CASEという言葉をよく聞くようになったが、CASEの意味や内容をよくわからない人も多いのではないだろうか。近年、自動車業界を中心にCASEの研究・実証実験等が加速度を増して進んでおり、CASEが実現することで世の中がどのように変わるのか興味深い。企業経営者であれば、自分のビジネスにどのような影響があるのかを知っておくことも必要だ。

そこで本記事では、CASEの意味や政府・自治体が目指しているCASE戦略などについて簡単に解説しつつ、中小企業の事業への影響を事例も交えて紹介していく。

目次

  1. CASEとは?意味を簡単に説明
    1. Connected(コネクテッド)
    2. Autonomous(自動運転)
    3. Shared & Services(シェアリング/サービス)
    4. Electric(電動化)
  2. CASEが推進されている背景と目的
    1. MaaS(マース)
    2. グリーン成長戦略
  3. CASEの目的と期待される未来
  4. CASEは中小企業に好機となるか?自動車産業の協業事例を紹介
    1. 豊田合成×エス.ラボ
    2. アイシン×イデイン
    3. 小島プレス工業×スパイバー
  5. 新規事業や新製品開発などには補助金を利用する手も
    1. 地域中小企業応援ファンド(スタートアップ応援型)
    2. ものづくり補助金
    3. 専門家派遣 (中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業)
  6. CASEによる大変革を自社ビジネスに活かそう
CASEとは? 意味や戦略、モビリティの変化を簡単に解説
(画像=Patrick/stock.adobe.com)

CASEとは?意味を簡単に説明

CASE(ケース)とは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」の4つの言葉の頭文字をつなげた造語。簡単にいうと、これら4つをパッケージとして包括的に提供することで新たなモビリティ社会を実現させる概念とされている。

独ダイムラー社(現メルセデス・ベンツグループ)が2016年9月に行われたパリモーターショーでの中長期戦略の発表時、初めてこの言葉を公の場で用いて提唱した。以来、CASEは自動車そのものだけでなく、社会全体に変革をもたらすキーワードとして世界に広がっている。以下で、CASEを構成する4つの言葉の意味を説明しよう。

Connected(コネクテッド)

自動車に通信機器やセンサを搭載し、「走るIoT端末」としてインターネットで外部の機器やサービスとつながることを意味する。いわゆるコネクテッドカーとしてすでに実用化されている事例もある。

例えば、走行時の車両の状態や周辺の道路状況データを取得・分析することで、渋滞情報や駐車場の空き情報などの通知、交通事故発生時の自動通報、盗難時の車両追跡などを行う。また「つながる」ことは、CASEの2つ目の要素である自動運転の実現に欠かせない技術だ。

Autonomous(自動運転)

言葉通り、運転の自動化を意味する。ただし現状では、自動化の度合いに応じて5段階のレベルに分類されており、レベルが高いほど自動化の進行を示す。運転の監視主体はレベル1、レベル2では人が、レベル3以上はシステムだ。具体的には、以下のように各自動化レベルが規定されている。

Autonomous(自動運転)
参照:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」

ちなみに自動運転のシステムを搭載しておらず、完全に人が主体となって運転するレベルは「運転自動化・運転支援なし」としてレベル0とされている。自動運転に関しては、国や地域で法整備が異なるため、実用化のハードルは高めだ。

日本では、2021年3月にホンダが世界で初めてレベル3の自動運転を可能とする「Honda SENSING Elite」の搭載車「レジェンド」を発売。また2023年5月には、三菱電機株式会社が開発した国内初のレベル4「遠隔型自動運転システム」による無人自動運転移動サービスの車両が運行を開始した。

Shared & Services(シェアリング/サービス)

3つ目は、これまで所有するものと考えられていた自動車をシェアしたりサービスとして利用したりするものだ。大きく次の2つを指している。

  • カーシェアリング:車両を共同所有・利用すること
  • ライドシェアリング:一般のドライバーの自動車に他者が同乗(相乗り)してガソリン代などを負担しながら移動手段として利用すること

ライドシェアは、自動運転同様、国や地域で法整備が異なる。日本では、自家用車を使った有償での人やモノの運送にはさまざまな規制があり一部地域での利用に止まっているが、海外ではすでに普及している国や地域は多い。一方、カーシェアリングは日本でもすでに拡大しているのはご存じの人も多いだろう。

Electric(電動化)

自動車の電動化を指す。一般的に「電動化=EV(電気自動車)化」と思われているが、動力源に電気を使うハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)なども「電動車」に含まれる。世界全体で喫緊の課題となっている地球環境保護の問題もあり自動車メーカー各社は、電動車の開発に一層注力する姿勢を示している。

CASEが推進されている背景と目的

冒頭でも述べたが、CASEはクルマという「移動手段のサービス」を提供し、新たなモビリティ社会を実現させる概念だ。その背景には「所有から利用へ」を促す人々の価値観の変化や、少子化・高齢化の加速に伴う高齢者の交通事故対策ニーズの増加などがうかがえる。もちろん気候変動対策もCASEが急がれている理由の一つだ。

なおCASEを理解するうえで「MaaS」と「グリーン成長戦略」の2つの言葉も知っておくとよい。これらは、後述する政府のCASE技術戦略においても重要なキーワードとなっている。

