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日本M&Aセンター業種特化1部 IT業界専門グループ 竹葉 聖、クラウドワークス代表取締役社長CEO吉田浩一郎氏 (画像=M&Aコラム)

M&Aを活用して急成長を遂げている企業へのインタビュー企画。今回は、流通取引総額(GMV※1)200億円目前、急成長中のクラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO吉田浩一郎氏をお迎えし、M&Aのポイントや中期経営目標「YOSHIDA300」について日本M&Aセンター 業種特化1部 IT業界専門グループの竹葉聖が伺いました。

(※1) GMV:流通取引総額を指す。一般的に、クラウドワークスやメルカリ、楽天のようなプラットフォームビジネスを行う企業において最重要の指標となる。

会社概要

会社名:株式会社クラウドワークス
設立:2011年11月11日
事業内容:「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」というビジョンを掲げ、クラウドソーシングプラットフォームの「クラウドワークス」を中心としたインターネットサービスの運営を行う。

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クラウドソーシングサービスを中心にマッチング事業を展開

竹葉:まずは貴社の事業内容をご説明いただいてもよろしいでしょうか。

吉田氏:「クラウドワークス」というクラウドソーシングサービスを中心としたマッチング事業がメインです。企業と個人がオンラインで直接つながり、仕事を受発注できるサービスで、現在558万人のワーカーの方と90万社のクライアント企業様にご利用いただいています。その他にも様々なマッチングサービスがありますが、最近話題に上がることが多いのは、「クラウドリンクス」というハイクラス特化型の副業・兼業マッチングサービスで、国内大企業や外資系企業に勤める10万人以上の方が登録しています。
また、法人向けSaaS事業としてクラウド型プロジェクト管理サービス「クラウドログ」を提供しており、累計670社以上に導入していただいております。

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竹葉:現在では非常に多くの事業を展開されていますが、フリーランスのマッチング事業が祖業ですよね。フリーランス領域で創業されたきっかけは何だったのでしょうか。

吉田氏:2011年3月11日の東日本大震災が大きなきっかけです。震災で多くの方が家族と離れ離れになっているのを目の当たりにし、「家族同士はなるべく近くにいた方がいいのではないか」「生まれ育った故郷で働いた方がいいのではないか」と考えるようになりました。また、海外ではフリーランスがオンラインで仕事を受注するという形態が普及していたので、今後日本でも同じようなことが起こるのではないかと考え、創業に至りました。

働き方が多様化する社会で、個のためのインフラになる

竹葉:今でこそフリーランスという働き方は普及していますが、創業された2011年当時からすぐに貴社のビジネスモデルが受け入れられたのでしょうか。

吉田氏:創業当時はビジネスモデルを投資家に説明しても理解を得るのが難しかったです。投資家に「断言するけど、企業が個人に発注するなんてことは起きないし、特に日本においては絶対にありえない」と言われ、出資を断られたこともあります。

竹葉:当時と今ではかなり隔世の感がありますよね。ちなみに、創業当時はどのような領域のマッチングをされていたのでしょうか。

吉田氏:以前執行役員を務めていたドリコム(※2)では自社のエンジニアを顧客に売り込む仕事をしており、その際にエンジニアと企業とをマッチングすることには大きな価値があると感じていました。創業当初の「クラウドワークス」においても、特にエンジニアにフォーカスしてマッチングをしていました。
(※2)株式会社ドリコム:2001年創業。直近2023年3月期売上高は108億円で、ゲーム事業・メディア事業・出版/映像事業を展開。東証グロース市場に上場している。

竹葉:「クラウドワークス」は、吉田社長が前職においてアナログでやっていたことを、テクノロジーを利用してプラットフォーム上でできるようにしたサービスともいえるのですね。

吉田氏:はい、創業当時の2011年ごろから、主要都市が東西に散らばっているアメリカでは既にSkypeなどのWebサービスを使って遠隔で仕事をするスタイルが定着していて、フリーランスエンジニアと企業をオンラインプラットフォーム上でマッチングさせるビジネスには大きなチャンスがあるのではないかと期待していました。

竹葉:実際、吉田社長の読み通り貴社は急成長しましたが、追い風となった出来事は何だったのでしょうか。

吉田氏:一つは先ほど申し上げた東日本大震災、もう一つは2014年12月の東証マザーズへの上場です。クラウドソーシングという取引形態が証券市場で認められたことで、企業や官公庁の信用を得ることができ、上場した2015年9月期のクライアント企業数は前期の3.9万社から10.6万社へと爆発的に増加しました。また、2017年末の政府による副業解禁のアナウンスの影響も大きく、メガバンクや大手航空会社が副業を認めたことで、多様な働き方が世間的に容認されるようになっていきました。その後、さらにコロナ禍が追い風となりました。

