「知性」と「コミュニケーション」にフォーカスし、発売2ヶ月で20万部突破のベストセラーとなっているビジネス書「頭のいい人が話す前に考えていること」の著者である安達裕哉氏に独占インタビュー。コンサルタントとしての経験を生かし、話す前に考えることの重要性を説く安達氏に、本書を執筆したきっかけから、ビジネスパーソンがすぐに実践できるコミュニケーションのポイントをお聞きしました。
まずは、THE OWNERの読者に対して簡単に自己紹介をお願いします。
2001年デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社しましたが直後に会計システムに関連する法改正があり、現在のアビームコンサルティングに残るか、デロイトでマネジメントコンサルティングをやるか選択せよということになり、上司の勧めでデロイトにコンサルタントとして残ることになりました。その後は独立してWebマーケティングの会社を起業し、コンサルティングやWebメディアの運営などを行っています。
本書を執筆された経緯をお聞かせください。
知人に著名なコピーライターの方がおり、その方に「安達さんの今までの本は売れてないけど、出すとこ出せば、多分売れるから」と言われて、現在の編集担当者を紹介していただきました。
その方から「安達さんがこれまで書いていたのは話し方ではなくて、知性に関する話だから、それをテーマに本を出すのはどうか」という提案をいただいたのが始まりです。
コミュニケーションというと、話し方が重要だと思われがちですが、コンサルティングの経験上、話し方で内容を誤魔化せるということはありません。話の内容の方がはるかに重要なのです。なので、話す前に念入りに準備をして考えるべきことを皆さんに届けようと思ったのがこの本を出した理由です。
コンサルタントのような仕事の場合、パッと結論を求められることもあるかと思うのですが、コミュニケーションのスピードと質を担保するにはどうしたら良いのでしょうか。
実はレスポンスの速さを求められるケースは少ないと思います。コンサルタントの時に、よく指摘を受けていたのは「わからないものを無理して答えずに、一旦持ち帰りなさい」ということです。無理に答えようとして、適当ではない回答をしてしまう方がリスクです。皆さん勘違いしがちですが、絶対にその場で答えないといけない質問ってほとんどありません。当たり前に答えられるような質問に「わからない」と回答するのは少し問題がありますが、そういうケースでも、「ちょっと正確に答えたいので後からお送りします」というのも失礼にはあたりません。「すぐに答えないといけない」と思いこまず一度持ち帰って整理する、これが大事です。
賢い人は、わからないことをわからないままにしない
「何か言っているようで何も言っていない人たち」の図が印象的ですが、賢いふりではなく賢くふるまえるよう社員に対してどのような働きかけができるのでしょうか。
まず「何か言っているようで何も言っていない」というのは、「具体性がない」ということです。なので「何か言っているようで何も言っていない」と感じた時には、「具体的にはどういうことですか?」とちゃんと聞くことが重要です。大体のことはそれだけで済んでしまいます。
日本人の特徴として、わからないところがあった時にあまり質問をしないというところがあります。失礼かな、と過剰に気を遣ってしまったり、あとは単純に質問するのが怖かったりするのです。
私がコンサルタントだったときは、お客さんにあいまいな点を確認しないで帰ると先輩にめちゃくちゃ怒られました。「疑問点がなくなるまでは、お客さんのところにかじりついて教えてくださいって言わないと」と。わからないことはわからないままにしないで、きちんと聞くということ、そうすれば賢くふるまえると思います。
言葉の定義というお話、多くの企業で盲点なポイントかとも思います。定義を揃えることに取り組もうとした際にどこから始めるべきでしょうか? また、浸透させるための工夫などがあれば教えてください。
そうですね、大前提、言葉を定義することはとても難しくて、意識しないとできない行為だとは思います。結論から言うと、言葉一つひとつに敏感になることが大切だと思います。
私が在籍していたコンサルティング会社では、勉強会が月1、2回開かれて、そこであいまいな言葉を使うと、質問がくるんです。「その言葉はどういう意味ですか」と。また、資料の中に言葉の定義をきちんと入れることも大切です。
例えば「改善」という言葉を使うなら、その「改善」というのは何月何日から何月何日までの期間で継続した何々における改善だっていうことをきちんと定義しておかないと、お客さんにも突っ込まれるわけです。
言葉一つひとつの意味と使い方に敏感になる、その風土を会社全体で作らないといけないと思います。
相手の話をしっかり聞くことで、社員とのコミュニケーションの質は上がる
コロナ禍で働き方も大きく変化しました。社会的知性やコミュニケーションの面で企業が抱える課題をどのように捉えていますか?
リモートなどで直接対面できないことでの1番大きな課題は、新人の育成が難しいという点ですね。新人は社内にネットワークがありません。不明点などを誰に聞いたらいいかわからないのに、オンラインではチャットでテキストコミュニケーションしなければならないですから、さらに聞くのが難しいですよね。テキストだと冷たく感じますし。そうなると新人は「じゃあ、もう質問しなくていいか……」となってしまいます。
なので、質問したい時にいつでも質問できるように、ハードルを極限まで下げてあげないといけません。オンラインではなくとも、先輩に質問するのはそもそも怖いので、ここを工夫できるといいかなと思います。
ご自身も経営者でいらっしゃいますが、社員とのコミュニケーションにおいて心がけていることなど、これを読んでいる全国の中小企業オーナーへアドバイスがあればお願いします。
あえて一つ上げれば、相手の話を最後まで聞く、ということですかね。
私もよくやりがちなのですが、特に忙しい人だと相手の話をちゃんと聞かないで判断してしまうことが多いです。
例えば、部下がせっかく話をしてくれている途中で、「ああ、わかったわかった、じゃあこうしたら。」って言ってしまう。
これが一番よくないです。さらにいうと、相手の視点を把握せずにアドバイスしてしまうと、相手は実行してくれません。特に相手が若手の場合は背景知識なども異なるので、相手の立場に立って、なぜそう考えたのか、意図を汲み取って歩み寄らないと、相手もアドバイスを実行しづらいのです。
経営者はやっぱり頭の回転が早い人がほとんどなので、部下に対しても「よろしく、終了!」みたいな人が多い印象です。だけど状況を正確に聞いて、「じゃあこうやりたいです」とか「こうやったらいいという風に私は思いました」という彼らの意見を引き出してから、それに則したアドバイスをするべきです。
コミュニケーションとは言葉の奥に潜む想いを汲み取ること
今回は、話す前に考えることの方が話し方よりも大事だと語る安達氏に、ビジネスシーンで最も重要であるコミュニケーションのスキルアップのために今すぐできること、意識するべきことは何かをお聞きしました。
本書ではコミュニケーションにおいて大切なことは、話し方などのテクニックではなく「話す内容そのもの」であるとし、話す前にどのようなことを考えたらいいか、をわかりやすく説明しています。重要なポイントは、どれだけ相手の立場に配慮し思いやり、想いを汲み取れるかという寄り添う力にあるようです。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」ではコミュニケーションにおいて大切なことが見事に言語化されており、そこには、頭のいい人たちの知見だけでなく、頭のいい人になるためのプログラムが詰まっています。濃い内容となっているので、ぜひ手にとって確かめてみてください。
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。 Twitter:@Books_Apps
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