  1. 公共工事の測量から補償コンサルまでを自社で完遂
  2. 成果物提出後も改善へ聞き取り調査、指名維持へきめ細かな対応
  3. 分業制の弊害、発注側から「話がつながっていない」と苦言
  4. 相互の書き込みがリアルタイムに表示される電子黒板を補助金で導入、社内外の情報共有を行い情報のモレがないようにした
  5. 次はUAV搭載型レーザースキャナー、「仕事は待っていても来ない」
  6. ICT機器を武器に発注側が求める以上の内容を提案したい
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

ボードに書いた内容を電子データに変換できる電子黒板(IWB:インタラクティブホワイトボード)を社内の意思疎通に活用しているのが群馬県前橋市の株式会社黒岩測量設計事務所だ。電子黒板導入の背景には、公共事業に対するトップの熱い思いがあった。(TOP写真:電子黒板を用いて会議中の様子)

分業制の弊害、発注者から「話がつながっていない」と苦言 電子黒板で情報を共有 黒岩測量設計事務所(群馬県)
前橋市内の住宅地に位置する同社の本社屋

公共工事の測量から補償コンサルまでを自社で完遂

同社は1965年1月に黒岩調査士事務所として創業、1977年4月に株式会社黒岩測量設計事務所に社名変更した。3代目トップは創業者の長男、黒岩和久代表取締役(60歳)。大学で農業土木を学んだ後、24歳で入社した。2代目を務めた叔父の跡を2014年に継いでから9年目になる。

取引先はほぼ100%群馬県や県内市町村で、測量、建設コンサルタント(設計)、地質調査、補償コンサルタントとして社会資本整備に携わる。21人の従業員は事務や営業の担当者を除くと、ほとんどが測量士や技術士、一級土木施工管理士、RCCM、地質調査技士、補償業務管理士などの有資格者で、公共工事に係わる測量から補償までを自社内で完遂できるのが強みだ。

分業制の弊害、発注者から「話がつながっていない」と苦言 電子黒板で情報を共有 黒岩測量設計事務所(群馬県)
売上の約6割を測量業務が占める

成果物提出後も改善へ聞き取り調査、指名維持へきめ細かな対応

公共事業は、発注者である官公庁があらかじめ「指名」した事業者だけが参加する「指名競争入札」で受注を勝ち取らなければならない。指名は従業員が作業中に怪我をして労働災害(労災)が適用になっただけで指名停止になってしまう厳しい世界だ。黒岩社長は「なんとか大きな事故なくやってきました」とこともなげに話すが、徹底した安全管理の表れだろう。

建造物が形になる建築や土木業者と異なり、同社のような測量・設計会社の公共事業の「成果物」は、最終報告書を作成することだ。A4版で、測量や設計データなどをまとめた報告書の厚さは約10センチに及ぶ。

だが、成果物提出でおしまいではない。同社はさらに項目別になった仕事の評価表を配って発注担当者に記入してもらうほか、直接聞き取りもしている。「良いことはいいから悪いことをどんどん言ってくれとお願いしています。及ばなかったところがわからないと改善にならないから」と黒岩社長。「改善して次につなげないと、その後はない」と考えている。

分業制の弊害、発注者から「話がつながっていない」と苦言 電子黒板で情報を共有 黒岩測量設計事務所(群馬県)
パソコンデータを駆使する設計業務も柱だ

分業制の弊害、発注側から「話がつながっていない」と苦言

そうやって発注者の意向汲み取りに気を配ってきた黒岩社長だが、ある時「話をしたことがつながっていない」と役所の担当者に怒られたことがあった。業務の進め方に対する発注者の意図が同社の複数にわたる担当者に、まちまちに伝わっていたのだ。

