カームテクノロジーとは、生活のなかに溶け込む形で生活をより便利で快適にする技術だ。カームテクノロジーがどのようなものであるか、それが生活とどのように融合して新たなビジネスチャンスを生み出すのか、事例を挙げながら解説する。

目次

  1. カームテクノロジーの意味とは?
    1. カームテクノロジーの定義
    2. カームテクノロジーの起源と初期の思想
  2. カームテクノロジーの特徴とその重要性
    1. 「カームテクノロジー」8つの基本原則
    2. カームテクノロジーが人々の生活に与える影響
  3. 「カームテクノロジー」8つの基本原則
  4. カームテクノロジーの事例
    1. ロボット掃除機・ルンバ
    2. ゲームのコントローラ
    3. ポップアップ
  5. カームテクノロジー関連企業・京都のIoTスタートアップ「mui Lab」
  6. 製品開発にはカームテクノロジーを
カームテクノロジーとは? 意味や起源、特徴などを簡単に解説
(画像=かわいいコミカルイラスト素材集/stock.adobe.com)

カームテクノロジーの意味とは?

カームテクノロジー(Calm Technology)は、ユーザーの生活を豊かにするための新たなテクノロジーのアプローチ方法だ。まずは、カームテクノロジーの定義とその起源について詳しく見てみよう。

カームテクノロジーの定義

カームテクノロジー(Calm Technology)とは、ユーザーの注意を最小限に抑えつつ情報を効果的に伝達し、人々の生活を向上させるためのテクノロジーにおける設計原則。カームテクノロジーは、ユーザーがテクノロジーとより自然な形で関われるようにする。テクノロジーからの情報過多や過剰な通知からくるユーザーのストレスを軽減することが、カームテクノロジーの目的だ。

カームテクノロジーの起源と初期の思想

カームテクノロジーは、1990年代にパロアルトのXerox PARC(パロアルト研究センター)でマーク・ワイザーとジョン・シーリー・ブラウンによって提唱された。彼らは「情報の増加とともに、我々の注意力が分散し、結果として生産性と創造性が低下してしまう」という問題意識を持っていた。

だからこそ、「テクノロジーは人々の生活に自然に溶け込み、中心から周辺へと移行しなければならない」と彼らは主張する。これがカームテクノロジーの基本的な思想であり、その設計原則の起源となった。

カームテクノロジーの特徴とその重要性

カームテクノロジーは、私たちの日常生活に静かに統合され、私たちが情報に溺れることなく、ストレスなくテクノロジーを利用することを可能にする。カームテクノロジーの重要性を理解するためには、カームテクノロジーの基本原則を把握することが不可欠だ。

「カームテクノロジー」8つの基本原則

カームテクノロジーの第一人者アンバー・ケースは、著書『カームテクノロジー(Calm Technology) 〜生活に溶け込む情報技術のデザイン〜』でカームテクノロジーの基本原則を8つ挙げている。詳細は後述するが、カームテクノロジーの条件を満たすかどうかの判断基準に使えるので確認しておきたい。

カームテクノロジーが人々の生活に与える影響

カームテクノロジーは、人々の生活にどこにでもあるが、その存在をあまり意識させない形で静かに働くテクノロジーだ。カームテクノロジーにより、私たちの生活は以下のような方法で改善される。

  • ストレスの軽減
  • 生活の利便性向上
  • 安全性の向上
  • 人間らしさの保持

カームテクノロジーは、情報の氾濫やデジタル疲労の軽減につながる。最小限の通知や情報のみを提供し、必要なときにだけ注意をひくように設計されているからだ。例えばスマートウォッチは、必要な通知のみを表示し、それ以外の時間は静かに待機する。

生活の利便性向上もカームテクノロジーによってもたらされる良い影響の一つだ。例えばスマートホームデバイスは照明、暖房、エアコンなどを自動で制御し、私たちが手動で調節する回数を減らす。