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竹葉:今年5月にもフリーランス新法が公布されましたし、国を挙げてフリーランスという働き方を推進していますよね。

吉田氏:はい、今まで優秀な人材は新卒で大企業に入社して終身雇用制度の下で勤め上げるというのが一般的でしたが、近年は本当に多様な働き方が見られますよね。当社の新卒社員にフォロワー20万人のTikTokerがいるのですが、基本的にその活動からの収入で生計を立てているようで、もはやどちらが副業なのかわからないというほどです。

竹葉:働き方の多様化も相まって年間約60万人ものワーカーが「クラウドワークス」へ新規登録しています。貴社ではデータベースをどのように活用していますか。

吉田氏:558万人のワーカーが登録しているデータベースは宝の山だと思っています。昨年、気象予報士の方が登録してマッチングが成立していましたが、当社は一切気象予報士に向けたマーケティングをしていないんです。「クラウドワークス」では当社の想定していないようなマッチングが次々と成立しています。
また、2022年9月にRPA関連事業を展開するPeaceful Morningを譲り受けた際に、登録ワーカーに対してRPA人材を募集するメールを送付したところ、すぐに数十人から返信がありました。
マッチングビジネスは需要側と供給側どちらを先に獲得するべきかという「ニワトリ卵問題」がつきまといますが、「クラウドワークス」は供給側であるワーカーの登録数が圧倒的に多いので、需要側であるクライアントのニーズには誰かしら応えることができます。 なお、ワーカーの新規登録はオーガニックに拡大しており、ほとんど広告費をかけておらず、認知度やブランドでワーカーを獲得できているの「クラウドワークス」の大きな強みです。

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竹葉:フリーランスのマッチング事業は毎期着実に成長していますが、今後注力していきたい事業領域はございますか。

吉田氏:副業です。2023年4月に副業に特化したクラウドソーシング事業を運営するシューマツワーカーにグループジョインしていただきました。外資系だとAmazonやGoogle、Salesforce、日系だと富士通やパナソニック、トヨタなどに勤める優秀な人材が詳細に履歴書を「シューマツワーカー」に登録すると、スタートアップ等から経営企画やプロダクト開発で協力してほしいと声がかかります。当社社外取締役の新浪剛史氏は「大人のインターンシップだね」と表現していましたが、まさにその通りで、副業から入って相互に相性を確かめてから転職をするという新しい流れができつつあります。

竹葉:副業が活性化し、今まで1社のみに占有されてきた優秀人材をシェアできるようになると経済活性化にもつながりますよね。ちなみに、貴社は次々と新規事業の立ち上げやM&Aをしていますが、これらはどのようなビジョンに基づいているのでしょうか。

吉田氏:「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」というビジョンです。フリーランス新法において、フリーランスは労働ではなく下請であるという旨が定められ、法人格と同等で独立した判断ができると認められました。今後フリーランスという働き方は一層増えていくと予想しておりますが、当社のサービスがその一助になれればと思っています。

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強固なプラットフォームを作り上げたクラウドワークスのM&A

竹葉:それでは、次はM&Aに関してお伺いさせてください。東証マザーズへ上場したのが2014年で、その後最初のM&Aは2017年のgravieeでしたよね。

吉田氏:はい、2017年5月にgravieeにグループジョインしていただきました。「クラウドワークス」では200種類以上の仕事カテゴリーがありますが、業種特化のプラットフォームの立ち上げを上場後に推進していました。エンジニア向けに立ち上げた「クラウドテック」と非常にシナジーがあるということで、エンジニア・デザイナーに特化したクラウドソーシングサービスを運営するgravieeにお声がけさせていただきました。
同社の場合は、オーナーのご意向に沿って、最初に株式の51%を取得し、残りの49%はアーン・アウトで取得しました。お相手企業様のご意向に沿って対話をするのが当社のM&Aの進め方の特徴です。

竹葉:2017年11月にガイアックスからシステム開発の電縁を譲り受けられていますが、こちらはどのような思惑があったのでしょうか。

吉田氏:電縁のメイン事業である基幹システムの開発に「クラウドワークス」のワーカーを活用できるのではないかと仮説を立てて譲り受けました。しかし、当時は金融機関等の基幹システム開発は厳格な守秘義務が課せられていたこともあって、ワーカーの活用が進まなかったので上手くシナジーを創出できず、SBテクノロジーへ譲渡しました。
ただ、電縁が新規事業として立ち上げて上手く行っていなかった工数管理ツール開発事業を譲り受けて「クラウドログ」として販売したところ、670社以上に導入されてARRは4億円を超えてきています(※3)。 (※3)ARR:毎年決まって得られる収入、年間経常収益を指す。サブスクリプション型のマネタイズ手法を取る企業は重要指標とすることが多い。

