新事業を行う際は、会社へ出資するのと反対にこれまで携わっていた事業から身を引くことになり「会社へ出資したお金の返還を求められる」と考える人もいるかもしれない。しかし結論からいえばNO。出資金は返還されないお金である。本記事では、わかっているようで実は知らない人も多い出資金返還義務の有無や対処方法などについて解説していく。

目次

  1. 出資金とは? 返す? 返さない?
    1. 株式会社の出資金
    2. 協同組合等の出資金
  2. 出資金を返す必要がないのはなぜか
  3. 出資金の返済が必要となる場合もある
    1. 解散・整理した場合
    2. 株式譲渡承認請求
    3. 株式買取請求
  4. 出資金の返還義務はないが、出資者には株式で経済価値を提供
もしもの時のために知っておきたい、出資金返還の可能性
(画像=sumire8/stock.adobe.com)

出資金とは? 返す? 返さない?

事業を運営するうえで必要とされる資金を個人や法人が提供するお金が出資金だ。例えば、創業するにあたり創業者あるいは創業メンバーがお金を出し合うケースは多いだろう。このお金(出資金)を元手として創業手続きをはじめ事業活動を行うのが一般的だ。ただ事業形態(運営体)によって出資金の取り扱われ方が異なる。

本記事では、株式会社における出資金について説明していくが、その前に「株式会社」「それ以外(協同組合等)」の2つに分けて出資金の取り扱いを簡単に説明しておく。

株式会社の出資金

株式会社の場合、出資金は資本金や資本準備金として経理処理される。つまり出資されたお金は、会社の資本金となり会社に帰属する仕組みだ。詳しくは後述するが、資本金となった出資金は出資者に返還されることはない。

協同組合等の出資金

株式会社以外では、以下のような協同組合等への出資が代表的だ。

  • 中小企業事業協同組合
  • 労働者協同組合
  • 農業協同組合(農協)
  • 消費者生活協同組合(生協) など

それぞれに加入資格や基準はあるが、出資金を支払うことで各協同組合等へ加入できる。つまり協同組合等の出資金は、組合員となるために支払う必要があるという性格のものだ。もちろん株式会社と同様に協同組合等の出資金も組合の事業運営に利用されるお金ではある。

それでも株式会社とは法規制が異なっており、脱退時や事業休止などのやむを得ない事情がある際には、それぞれに準拠する法に基づき返還するケースが多い。

出資金を返す必要がないのはなぜか

株式会社では、出資金が資本金となることはすでに述べたとおりだ。会社側は、出資を受けた見返りとして自社株を発行し、出資者へ自社株式を提供する。「お金」から「株式」という形に変わるとはいえ、出資を受けた時点で会社は出資者に対して見返りを提供しているため、後日あらためて出資金を返還することはない。

また出資者は、株主となることで当該会社の経営参加権や配当金請求権などといった株主としての権利や経済的利益を得ることになる。ここで出資と混同されやすい「融資」にも触れておこう。どちらも事業運営のための資金を調達する方法として一般的に利用されているが、融資は「借りたお金」であり、出資金とは異なり会社のものとはならないお金だ。

そのため借りた会社は返済義務を負い、融資した側は債権者として返済を受ける権利を持つ。

出資金を返す必要がないのはなぜか

出資金の返済が必要となる場合もある

上述したように株式会社の出資金は返還しないお金であるが、場合によっては以下のように返済を要することもある。

解散・整理した場合

正式には「残余財産の分配」という。会社の負債や債権、固定資産などを整理した後に残った財産は株主に対して株式保有比率に応じて分配される。残余財産とは、以下のような資産整理を行い、最終的に残った財産だ。

  • 債務の返済(買掛金・借入金など)
  • 債権の回収(売掛金など)
  • 固定資産の売却、現金化

前述したように株主は出資者のため、「残余財産の分配」は事実上、出資金の返還といえるだろう。残余財産の価値によっては、実際の出資額よりも多くなる可能性もある。

株式譲渡承認請求

上場企業などの公開株式の場合、株主は市場で自由に株式を売買できる。しかし非上場企業の株式では、株式の譲渡に関して制限が設けられているのが一般的だ。その場合、株式を売却するためには会社の承認が必要となる。その際、株主(または買い手)は会社に対して株式譲渡承認請求を行い、承認を得られれば買い手に対して売却が可能だ。

会社は、出資金を返還するわけではないが株主にとっては出資金の回収となる。ちなみに「誰が買い手なのか」「買取後の買い手の持ち分比率がいくらになるか」については、会社にとって慎重に検討すべき問題だ。譲渡承認請求をしたからといって必ずしも承認されるわけではない。

株式買取請求

単に出資金の回収という目的では買い手を見つけにくい。買い手が見つからない場合や上記した譲渡承認請求で不承認となった場合など、株主は会社に対して自分の持ち分を買い取ってもらうよう請求することができる。

出資金の返還義務はないが、出資者には株式で経済価値を提供

株式会社に対する出資金は、返還義務がない代わりに出資者は株式を得る。つまり経営参加権や配当金請求権などを有することが可能だ。とはいえ配当金は会社の業績によって異なり、出資した金銭の回収につながらない可能性もある。そのため出資する際には、出資の目的やリスクも熟慮したうえで行うことが大切だ。

また出資を受ける会社側は、出資者(株主)が得られる経済価値に満足できなければ第三者に譲渡する可能性があることも知っておきたい。あらためて出資金の意味を知り、出資者・出資を受ける会社の双方に利益をもたらせるような事業運営に努めてはいかがだろうか。

續 恵美子
著:續 恵美子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。こうした経験をもとに、生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などを行う。

無料の会員登録でより便利にTHE OWNERをご活用ください
他ではあまり登壇しない経営者の貴重な話が聞けるWEBセミナーなど会員限定コンテンツに参加できる、無料の会員登録をご利用ください。気になる記事のクリップや執筆者のフォローなどマイページからいつでも確認できるようになります。登録は、メールアドレスの他、AppleIDやtwitter、Facebookアカウントとの連携も可能です。 ※SNSに許可なく投稿されることはありません

無料会員登録はこちら