カームテクノロジーは、非常時にも静かに作動し、私たちの安全を確保する。例えば、自動車の自動ブレーキシステムやスマートホームのセキュリティシステムなどが挙げられるだろう。これらは、危険を検知したときにのみ作動し、その他の時間はバックグラウンドで静かに待機している。

さらにカームテクノロジーは、人間らしさを尊重する。これは、ユーザーと適切なコミュニケーションをとりながら、必要以上にユーザーに干渉しないように設計されていることが理由だ。

これらの効果により、カームテクノロジーは私たちの生活をよりリラックスしたものにし、日々のタスクを効率的にこなすためのサポートに徹する。カームテクノロジーは、穏やかにユーザーの傍らにたたずみ、それでいて必要なときには強力なツールとなるのだ。

「カームテクノロジー」8つの基本原則

カームテクノロジーを意識した製品やサービスのリリースを考えている場合は、アンバー・ケースが提唱した8つの基本原則をより多く満たしている必要がある。

「カームテクノロジー」8つの基本原則

これらの要素を順番に見ていこう。

1番目、ユーザーの注意をひいてばかりいては、ストレスがたまる一方であるため、カームテクノロジーは必要最低限の注意をひくように設計されなければならない。例えばスマートウォッチは、指定した通知のみをブザーとして振動させ、それ以外のときは全く気にならないように設計されている。

2番目の要素を実現しているのが、スマートホームセキュリティシステムだ。緊急時にのみ通知を送るが、それとともに今安全かどうかをいつでもユーザーの好きなタイミングで確認でき、その結果ユーザーは安心感や安堵感を得ることができる。

またチャットツール「Slack」では、メンバーのオンライン状況をアイコンのランプの色で知らせ、今会話できるかどうかを事前に知らせることで、ユーザーに安心感や安堵感を与えている。

3番目の要素でいう「周辺部」とは、意識の周辺部を指す。例えば車の運転中だと仮定しよう。ガソリン切れを知らせるランプは、運転というメインの動作を妨げることなく必要な情報を伝えてくれる。またスマホと連動するカーテン自動開閉機は、開閉を自動で行って部屋に太陽光を取り込み、睡眠と目覚めをよりスムーズにサポートする。

4番目の要素の例としては、VR(バーチャルリアリティ)技術が挙げられるだろう。VR技術は、仮想現実を通じて人間の体験や感情を拡張し、よりリアルで広範な体験を提供してくれる。オンラインで世界中の人間とアバターを通じてコミュニケーションができるメタバースや、違う言語を使う人とのコミュニケーションに使用する自動翻訳チャットも技術と人間らしさのメリットを増幅している例だ。

5番目の要素で重要なポイントは「ユーザーとテクノロジーのコミュニケーションは必ずしも音声である必要はない」という点である。例えば人感センサーと連動して自動的にスイッチのオンオフを行うスマートランプは、ユーザーの動きに対してコミュニケーションをとっている。

6番目の要素では、アクシデントは発生するものとして捉え、できる限り動作し続けるよう考慮されているかどうかがポイントだ。例えば銀行のATMのシステムは、サーバー機を複数用意し1台が故障しても他のサーバーがカバーするように構成されている。ユーザーは、この仕組みのおかげでお金の引き出しなどの機能を基本的にいつでも利用可能だ。

またクラウドサービスの利用が増加するに従い広まっているのがゼロトラストである。現代において不正アクセスやコンピューターウイルスの感染は「あること」を前提とする新しいセキュリティの概念だ。ゼロトラストでは、あらゆるアクセスを「信頼できない」ものとして、アクセスが発生するたびに権限チェックなどを自動的に行うなどの機能が備わっている。

7番目の要素は、言い換えると目的を達成するためにテクノロジーを利用する手間を最低限に抑えるという意味だ。できれば意識的な操作をせず日常生活のなかで自然とテクノロジーを使う形になっていればベストだろう。ここまで挙げた例のなかでカーテン自動開閉機や人感センサーと連動したスマートランプは、意識的な操作を介さず動作する製品だ。

8番目の要素は、「その時々の社会通念から、あまりにも逸脱してはいけない」という意味が含まれている。例えばドローンは、プライバシーと公共の安全を尊重するための特定の規範と法律に従う。

