中小企業の場合、運転資金の調達は銀行などの金融機関が中心となるだろう。銀行などの金融機関から融資を受ける際には「どのような目的の運転資金なのか」「金融機関がどのような点を審査しているのか」について押さえていないと、融資を受けるのが困難になることがある。はたして運転資金を調達するコツはあるのだろうか。

運転資金は、正常な営業活動を行うために必要な資金であり、資金調達がうまくいかなければ、資金繰りが破綻して事業継続ができなくなってしまう。本記事では、出資やファクタリングなどさまざまある資金調達の方法のなかから、中小企業が金融機関から融資を受ける際の注意点や審査のポイントに絞って解説する。

目次

  1. 運転資金の融資とはどのような目的で受けるのか
    1. 運転資金の融資の目的
    2. 運転資金はなぜ必要となるのか
  2. 金融機関から運転資金の融資を受ける際の注意点
    1. 金融機関は企業の返済能力を審査する
  3. 金融機関から信頼されることは運転資金の調達に結び付く
融資を断られてしまう7つのポイントとその対策
(画像=tiquitaca/stock.adobe.com)

運転資金の融資とはどのような目的で受けるのか

最初に運転資金の融資はどのような融資であるのか、その目的と必要とする理由について解説する。

運転資金の融資の目的

中小企業は、資金力・体力面で大企業に及ばないことが多いため、ビジネスではどうしても大企業に大きなアドバンテージを奪われることになる。特に資金調達面では顕著に現れ、中小企業は何かイレギュラーなケースが発生すると資金繰りがショートし、事業継続が難しくなりかねない。そうならないためにも運転資金は、十分な金額を確保しておくことが必要だ。

設備資金は、店舗やビルの購入代金や賃貸する際の保証金、機械・機器、車両の購入資金など事業を行ううえで必要となる設備投資のための資産を支払う費用である。金融機関から設備資金の融資を受ける際は、例えば営業車を購入するなど購入する設備の見積書や資金計画を提出し、資金使途(使いみち)を限定しなければならない。

また返済期間は、その資産の耐用年数などを加味して設定することから、土地・建物などであれば長期での返済も可能となる。一方、運転資金とは正常な営業活動を行うために必要な資金のこと。設備資金のように資金使途が限定されない資金となる。本来運転資金の融資は、以下のような変動費や固定費の支払いへ自由に充当できる。

  • 変動費:商品仕入や原材料の仕入れ、労務費や外注費など
  • 固定費:人件費や水道光熱費、家賃やリース料など

運転資金は、短期の資金ニーズに対応するための資金だ。そのため運転資金の融資を受ける際の借入期間は、設備資金の借り入れと異なり比較的短くなりやすいという特徴がある。

運転資金はなぜ必要となるのか

商取引には、販売代金の「回収」と商品仕入代金の「支払い」にタイムラグが生じることがよくある。このタイムラグを計算して通常の事業活動に必要な資金を計算したのが、「所要運転資金」だ。企業は、商品やサービスを提供することで売上を計上するが、買い手はすぐにお金を支払うのではなく後日代金を支払うのが一般的である。

つまり仕入から代金を回収するまでには時間がかかるのだ。企業が継続的に事業を行うためには、手元資金の十分な確保が求められるが、商品やサービスを提供してから代金回収までの期間が長いほど運転資金が多く必要になる。一方、商品や原材料などを仕入する際には、仕入代金の支払いや締日、支払い日を決めて行うことが一般的だ。

商品を仕入れたとしても代金は後日代金を支払うことになるため、支払いがすぐに発生するというわけではない。先方からの請求書が来て取引条件で定められた期日までに支払えばよいのだ。つまり商品の納品よりも支払い期日が遅くなるほど事業活動に必要となる資金は少なくて済むことになる。

これらの商品を販売してから代金を回収するまでのタイムラグ、商品を仕入れしてから代金を支払うまでのタイムラグを考慮したのが、「所要運転資金」だ。所要運転資金では、毎月正常に事業を行うにはどれくらいの資金を必要とするのかを算出する。ざっくりとした所要運転資金を計算したい場合は、決算書を見て以下の計算式で算出するとよいだろう。

・所要運転資金=売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産+前渡金-買掛債務(買掛金・支払手形・前受金・未払金)

金融機関から運転資金の融資を受ける際の注意点

中小企業としては、運転資金が必要な際にまず頼るのが銀行などの金融機関だ。金融機関から融資を受ける際の注意点を理解することが、運転資金を調達するコツともいえる。

金融機関は企業の返済能力を審査する

中小企業が銀行などの金融機関から融資を受けるときの審査のポイントは、大きく分けて7つある。

1.企業の安定性と返済能力
金融機関は、融資した資金に利息を上乗せして回収することで利益を上げている。融資を受ける際の利息は、その企業の倒産リスクと金融機関の収益、事務コストを加味して決定し、1~3%前後が一般的だろう。しかし金融機関は、薄利多売の商売でもあり融資した資金(元本)が回収できないと大きな損失となるため、企業の返済能力の有無を慎重に審査する。

