商品やサービスが売れていても、キャッシュ不足に陥ると会社は潰れてしまう。中小企業が黒字倒産を避けるには、徹底したキャッシュフロー対策が必要だ。本記事で黒字倒産が起こる原因を理解し、キャッシュフロー悪化を防ぐコツや対策を押さえていこう。
目次
儲かっているのに会社が潰れる原因は? 黒字倒産はなぜ起きるのか
黒字倒産とは、帳簿上では利益を出している企業が、キャッシュ不足によって倒産することである。いくら売上が好調であっても、仕入れや税金などの支払いに対応できない企業は、黒字のまま倒産を迎えてしまう。
例えば、新規顧客を獲得するために手形取引や売掛金を増やすと、代金の回収サイトは先延ばしになる。それまでに仕入代金や税金の支払日があると、資金ショートを引き起こしてしまうかもしれない。
このような黒字倒産はなぜ起こるのか、以下では3つの原因を確認していこう。
原因1:キャッシュフローにならない過剰在庫・滞留在庫
在庫を増やすには仕入代金を支払う必要があり、実際に販売するまではキャッシュにならない。また、量が多いと管理コストも発生するため、過剰在庫・滞留在庫はキャッシュフロー悪化の一因になる。
特に回転率の低い(=販売までに時間がかかる)商品を取り扱っている場合は、過剰在庫・滞留在庫が増え過ぎないように仕入を調整することが必要だ。
原因2:売上債権の回収遅れ
売掛金や手形による取引は、主に新規顧客を獲得する戦略として活用されている。しかし、これらの売上債権も実際に回収するまではキャッシュにならない。
長期の回収遅れが生じないように、売上債権の支払い状況はこまめに確認して、迅速に対応することが求められる。
原因3:営業キャッシュフローにつながらない無理な投資
会社が成長を目指す上で、設備投資などの投資活動は欠かせないものである。しかし、営業キャッシュフロー(※)につながらない投資や、無理な借入による投資を続けると、言うまでもなくキャッシュは不足してしまう。
(※)主要商品の仕入れや販売など、本業による現金収支のこと。
また、投資資金の回収までにはある程度の時間がかかるため、基本的には営業キャッシュフローだけで賄うことが望ましい。
1つの財務諸表では分からない黒字倒産のリスク
損益計算書や貸借対照表だけでは、黒字倒産のリスクを見極めることは難しい。
例えば、損益計算書はあくまで利益・損失のみをまとめた書類であり、その内容から資金の流れを読み解くことはできない。仮に売上高や営業利益が同じであっても、売上債権の割合が変わればキャッシュフローは全く違ったものになる。
貸借対照表についても、その内容から「どのような方法で資金調達をしたか」や「何にどれくらいの投資をしたか」は判断できない。資金繰りの穴埋めとして借入金を増やした企業と、設備投資のために融資を受けた企業とでは、黒字倒産のリスクは大きく変わるだろう。
中小企業が黒字倒産を防ぐには、複数の財務諸表を組み合わせて経営判断をすることが重要だ。
黒字倒産の回避法は? キャッシュフロー悪化を防ぐコツ
黒字倒産を回避するには、どのような対策が考えられるだろうか。以下ではキャッシュ不足を防ぐコツとして、3つのキャッシュフロー対策を紹介する。
財務三表を組み合わせて経営分析をする
財務三表とは、損益計算書や貸借対照表に「キャッシュフロー計算書」を加えた書類である。キャッシュフロー計算書は、前期からのキャッシュ増減を項目別にまとめた書類であり、資金の細かい流れを読み解くことができる。
これらの財務三表をどのように組み合わせるのか、以下で一例を紹介しよう。
損益計算書:損益分岐点を確認し、自社が目指す売上や利益の水準を明確にする。
貸借対照表:「資産・負債・純資産」のバランスから、大まかな財務状況を読み取る。
キャッシュフロー計算書:期初や期末の残高を比較し、キャッシュの出入りを確認する。
キャッシュフロー計算書には、損益計算書や貸借対照表を補足する役割がある。非上場企業に公開義務はないが、高度な経営分析のためにも毎年作成することが望ましい。
仕入れ調整で適正な在庫を心がける
過剰在庫や滞留在庫を防ぐために、仕入れ調整をすることも重要である。前述の通り、在庫は販売するまではキャッシュにならないので、常に適時適量を意識しておきたい。
近年では在庫状況を把握・管理する方法として、多くの企業が専用のツールを導入している。人的リソースやコストの節約にもつながるため、在庫管理システムなどの導入も検討してみよう。
入出金のタイミング調整でキャッシュを増やす
入出金のタイミング調整も、黒字倒産を回避する方法である。特に売上が安定している企業は、以下のような施策に取り組むだけでキャッシュフローの改善を期待できる。
<入出金のタイミング調整をする方法>
・売掛金の回収が遅れている取引先に連絡をする
・仕入れの時期をずらす
・融資元の銀行に支払い延長の交渉をする
銀行に対して交渉をする場合は、資金繰り表や返済計画書などの資料が求められる。「確実に返済できること」の証明が必要になるため、十分な情報提供ができるように万全の準備を整えておこう。
スムーズな資金繰りで黒字倒産を回避しよう
資金力の乏しい中小企業は、入出金のタイミングが少しずれただけで黒字倒産を迎えることがある。売上だけではカバーできない状況もあるため、自社のキャッシュフローは常に把握し、スムーズな資金繰りを意識することが重要だ。
まずはキャッシュフロー計算書の作成から始めて、自社が抱えている課題を洗い出してみよう。