現代においてすっかり定着したのがiPhoneだ。しかし発売当時から最新機種のようなたくさんの機能が入っていた場合は、受け入れられたかどうか分からない。iPhoneは、少しずつ機能を追加していったからこそ社会に受け入れられた面もあると考えられる。

カームテクノロジーの事例

カームテクノロジーの理念は、さまざまなテクノロジー製品やサービスに取り入れられている。ここでは、具体的な例としてロボット掃除機・ルンバやゲームのコントローラ、ポップアップなどを見ていこう。

ロボット掃除機・ルンバ

ロボット掃除機のルンバは、カームテクノロジーの一例だ。ルンバは、ユーザーがあまり介入することなく自動的に部屋を清掃する。これによりユーザーは、掃除という作業から解放され、その時間を他の有意義な活動に使うことが可能だ。

ゲームのコントローラ

ゲームのコントローラは、ユーザーが直感的に操作できゲームとの没入感を高める。ここでもテクノロジーは、ユーザーの注意を最小限に抑えつつ情報を効果的に伝達していることが理解できるだろう。

ポップアップ

Webサイトのポップアップ通知もまたカームテクノロジーの一例だ。適切に設計されたポップアップは、ユーザーのブラウジング体験を妨げず、重要な情報を効果的に伝達する。

カームテクノロジー関連企業・京都のIoTスタートアップ「mui Lab」

カームテクノロジーを採用し、革新的な製品とサービスを開発している企業も増えてきている。その一つが京都のIoTスタートアップ「mui Lab」だ。カームテクノロジーを語る際よく挙げられる企業としてチェックしておこう。mui Lab社の強みは、日本文化を取り入れたカームテクノロジーによる情報技術のデザイン性向上だ。

mui Labには、多様な人材が集っており、元Appleのデザイン責任者や元Sonyのデザイン責任者、そして「カームテクノロジー」の著者アンバー・ケース氏などがアドバイザーとして関わっている。代表的な製品は、mui Labとジブンハウスが共同で開発した現代のテクノロジーと人間の生活、そして自然を統合させることを目指した家「muihaus.」だ。

この家では、人々が互いの存在やつながりを感じられるような心地よい生活スタイルや居場所作りが実現されている。「muihaus.」の大きな特徴は、以下の3点だ。

  • 家族の心地よいつながりを感じる間取りとデザイン
  • 「柱の記憶」による家族の思い出の保存と再生
  • 「muiボード」による自然なアシストを利用した心身にストレスのない睡眠・起床

「muihaus.」に用いられているカームテクノロジーは、「柱の記憶」と呼ばれる特別なIoTデバイスや「muiボード」だ。「柱の記憶」は家族が書き込んだ落書きや子どもの身長などのデータをデジタル化して保存し、家族が思い出として懐かしむための仕組みである。「muiボード」は、スマートホーム機器と同様にリモコンとして照明やエアコン、音楽スピーカーなどを操作可能だ。

さらにインターネットに接続して天気やカレンダー情報を入手したり、ラジオを聴いたりすることもできる。特に注目すべきは、季節の歌を送信する機能や自然に起床や就寝を促す光源調整機能を持っている点だ。mui Labは、世界最大のテクノロジー展示会CESで2019年と2020年の2年連続で評価を受けている。

製品開発にはカームテクノロジーを

ここまでカームテクノロジーを紹介した。特にカームテクノロジーの8つの基本原則は、使いやすい製品やサービスを開発する際に、意識的に活用したいルールである。自社の新製品開発や既存製品のブラッシュアップには、ぜひカームテクノロジーという考え方も活用しよう。

著:藤森 みすず
食品衛生管理者、情報処理のアプリケーションエンジニア。21年ほどメーカー系SIerにてプログラマー、システムエンジニアを経験。退職後、Webライターとして様々な分野の執筆を行う。一時期、飲食業開業について学んだことがあり、起業関連の情報にも精通。FXなど投資関連も得意とする。

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