MaaS(マース)

MaaSとは「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略語。CASEがインターネットへの接続や自動運転、電動化など新たなモビリティ社会を実現させるための手段とするなら、MaaSはそのモビリティ社会のあり方だといえる。

例えば、地域住民や旅行者などのニーズに、移動単位でさまざまな公共交通やそれ以外の移動サービスを組み合わせて、「検索・予約・決済」などを一括で行うこと、また観光や買い物、医療、福祉など目的地における交通以外のサービスを連携させたオンデマンドのアクセスも可能だ。

さらに地域の課題解決にも資すると期待されている。日本では、現在国土交通省が関係府省庁と連携、MaaSの全国への普及に取り組んでいる。

グリーン成長戦略

「カーボンニュートラル」が世界共通の課題となっているなか、日本は2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出ゼロの達成目標を表明している。この一環で経済産業省が「経済と環境の好循環」を実現するための産業政策として2020年12月に策定したのが「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(グリーン成長戦略)」だ。

当戦略では、注力すべき重要分野の一つとして自動車・蓄電池産業を位置づけている。具体的には、電動化の推進や水素の活用などを挙げ、遅くとも2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現させる方針だ。そのための措置も講ずるとされている。

CASEの目的と期待される未来

CASEを制する企業が今後の自動車業界を制するともいわれる。しかしCASEは、自動車メーカー各社が独自の競争力を高めるためだけに研究・実験を進めているわけではない。CASEの実現には、ICTやAI技術など次世代技術を持つ企業をはじめ、業界および官民の枠を超えた多種多様な連携が必要となる。

経済産業省は、CASE・MaaSに関する取り組みとして2019年11月および2020年4月の2回にわたり、有識者、自動車会社、サプライヤなどからなる「CASE技術戦略プラットフォーム」を開催。「CO2の低減」「電動化技術」「AD/ADAS・コネクテッド技術」「基盤的技術」の各テーマで継続的な技術動向の共有および協調領域の探索、サプライヤや関連産業を広く巻き込んだうえで対応力強化について議論が進められている。

CASEは中小企業に好機となるか?自動車産業の協業事例を紹介

ここで自動車産業の協業の動向を紹介しておこう。CASEでは、大企業同士の協業例が目立つが中小企業やスタートアップとの協業事例もある。なかには、「CASEによって自社ビジネスにどのような影響があるかわからない」という経営者もいるだろうが、早期の変革や対応力の向上を図りたい。

豊田合成×エス.ラボ

豊田合成は、工作機や3Dプリンタなどの開発・製造・販売を行っているエス.ラボ(京都府)へ出資し、樹脂3Dプリンタ技術の開発を加速させている。自動車の既存部品を製造することが可能な代替技術を有する他企業への出資などを通じて、試作開発の短期化や少量多品種の製造の効率化などを進めている事例の一つだ。

アイシン×イデイン

自動車部品のグローバルサプライヤーであるアイシンは、スタートアップのイデイン(東京都)へ出資し、運転者モニターシステムの開発を加速させている。イデインは、エッジAIの高速化技術において世界随一の技術力を誇る企業で、これまで自動車産業各社に不足していた技術の早期獲得を進めている事例の一つである。

小島プレス工業×スパイバー

トヨタの協力企業として自動車の内外装部品を生産している小島プレス工業は、スパイバーとの協業により人工クモ糸繊維の量産の共同開発を始めた。スパイバーは、慶応大発ベンチャー企業で、微生物発酵プロセスによりつくられる構造タンパク質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン)」開発を事業としている。

非自動車分野にとってもCASEの進行がビジネスにつながる事例だ。

新規事業や新製品開発などには補助金を利用する手も

自動車産業の一大集積地である愛知県が県内の自動車関連を中心とする県内企業2,500社に対して行った調査によると、約4社に1社はCASEの進展に伴う新規事業への取り組みの必要性は感じているものの人材や資金不足を理由に取り組みができていない状況だ。そのため中小企業が利用できそうな補助金・助成金をいくつか羅列するので活用を検討するといいだろう。

地域中小企業応援ファンド(スタートアップ応援型)

中小機構、都道府県および地域金融関等が共同で基金を造成し、その運用益により、創業や販路開拓などに取り組む中小企業者などへ助成する制度。

ものづくり補助金

正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といい、中小企業者などによる革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する国の補助金。

専門家派遣 (中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業)

内外の事業環境の変化により高度、複雑な経営課題を抱える中小企業などに対し、事業の各段階に応じたさまざまな支援ニーズに対応するべく地域プラットフォーム(商工会・商工会議所や金融機関など地域の支援機関)より専門家を派遣してもらえる制度。経済的支援ではないが、CASE進展の影響を受けそうな企業は活用する価値がありそうだ。

CASEによる大変革を自社ビジネスに活かそう

自動車産業に100年に一度の大変革を起こしているといわれるCASE。地球環境保護に向けた脱炭素化や少子高齢化が進むなか、新たなモビリティ社会の実現に向け業界・官民の壁を越えた協業が求められている。CASEの意味や目的、政府の戦略等を知るとともに新たなモビリティ社会の実現に貢献してみてはいかがだろうか。

續 恵美子
著:續 恵美子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。こうした経験をもとに、生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などを行う。

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