そのため経営者としては、金融機関が企業の財務内容から事業としての安定性、健全性をチェックすることを認識しておくことが必要だ。健全な財務内容となるように継続的に収益を上げて、企業体力を強化していかなければならない。また金融機関で融資を申し込む際は、各都道府県に設置されている信用保証協会を利用した保証付融資の利用をすすめられるケースが多い。

なぜなら保証付融資は、企業が返済できない場合に信用保証協会が返済してくれるため、金融機関としては安心して中小企業へ融資できるからだ。信用保証協会の保証付融資は、保証料などのコストがかかるが、プロパー融資と比較すると審査が通りやすいといわれている。

2.借入額と資金使途
金融機関は、融資の資金使途や借入額が目的に合ったものになっているかを厳しくチェックする。事業計画や収支計画、資金繰り、今後の売上の見通し、返済可能な金額など、さまざまな視点からチェックされる。そのため資金使途を明確に示し、どのようにして返済していくかを説明できなければならない。

金融機関から運転資金の融資を受けて、使途を誤ると金融機関からの信用を失うことになりかねない。例えば運転資金で借り入れしたにもかかわらず営業車を購入したのでは、資金使途に反することになる。また事業資金を個人へ流用することも当然NGだ。こういった場合は、借入金を一括で完済するように請求される可能性があるため注意したい。

これらを踏まえて借り入れをする際、運転資金と設備資金は明確に区別するようにしよう。また融資を申し込む際の借入希望額も同様だ。所要運転資金を超える金額の融資を受けようとすると、金融機関から必要以上の金額の場合は減額されたり、断られたりする可能性がある。

所要運転資金を超える運転資金を金融機関から借りる際には、財務状況が赤字であると赤字補填資金として金融機関から警戒されることもあるため注意したい。

3.返済の滞納の有無
返済状況は、どんな借入方法においてもチェックされるため、借り入れする金融機関以外であっても、返済に遅れがあると融資を見送られることになりかねない。金融機関は、毎年決算書の以下のような内容を細かくチェックする。

  • 毎年の決算書から連続した数値がつながっているか
  • 不良資産はないか
  • 異常値はないか
  • 特殊事情はないか など

他行の借り入れであっても融資残高の推移から返済に遅れがあればすぐにわかってしまうだろう。

4.税金の滞納についてチェックされる
納税証明書や決算書から税金の滞納の有無は、常にチェックされていると考えたほうがよい。税金の種類は、法人税・消費税のほか、固定資産税や法人住民税、都道府県民税、市区町村税などもチェックされることがある。滞納があれば「信用力がない」「税金を支払う資金もない」と判断されるため、返済や税金の滞納がないように、普段から細心の注意を払う必要がある。

特に新規で融資を申し込むときや、不動産を担保に入れるときには、納税証明書の提出を求められることがあるため注意が必要だ。

5.経営にかかわる数値は説明できるようにしておく
金融機関は、財務内容を重要視する傾向だ。しかし決算書の売上や利益は過去のデータにすぎず、現状の足元の状況を質問してくることがある。そのため売上の見込みや資金繰り状況、利益の見込みなどは普段から説明できるように把握しておかなければならない。疑問点が生じた場合は、追加資料を求められるケースもある。

6.事業計画書や試算表の準備
金融機関へ決算書を提出したとしても、決算期から3~6ヵ月経過していれば試算表の提出を求められることが多い。審査の状況次第では、事業計画書や資金繰表など経営状態が把握できる資料を追加で求められることがある。今後の見込みや足元の状況を把握するために事業計画書や試算表、資金繰り表などが重視されることもあるため、経営者としては説明できるようにしておきたい。

7.保証人・担保の有無
現在は、無担保無保証人で融資を受けられるケースが多くなっているが、中小企業の場合、いまだに代表者が会社の連帯保証人になることを条件とされるケースが多い。融資金額が高額となる場合は、不動産などの担保の有無も重要だ。そのため提供する担保があるのかを事前に検討しておかなければならない。

金融機関から信頼されることは運転資金の調達に結び付く

運転資金を調達するコツは、金融機関から融資を受ける際の注意点を理解し、事前に備えておくことにある。場合によっては、すぐに改善できないこともあるだろう。しかし金融機関との信頼関係を構築しておけば、正直に相談することで支援が受けられるケースも多い。金融機関は、決算書のデータだけで判断するといわれることがあるが、決してそれだけではない。

決算書を見れば経営者の人となりを見ることもできるのだ。中小企業であれば、日ごろの経営に対する経営者の姿勢を示すことで金融機関から信頼されることも運転資金を調達するコツといえるだろう。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。

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