竹葉:当時はなかなか基幹システムをリモートで開発するのは難しかったですよね。今はコロナ禍を経てリモートワークにおけるセキュリティ技術が向上しているので、再度SI関連のM&Aをするのもよいかもしれませんね。
3件目のM&Aとしては、2018年1月にクックパッドグループからオンライン習い事マッチングサービスの「サイタ」を事業譲受しています。こちらはどのような思惑があったのでしょうか。

吉田氏:今まで習い事というのは対面で行うものでしたが、テクノロジーの発展でオンラインでもできるようになってきたと。今後伸びていく事業領域であると考えて譲り受けました。

竹葉:今はスポーツでさえもオンラインでコーチングすることができるようになっていますもんね。2021年10月には即戦力IT人材の複業マッチングサービスを展開するコデアルを譲り受けていますが、こちらはいかがでしょうか。

吉田氏:コデアルは当社の「クラウドテック」と同じ領域の事業ですから、非常に強いシナジーがあると判断して吸収合併しました。現状、「クラウドテック」と「コデアル」の両ブランドを併存させて運営しています。既存のマッチング事業で培ったカルチャーやノウハウを活用してPMIを実施したところ買収後の売上高はYoY+273%と大幅に増加しました。

竹葉:その次は2022年4月に、オンライン月額定額決済サービスを運営するグルトを譲り受けられています。

吉田氏:グルトは英会話やヨガなど月謝払いの個人レッスンに対して決済サービスを提供しています。個人向けで低単価であるにもかかわらず累計GMVは10億円を突破しています。「サイタ」もですが、個人向けの生活領域の取引活性化にも貢献していきたいです。

竹葉:最近だと2022年10月に譲り受けたRPA関連事業を展開するPeaceful Morningを譲り受けています。

吉田氏:先ほども少し申し上げましたが、「クラウドワークス」でRPA人材の募集をしたらかなり多くの反応があったんです。Peaceful Morningはグループジョインしたことで人材獲得コストを大幅に低減しています。

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共にビジョン達成を目指す仲間をM&Aで増やす

竹葉:先月「YOSHIDA300」という衝撃的な中期経営目標を発表していましたが、これはどのようなコンセプトに基づく計画なのでしょうか。

吉田氏:まず、一番大きな目標としては売上高300億円です。当社の既存事業と新規事業で180億円、M&Aで120億円のトップラインを作る目標です。そのために「人材流動化の促進」「人的資本経営ツール提供」「生産性向上ソリューション提供」という3つの事業戦略を策定しました。

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竹葉:M&Aで120億円のトップラインを作るのは並大抵のことではないですよね。具体的には、どのような企業にM&Aでグループジョインしていただきたいと考えていますか。

吉田氏:まずは人材紹介会社です。当社の副業人材のデータベースを人材紹介会社に提供することで、先方は紹介できる人材の幅が広がり売上増が見込めると考えています。
次に派遣会社です。派遣会社がフリーランスと人材派遣を両軸で提案することで、ワーカーは働き方の選択肢を拡げることができるようになり、クライアント企業は固定費と変動費のバランスを考慮しながら人材の獲得ができるようになります。
あとはSIer、システム開発会社、エンジニア特化のエージェント会社など、システム開発やエンジニア関連の事業をしている会社は全て検討対象になります。当社のフリーランスエンジニアのデータベースは質・量ともに国内では圧倒的です。当社のデータベースと掛け合わせることで大きなシナジーが生まれると考えています。
さらにスタートアップでは、副業領域の事業をしている企業様や個人向けに生活領域のスキルを提供している企業様はぜひ一度お話させていただきたいです。
最後に、当社と同じようにフリーランスのマッチング事業を行っている企業様です。同業であれば当社の経営ノウハウを最大限に活かせるのではないでしょうか。
いずれにせよ、当社のデータベースやノウハウを活用しながら、「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」というビジョンの実現を一緒に目指していただける仲間をM&Aで増やしていきたいです。

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プロフィール

株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO
吉田 浩一郎氏
東京学芸大学卒業。パイオニア、リード エグジビション ジャパンを経て、株式会社ドリコム 執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、独立。アジアを中心に海外へ事業展開し、日本と海外を行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月、株式会社クラウドワークスを創業。クラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を立ち上げ、日本最大級のプラットフォームに成長させる。

インタビュアー

業種特化1部 チーフマネージャー IT業界専門グループ グループリーダー
竹葉 聖
公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。
IVS2022 LAUNCHPAD NAHA審査員。

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著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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