「一人で1案件を担当していた時代とは違い、今は測量、設計、地質調査、補償とそれぞれの強みを特化してきたため仕事が分業制なのです。発注者からすれば打合せに来た技術者に伝えればそれぞれの担当者に話が伝わって当たり前と思っています。測量は強いけど、設計や地質調査は専門ではないという場合もあります。」と黒岩社長。そこで、「わかりません」では話にならない。ある程度業務全体の知識を持ちながらも「後ほど担当者から連絡させます」と応じないと不信感を抱かれてしまう。発注者の指摘を受けた黒岩社長は危機感を抱いた。「発注側とうまく対応するために、みんなが情報を共有できる方策はないものか・・」。

相互の書き込みがリアルタイムに表示される電子黒板を補助金で導入、社内外の情報共有を行い情報のモレがないようにした

2022年、黒岩社長がたどり着いたのが電子黒板だった。

新型コロナウイルス感染症の流行で、社内にはすでにテレワークの体制が整っていた。2020年春、前橋市の補助金を申請して採択され、サーバーを入れ替え、従業員のパソコンを新調した。創業の地・嬬恋村にある支店との業務打ち合わせなどは、関係者の各パソコンをつないでオンラインでやっていた。

たが、オンライン打ち合わせでは図面が画面に映るだけだ。ホワイトボードに書き込んだ内容が電子データに変換されリアルタイムで共有できる電子黒板なら、各担当業務における意思疎通が可能になり、的確な指示もできる。データの保存も簡単だ。

電子黒板からだけでなく、パソコンからも電子黒板の画面に書き込みできるソフトを導入し、2023年2月から稼働。電子黒板で社内外での会議やWeb研修会に活用しているほか、業務内容の共有化にも役立っている。

次はUAV搭載型レーザースキャナー、「仕事は待っていても来ない」

黒岩社長が電子黒板の次に導入を計画しているのは、UAV搭載型レーザースキャナー。高額なため、だめもとでものづくり・商業・サービス生産性向上促進助成金を2022年12月に申請。2023年5月に補助金交付決定通知が届き、諸手続を経て機器の発注をした。UAVレーザースキャナーを活用した測量は、地形解析や施工管理など様々な業務に使われ始めている。

「UAV搭載型レーザースキャナーは導入費用がかかるし、仕事も多くはないからまだ必要ないと考える会社もあるが、当社は〝まず入れて使え〟がポリシー」と黒岩社長。「仕事は待っていても来ません。飾っておいてもしょうがないですから、入れて使ってみて、使い方を研究していく」と話す。「今年の秋には本格的に稼働出来る見通し」という。

分業制の弊害、発注者から「話がつながっていない」と苦言 電子黒板で情報を共有 黒岩測量設計事務所(群馬県)
ICT機器やUAVの導入によって、元々持っている技術力の高さに磨きがかかる

ICT機器を武器に発注側が求める以上の内容を提案したい

公共事業に携わる一人として黒岩社長は「我々は公共事業をやって税金で食べさせてもらっている請負業者です。役所の意向に逆らえない〝請け負け業〟だという人もいます。だけど発注者にこうしてほしいと言われたまま仕事をするのはつまらない。発注者が求めるものをよく理解した上で、それ以上のものを提案することが大事ではないでしょうか」と力を込める。「発注者に言われたことだけやっていては、会社の成長はないでしょう」とも語る。

提案力強化の武器として期待できるのは電子黒板やUAVなどのICT機器だ。「世の中はどんどん変わっていくのだから、新しいICT機器を入れて使いこなしていかないと発注側の要望に追いついていけない」と黒岩社長。「世の中の動向を見て、新しいICT機器を導入する必要がありますね。うちも歩みを止めずバージョンアップしていくつもりです」と先行きを見据えている。

企業概要

会社名株式会社黒岩測量設計事務所
住所群馬県前橋市荒牧町1-40-24
電話0272-34-6601
HPhttp://www.kuro.ne.jp/
設立1977年4月
従業員数21人
事業内容測量、建設コンサルタント(設計)、地質調査、補償コンサルタント